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カルチャーショックな事実

「ありがとうございました、聖女様」


 額にうっすら浮かんだ汗を拭って、リリアナがお辞儀をした。

 結局、パンツ一枚であれこれ測られて、恥ずかしくて死ぬかと思いました…

 リリアナの満足そうな笑顔が恨めしい。


「これで、ようやくデザインを考えることが出来ます」

「あ、はい。リリアナさんにお任せします」

「まあ!私にお任せいただけるなんて、光栄です!ありがとうございます!頑張ります!」


 もう好きにして…という気持ちを込めて言うと、リリアナはすぐに机に向かって作業を始めてしまった。

 あー、これはもう周りの声が聞こえない領域に入ってるな…終わるまで待つしかなさそうだ。

 集中している彼女の邪魔をするわけにはいかないからと、リリアナと王子を残して、他の神官たちはみんな部屋を出て行った。


「はあ…」


 静かになった部屋で、思わず溜息をつく。

 本番は明日だけど、もうすでに疲れた…


「セージ、疲れたか?」

「ええ、少し」


 心配そうに覗き込んできた王子に、笑って答える。

 疲れてるのは肉体的にではなく、精神的にだけど。


「すまないな。リリアナも普段はもう少し落ち着いた性格なのだが、今日はどうにも興奮気味だ」

「いいんですよ。それだけ頑張ってくれてるんでしょうから」

「リリアナの腕は確かだからな。楽しみにしているといい」

「はい」

「新しい衣装ができるまで時間がかかりそうだな。今のうちに明日の確認をもう一度したいのだが、大丈夫か?疲れてるなら…」

「大丈夫です。いつまでかかるか分からないのを黙って待つのは、時間の無駄ですし」


 なにかブツブツ言いながらペンを走らせるリリアナを、ただ黙って見てるのも精神的な疲れが増しそうだし、気を紛らわせるためにもいいだろう。


「分かった。ではまず、城に行ったら父上と母上、兄上に会ってもらう」

「王族の方々ですね。緊張します…」

「王族と考えず、私の家族と思えばいい。公式な場ではないから、そんなに気を使わなくてもいい」

「簡単に言いますけど、階級社会で育ってない俺にはハードル高いんです」


 だって王様だよ?

 日本では会うことは絶対ないだろうと思われる、尊い位の方々だよ?


「私も王子だが、セージは平気で話しているではないか。それと同じでいい」

「王子の場合は召喚されたことのほうが衝撃的で、緊張してる余裕もありませんでしたから」

「なるほど、確かにそうだな」


 納得したように笑った後、真面目な顔になって続ける。


「では俺から事前に、セージは貴族や王族のない世界から来たと説明しておこう」

「助かります。で、王様たちに会ったあとは?」

「そのまま謁見の間に向かう。そこで国王たちと共に、貴族に向けてのお披露目を行う。その後は晩餐会で貴族たちとの懇親を深める予定だ」

「その貴族の中に、やっかいな派閥が混じってると」

「そうだ。誰がどの派閥かは、晩餐会で話しかけてきたら合図する。合図は…」


 ガタッ!!

