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part2

皇紀2685年、鹿児島第三ダンジョン『桜花』


鹿児島県は桜島に位置するこのダンジョンは、ダンジョン出現と同時に桜島での大噴火を起こし、桜島と大隅半島とを地続きにした。そして、今でも稼働し続けてはいるものの、それ程難易度は高くないとして第三ダンジョンに指定されている。


その『桜花』ダンジョン最下層の、さらに下。未だ人類が発見していない隔てられた領域において、何者かによる破壊が発生。最下層との隔たりが砕け、ナニカが上へと移動を始めた。





大分県・別府温泉


勇呀ら4人は、久々に羽を伸ばすため別府にやって来ていた。


「はあぁぁ〜、湯が疲れた体に染みるぜぇ〜」


ムキムキマッスルな体を隠すことなくスッポンポンな博は、なんとも親父くさいことを言いながら露天風呂で溶けていた。


「よいしょ、と。ふぅ、あったかい・・・」


そして勇呀もまた、温泉を楽しんでいた。


「・・・なあ勇呀、やっぱりお前、股隠せば女湯行ってもバレないんじゃね?」

「おいこら、さらっと犯罪を唆すんじゃないよ」

「いやー、だって今のお前、完全にチ○コがついてる美少女だぜ?」

「やめろ人前でチ○コ言うな」


この時、他の入浴客はいなかった。流石の博も、周りに人がいる状況で下ネタを口走るほどの阿呆ではない・・・はずだ。


一方の女性陣はというと。


「はぁ〜、いい湯ねぇ」

「そ〜だね〜」


こちらもまた溶けていた。


(じぃ〜)

「・・・なに?梓」


梓の視線の先には、たわわに実った澪の双丘が。


「いや、やはり世界は不平等だな、と」

「貴方も大きい方でしょうに」


そう、梓は小さいわけではない。梓の双丘はDカップで、そこそこ大きい方に入る。入るのだが、比較対象がおかしいのだ。何せ澪はFカップ、御門(先輩エルフ)はGカップ。さらに八坂(後輩)は同じDカップながら歳は八坂の方が下なうえ、バストサイズでいうとギリギリ負けている。そのため、そこそこ大きい方ながら不平等を嘆くという、真のまな板からしたら不条理以外の何者でもない話である。


「まーそれはそうだけどさ。やっぱ男はでかい方が好きなのかね」

「そんなことはないと思うけど・・・」

「いーや、あるね。だって勇呀、いつも澪のこと見てるもん」

「そ、そう?」

「照れんなこら」

「・・・勇呀もこっち来ないかなあ」


いきなりアカンなことを口走る澪。これには流石の梓もドン引き・・・


「わかる。勇呀ならこっち来てもバレない」


しなかった。なんなら普通にノっている。


「勇呀こっち来い。そして匂いかがせろ」

「湯上りの勇呀とっ捕まえてスーハースーハーしたい」

「分かりみが深い」


一方その頃、男湯では。


「・・・?」

「どうした?」

「いや、なんか危機を感じた」

「ぶっ、どうした、ケツでも狙われたか?」


何かの危機を感じた勇呀であった。




「ぽへ〜」

「見事に溶けてるわね」

「まあ、なんだかんだ言って普段1番気を張ってるのは勇呀だしな。公的な手続きとかも勇呀に任せっきりだしよ」

「なんとかしなきゃとは思ってるんだけどねぇ」

「当の本人が任せとけって、やらせてすらくれないもん」

「そりゃ〜、みんなにはその分ダンジョンで頑張ってもらってるからねぇ〜。適材適所だぞ〜」

「溶けながら言われても説得力ないな」


普段の緊張から解放され、いつもは隠していた甘えたな部分が現れ猫と化した勇呀と、それを眺める3人。その光景は、どう見てもつい最近甲級に任命されたエース探索者とは思えないものだ。


