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part4

ドラゴンが消え、静寂の訪れた戦場。

最早勇呀たちには勝鬨を上げる余力さえ残っていなかった。ズルズルと足を引きずって魔結晶の元へと辿り着いた博、裂かれ焼かれた腹部を抑えながらよろよろと歩く澪、倒れ込んだ梓を感覚の残る右腕で支え、なんとか合流する勇呀。


「俺たち、勝ったんだな」

「そうだよ博。僕たちは勝ったんだ」

「ははっ、こりゃ傑作だな」

「欲を言えば、帰りたかったわね」

「澪なら帰れるんじゃない?」

「馬鹿言わないの。例え帰れても、私の子宮はダメになったし、何よりこんな傷じゃ、女として生きていけないわよ」

「そんなもんなのかなぁ」

「女ってのは・・・めんどくさい・・・生き物だから」

「梓、無理するな。余計辛くなるよ」

「分かってる・・・それでも・・・封印魔法だけは・・・かけておきたい」


封印魔法、それは本来であれば盗難防止として用いられる魔法である。封印魔法がかけられた物を他人が故意に持ち去ろうとすると強力な反発力が発生し、吹き飛ばす。そのようなメカニズムによって盗難防止策として使われるのだ。

しかしこの魔法、()()()()()。つまり、いくらでも魔法の強度を上げることができ、強度になるほど魔法の効果時間が伸びたり、他人には手にすることすら出来なくなる程強く反発したりする。


「そっか。確かに、これは僕たちだけのものだ。死んだからといって、そう易々と他人に使われるのは面白くない」

「そうね。といっても、私の相棒は折れてしまったから、使われることはないと思うけど」

「独占欲か?・・・そうだな、『危機を救った伝説のパーティが使っていた武器』なんて謳い文句で飾れば、面白いんじゃね?」

「ふふっ、アリね。それにそれ、触ることも出来ないんでしょ?」

「そうだぞ。まさに伝説って感じじゃねえか」

「こうなったら、全員でかける?自分の生命力全部使って」

「賛成よ。どちらにせよ、今の状態で帰れるとは思ってないし」

「だな。それに、中途半端なとこで死ぬよりかはここで死んだ方がカッコイイだろ」


巨大な魔結晶を囲むように仰向けに寝そべった4人。


「それじゃみんな、また会う日まで」

「また会う日が来るかね」

「来るさ。きっと」

「随分と確信したような言い方ね」

「まあね。姿形が変わっても、いつかきっとまた4人揃う。そう考えた方が、綺麗じゃない?」

「ったく、これから死ぬって奴のセリフじゃねえな」

「封印魔法・・・かけるよ」

「分かった。それじゃ、また来世で会おう」


(なんで確信持ってるか──か。そりゃ、僕は既に1度転生してるんだからな。次もまた会える。そう考えてもいいだろ?)


1人また1人と体から力が抜け、後には4人の亡骸に被さる封印魔法の施された武器、そして魔結晶が残されるのみであった。




────────────────


時は戻り、勇呀達が25層に突入した頃。


迷宮省・福岡支部・大会議室


会議室に集められた職員ら(通常業務の支障にならない最低限の人員を残し、集合している)は、壁に設けられたモニターで中継を観ていた。


「果たしてこの溢れの原因はなんでしょうか」

「分からん。それを知るために、結野くんにカメラを持たせたのだ」

「私達にできることは、無事を祈るだけですか・・・」

「仕方あるまい。儂らはダンジョンの知識はあるが、戦闘力はほぼ無い。でなければ、彼らを送り出すこともなかったろうよ」

「それはそうですが・・・。ああもう、どうしてこのタイミングで他の甲級が九州にいないのよ〜!」


歳が近いのもあって、4人を(とくに勇呀)を気にかけていた藤野の声が木霊する。


「仕方ないですよ、皆さん本州のダンジョンを潜ってらっしゃるのですから」

「それはそうだけど!」

「不幸な偶然としか言いようがないな。と、突入したようだ・・・なっ!?」


モニターには、かのドラゴンが映し出されている。


「なんだ?このようなモンスター、見た事もないし資料でもないぞ!?」

「誰か資料室でありったけのモンスター情報を持って来てくれ!!」

「分かりました!」


その瞬間、しんとしていた会議室が蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。怒号が飛び、困惑の声が聞こえ、何人もの職員が入退室を繰り返すという阿鼻叫喚である。


