魔導士のイメージが崩壊しそうです
「それで、今日の予定だが」
朝食後、ソファーに移動してお茶を飲みながら寛いでいると、王子がおもむろに口を開いた。
「聖女の力の制御訓練ってお話でしたよね」
「ああ。セージの力がかなり強いことは既に分かっている。さすが聖女だ」
「あのときはビックリしたもんなあ…」
魔力で育つという不思議な木、ビエンナの幼木がメキメキ成長していく様子は今でも鮮明に覚えている。
「だが、強すぎる魔力は使い方を間違えれば危険なものだ。だからまずは、自分の力をコントロールできるようにならないといけない」
「そういえば、イグラシル様も同じようなことをおっしゃってました。力の匙加減は俺自身が学んでいくしかないって」
「そのために、今日は魔導士ソラに会ってもらう」
魔導士ソラ。
昨夜、その名前を聞いた途端、アイザック王子の態度が変わったのを思い出す。
「ソラさんって、どんな方ですか?」
「そうだな…一言でいうと、変わり者だ」
「えっと、どういう意味でしょう?」
「まあ、会えば分かるだろう。悪いやつではない」
なんか歯切れが悪い気がするんだけど、一体どんな人なんだろうか?
王子に聞いてもあまり教えてくれなさそうなので、後ろに控えている3人にも聞いてみることにした。
「リリアナたちは、ソラさんって知ってる?」
「私は名前だけは聞いたことがありますが、どのような方なのかはあまり存じておりません」
リリアナは首を傾げながらも答えてくれたけど、マリベルとソフィは困ったような顔をしながら黙っている。
この反応、何か知っていそうだな。
「もしかして、知ってる人?」
「…叔父です」
「え?」
「私たちの父の兄が、魔導士ソラなんです」
「えぇーーー!?」
まさかの血縁者。
そんな俺の様子を見て、苦笑いを浮かべながらマリベルが話を続けた。
「普段は面白くて優しい人です。普段は」
「なんで普段を強調するの…?」
「それは…まあ、お会いすればすぐにお分かりになるかと。とにかく、気さくな人ではあるのですが、少し変わったところもありまして」
王子に続いて、マリベルまで変わってる人だと言っている。
これはますます…
「相当な変人の可能性あり?」
「まだ会ったこともないのに、変人とは失礼な」
「うわぁっ!?」
突然背後から声がしたので振り返ると、どこから入ってきたのか、王子の肩に一羽の鳥がとまっていた。
さっきの声は、まさかこの鳥が…?
「こんにちは聖女様。俺は魔導士ソラ」
「しゃべった!!」
「そりゃ喋るさ。ただの鳥じゃないんだから」
俺の驚きっぷりに、鳥?は楽しそうに笑った。
いやだって、普通に考えて鳥が喋ったら驚くじゃん!
しかも、無駄にイケメンボイスで。
「おじさま。不法侵入はよろしくないですよ」
「えっ、おじさま?」
ソフィが鳥に向かって話しかけた内容に、思わず聞き返してしまった。
おじさんだって?この鳥が?
すると、ソフィは俺の方を向いて微笑んで言った。
「はい。こちらの鳥は、先ほどお話した私とマリベルの叔父、魔導士ソラの使い魔です」
「ああ、使い魔…って、使い魔!?」
使い魔ってファンタジーものでよく聞くけど、ホントにいるんだ…
どうみても普通の鳥だけどな。
「黙って入ったわけじゃないさ。窓の外で中を伺ってたら、アレン王子が気づいて開けてくれたんだ」
「王子…」
「仕方ないだろう。可愛い鳥に入りたそうな目でじっと見つめられたら、誰でも開ける」
「確かに可愛いですけど…」
改めて王子の肩の鳥を見ると、小首を傾げて、つぶらな瞳でこちらを見つめ返してくる。
うっ、可愛い。
「…おいで?」
「ピィ!」
手を差し出すと、嬉しそうに鳴きながら飛んできた。
お椀状にした両手の中にすっぽり収まり、リラックスしている様子に頬が緩む。
「あ~、癒されるなあ」
「セージ様、大変申し上げにくいのですが…中身はおじさんです」
「…うん、分かってる」
でも見た目は本当に可愛いし、ふわふわだし、もふもふだし、触ってるだけで幸せな気持ちになれるんだよ。
ちょっとくらい、現実逃避したっていいじゃない。
「それで、ソラさんは今どこにいるんですか?」
「研究室にいるよ。その鳥についておいで」
またイケボで喋る鳥。
ちょっと慣れてきたけど、やっぱり違和感があるなあ。
それにしても、魔導士の研究棟なんてものがあるのか。
どんなところなんだろう?
