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個性あふれる光の玉を作ってしまいました

「よし、終わり。お疲れさん」


 しばらく経って、師匠が終了の合図をした。

 なんとか走りきったけど、結構ギリギリだったわ…あと5分長かったらヤバかった。

 床が動く速度が徐々に遅くなって、元の動かない床に戻ったと同時に、思わずペタリと座り込む。

 隣を見ると、王子は膝に手を当てて荒い呼吸をしているものの、倒れずに踏みとどまっていた。

 持久力には自信があったけど、王子は俺より体力あるらしい。

 正直、ちょっと悔しい。


「セージ様、大丈夫ですか?お水、飲めますか?」

「あ、ありがとう…ふう、生き返る~!」


 心配そうな顔で駆け寄ってきたリリアナが、コップに入った水をくれた。

 冷たい水が体に染みて気持ちがいい。

 一気に飲み干すと、今度はタオルを差し出してくれた。

 ありがたく受け取って顔を拭いていると、師匠が近づいてきた。


「よく頑張ったな」

「はい!でも、最後は本当に危なかったです。師匠、途中で速度あげませんでした?」

「気のせいだろう」

「…あげたんですね?」

「まあ、少しだけ。あの速度じゃ、いつまでも終わりそうになかったからな。殿下のタフさは知ってたが、正直、セージは予想以上だった」

「だから言ったじゃないですか。自信ありますって」


 まだ床に座ったまま、ドヤ顔で言う。

 師匠は調子に乗るんじゃないと言って笑った。


「殿下も、素晴らしい持久力でした。さすがですね」

「毎日の鍛錬を欠かしていないからな。それで、セージの持久力はどうなんだ?魔王を迎え入れる結界を張って維持できそうか?」


 王子の問いかけに、師匠は大きく首を縦に振った。


「問題ありません。むしろ、魔力量と持久力はありすぎるくらいです」

「そうか。それなら安心だ」

「あとは魔法の使い方を一から仕込まないといけませんが…まあ、そこはセージの頑張り次第ですね」

「俺、頑張ります!」

「テンション高いな。頼もしい聖女で嬉しいよ」


 手を上げて宣言すると、王子が笑いながら俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。

 それから、改めて師匠に向き直る。


「ソラ、あとは頼んだ。。私は部屋に戻るが、何かあったらすぐに連絡してくれ」

「仕事ですか?昨日終わったんじゃないんですか?」

「溜まってた分はな。だが、まだまだやることはたくさんある。コツコツやらないと後が面倒だ。ではな」


 王子は最後に俺の頭をひと撫でして、部屋を出ていった。

 忙しいんだなあ、王子って。

 また何か手伝えるようなら、協力しよう。


「さて。早速だが、今から魔法の訓練を始める。いいか?」

「はい、お願いします!」

「今のは初歩の初歩。魔力を操作する練習みたいなもんだ。いくらでも出せる」


 言いながら、今度は両手を前に出して、さっきと同じような光の玉をさらに2個出現させた。

 3つとも同じようにフワフワ漂っている。


「魔力は体全体に流れている血液みたいなものだと思えばいい。魔法を使うときは、それを望むところへと集中させる。これが出来ないと何も出来ない」


 師匠が光の玉をさらに何個も増やしていく。

 4つ、5つ…まだ増える。

 10を超えたあたりで数えるのを止めた。

 ピカピカふわふわと漂うたくさんの光の玉は、まるで清流に集まる蛍みたいだ。


「これが初歩中の初歩ですか?」

「そうだ。なんの攻撃性もない光の玉は、少ない魔力でも使える生活魔法の一つで、ほとんどの魔術師は一番最初にこれを覚える」

「つまり、これが出来なければ話にならないんですね」

「そういうことだな」


 師匠がパチンと指を鳴らすと、20近くはあったと思われる光の玉は、全部一気にふっと消えてしまった。


「まずは俺の真似をしてみろ。右手を前に出して、手のひらは上向きに。そこに魔力を集めるイメージで…」

「魔力を集めるって言われても、どうやったらいいのか…」

「セージはビエンナの木を育てたことがあるだろう。そのときに何か感じなかったか?」

「あの時は、幼木にかざした手のひらから暖かい何かが出て行くような感覚がありました」

「それが魔力だ。そのときの感覚を思い出しながら、右手に魔力を集中するんだ。体全体に魔力が流れているなら、その流れを右手のみに集めるようなイメージだな。目を閉じると集中しやすい」

「分かりました。やってみます」


 師匠に言われたとおりに、目を閉じて手を前に出す。

 ビエンナの木のときに感じた温かい流れを手のひらに…あ。

 そうそう、この感覚。

 なんとなく、手のひらがじんわりと温かくなってきた。


「いいぞ、その調子だ。もう少し集中して…よし。次は魔力の流れを感じながら、手の上に光の玉が乗っていると想像してみろ」

「はい…!玉、玉…光の玉…」

「よし、目を開けていいぞ」


 師匠の声に目を開けると、手のひらの上で光の玉がフワフワと浮かんでいた。

 師匠が作った光の玉より、ちょっとだけ小さいかな?


