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師匠の使い魔は、また可愛い生物でした

 次の日の朝。

 

「おはようございます、聖女様。起きてください」


 ツンツンと頬を軽く突く感触と、聞き覚えのない声。


「…もう朝?」


 寝ぼけ眼で起き上がると、ベッドの上には見慣れない小動物がちまっと座っていた。

 白くてフワフワとした毛並み。

 つぶらな瞳に、小さな手足、体のわりには大きな尻尾。

 顔が猫で体がリスって感じだ。


「おはようございます。わが主、ソラ様より聖女様をご案内するように仰せつかってまいりました」


 少年のような声は間違いなく目の前の小動物から発せられているけど、リスや猫は喋らない。

 なんだ、この可愛い生物…?


「…?」


 ボーッと見つめていると、その小動物はペコリとお辞儀をした。


「初めまして、聖女様。ボクはソラ様の使い魔、リチです。以後お見知りおきください」

「はぁ、どうも。はじめまして…」


 ベッドの上に正座して挨拶をしてみたけれど、まだ頭が働かない。

 とりあえず、目の前の小動物の頭を撫でてみる。

 モフッとしていて気持ちいい。


「…あの、聖女様」


 困惑気味の声に、ハッとして手を離す。

 いけない、つい夢中になってしまった。


「ごめん、つい…」

「いえ、大丈夫です」


 リチと名乗ったその白い小動物は、気にしていないというふうにフルフルと首を振った。

 顔と声は冷静なように見えるけど、大きな尻尾が楽し気に左右に揺れている。

 撫でられるのは嫌いじゃないみたい。

 そういうところも猫みたいだなあなんて思っていると、クスクスと楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

 振り向くとそこには、見慣れた侍女の姿。


「リリアナ。いつからそこに?」

「最初からおりました。リチさんがセージ様を起こしたいと言うので、お部屋にお連れしてからずっと」


 リリアナは楽しそうに笑みを浮かべながら言うと、サイドテーブルに置いてある水差しからコップに水を注いで俺に差し出した。

 ありがたく受け取って一気に飲み干すと、ようやく目が覚めた感じがする。


「おはようございます、セージ様。よく眠れましたか?」

「うん、ぐっすりだったよ。ところで、リリアナがこの子を連れてきたの?」

「はい。朝の準備をしていたらドアをノックする音がしまして、開けてみたらこの子がいたんです。ソラ様の使い魔だと名乗られたので、マリベルに確認したら間違いないと。私には分かりませんが、纏っている魔力がソラ様のモノなんだそうです。それで危険はないと判断して、部屋まで連れてきました」

「なるほど…」


 リリアナの説明を聞いて、改めてリチを見る。

 ルピもそうだったけど、リチも相当可愛い。

 師匠が可愛いもの好きなんだろうか。


「それでは、私は朝食の準備のお手伝いに行ってきます。お着替えはこちらに置いておきますね。セージ様はゆっくり準備なさってください」

「あ、うん。ありがとう」


 普通の貴族は、洗顔や着替え等の身支度を侍女に手伝ってもらうらしいんだけど、俺はそれをお断りしてある。

 自分でできることはできるだけ自分でやりたいし、誰かに世話をしてもらうことに慣れていないからだ。

 …下着姿とか、あまり見られたくないしね。

 リリアナたちは俺の意思を尊重して、嫌な顔をせずに了承してくれた。

 だから今も、リリアナは俺に一礼するとさっと寝室から出て行った。

 残ったのは、俺とリチのみ。


「リチさん」

「リチとお呼びください。さんも敬語もご無用です」


 俺の言葉を遮るように、リチはぴょこんと前足を上げて言った。

 うっ、可愛い。


「じゃあ、リチ。えーと、リチは師匠の使い魔なんだよね?」

「はい、そうです。主より聖女様に訓練の準備が出来たことをお伝えしろとのご命令を受けました。朝食が済み次第、来てほしいとのことです」

「あれ?昨日はたしかルピを迎えに行かせるって…」

「ルピは今日は休みです」

「え、使い魔に休みとかあるの?」

「当然です。毎日働いてばかりいたのでは、疲れてしまいますからね」

「へぇ~」


 意外だ。

 使い魔って、主人の命令に絶対服従の存在なのかと思っていた。


「まあ、主のことですから使い魔の勤務割り当てを忘れていたのでしょう」

「き、勤務割り当てなんてあるの…?」

 