《prrrr....》


「こちら福岡支部・・・ああ、大臣。そちらでも中継を?いえ、我々もこのようなモンスターは見たことがありません。他は?関西や東北・北海道も?・・・そうですか」

「大臣はなんと?」

「完全な新種・または、強化種である可能性が限りなく高いとのことだ」

「そんな・・・」

「ええ、お願いします。できる限り速やかに。アレは彼らだけでは!」


恐らく他の甲級探索者を送るという話だったのだろう、稗田の口調は普段よりも厳しくなる。


「博多に特別列車を待機させろ!新幹線で鹿児島まで送るぞ!」

「了解しました!九鉄(九州鉄道株式会社)に連絡しろ!いますぐ整備を整えるように!」


「頼む、増援が来るまで耐えてくれよ・・・」

「勇呀くん・・・」



九州鉄道・九州新幹線・博多駅


『13番線に到着の列車はダンジョン専用列車です。一般の方はご乗車頂けません』


「ママ、見たことない新幹線!」

「本当だ。あれはね、ダンジョンで何かが起きた時に私たちを守ってくれるつよーい探索者の人が乗るんだよ」

「そうなの?カッコいい!」



同新幹線・熊本駅


『現在、ダンジョン臨時列車の通過待ちの為、停車しております。発車まで暫くお待ちください』


「この停車はいつまでかかるかのぅ」

「分からんの。じゃがダンジョン臨時じゃ。儂らに文句を言う権利はなかろうて」

「じゃな」




迷宮省福岡支部・会議室


「ダンジョン臨、発車しました!」

「ようやくか、と言いたいが招集から1時間で出発とは、中々頑張ったようだな」

「はい。関西の甲級を陸軍の輸送機で福岡まで運び、緊急車両で博多まで送ったとのことです」

「そうか。頼む、あと少しの辛抱だ、もってくれよ」


その時、勇呀が被弾したことによってカメラが損傷、中継が途絶える。


「なっ!?」

「うそっ!?」

「緊急事態だ!窓口業務は中断、総員で事態にあたれ!」

「了解!」


『緊急事態発生の為、業務を中断します』


しばらくの間、何も出来ない状況が続く。




数時間後・・・


「現地に到着した甲級探索者達が、25層に到達したようです!」

「遅いぞ、何があった!?」

「それが、内外に溢れかえったモンスターに阻まれ、進行に時間を要したと」

「そうか。良く頑張ったと言うべきか」

「はい。しかし、10層を過ぎた当たりからモンスターの波が突然止んだとの報告が」

「と、いうことは。結野くんらがアレの討伐に成功したと?」

「その可能性が高いと。それと、ダンジョン内部で子猫を保護したとのことです」

「猫?それの何がおかしい」

「それが、ダンジョンの奥から来たと。そしてしきりに来た方へ鳴いていたとのことです」

「ふむ。藤野くん。結野くんらは猫を飼っていたのか?」

「いえ、そのような話は聞いたことがありません」

「では違うのか。とりあえず、保護しよう」

「了解しました」


援軍が到着したという報告を受け、いくらか空気が弛緩する。その数分後、新たな報告が入る。


「新たな情報が入りました」

「おお、そうか。して、なんと?」

「それが・・・その・・・」


奥歯にものが詰まったように言い渋る職員。


「どうした?」

「・・・結野探索者らの()()を収容したと」

「!!」

「そして、未だ発見されたことの無い程大きな魔結晶を回収したとのことです」



その後、この事件を教訓にと、探索者の序列分けが更新された。また、詳しい調査により25層と思われていた『桜花』ダンジョンは更に下が続いていたことが判明し、バーニングドラゴンはそこから来たのであろうという説が唱えられた。その後『桜花』ダンジョンは第1ダンジョンに改められ、名称も『咲久落』と変えられた。そして全国のダンジョンの再調査が行われ、いくつかのダンジョンがその等級を改められた。


かくして、後に伝説と語られるようになり、当事者らの間で永遠の後悔となる『桜花ダンジョン事件』は幕を閉じた。勇呀らの葬儀は大きく行われたが、その際1匹の子猫がしきりに勇呀の体に縋り付き鳴いていたとか。

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