《♪♪♪》


その時、勇呀の携帯に着信が。


「・・・ねえ、これ仕事用の携帯だよね」

「ええ、そうね」

「御門さんとかからの食事のお誘いとかじゃ・・・」

「現実見ろって。ほれ、迷宮省からだ」

「グスン、僕達の折角の休暇が」

「現実は非情なりってやつね」

「はい、疾風迅雷リーダー、勇呀です」


『おお、出てくれたか!突然すまないが、頼みたいことがある』

「どうしたんですか?」

『それがな・・・桜花が溢れた』

「!」


溢れ。それは本来ダンジョンの中でのみ活動しているはずのモンスターたちが、何らかの理由により地上へ溢れ出す現象である。この科学的メカニズムは未明であり、深い層で強力なモンスターが出現した結果、より上層のモンスターたちが逃げるために上へと移動し、それが連鎖することで発生するという説や、ダンジョンが意思を持って溢れを引き起こしているというぶっ飛んだ説も存在する。

これが第六などの低級ダンジョンであれば暇している探索者に投げれば特に問題はない。それは第三ダンジョンの『桜花』でも同じ。それゆえ、本来ならば暇している丙級程度の探索者を送れば良いはずなのだが・・・


「桜花って、第三ですよね?なんで僕たちに?」

『うむ、儂らも初めは丙・丁級に依頼しておけば問題は無いだろうと思っていたのだがな。報告によると、どうやら最下層のボスまでもが地上に出ているらしいのだ』


最下層のボスとは、つまりそのダンジョンの最大戦力ということである。その存在までもが地上に出てくるというこの状況は、異常という他になかった。


「・・・つまり、『桜花』で何かが起きていると?」

『その通り。本来であれば、君たちのように甲級なりたて、まだ未来のある若者に命ずるのは避けるべきなのだが、生憎手の空いている甲級が君たちだけでな。頼まれてくれ』

「はぁ、どうせ拒否権なんてないんですし、やりますよ。で、溢れはどこまで行ってるんですか?」


個人事業主という扱いで、勤務という勤務は無く、潜りたい時に潜るなど自由度の高い探索者ではあるが、大前提としてこの職業は迷宮省の管理下にある。そのため、緊急時には「招集」が行われ、これを受けた探索者は応じる義務が発生する。勇呀が「拒否権がない」と言ったのも、このことによるものだ。


『現在、丙級探索者を数人動員して、なんとか桜島の入口で押さえ込んでいる。しかし、最下層のボスやその他のモンスターが一斉に暴れている。このままでは突破されるのも時間の問題かもしれん』

「わかりました、今すぐ行きます。皆も大丈夫だよね?」

「あたぼうよ!」

「全く、しょうがないわね」

「休暇は招集の後でってとこね」

『有難い。確か君たちは別府にいるんだったな。別府駅から特別列車を出す。それで鹿児島まで向かってくれ』

「了解しました」


特別列車とは、このような緊急時において、一刻も早く探索者を現場を送るために鉄道網を利用したもので、特別列車が出る時はその列車が走る路線が特別ダイヤに切り替わり、特別列車が途中無停車で走る。そして、その無停車運転を実現するため日本各地の路線に待避線や信号場が多く設置されている。


数時間後、鹿児島県・桜島口


特別列車によって鹿児島まで移動した4人は、今度は船に乗って鹿児島湾を強行突破、大隅半島に上陸し溢れの現場に到着した。


「こちらは『疾風迅雷』です。状況は?」

「疾風迅雷、甲級の!?助かります!現在は我々丙級12名で対処を行っていますが、やはりボス級モンスターに苦戦しています」

「了解しました、では我々がボス級を担当し、対処完了後は『桜花』に突入します」

「!分かりました、ご武運を!」


ダンジョンの溢れを鎮めるには、溢れたモンスターを殲滅することは当然であるが、それをしたとて治まるわけではない。放っておくと内部で湧いたモンスターが更に溢れ、永遠に終わらない。そのため、溢れの対処には、最終的には発生原因を消すことである。つまり、溢れを引き起こしているであろうモンスターの討伐。これは、前述の「溢れの原因が強力なモンスターの出現である」という説に基づいたものであるが、それは別のお話。


