有能な侍女はありがたいです
考え始めてはみたけど、そんなにすぐにアイデアが浮かぶわけもなく。
「あー、何も出てこないや…」
書いてもボツを繰り返し、12枚目の紙を無駄に消費したあたりで机に突っ伏した。
キュエー鳥はマズイわけじゃない。
むしろ美味しい。
でも、どんなに美味しいものでも毎日食べたら飽きる。
A5ランクの超高級和牛のシャトーブリアンだって、食べ飽きてしまうはずだ。
アイザック王子が頼んできたのは新しい料理だけど、それを考える前に、まずは現段階の状況を整理しておこう。
俺は紙に箇条書きで、キュエー鳥に関しての問題点を書き出した。
・キュエー鳥が大繁殖期で一気に増えて、城下町の作物や環境に悪影響を与えている。
・駆除で出た肉などの素材は国が買い取って使うが、それでは消費しきれずに余っている。
・冷凍はできるが、長期は品質が落ちるため早めに使い切りたい。
・城下町の人たちも余していて、格安だとしても買い取ってくれない。
・国全体がキュエーの肉を食い飽きてしまっている。
「こんな感じかな」
書き出したところで、俺は大きくため息をついた。
これって、新しい料理が一つや二つ増えたところで、解決しそうにないんですけど。
俺にはキュエー鳥の専門知識もないし、冷凍技術の知識もないし、料理の知識もない。
「この世界にない考えって言われてもなあ…」
アイザック王子は異世界の知識に期待してるらしいけど、正直言ってハードル高すぎ。
こちらの世界については知らないことだらけだし…って、そうだ。
「まずはこの世界の料理を知らないと、先に進めないじゃん」
今更の気づきに、俺は頭を抱えてまた机に突っ伏した。
この世界の調味料も食材も、ほとんど知らない状態で料理を考えるなんて不可能だ。
「よし、とりあえずそこからだな」
「何がですか?」
独り言に返事があったのでビックリしてそちらを見ると、ソフィが心配そうに俺を見ていた。
「いや、なんでもないよ」
「ですが、難しい顔でぶつぶつ呟いておいででしたので…」
「えっ!?」
声に出てたのか、恥ずかしい…
「セージ様。もし差し支えなければ、何を悩んでいらっしゃったのか教えていただけませんか?何かお役に立てるかもしれませんよ」
無理にとは申しませんが、と控えめに言うソフィ。
気づけば、ソフィの後ろにはリリアナとマリベルもいて、みんな心配そうな表情をしていた。
そうだよな、突然悩みだしてひとり言を言い出したら、気になるよな。
俺は三人の顔を見て苦笑した。
「ごめん、ごめん。別に深刻な悩み事とかじゃないから、安心して」
「本当ですか?料理がどうのと聞こえたのですけど、料理について悩んでいたのですか?」
「あー、うん。まあそんなところかな」
「私、少々ですが料理には自信があります。よかったらご相談に乗りますよ」
「ソフィ、料理得意なの?」
「プロの料理人には敵いませんけど、一般的な家庭料理なら一通り作れます」
胸を張るソフィに、マリベルも太鼓判を押す。
「ソフィの腕は確かです。私も何度か作ってもらったことがありますが、どれも美味しかったです。ソフィは謙遜してますけど、プロの料理にともいい勝負が出来ると個人的には思います」
「へえ、それはすごいね」
「それで、何を悩んでいるのですか?」
ソフィが料理に詳しいなら、色々と聞いてみようかな。
でも、アイザック王子のあの設定のこともあるから、どういうふうに話したらいいのかが難しい。
俺は少し迷った後、当たり障りのない範囲で話すことにした。
要するに、アイザック王子の名前を出さなければいいんだ。
「王子にちょっと頼まれごとされたんだけど、それが料理に関することでね」
「まあ。殿下から」
「そうなんだ。実はね…」
俺はソフィーにアイザック王子の名前を使わないで、キュエー鳥の新しい料理の考案を頼まれた経緯を話した。
