第6話 ゲーム
六月某日。日曜日。
竹崎の家は一般的な大きさの戸建で、庭はなく、三人はガレージに自転車をとめさせてもらった。
玄関をあがってすぐ。一階に人の気配がないと、井崎は竹崎に「一人?」と尋ねた。
「ああ。父親は単身赴任、母親はパート」
竹崎が答えると、井崎はふうんと頷き…
「そういや、二人は兄妹いんの?」
「奥野は姉ちゃんがいる。俺は一人っ子」
「奥野、姉ちゃんいんの?絶対可愛いでしょ」
「え?普通。二人は?兄妹いる?」
「俺らどっちも一人っ子」
井崎は自分と植村を交互に指差しながらそう言った。
三人はそんな会話をしながら(植村は黙ってその話を聞きながら)階段を上がり、二階の竹崎の部屋までやってきた。興味津々で部屋を見回していた井崎は、ゲームよりも先に漫画本の並んだ棚を見つけて近づいていった。
「漫画も好きなんだ?」
井崎が聞くと、竹崎は「まあ」と言った。
「昔のやつが多いな」
「ああ。ほとんど小学生のころに買ったやつだな。漫画とか読む?」
「うーん、俺も小学生のころはめっちゃ持ってたけど、ほとんど売っちゃった。今はウェブ漫画ちょこちょこ読むくらい」
「ああ、俺も今はそんな感じだ」
「ホント?やっぱ気が合うね」
嬉しそうに井崎がそう言うと、竹崎はフッと笑って「あるあるだろ」と言った。
*
四人はたくさんのゲームソフトの中から、まず格闘ゲームを選んだ。
ここまで井崎、植村と対戦し両方にあっさり負かされてしまった奥野は、勝てないと分かっている竹崎との対戦を放棄しベッドの上で伏せていじけていた。
しかし…
竹崎にあっけなくやられてしまった植村がふと振り向くと、奥野はニコニコ顔でベッドに座ってテレビ画面を見ていた。
「…嬉しそうだな、奥野」
「うれしーい。下克上だ、下克上」
奥野がそう言うと、井崎は苦笑して
「下克上の意味分かってんのかー?奥野。竹崎が怒るぞ」
と言った。
しかし竹崎はどうでも良さそうに「いや、別に」と言った。奥野は「だよな?」と竹崎の肩を叩いた。
「だって仲良くなる前、俺らは二人のこと知ってたけど、二人は俺らのこと知らなかったでしょ?王族と庶民みたいじゃん」
奥野は竹崎の肩に手を回してそう言った。しかし
「知ってたよ」
植村はつっけんどんにそう言って、奥野は不意をつかれたような顔で固まった。
「ああ、知ってた」
植村に続き、井崎もそう言って頷いた。
「…いや、でも、知ってるったって、見覚えがあるって程度でしょ。学校っていう小さい国の中だから、庶民でも顔くらいはそりゃあ…」
「名前もちゃんと知ってたって」
「え」
「えっ?」
井崎が間抜けな声を上げると、植村は目を丸くして井崎と顔を見合わせた。
「まじ?俺、正直、名前は知らなかったよ。栄斗なんで知ってたの?クラスメイトの名前だってなかなか覚えないくせに」
「え?いや…それは…」
植村が言葉に詰まると、三人はまじまじと植村の顔を見た。植村は居心地悪そうに座り直した。
「…一年のとき、ウチのクラスのバド部の奴がよく二人の話をしてたから」
植村が答えると、奥野は「ああ」と納得したように言った。
「滝本か…って植村、滝本の名前覚えてないの?」
「覚えてる」
「ほんとかよ。お前の場合忘れてても不思議じゃないからな」
井崎は疑うような目で植村を見た。
「まあ、滝本は騒がしいからなかなか忘れないよな」
奥野はそう言ったあと、急に背筋を伸ばすと、植村の方を向いてニッと笑った。
「なあ植村、俺ともっかい勝負しよ。今度は勝てる気がしてきた」
(竹崎)「なんで(小声)」
「いいけど…」
植村は元気よくベッドから下りて竹崎の場所を奪う奥野を目で追った。
「…奥野は、いつから俺のこと知ってた?」
「えっ?そりゃあ、入学式のときから。新入生代表だったでしょ?江藤さんと二人で」
「ああ…」
「何で?」
「いや…なんとなく」
植村がそう言うと、奥野は「なにそれ?」と言ってちょっと笑った。