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チョコレート・タイムズ  作者: 只石コロ
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第5話 スーパーにて



 六月某日。




 夜十時過ぎ。学校から少し離れたところにあるスーパーで、井崎は竹崎の姿を見つけた。学校の制服の上にグリーンのエプロンをして飲料の品出しをしている。




「竹崎、バイトしてんの?」




 井崎が声をかけると、しゃがんで作業していた竹崎は驚いた顔で井崎を見上げた。




「あれ、なんでいるの」


「塾の体験授業に行ってたんだ。腹減ったから軽く食えるもん買おうと思って寄ったら、竹崎が働いてたからびっくりした」


「へえ」


「家、この辺じゃないよな」




 井崎は竹崎の隣にしゃがみ込むと、竹崎と一緒に品出しをしはじめた。




「…違うけど、学校の帰り道の途中だから。部活帰りに来るのに丁度いいんだ」


「ふうん…うちの高校、バイトして良かったっけ?」


「許可取ればな。家計を助けるためとかって書いとけば取れるよ。本当かどうか調べられるわけじゃないし」


「ということは、竹崎は嘘なんだな?」




 井崎はにやりと笑って竹崎の顔を見た。




「俺は趣味に金がかかるからバイトしてる。小遣いだけじゃ足りなくて」


「趣味って?」


「ゲーム」




 竹崎が答えると、井崎は途端に目を輝かせた。




「ゲーム!マジ?竹崎ゲーマーなの?俺もだよ」


「そうなの?」




 二人はお互い作業の手を止めて視線を合わせた。




「へえ…そうか…」


 井崎は品出しの手を再び動かしながら呟いた。それから少し言いにくそうに…



「でも…部活してバイトしてゲームして…って、勉強する時間残る?」


「いや。残らないな」


「残らんのかい」



 迷わず答えた竹崎に井崎は苦笑した。



「塾とかは?」


「行ってない。学校以外で勉強したくないし。…だから、学校にいるときは部活のとき以外、常に勉強してるよ。授業も全力で受けてるし。それで今はなんとかなってる」



 品出しをしながら竹崎はそう言って、その間井崎は目を丸くして竹崎の横顔を見つめていた。




「そっか…。もともと勉強得意ってのもあるんじゃん?俺に物理教えてくれたし」


「苦手ではないけど。でもやらなくてもできるわけじゃないから、サボったら成績落ちるよ、普通に」


「そっか」




 井崎は手の中の缶ビールを見つめて何か考えるように黙り込んだ。それで竹崎が声をかけようとしたそのとき




「あら、竹崎くん。その子は?」




 背後から降ってきた声に、二人は顔をあげた。




「あ、すみません。学校の…友達です」


「すみません、お邪魔して。もう帰ります」



 井崎は立ち上がって声をかけてきた中年の女性にお辞儀をした。




「あら、いいのよ別に。店長に見つかったら何か言われるかもしれないけど、今日は休みだし。竹崎くんの友達はカワイイ子が多いわねえ」

 女性はニコニコしてそう言うと、バックヤードに入って行った。



 竹崎が立ち上がると、井崎は台車に缶ビールを置いた。



「邪魔してごめんな」


「いいよ。こんな時間で客も少ないし。やることないから品出ししてたんだ。っていうか、腹減って何か買いに来たんだろ。今なら半額になってるのも多いから、何か探しに行けよ」


「お、そうか。じゃあ行ってくる。あ…」



 井崎は歩き出したが、すぐに足を止めて竹崎に振り向いた。




「竹崎、今度家に遊びに行ってもいい?どんなゲームしてるか気になる」


「ああ…、いいよ」


「約束だぞ」


「分かった、分かった。早く行けよ」



 竹崎がそう言うと井崎はにっと笑い、それからご機嫌な様子で店内を見渡し始めた。竹崎はそれを見届けるとまたしゃがみこみ、少し嬉しそうに口元を緩ませながら井崎が品出ししかけていた缶ビールを並べ始めた。