「流石に第三ダンジョン程度なら、最下層のボスも大したことねえな」

「そうね。でも油断せずに行きましょう」

「問題は、中で何が起きているか」

「そうだね。あれでも最下層のボスだ、あれ以上の何かが居るのかってとこかな?」


甲級探索者の勇呀らにとって、第三クラスのボスは雑魚である。どんでん返しなどある筈もなく、難なく撃破した4人は外の対処を丙級探索者に任せ、内部へと突入するのだった。




鹿児島第三ダンジョン『桜花』内部


「ったく、中もモンスターで溢れてやがる」


博がハンマーを振り回し10体以上のゴブリンを吹き飛ばし。


「雑魚ばかりとはいえ、骨が折れるわね」


澪が走りながら数体のオークを斬り捨て、


「あーもう、めんどくさい!『ダイヤモンドダスト』!」


梓が広範囲魔法で面制圧を仕掛け。


「面倒だし、少し向こうに任せるつもりで突っ走ろう。この程度なら、彼らでも大丈夫な筈だ」


勇呀は装着した銃剣で刺突しながら走り。


疾風迅雷の4人は、名前通りの速度で内部を駆け抜ける。途中、オークの群れに遭遇したりしたが、補充を済ませた梓の出し惜しみしない戦法によって灰燼と化した。

ドロップした魔結晶を拾う素振りも見せず、4つの雷光が駆け抜ける。通った後には、少数のモンスターと、大量の魔結晶が残るのみである。


「オラオラ、命が惜しけりゃ道を開けろォ!」


悲しきかな、人の言葉を理解しないモンスターは道を開ける間もなく吹き飛ばされる。


「邪魔だ、どけえぇ!」


最早刀を突きの体勢に固定した澪は正面のモンスターを粉砕しながら突き進む。文字通り猪突猛進である。


「あー、魔力が消費される音〜」


3本目の魔力ポーションを飲み干した梓は効果範囲の狭い魔法に切り替え、目の前のモンスターを消し飛ばしながら走る。


「もう僕の獲物残ってないなぁ〜」


殿を務め、自身も後衛な勇呀は、前を走る3人の取りこぼしを駆除していたが、いつからか取りこぼしすら無くなりただ走っていた。


「だぁ〜、もう!めんどくせぇ!なんでボス級の奴らが次から次へと来るんだよぉっ!」


ミシィッという鈍い音と共に、25層ある『桜花』ダンジョンの第4ボス(20階層ボス)のミノタウロスを一撃で吹き飛ばしながら悪態をつく博。吹き飛ばされたミノタウロスはあわれ爆発四散。


「体感、5層降りる度にそれ以降のボスがまとめて来てるような」

「ほぼ確実にそう。その証拠に、今回は甲冑野郎は来なかった」


甲冑野郎とは、第3ボスのことであり、西洋甲冑がガシャガシャとひとりでに動くタイプのモンスターである。外からどれだけダメージを与えようと、実は全く効いていないという厄介な特徴を持ち、内部から破壊しなければならない。ただし梓の手にかかれば、甲冑の隙間から炎を送り込み、内部からこんがり焼くことができるので全く相手にならない。


「でも妙だな。最下層のボスがこう何度も来るなんて」

「そりゃあ勇呀お前、最初から聞いてたろ?最下層のボスも出てきてるってよ」

「だけど、よく考えてみてよ。腐っても最下層のボスだよ?それが一切抵抗する素振りも見せずに、湧いた瞬間逃げてきたような動きをしてるんだ」

「つまりは、最下層にはかなりヤバいのがいるかもしれない。勇呀はそう言いたいわけね?」

「あくまでかもしれないだけどね。物によっては、僕らの最期の探索になるかもしれない」

「やめろぃ、縁起でもない」


──運命の時まで、あと5層。

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