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魔力で育つ不思議な木

「文字が読めない?どういうことだ」

「そのままの意味です。この世界の言語が理解できないんです」

「言語が理解できないって、今もこうやって会話できてるではないか」


 俺が言っている意味がまだよく分からないようで、王子は首を傾げるばかり。

 うーん、どう説明したらいいかな。


「えっと、口から出る言葉は日本語、俺の国の言葉として聞こえてるんですけど、文字は見たこともないような記号にしか見えないんです。王子、何か書くものはありませんか?」

「たぶん、そこの机にあるはずだ。聖女の部屋には生活用品一式を揃えさせたからな」


 王子が指差す先には、どこかの社長でも使ってるようなデカい机と、貴族の女性が使うような豪華な椅子があった。

 …ベッドの段階で分かってたけど、とことん女性向けのコーディネートだな。


「ペンは…これか。この紙は使っていいのかな」


 とりあえず気にしないことにして、机の上にあった羽ペンで「誠二」と書く。

 王子はそれを覗き込み、ますます不思議そうな顔になった。


「何だこれは。暗号か?」

「日本語で書いてるんです。俺の国の文字ですよ」

「ニホンゴ?これが文字だというのか?」


 王子は眉間にシワを寄せて、俺が書いた字を見つめている。

 どうやら本当に未知のものらしい。

 漢字の他に、ひらがなやカタカナもあるって言ったら、さらに混乱しそうだな。


「ちなみにこれはセイジと読みます。王子はこう」

「…さっぱり分からないな」

「これが俺の現状です。王子と会話はできるけど、本は読めません」


 この状態が分かってから気が付いたことがある。

 王子たちの言葉は日本語に聞こえるけど、口元の動きが違う。

 洋画の吹き替えみたいな感じ。

 つまり、こっちの世界の言葉が脳内で自動変換されて、日本語に聞こえているんだろう。

 こっちが喋るときは、俺が喋ろうと思っている言葉がやはり変換されて、口から出るときはこっちの世界の言葉になっているんだろう。

 なんでこんなことになってるのか分からないから、女神のご加護と思うしかない。


「今までの聖女は文字が読めないって言わなかったんですか?」

「これまで聖女は侍女が数人ついて、身の回りの世話はすべてやっていたから、文字が読めなくても不便なかったのかもしれん。そういえば祖母が本を読んでるところは見たことがないな」


 なるほど。

 確かに身支度から食事まですべて人任せだと、自分で本を読んだり調べたりする機会はないかもしれない。

 でも前聖女は王妃様なんだから、文字が読めないと困ることもあったんじゃないのかな。

 まあ、今となっては確かめようがないんだけど。

 それより、さっき王子が言ったことの中に、気になるものがあった。


「俺、侍女なんて会ったことも見たこともないんですけど」


 風呂でタオルや着替えを用意してくれたのは、声からして男性だったから侍女ではないだろう。


「ここは神殿だからな。明日、もう一つ神殿でやることが終わったら城に行く。城にいけばセージ専属の侍女兼護衛がいる」

「兼、護衛?」

「ああ。聖女の側には、俺が信用している少数精鋭のみを置きたいからな。彼女たちなら大丈夫だ」


 いや、気になるのはそこじゃなくて。

 どうして護衛が必要なんだろう?ってところだ。


「ええっと…その人たちがどういう人たちかは後で聞くとして、護衛って必要なんですか?」

「もちろんだ。聖女にもしものことがあってはならないだろう。そのために、今もこうして私自ら側にいるのだ。それに…」

 