 ファンタジー小説なんかで見る主人と使い魔の関係とは、ずいぶん違うみたいだ。

 この世界では普通のことなのかな。

 あとで師匠に聞いてみよう。


「私たちのことはさておき、主が待っております。早くご準備をお願いいたします」

「そうだね。わかった、すぐ着替えるよ」

「かしこまりました。隣の部屋でお待ちしております」


 ペコリと頭を下げてリチが退室した後、俺はベッドから下りると手早く着替えを始めた。


*****


「お待たせ、って王子。おはようございます」


 着替えをすませて寝室から出て、真っ先に目に入ったのは王子の姿だった。

 いつもよりもラフで動きやすそうな服に見えるのは、訓練に参加するためかな。


「ああ、おはよう」

「おはようございます、セージ様」

 

 俺に続いて、マリベルたちも口々に挨拶をする。


「お待たせしてすみません」

「いや、構わない。私も今来たところだ」

「そうですか?ならよかった。あれ?王子は紅茶だけですか?」


 テーブルを見ると、王子の前には湯気の立つカップが置かれていた。

 朝早くから来ていたから、てっきり一緒に食べるんだと思ってたけど…


「先に済ませてきた。訓練直前に食べると、胃に負担がかかるからな。セージも腹八分目、いや六分目くらいにしておいたほうがいいぞ」

「えー…それじゃあ途中でお腹すいちゃいますよ」

「そこは我慢だな。終わったら好きなものを思う存分食べればいいだろう。過去にソラの訓練を受けたことのある私からのアドバイスだ。素直に聞いておいて損はないぞ」

「…わかりました」


 どうやら師匠の訓練は、かなり過酷みたい。

 覚悟を決めて臨まないとヤバそうな雰囲気がビシバシ伝わってくる。

 経験者である王子が言うんだから、きっと間違いない。


「では、全部少なめにお取りしますね」

「せっかくたくさん用意してくれたのに、ごめん」

「とんでもない。セージ様がお気になさることではありません。それに、食べたそうにされてる方もいらっしゃいますし」

「え?」


 ソフィがいつもより少なくサラダを皿に取り分けてくれながら、面白そうに笑う。

 その視線を辿ると、


「リチ?」


 テーブルの隅に、香ばしい匂いのする焼き立てパンをジーっと見つめるリチがいた。


「えっと、食べたいの?」

「いっ、いえ!ボクは別に…」


 俺が聞くと、リチは慌てた様子でブンブンと首を横に振った。

 でも視線はパンから外れることはない。


「遠慮しなくていいよ。一緒に食べよう?」

「しかし、主以外から食事をいただくなど…」

「うーん、じゃあ言い方を変えよう」


 なかなか頑固なリチに、俺はパンを一口齧ってみせた。

 うん、ナッツが香ばしくて美味しい。

 そしてそれを皿において、違うパンにも口をつける。

 こっちはシンプルなテーブルロールだ。


「いつもはこういうパンを2つ食べるんだけど、今日は1つにしておこうと思うんだ。でも、つい癖で両方齧っちゃった。このままだと1つは廃棄になっちゃう。それはもったいないから、俺が一口食べたあとでも良かったら、これ食べてくれない?」


 俺はそう言って、リチにナッツのパンを差し出した。


「…承知しました。いただきます」


 リチはそれをじっと見つめた後で、真面目な顔で俺の手からパンを受け取った。

 小さな口で一口かじると、パァッと表情が明るくなる。

 尻尾もブンブン振られて、嬉しさを隠しきれていない。

 はい、可愛い。


「セージお前、詐欺師の才能あるって言われたことないか?」


 では俺もと朝食を食べ始めると、紅茶を飲みながらこちらのやり取りを見ていた王子から余計な一言が入った。

 失礼な。

 そんな才能いらないわ。

 俺は口の中のパンを飲み込んでから、王子に言い返した。


「交渉術に長けていると言ってください。相手と状況を見て言葉を選んでいるだけです」

ソラの使い魔はルピとリチの他にあと2匹います。

セージの予想通り、全員可愛いです。

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