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5 ガインside2

 俺はまた執務へと戻った。忙しく過ぎていく日々。



 ある日、いつものように執務室で執務をしていると、イエッカが扇子を仰ぎながら意気揚々と執務室へと入ってきた。


「失礼致します。ガイン殿下、盗人を捕まえて参りましたわ」


 俺はその様子を見て驚きを隠せないでいた。イエッカの後ろで衛兵に拘束されて部屋に入ってきたのは黒髪の少女。


……聖女だ。


 事もあろうか衛兵は俺の目の前で聖女を床に叩きつけて押さえつけたのだ。泥だらけのワンピースに手を拘束されたまま床に顔を打ち付けて血を流している。俺は烈火の如く怒った。


「イエッカ!!!!どういう事だ!聖女にこんな扱いをして許されると思っているのか!聖女は王族と同等かそれ以上の扱いをせねばならんのだ!!」


 俺の声がビリビリと空気を振るわせる。俺が口を開いて初めて衛兵は聖女と知り、してはいけない事をしたのだと気づき震えている。この衛兵は副官であるイエッカからの指示に従っただけだろう。


「ガイン様っ。ですがこの者は王家の花を摘みました!盗人ですのよっ!こんな黒髪の不吉な女が聖女の訳はありませんわ!!」


「下がれ!お前の顔など見たくない!花を摘んだだけで聖女を罪人に仕立て上げるのは許さん!出ていけ!」


「盗人を盗人と言って何が悪いのかしら!?こんな小娘捨て置けばよいでしょう!?何を仰ってもガイン様と結婚するのは私ですわ!!」


 イエッカは憤慨しながら部屋を出て行った。俺は衛兵をギロリと睨むと衛兵は聖女を抱き起こし、ハンカチを差し出している。衛兵は動揺しているようで手を拘束しているのを忘れていたようだ。


急いで縄を外し、ハンカチを差し出すが、聖女は悲痛な面持ちで立ち上がった。


「聖女よ、何があったのだ?」


 俺がそう聞くが、聖女は一瞬顔を歪ませ、苦痛に耐えているかのような表情を不意にしたと思ったら走って部屋を出て行ってしまった。


……一体何が起こっているんだ。


 衛兵は青い顔をして突っ立ったままだ。俺はクスターに目配せをして聖女に護衛するように指示する。


「おい、そこのお前。一から説明しろ」


「はっ、はい!」


「私が目撃したのは、聖女様が中庭で庭師と話しており、庭師に花を一本欲しいと願い、庭師は花を切って聖女様に差し出している様子でした。


その様子を上階から見ていたと思われるイエッカ様は窓から飛び降りて聖女様の元へ駆け寄り、頬を打ち、私達衛兵を呼び、捕縛するよう命令しました。


聖女様を捕縛したままイエッカ様はガイン殿下の執務室へ向かいました。イエッカ様はここに来る途中、私にこの女を牢屋に入れて処分するようガイン殿下に願い出ると話しておりました」


「牢屋に?」


「はい」


 ガインは眉を顰めた。あの女なら人知らずの間に聖女を牢屋で殺害することに躊躇せずするだろう。俺は衛兵を下がらせる。


「クスター。どういう事だ?」


「申し訳ありません」


「何故俺がイエッカを妻に迎える事になっているんだ?」


「イエッカは、ガイン殿下の妻になるためだけに副官を務めております」


「それがどうした?副官で居させるために目を瞑れと?」


「……申し訳ありませんでした」


「イエッカをすぐに武官から外し、辺境伯か隣国と近い領地の妻に送れ。命令だ。それとイエッカの命令とはいえ聖女を捕縛した衛兵達も処分しろ」


「承知致しました」


クスターは緊張した面持ちで部屋を出て行った。


「ミスカ、聖女の部屋を急いで仕上げるように」


「承知致しました」




 それから俺は聖女に会いに行こうとしていたが、イエッカの父、バルンド公爵が抗議のために登城し、聖女と会う時間が邪魔されることになった。


「ガイン殿下!何故、我が娘が辺境の地に送られねばならんのですか!?」


 バルンド公爵は顔を真っ赤にしているが知ったことではない。


 クスターも自分の副官の仕出かした事の大きさに辞任を申し出ていたが、それでは逃げるだけだと話し、一年の間、罰金と無給。仕事の間に無料奉仕をする事にさせた。ミスカには処分が甘いと言われてしまったが。


「バルンド公爵に聞きたい。何故命令したか聞いていないのか?」


「娘はガイン殿下と婚姻予定だったのですぞ?許せるはずがない」


「ほぅ。公爵がそう噂を流していたのか。迷惑だ。俺はイエッカに興味は全くない。むしろ足を引っ張る存在でしかない」


「そんなっ。娘はガイン殿下と共にありたくてっ」


「公爵、知っているか?イエッカは召喚された聖女を殺そうとしていた事を。そんな事をすればこの国のみならず、世界は、公爵ならわかるよな?今すぐに嫁に出すか処刑か選ばせてやろう。俺は優しいだろう?」


 バルンド公爵が必死に食い下がろうとするのに嫌気がさし、話をしてやった。


「ま、まさかっ。我が娘がっ。……すぐに嫁に出します。温情、有難うございます」


 バルンド公爵は混乱していたようだが、事の重大さは理解したようだ。走るように公爵家へと帰っていった。これからイエッカに問いただすのだろう。イエッカがこれから嫁ぐ先は苦難しかないがな。


聖女に会いに行こうとしたが夜ももう遅い。俺は舌打ちした。


翌日も雨は降り続いている。通常の執務に加え、イエッカや公爵家、衛兵の処分、クスターについての話し合いをしているうちに日は過ぎていった。


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