第7話
六月某日。
一限目の予鈴の直後、自分の席で勉強している竹崎のもとへ、登校してきたばかりの奥野がリュックを背負ったまま遠慮ない速度で駆け寄ってきた。
「竹崎。日曜日、部活終わったら買い物付き合ってくれ」
「次の日曜?予定ある」
「えー!!ネットゲーム?」
「いや、井崎」
「井崎?」
「ゲームの発売イベントに行こうって」
「あー…」
「また一緒に行くか?」
ニッと笑って竹崎がそう言うと、奥野は何か思い出すように宙を見つめて「いい…」と言った。
「植村誘えば?」
「え…ああ…そうだな…。俺なんかの買い物に付き合わせていいのかな?」
「今更何を気にしてんだ?お前なんかに勉強教えてくれる奴だぞ」
竹崎がそう言うと奥野は「む?」と口を尖らせた。しかし、それもそうだと納得したのか何も言わずに自分の席に着くと、リュックからスマホを取り出しメッセージアプリを起動した。
〈次の日曜あいてる? 買いたいものがあるんだけど もし暇だったら付き合って!〉
奥野はメッセージ欄にそう打ち込むと、一限目開始のチャイムがなるのと同時に送信ボタンを押した。
〈奥野:次の日曜あいてる?…〉
一限目のチャイムと同時にスマホを鞄にしまおうとした植村は、メッセージアプリの通知に気がつきその手を止めた。
間もなく化学の大島(小太りで柔和な雰囲気の中年男性)が教室に入ってくると、委員長の号令でクラスメイトらが席を立った。植村はその影に隠れるようにして背中を丸め、そのメッセージを確認しようとアプリを開いた。しかし…
「あれ?植村くん、スマホはしまってよ」
「あ、はい…」
植村の怪しい動きはメガネの奥の細い目にしっかりと捉えられてしまった。それから大島は、窓際の席の方にも目を光らせた。
「井崎くんも、何見てるのかな?スマホはしまって」
大島は俯いてじっと机の上を見ている井崎に疑いの眼差しを向けた。しかし
「井崎は前回の授業の復習してまーす」
井崎の後ろの席の中山がそう言うと、教室内にざわめきが起こった。
「ええ!どうしたの。井崎くん、そんなに勉強熱心だった?」
「すみません」
「いや、いいけどね。挨拶はちゃんとしよう。委員長、号令」
挨拶が済み席に着くと、井崎は真剣な顔で前を向いた。そしてそんな井崎の横顔を、なぎさは少し離れた席から不思議そうに見つめていた。
「奥野」
「あ!メッセージ、見た?」
「ああ」
一限目が終わるとすぐ、植村は一組の教室にやってきた。
奥野は自分の席で勉強している竹崎の隣にどこからか椅子を持ってきて座り、おとなしくスマホをいじっていた。
「午前は部活あるんだけど」
「バド部もだよ。午後から空いてる?」
「…竹崎は用事?」
植村が竹崎に目をやってそう言うと、英語の長文プリントをしていた竹崎は顔をあげ「ああ」と言った。
「なるほど。やっぱり、俺は代わりだったか」
「えっ!?いや、そういうわけじゃ…!とりあえずまず竹崎誘うのがもう癖だし!イヤホン壊れた瞬間そこに植村いたら植村を最初に誘ってるよ!?」
奥野は失礼なことをしたと思ったのか、慌てた様子で取り繕った。しかし植村はフッと笑って
「部活何時に終わるか分かんないから終わったら連絡する。多分少し遅くなると思うから、昼飯済ませといて」
「え、あ…はい」
奥野はきょとんとして頷き、すると植村はまたフッと笑った。
「全然気にしてないよ。からかっただけ」
「ちょっとお…」
「イヤホン買うの?」
「うん、ワイヤレス買おっかなって。どれにするか迷いそうだから、誰かについてきてほしくて」
「そお」
植村は柔らかい眼差しで奥野を見ていた。それで奥野は落ち着かないみたいに目をキョロキョロさせていたが、すぐに二限目の予鈴がなると安堵の表情を浮かべた。