 *









「おお、井崎。昨日塾の体験行ったんだろ。どうだった?」



 朝の教室。井崎が教室に入るとすぐ中山が声をかけてきた。



「ああ、悪くはなかったよ。でもやっぱり気が進まないな」



 井崎がそう言うと、岡本が笑って「だろうな。でも行くんだろ?」と言った。が…



「いや」



「え、行かないの?でも、オカンの命令だって言ってたじゃん。説得できたのかよ」


 岡本は意外そうにそう言った。




「ああ、なんとかね。考えたら俺、まだ自力で成績上げる努力してないし。だから親にそう言って、なんとか猶予貰った。次のテストで親が納得する成績出せたら、塾通いは見送ってもいいって」


「へえ。できるのかよ?」


 からかうような目をして中山がそう言うと、井崎は「やってやる。見てろよ」と言って中山を指差した。植村は三人の話を聞きながら終始首をかしげていたが何も聞かなかった。










 部活が終わり着替えて部室から出た井崎は、すぐそこにある体育館の前に竹崎と奥野を見つけた。バドミントン部の仲間に手を振り、今から帰るところのようだった。




「栄斗。俺ちょっと竹崎に用があるから行ってくるな」



 後から出てきた植村にそう言って井崎は歩き出したのだが、植村が横について来ると眉を寄せて立ち止まった。




「なんでついて来るんだよ?」


「お前だっていつも俺について来るくせに」


「あら、そうだな」


「竹崎に用って?」


「ああ、遊ぶ約束したんだけど、いつ遊ぶか決めてないから」


「は?遊ぶ約束?いつの間にそんな仲良くなったんだ?」



 植村は何か気に食わないのか眉間にしわをつくった。




「なんだよ、お前は俺の交友関係にそんなに関心があったのか?」


 井崎がそう返すと、植村は何も言い返さず、眉間のしわはそのままふいとそっぽを向いた。




 竹崎と並んで校門に向かおうとしていた奥野は、二人が近づいて来るのに気がつくと足を止め、笑顔で手を振ってきた。竹崎もそんな奥野に気がつくと二人の方に視線を寄越した。




(奥野)「何か用ー?」



「うん。俺が、竹崎にな」


 井崎がそう言うと奥野は首をかしげて竹崎を見た。竹崎は黙ったまま、ただ小さく頷いた。




「竹崎、次の日曜行くから」


 井崎はそう言って竹崎の右肩に手を置いた。




「俺の都合は聞かないんだな」


「無理?」


「まあ、いいけど」




 奥野は二人の会話を聞きながら首をかしげていた。



「二人でどこか行くの?」



 奥野がそう聞くと、井崎はにっと笑って「竹崎んちだよ」と言った。




「えー、何、なんで竹崎んち行くの」


「いや、竹崎がゲーマーだって聞いたからさ」


「井崎もゲームやるの?」


「おお。竹崎ほどじゃないと思うけど」


「へえー!それでいっしょにゲームする約束したんだな。いつの間に!へー…」


 奥野は言いながらどこか上の空な目をしたと思うと、それから思いついたように目を見開いた。



「なあなあ、俺も行っちゃだめ?みんなでゲームしたいな。植村もいっしょに四人でさ」



 奥野がそう言うと井崎は一瞬きょとんとした。が、すぐにいつもの笑顔を見せた。



「ああ、俺はいいよ!」


「やった!植村も!な!」



 奥野は植村の袖をつまんでくいくいと引っ張った。




「ああ、竹崎がいいなら…」


「いいよ」



 竹崎はあっさりそう言った。が、それから井崎を見た。



「でも井崎、奥野がやりたがるゲームなんて限られてるけど」


「いいよ!俺もみんなで遊びたいし」


「なら、いいけど」




 そうして次の日曜日、三人は午後一時に校門の前で待ち合わせ、奥野があとの二人を竹崎の家まで連れて行くことになった。


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