「案内するよ」
そう言って手の中から飛び立ってた鳥のあとをついて、俺たちは部屋を出た。
*****
「ここ?」
鳥に連れられてやってきたのは、歓迎会をやった広間の逆方向にある部屋だった。
入り口には大きな鉄の扉があり、その前に一人の男性が立っている。
「ピィッ!」
前をゆっくり飛んでいた青い鳥が、急にスピードを上げて男のほうへ飛んで行った。
ということは、あの男性がソラなんだろうけど、どうしても違和感がぬぐえない。
「すっげー筋肉…」
ソラと思われる男性は、筋骨隆々という言葉がぴったりな体つきをしていた。
ピッチリしたシャツが胸板の厚さをより感じさせるし、太い二の腕はめっちゃ硬そう。
別に魔導士は体を鍛えちゃいけないというわけはないけど、俺が持っていた魔導士のひょろっとしたイメージが、ガラガラと音を立てて崩れていくようだ。
「殿下、ご無沙汰しております」
「元気そうだな、ソラ。相変わらず暑苦しいな」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「褒めてはいないけどな。まあいい。今日は雑談をしにきたわけじゃないんだ」
王子は軽くため息をつくと、後ろに控えていた俺たちに視線を向けた。
「紹介しよう。こちらが魔導士ソラ・グエンダ。とてもそうは見えないが、王国随一の魔導士だ」
「直球で失礼ですね、殿下。あなたが聖女様だね?俺はソラ。よろしく」
「セージといいます。よろしくお願いします」
「リ、リリアナと申します。セージ様の侍女をさせていただいております」
初対面のマッチョに、ちょっと緊張気味の俺とリリアナ。
マリベルとソフィは親戚だから、慣れたもんだ。
「叔父様、お久しぶりです」
「叔父様は相変わらずですね」
「俺はいつだってこの通り、健康第一だ」
そう言いながら白い歯を見せて笑うと、ますますムキムキが強調されて見える気が。
差し出された手を握り返すと、すごい力で握られた。
痛いんですけど…
「叔父様、聖女様に乱暴しないでください」
「おっと、悪い悪い。つい力を入れすぎてしまった」
ソフィに注意されるとすぐに離してくれたものの、この人絶対わざとだよな?
手をさすりつつ、ちょっと睨んでみたけど、ちらっと見ただけでスルーされた。
「さて、挨拶はこれくらいにしておいて、早速だが本題に入ろうか」
ソラさんが言うと、それまで上空を旋回していた使い魔の鳥が戻ってきて、彼の肩の上にとまった。
どうやら定位置らしい。
「王子から話は聞いたが、実際にどれくらいの力があるのか、ちょっと調べさせてもらってもいいか?」
「あ、はい。もちろんです」
「よし。じゃあ、中へ行こう。茶くらいは出すぜ」
ソラさんの後に続いて、俺たちも部屋の中に入った。
部屋はだだっ広く、天井も高い。
壁際にはいくつもの棚が設置されていて、分厚い本がぎっしりと詰められている。
ちょっとした図書館くらいの冊数がありそうだ。
なんとなく、古本屋と似たような匂いがするな。
「ここには大量の魔道書が保管されている。魔法に関する資料なら大概あるはずだ」
「こんなにたくさん…!さすが魔導士の研究室ですね」
「まあな。ここにある魔導書全部を読破したヤツは、今のところ俺くらいなもんだがな」
「全部!?」
「凄いだろう?」
驚いて素っ頓狂な声を出した俺に、ソラさんは得意げに笑った。
俺だったら、全部読み切る前に寿命がきそう…
改めて部屋をぐるりと見まわし、目の前にいる魔導士に尊敬の念を込めて言った。
「かなりの変人ですね。良い意味で」
実はソラは見た目だけでなく、肉弾戦も強いです。
ルーカス王子といい勝負をするくらいの実力があります。