 王子はそこで一旦言葉を切って、真剣な表情で俺を見た。

 つられて俺もちょっと緊張して、コクリと思わず唾を飲む。


「女神を信仰していて聖女を崇めている神殿と、外とでは状況が違うと理解しておいてくれ」

「…それはつまり、聖女召喚反対派がいるってことですか?」

「そういうことだ。正確には召喚反対というより、聖女懐疑派とういべきかもしれんな。王国も一枚岩ではない。神殿の外は聖女を歓迎していない者もいる」


 聖女様万歳!聖女様最高!という神殿内の雰囲気に慣れていただけに、ちょっとびっくりした。

 そんなの全然考えてなかったけど、言われてみると当然だよな。

 異世界から来た得体の知れない人間を崇拝しろって言われても、納得できない人もいるだろう。

 しかも今回は聖女を召喚したはずなのに、来たのは男。

 俺のせいじゃないけど。


「懐疑派も俺を見たらびっくりでしょうね」

「勘違いしないでほしい。セージの性別がどうこうというわけではない。元々、聖女召喚に予算をかけるのに懐疑的な者たちもいるということだ」


 と王子は言うけど、通常の聖女のときより反発があるのは想定しておいたほうがいいんだろうな。


「そういう連中が何かしてくる可能性はあるんですか?」


 王子は短く、でもはっきりと言い切った。


「ある」


+++++


 翌日、俺たちは神殿の奥にある礼拝堂に来ていた。

 そこは昨日行った女神の間とは違い、壁には美しい絵が描かれたステンドグラスがあり、祭壇には女神の間にあったのと同じような女神像がある。

 王子曰く、ここが本来の礼拝する場所らしい。


「ここで何をすればいいんですか?」

「ここではセージの聖女としての力の強さを確認する」

「力?」

「女神の祝福を受けた聖女には特別な力が与えられる。しかし、どれほどの力が発現するかは個人差があるらしい」


 なるほど、ゲームでいうところのステータス確認か。


「セージ、女神と会ったときにどんな力を与えたと言っていたか、覚えているか?」

「えっと、たしか…回復、解毒、浄化、光、だったかな?」

「おお…!なんと4つも」


 神官長が驚きの声をあげ、周りにいた神官たちもどよめき、ざわついている。

 え、何その反応?

 隣にいる王子をこっそり見ると、王子も驚いた顔をしていた。


 「多いほうなんですか?」

 「普通は1つ。セリーナの2つが過去最高だったな。4つは例がない」

 

 そっか、4個は多いのか。

 きっとあれだ、間違って拉致したおわびでサービスしたんだろ。

 そうじゃなければ、こんなにたくさんもらえるわけないしな。


「では聖女様、こちらへ」


 神官長に促され、俺は祭壇の前に立つと、そこには20センチくらいの何かの木の幼木があった。


「これは女神が好むと言われているビエンナという果実の木です。この幼木に手をかざし、力を注いでください」

「力を注ぐって…どうやるんだ?」

「ただ願うだけです。心の中で育てと祈り、手のひらに気を集中させてください」

「それだけ?」

「はい。それで聖女様の力の強さが分かります」


 ホントだろうか?

 疑惑の目で神官長を見る俺に、王子が補足説明をしてくれた。


「ビエンナは魔力を吸収して育つ性質を持つんだ。注がれる力が強ければ早く成長し、弱ければ変化しない。どれくらいの変化があるかで、その人の魔力の強さが分かる。聖女の力も同じことだ」

「俺の世界では魔法とか魔力とかが存在しなかったので、正直ピンとこないですけど…」

 

 とりあえず、やってみるか。

 両手を木に手をかざし目を閉じる。

 そして心のなかで念じた。

 どうか育ちますように、元気に大きくなれ、美味しい果物になりますように、って。

 すると手を当てたところから、じんわり温かいものが流れ出ていくような感じがした。

 それがしばらく続いて、ふっと流れが止まったような気がしたので、終わりかと思って目を開けると、突然パキパキッと音がして木が伸び始めた。


「お?伸びてきた…って、うわっ!!」


 ぐんぐん伸びたと思ったら、あっという間に育っていき、神殿の天井スレスレまで大きくなった。

 あ、危ねぇ…もう少しで天井を突き破って、あやうく大惨事になるところだった。


「あ、止まった…って今度は何だよ!?」


 上に伸びるのが止まったと思ったら、今度は横に枝葉が伸び始め、神殿の天井を覆うほど広がり、枝に青々とした葉っぱが生い茂る。

 そして、次に蕾ができた。


「ちょ、これどうしたら…!」


 焦る俺をよそに、今度は一気に花が咲いた。


「…えーと、もう終わった、かな?」


 最後にポポンッと白い小さな花を咲かせると、ようやくそこで成長は止まった。


「……」

「……」

「……」

「…ナニコレ」


 静まり返った礼拝堂のなか、誰も何も言わないので不安になって振り返ると、全員が呆然として黙ってるし。

 いやいやいや!みんな見てないで何か言って!! 怖いんだけど!?


「…セージ」


 王子が恐る恐るというふうに声をかけてきた。


「はい?」

「お前は一体何者なんだ」


 何者って…召喚したのはそっちでしょう。

 俺は成長したビエンナの木を見上げながら、王子に言った。


「俺はあなた方によって拉…いえ、召喚された普通のニホンジンですよ」

ビエンナの花のイメージはサクランボです。しかし、赤ではなくリンゴくらいの大きさの白い実がなります。

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