昨夜王子と話していたら、キュエー鳥の鳴き声が聞こえてきた。
窓からキュエー鳥の姿を確認した王子が、大繁殖期で肉が余って困っている、暇なときに少し考えてみるくらいでいいから、何かいいアイデアがあったら教えてほしいと言ってきた。
どこでいつ話したかなどは言わなかったし、アイザック王子の名前も出さずにまとめるとこんな感じだろう。
多分、聞いているソフィたちは王子=アレン王子と思ってるだろうけど、アイザック王子だって王子だから間違いではない。
「というわけなんだよね」
「なるほど、そういうことだったのですね」
ソフィは納得してくれたようで大きくうなずいた。
他の二人も同じようにうなずく。
「でも、料理を考える以前の問題があるのに気づいたんだ。俺、この世界の調味料すら知らないって。仮に俺の世界の料理を作ろうと思っても、調味料がなければ出来ないだろ?」
例えば親子丼を作ろうと思っても、醤油がなければどうしようもない。
「ああ、確かにそうですよね」
「そこで、まずはこの世界の調味料を知りたいと思う。一般的なものだけでいいんだけど…」
「それなら私がお役にたてるかと思います。明日、一通りお持ちいたしますね」
「ありがとう。助かるよ」
「とんでもございません。セージ様にお仕えするのが私の役目ですから」
微笑むソフィに俺もつられて笑顔になった。
キュエー鳥料理に関しては、今日はもう先に進められなさそうだな。
明日以降、また暇を見つけてぼちぼち考えていくとしよう。
今日はもう終わり、と椅子から立ち上がって伸びをする。
「んん~…肩バッキバキだ」
首を横に倒すと、ゴキゴキと音が鳴るくらい凝っていた。
ずっと同じ姿勢だったしな。
「セージ様、大丈夫ですか?」
「あはは、ちょっと集中しすぎたかも」
俺は苦笑すると、もう一度両手を上げて背筋を伸ばしてみた。
うん、バッキバキですね…
「アタタタ…これはちょっとヤバイかな」
「よろしければ、マッサージいたしましょうか?」
「え?マリベルが?」
「はい。セージ様のお身体のケアも、侍女の仕事ですので。もちろん嫌でなければ、ですが」
「そんなことないよ!じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「もちろんです。お任せください」
リリアナは裁縫、ソフィは料理、マリベルはマッサージ。
侍女って、みんなこんなに有能なのかな。
本当にありがたいなあ。
「では、こちらにうつ伏せになってお待ち下さい」
「はい」
ベッドに寝転ぶと、マリベルが腰の上に跨ってきた。
おお、これはかなり本格的な…って、痛っ!!
「マ、ままま、マリベル?!」
「動かないで下さい。力加減を間違えたら大変なことになりますので」
「わっ、わかった…!イテテテ!」
これ、マッサージっていうか整体!?
俺は必死に痛みに耐えながら、早く終わることを祈った。
そして、15分くらい後。
「お疲れさまでした」
「終わった?」
「はい。お体の調子はいかがですか?」
「…めちゃくちゃ楽になりました」
「それは良かったです」
あんなにガチガチだった肩や背中、首のこりが嘘のようになくなっている。
肩甲骨あたりがほんのり温かくなっていて、血流が改善されたみたいだ。
痛かったのは最初の5分くらいで、あとの10分は痛気持ちいいくらいだったし。
「すごいな、マリベル」
「恐れ入ります」
「ありがとう、だけど…」
綺麗なお辞儀をするマリベルに感謝しつつも、俺は一応今後のために一言付け加えた。
「次からは、もうちょっとだけソフトにしてくれるとありがたいです」
ソフィとマリベルの特技紹介の回になりました。
料理上手なソフィは、実は毒にも精通しています。
マッサージ上手なマリベルは、関節技も得意です。




