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part3

鹿児島第3ダンジョン『桜花』24層内──


「流石にここまで来ると、モンスターも少なくなってきたな」

「そりゃ、次が最下層だもん。むしろここで上みたいにポンポン出てくる方が異常だっての」


すぐ下の層から逃げてきたであろう最下層ボスの毒怪鳥(梓曰く、デケェ鳥らしい)を勇呀が狙撃により呆気なく撃墜し、24層からモンスターがいなくなった。


「・・・やっぱりおかしい」

「鳥の状態がか?」

「うん。だって考えてもみろよ。僕らにとってはただのデカイ鳥だけど、腐っても最下層ボスだ。ボスとしてのプライドもあるはずだよ」

「言われてみれば、今まで戦ってきたボス達はそんな感じがあったわね」

「だな。それとか、オークがゴブリンシバいてたのも見たな」

「そう。つまり、ダンジョンのモンスター達には上下関係や食物連鎖が存在していると考えられる」

「──ああ、なるほどね。つまり、ダンジョンの食物連鎖の頂点にいるはずの最下層ボスが、全く戦っていないように見えるのがおかしいって言いたいわけね」

「そう。そこから導き出せるのは──第二・第一級のモンスターがいる可能性。そして、本来ありえない状況が発生していること」

「そうか。なら一層気を引き締めねえとってことだな」


最悪の可能性が高まったことに対し、それでも勝てると信じる勇呀たち。慎重に歩を進める中、勇呀はあるものを見つけた。


「──ん?あれは・・・」


『ミィ・・・』


ダンジョンの壁際、よくよく目を凝らさなければ見つけられないような場所に、1匹のネコがいた。


「ん?どうした勇呀」

「そっちに何かあるの?」


「お前さん、どうしたんだ?」

『ミャウン・・・』

「猫?・・・こんなところに?」

「気をつけろ勇呀、そいつ実はモンスターかもしれねぇぞ」


警戒する3人に対し、敵意を示さずネコを撫でる勇呀。するとネコも気を許したのか、ピョンと勇呀にしがみついた。


「おっと。よしよし、どうしたんだ?1人なのか?」


落ちないように抱き抱える勇呀。その様子を見た3人も徐々に警戒を解き、撫でるようになった。


「小さいわね。それに、どうしてここにいるのかしら?」

「もしかすると、飼い主と一緒に来て取り残されたのかもしれない。それこそ、この溢れで飼い主が亡くなったとか・・・」

「でもよ、飼い猫をダンジョンに連れてくるか?言っちゃ悪いが、ペットは戦えねぇぞ?」

「たまにいるのよ。ダンジョンに潜ってる間、ペットのお世話が出来ないからってダンジョンに連れてくる人が」


ひとしきり撫で満足したのか、ネコから離れ周囲を警戒する3人。残された勇呀は、


「ここは危ないから、あっちへお逃げ。もう少しすれば、人が来てくれるから」

『ミィ』


分かったと言うように鳴いたネコは、とてとてと走っていった。



「さて、いささか気が緩みすぎた気もするが、進むとするか」

「そうね。鬼が出るか蛇が出るか。常に最悪を、だったわね」

「魔力も、ポーションもまだ余裕がある。大丈夫」

「分かった。ああ、そうだ。列車の中で貰った中継用のカメラを起動しておこう」


それは、特別列車で鹿児島まで移動していた時のこと。迷宮省の職員から、事態の記録とリアルタイムでの共有を目的に貸与されたものである。ただ、現状カメラをどこかに固定しなければならないので、戦闘時に全体を映すことには適していない。(というか下手すると画面が大変揺れるので、画面酔いしやすいというデメリットがある)

カメラを頭に装着し起動した勇呀は、気合いをいれ。


「フゥー、・・・よし。行こう」


斯くして、決戦の地へと突入する──。




鹿児島第三ダンジョン『桜花』第25層(最下層)──


『Gyaooooooooooooooooo!!!!』


「畜生、図体デケェ癖にちょこまかと動き回りやがって!」

「私の魔法じゃ分が悪いわ!」

「あぁもう!空飛んでんじゃないわよ!」


『桜花』ダンジョンの最下層で勇呀らを待っていたもの、それは巨大なドラゴンであった。それもただのドラゴンではなく、身体中が炎に覆われ、自ら発熱している真っ赤なドラゴンである。


「赤いのは強いって言うけどよ、燃えてんのはズルいだろ!あっち!」


ドラゴンから火球が放たれると、安全な距離を取っていてもその熱を感じる。


(前世のバーニングゴ○ラみたいなもんか。体内が高音になっている分、自身の扱う炎も強くなる)


「狙うべきは・・・今っ」


再び火球を吐き出さんと空中で停止した瞬間を狙い、勇呀はトリガーを引く。薬莢部分と弾頭に異なる魔力が注がれた弾丸は、通常のボルトアクションライフルでは考えられない初速で放たれ、寸分の狂いも無くバーニングドラゴン(仮称)の翼、その付け根へと飛び──


ボンッ!


