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個性的な神官デザイナー

「聖女、女性のふりをするってことは、服も女性用を用意するつもりだったんでしょ?」


 俺の問いに、王子は当然のように頷いた。


「ああ、そうだ。聖女のために用意する予定だ。裁縫を得手としている神官が数人待機している」

「白を基調とした清楚なドレスかワンピースってところでしょうか」

「うむ、よく分かったな」

 

 やっぱりそうか。

 俺が思っているいわゆるファンタジーの世界と大差ないみたいだ。


「聖女のイメージからするとそんな感じかなと。こちらの世界では、女性はスカートが普通なんですか?」

「ほとんどそうだな。女性でも職業によってはズボンのこともあるが、それはごく一部だ」


 これも予想通り。

 こういう小さな違いでも、ここは異世界なんだなと感じる。 


「王子。もし聖女がワンピースなどじゃなくて、男性と同じようにズボンをはいていたら、どうですか?」

「何?」

「こちらの世界ではNGですか?」

 

 訝しげに眉を顰める王子。

 想像できないという感じで首を傾げ、少し考えたあとで答えた。


「いや、特に禁止されているわけではない。ただ前例がない」

「禁止されてはいないんですね。そこを確認したかったんです」


 禁止されてないなら、出来る。


「一体、どうするつもりなんだ?セージ」

「明日、城へ行くときにワンピースは着ません。パンツスタイルで行きます。これが第3の案、女装しないで男性と明かさないです」

 

 王子が驚いて目を見開いて驚いた様子。

 反論する余裕を与えず、王子が何か言う前に、俺は一気に自分の意見を畳みかけた。


「俺の世界では女性は普通にスカート同様にズボンをはきます。ということで、俺の世界の女性を手本にしたパンツスタイルで城へ行きたいと思います。何を着ても、よほどのことがなければ周囲は勝手に聖女は女性と判断するはずですから、ありきたりな女装なんてしません。もし何か言われたら、異世界ではこれが普通だって言っちゃえばいいんですよ。どうせこちらの世界の人にはわからないんことなんですし、嘘ではないんですから。といっても、普通にシャツとズボンだと、いくら俺がチビで細身でも男にしか見えないので、どういうデザインにするかは考える必要はあると思います。一応案はあるんですけど、作ってくれる人たちの意見も聞かせてもらいたいです。こちらの世界でも違和感がないようにしたいので。って王子、聞いてます?」


 口を挟まれないのをいいことに、俺が長々と話しているのを黙って聞いていた王子は、途中から微動だにせずに固まっていた。

 眉間にシワを寄せて口をへの字にして、まるで何かに耐えているような…

 

「ちゃんと聞いている…ふっ」

「あのー。なんで笑ってるんですか?」


 口元が歪んでいたのは、笑いを堪えていたかららしい。

 こっちが真剣に考えてるのに失礼な。


「いや、すまん。あまりに予想外だったものでな」

「こっちは真面目なんですよ」

「分かっている。だがドレスではなくスボンの聖女か…あの頭の固いジジイどもが見たらどんな反応するか、想像するだけで…ふふっ」

「ジジイども?」

「聖女至上主義の貴族たちのことだ。待ち焦がれていた聖女様が伝統と違う恰好で現れたら、きっと驚くぞ…はははっ」


 王子はツボに入ったらしく、肩を震わせながらまだ笑っていた。

 聖女を召喚して女神を崇めてる神官たちと王子は良好な関係みたいだけど、至上主義の人たちとは相いれないみたいだな。

 一体、どういう人たちなんだろう?

 まあ、とりあえずは俺が女装をせずに済むならそれでいいんだけど。

 それにしても、いつまで笑ってるんだよ。


「王子、そろそろいいかげんにしてもらえませんかね」

「すまない。ツボに入ってしまってな」


 ようやく笑いのおさまった王子は目じりに浮かんだ涙を拭きつつ、俺の肩を叩いた。


「セージの案、気に入った。面白い」

「王子は反対しないんですか?女がズボンなんてありえない、とか」

「女性が何を着ても問題ない。むしろ異世界からの文化の良いところは積極的に取り入れるべきだ。これがきっかけで、この国の女性の服装に革命が起きるかもしれんな」

「いや、俺はそんな大それたことまで考えてないんですけど…」


 反対するどころか、ノリノリな王子に俺のほうが引き気味になってしまう。

 この国ことをどうにかしようなんて、俺は全然考えてないんだから。


「よし。神官長と衣装係の者たちを呼んで、もう一度聖女の衣装について会議をするぞ。今度はセージも参加してくれ」

「もちろんです」


 というか、最初から当事者を呼んでくれたらよかったのに。

 