 王子と明日の対策を確認していると、突然、リリアナが立ち上がった。


「出来たわ!!」

「うわっ!」


 いきなり大声で叫んだリリアナに驚いていると、立ち上がった勢いそのままに、リリアナはデザインを書いていたと思われる紙をたくさん抱えて俺たちのほうにやってきた。


「殿下!聖女様!御前失礼いたします!」


 爛々と目を輝かせて興奮気味にそう言うと、リリアナは俺たちに深々と礼をして、足早に部屋から出て行った。

 嵐のような人だ…あ、1枚落ちてる。

 呆然とリリアナが出て行くのを見送っていると、王子がリリアナが落としていった紙を拾い上げた。

 広げてみると、元のデザインが見えないくらいグシャグシャにペンで塗りつぶされているから、ボツ画だろう。

 端っこに『もっと凛とした感じで!』と書かれていて、思わず笑ってしまった。


「どうやらデザインが完成したようだな」

「そうみたいですね。デザイン画、見せてほしかったな」


 作ってしまってから、これは…と思うような服だったらどうしよう、とちょっと思ったりする。

 そんな俺の不安を払拭するように、王子がリリアナが出て行った扉を見ながら、大丈夫だと力強く言った。


「さっきも言ったが、リリアナの腕は私が保証する。出来上がったデザインに間違いはないはずだ。出来上がるのを楽しみにしていろ」

「わかりました」


 自信満々に言う王子の言葉を信じよう。

 好みはあるけど、ワンピースやドレスじゃないなら、服に関してはこだわりはあまりないから許容範囲は広いほうだし。


「でも、これから作って間に合うんですか?今更言うなって話ですけど…」

「裁縫には詳しくないから断言はできないが、リリアナのあの勢いと熱意があれば大丈夫だろう。とはいえ、さすがに一人では無理だろうが、リリアナの他にも衣装係が3人いるから、協力して明日の朝までには仕上げるはずだ」

「この世界にミシンはあるんですか?」

「ミシンとはなんだ?聞いたことがないな」

「縫いものをするための機械のことなんですけど…聞いたことなさそうですね。じゃあ手縫いなんですね」

「手も使うが、魔法を使って作るらしいぞ」

「魔法ですか」


 異世界っぽいなぁ、と思いながら相槌を打つ。

 どんな魔法を使って、どんなふうに縫うのかちょっと興味あるな。

 明日の謁見が終わって帰ってきたら、リリアナが落ち着いてるときに聞いてみよう。

 そんなことを考えていたら、ふいに欠伸が出た。

 大口開けて欠伸をした俺を見て、


「よし、ではそろそろ寝るか」


 王子が笑いながら言った。


「明日は忙しくなるからな。ゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございます。明日に備えて、今日は早めに休みます」

「それがいい」

 

 クシャッと俺の頭を撫でてから、扉のほうへ歩いて行った王子は、出て行く直前に足を止め、俺のほうを振り返った。

 なんだ?忘れ物か?


「ああ、そうだセージ」

「はい?なんですか?」

「明日は少し早く来る。起きれるか?」

「別に問題ないですけど…なんでですか?」


 なんとなく嫌な予感がする。


「明日は朝食をとったら、衣装合わせと化粧をしなくてはならないからな」

「化粧!?」

「その前に入浴して身を清めなければならないし、忙しいぞ」

「いや、待ってください。化粧ってなんですか?聞いてませんよ」


 女装しないってことに納得したのに、化粧するってどういうことだ?

 俺の抗議に、王子はキョトンとした顔で目を瞬かせた。


「何を驚いている?」

「俺は男ですよ!」

「知っているが?」

「だったらなんで化粧を…」

「国王に謁見するのだから、化粧くらい当然だろう。私もするぞ」

「えっ!?」

 

 王子はしなくてもいいだろ…すっぴんでもビックリするくらいのイケメンなのに。


「その様子だと、お前は化粧をしたことがないのか?」

「ないです、ないです」

「我が国の貴族は、男女問わず晩餐会などでは化粧をして見栄えをよくするのが普通だ。もちろん王族も。日常ではしないがな」


 衝撃の事実。

 この世界では、化粧男子が普通。

 まあ化粧男子は日本でも増えてきてるし、俺も化粧水くらいはやってるけど。


「化粧をするのは嫌か?」

「嫌というか、やったことがないから戸惑ってます」

「そうか」


 王子は少し考える素振りを見せた後、再び口を開いた。


「だが、国王に会うのに、身なりを整えずに行くわけにもいかないからな。とりあえずやってみたらどうだ?」


 正直、乗り気ではない。

 でも王子の言う通り、身だしなみとして化粧をする必要があるのなら仕方ない。

 郷に入っては郷に従えだ。


「わかりました。お願いします」

「化粧係には出来るだけ薄くするように伝えておく。では、明日」


 そう答えた俺に、王子は満足げに笑みを浮かべると、今度こそ部屋から出て行った。

 ひとりになった部屋の中、俺は大きく息を吐いた。


「はあー、疲れた…もう寝よう」

セージは体毛や髭は薄いほうです。

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