『Gyaa!?』


付け根の1部を抉り、衝撃と痛みでバーニングドラゴンが墜落する。


「うわ、マジか。貫通しないのかよ」


本来であれば、この弾頭は対象の表面を貫通した後、内部で爆発を起こす仕組みになっている。言うなれば

昔の戦車砲弾である徹甲榴弾のようなものだ。

しかし、今回は抉ったに留まった。ということは、弾頭がバーニングドラゴンの鱗を貫徹できず、中途半端に刺さった状態で爆発したということである。


「勇呀ナイス!オラこれでも喰らってみろや!」


魔力の乗った振り下ろし。バキャアン!と豪快な音が響く。──が。


「おいおい、勘弁してくれよ」


鱗が数枚砕け表皮が露出したのみであり・・・ドラゴンへ本体はダメージを与えられなかった。


「博!危ないぞ!」

「!ぐえっ」


勇呀の叫びにハッとすると、目の前に尻尾が。咄嗟に腕でガードするも、数メートル吹き飛ばされてしまう。


「ぐはっ!」

「博!」

「ペッ。大丈夫だ!まだ行けるぜ!」


ドラゴンは既に体勢を立て直し、再び飛び上がろうとしている。


「くそ、ちと強すぎるな。一旦退くか?」

「それも考えたわ。けど、もしこいつが私達を追って地上に出てきたら?」

「・・・間違いなく大変なことになる」

「そうだね。まだ他の甲級探索者やパーティは九州に来ていないだろうし、あの丙級たちは死ぬだろうね」

「あーくそ、結局俺たちで何とかしないとなのかよ!」

「そういうこと。ははっ、僕らはどこまで行ってもお人好しなのかね」

「よく言うぜ、お人好し筆頭」

「へえ、何だったかしら。『俺が鍛えるのは、チビッ子共が喜ぶからだ』だったかしらね」

「うっせ」

「お人好し集団でお人好しの度合いで言い合うのは意味無いと思うわよ」

「それもそっか。なら、最期の時までお人好しでいなきゃなあ!」

「こら勇呀!抜け駆けはズリぃぞ!俺にもお人好しさせろ!」

「ふふ、お人好しさせろ、なんて聞いたことないわよ」

「でも、博に賛成。勇呀だけに良い顔させないわよ」

「勿論」


甲級なりたての『疾風迅雷』には、荷が重い相手である。だがそれがどうしたと、勇呀たちは戦い続ける道を選んだ。それは他人を思う心からか、本能的に強敵を欲しがる探索者故の行動なのかは定かではない。しかし、共通しているのは──。


「ここで死んででも、こいつをぶっ飛ばす!」


という、強い決心である。


殴っては吹き飛ばされ、切り付ければ炎を浴び、魔法を放てば間一髪のところで火球が直撃しかけ。


1のダメージを与えるために、10のダメージを受けているような状態。それでも彼らは諦めず、俯かず。


(くそ、狙いが上手く定まらない。左手も半分くらい感覚が無くなってる。狙撃には最悪のコンディションだな。それでも!)


「当たれぇっ!」


ドラゴンの死角に偶然入り込んだ勇呀。既に満身創痍の状態であったが、目の前には鱗が砕け露になった表皮が。このチャンスを逃す訳には行かないと、ありったけの力を込めて狙いを定め、放たれた弾丸は──。


ボゴォン!


『Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!』


見事に表皮を貫通し、内部から爆発。尻尾を吹き飛ばし、決して小さくはないダメージを与えることに成功した。


「ナイスだ勇呀。けど、わりぃ。このチャンス、ものに出来る気がしねぇや」


それもそのはず、博の足は度重なる猛攻に耐えきれず、あらぬ方向に曲がっている。これでは走るどころか、まともに動くことすらままならない。


「私も、満足に動けそうにないわ。何より、相棒が折れてしまったもの」


澪の腹部には、深々と傷が。これが直撃したのではなく、キツめに掠った程度というのだから恐ろしい。さらに、澪の得物であり相棒であった刀もまた、硬い鱗を相手取るうちに、ポッキリと折れてしまった。


「そっか。なら僕もごめん。今ので弾切れだし、何より左腕の感覚がない」


「私も魔力ポーションはもう切れちゃったわ。それに、これ以上魔法使うと、命に関わるかも」


魔力切れ。その現象は、体内の魔力が枯渇した状態である。その状態でも魔法を使うことは出来るのだが・・・魔力が切れた状態で魔法を使うと、生命力を消耗する。そのため、魔力切れの状態で魔法を多様すると、死に至るのだ。


「──だけど」


1呼吸おいて、


「私以外はもう使い物にならないみたいだし?やってやろうじゃないの」


そして生命力を練り上げ、氷の針を錬成。


「ほら・・・ドラゴン、口開けてたら・・・これ、行くわよ?・・・『アイス、ニードル』っ!!」


口を開け悶え苦しむドラゴンの口に突き刺さった氷の針は、頭部まで到達し──


『Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa.......』


次第に小さくなって行った叫びはついに聞こえなくなり、ドラゴンの肉体は吹き飛び。

そこには、燃え盛る火炎の如き色と輝きを放つ、巨大な魔結晶がのこされていた。

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