+++++


「というわけだ。セージの案を私は採用したい。皆の者、今一度聖女のイメージを考え直してくれ」


 王子の言葉を聞いた神官たちは、ざわめきつつも納得した様子を見せた。


「なるほど。聖女様にはお美しいドレスを着ていただきたいという気持ちはございますが…」

「それが聖女様のお望みならば」

「我らが考えるより、聖女様が望むようになさった方がよろしいでしょう」


 渋々という感じでもなく、好意的な意見が多くて安心した。

 提案した案が受け入れられたからか、王子は嬉しそうに目を細めている。

 神官長もあっさりと賛成したのは、ちょっと意外だなと一瞬思ったけど、そういえば最初から性別なんて些細なこととか言ってたな、この人。

 神官たちが様々な意見を言うのを黙って見ていたら、そのなかでひと際元気に語る女性が目に留まった。


「性別で服装を勝手に決めるのでなく、聖女様が着たいものを自分で選んで着る。新しい!とても前向きな発想ではないでしょうか。私は賛成いたします!」

「落ち着け、リリアナ。お前の熱意はよく分かったから」

「も、申し訳ございません。興奮してしまって、つい…」


 王子に諭されて顔を赤くしながら縮こまるのは、リリアナと呼ばれた20代前半くらいの小柄な女性だった。

 綺麗に整えられた栗色の髪に、くりっと大きな茶色の目。

 美人というよりは可愛い系だな。

 見た目は派手さはないけど、清潔感があって好印象だ。


「セージ、彼女が裁縫を担当している神官だ」

「リリアナと申します。聖女様のお衣装を仕立てさせていただける光栄に、大変感激しておりました。よろしくお願いいたします!」


 勢いよくペコリと頭を下げ、そのまま顔を上げようとしない。

 なんか、ものすごく緊張してるっぽい?


「そんなかしこまらないでください。こちらこそ、よろしくお願いしますね」

「はい!精一杯頑張ります!!」


 俺の言葉を聞いてパッと表情を明るくさせた彼女は、今度は満面の笑みを浮かべている。

 感情表現が豊かな子だなぁ。


「では、まずは俺の世界の女性のパンツスタイルについてですが…」

「あ、その前に」


 話を続けようとしたところで、リリアナさんに遮られた。

 今度はキリっとした職人のような目をして、真剣な顔をしている。

 ホントにコロコロと表情が変わる子で、見てて飽きないな。


「なんですか?」

「脱いでください、聖女様」


 …………はい?


「えーと…今なんて言いましたか?」

「服を脱いでパンツ一枚になってください」


 聞き間違いじゃなかった…のね?


「いや、あの…なぜ?」

「採寸をします。身長、スリーサイズはもちろんのこと、手足の長さ、骨格、筋肉の付き方を見ます。それらを把握しないと、どこを隠せば聖女様のご希望どおり、女装することなく男性らしさを感じさせないように出来るかを追求することはできません」

「あ、はい。ごめんなさい」


 有無を言わさない迫力に押されて思わず謝る。

 でも、なんで急に服をとか言われたのかと思ったら、そういうことだったんだ…プロだね。

 俺が戸惑っている間にも、リリアナはテキパキとメジャーを取り出したり、紙を広げて何かを書き出したりと準備を始めた。


「セージ、観念して脱げ」


 こういうときのリリアナは誰にも止められんと苦笑いの王子に、俺は盛大にため息をついた。


「分かりましたよ。脱げばいいんでしょ…って、リリアナさん!ちょっと待って!自分で脱ぐ……キャー!変態!」

これを以後、女性の神官服にもパンツスタイルが採用されるようになります。もちろん、デザイナーは彼女です。

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