「できた!」

「初挑戦で成功するとは、なかなかやるな。筋がいい」

「ありがとうございます!なんか、めちゃくちゃ嬉しいです」


 師匠のは青白く光っていたけど、俺が作った光の玉はもう少し優しい色だ。

 少しオレンジ色っぽくて、温かみのある色。


「師匠のとは色が違いますけど、どうしてですか?」

「魔力の質の違いだ。人間の魔力は性格と同じで一人一人違う。光の玉の色は持っている魔力の適性を表している。セージの魔力の色は温かみのある色だから、攻撃魔法よりも守護魔法とか結界魔法に向いているな」

「へえ…」


 結界魔法に適性があるなら、王子が喜ぶな。

 そう思って改めて光の玉を見てみると、


「あれ?」

「どうした?」

「いえ、なんか、ちょっと形が…」


 光の玉が、徐々に形を変え始めた。

 尻尾みたいなのが生えてきた…?


「え?」

「あ?」


 最終的に人魂みたいな形になったソレは、俺と師匠の目の前を元気に飛び回っている。


「…なんだこれ?」

「師匠にも分からないんですか?」

「なんで光の玉に尻尾が生えるんだ?」

「魔法のエキスパートである師匠にも分からないのに、俺が分かるわけないでしょう」

「触ってみるぞ…」


 恐る恐る師匠が光の玉に触れる。

 その瞬間、光の玉はピョンと跳ねて師匠の指に巻きついた。

 あ、ちょっとかわいいかも。


「懐かれたみたいですね」

「攻撃性はないようだな」


 師匠が指を振ると、光の玉は素直にスルリと離れた。

 そのままふわふわと漂い始める。

 まるで生きてるみたいだ。


「なんなんでしょうか、これ」

「正直、分からん。でもまあ、敵意も害もなさそうだからほっといていいだろう」

「い、いいんですか?それで」

「どんな魔法でも、使い手によって個性があるからな。尻尾が生えようが飛び回ろうが、光の玉には違いない。そのうち消えるだろう」

「自分でいうのも変ですけど、アレは個性で片付けていいものなのか…って、自然に消えるんですか?」

「ああ。光の玉は魔力で作られているから、供給し続けないと短時間で消える。さっき俺がやったように術者が消すことも出来るが、面白いからそのまま飛ばしておけ」

「はあ…師匠がそう言うならいいですけどね」


 暇が出来たら調べておくからと、師匠は近づいてきた人魂もどきを突きながら言った。

 暗闇でコレがフヨフヨ飛んで来たら、怪奇現象だな。

 指先に人魂を乗せたまま、師匠は俺に向き直って言った。


「さて、訓練の続きをやるぞ。光の玉をもう一度作ってみろ。やり方は同じだ。今度はもっとハッキリとイメージしろ」

「はーい。頑張ります」


 集中、集中。

 目を閉じて、体全体に流れる魔力の温かい流れを手の平に集めるように…お、イケそうだぞ。

 さっきよりもスムーズに魔力が集まっている気がする。


「よし、いいぞ。その調子…おお?」

「え?」


 驚いたような師匠の声に目を開けてると、さっきと同じように薄オレンジ色の光が目に入った。

 形はやっぱり人魂もどき。

 でも、今度は…


「でかっ!」


 サッカーボールくらいの大きさの人魂が浮かんでいる。

 大きいと威圧感があって、はっきり言って怖い。

 茫然と見ていると、師匠が咳ばらいをして人魂(大)を指さした。


「尻尾はさておき」

「おいちゃうんですね」

「そのサイズは魔力を放出しすぎた結果だ。光の玉は魔力量に比例して大きくなる。セージは魔力量が膨大だから大きくなりやすいんだろうな」

「そうなんですね。魔力のコントロールかあ」

「光の玉は魔力の制御の練習にはもってこいの魔法だ。火や風と違って、でかくなっても危険はないからな。自由に大きさを調整できるようになるまで練習あるのみだ。もう一度やってみろ」

「はい!」


 こうなったら何個でも作ってやる。

 今度こそちょうどいい大きさで、普通の形の光の玉が出来るようにと念じながら、目を閉じて集中力を高めていった。


「光の玉、普通の玉、まん丸な玉。尻尾いらない…」


セージたちが訓練している間、侍女3人は部屋の隅で邪魔にならないように黙って見守っています。

リリアナは冷たい水やタオルをいつでも渡せるように用意しながら見ていて、ソフィとマリベルはソラがセージに無理させすぎないように目を光らせています。

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