異世界で就活しました
ルーカス王子が去ってから15分くらい後。
アレン王子に国王夫妻が待っているという謁見室にに連れてこられた俺は、現在の状況に焦っていた。
「本当にすまなかった。異世界から突然召喚して怖い思いをさせたこと、幾重にも詫びよう」
「私からもお詫び申し上げます」
俺が部屋に入るなり、夫妻で揃って頭を下げて謝罪をしてきたのだ。
アレン王子も止めないで、しれっとした顔で俺の隣に立ったままだ。
「あ、頭をあげてください!」
「しかし…」
「お二人からの謝罪、確かに受け取りましたから!もう、謝らないでください。ね?」
俺は慌てて、両手を前に突き出してブンブン振った。
だって一国の王と王妃だよ?
俺なんかに、こんな簡単に頭下げちゃダメでしょうよ。
「では、許してくれるのか?」
「はい。というか、怒ってませんから。当初は何が起こったのか分からなくて戸惑いましたけど、アレン王子から事情を聞いて、協力しようと決めたのは私の意思です。こちらでは王子をはじめ、神殿の皆さんがとても良くしてくれています。もう一度言いますけど、怒ってないので大丈夫です」
会社が倒産したばかりで無職だから暇があるからという理由は、この場では言わないほうが良さそうなので省略した。
そういえば、元の世界に戻ったら、再就職先を探さなきゃいけないんだよな…現実は厳しい。
帰りたいけど、帰った後のことを考えると、少し憂鬱になる。
思わず出そうになったため息を飲み込んだとき、国王夫妻は再び深く頭を垂れた。
「感謝する、聖女よ。そなたが我らに力を貸すと言ってくれたこと、誠にありがたく思う。何か必要なものがあれば遠慮なく言うがよい。できる限りのことをしよう。この国にいる間は、何の心配もない生活を保障しょう」
この国にいる間は、かあ。
できれば戻ったときに困らないようにも配慮してほしいけど、それを望むのはさすがに欲張りすぎだろうな。
でも聖女の仕事をするんだから、労働するからにはそれに見合った賃金があってもいいような気もする。
それが働くってことだし、当然の要求じゃないか?
…そうだ、こういうのはどうだろう。
これなら王様たちの罪悪感も薄れるかもしれないし、俺は報酬ゲットできるし一石二鳥だ。
妙案を思いついた俺は、王様に一礼してから思いついた提案を口にした。
「ありがとうございます、王様。早速なのですが、一つお願いがあるのですが」
「なんだ?何でも申せ」
「王様、私を雇ってくれませんか?」
「何?雇う?」
俺の提案に、王様は目を丸くしている。
隣の王妃様もだ。
ちょっと唐突すぎたかな?
プレゼンは分かりやすさが大事だと会社の先輩に言われたことを思い出し、なるべく分かりやすい説明を試みる。
「こちらの世界にいる間は、元の世界では働いていないので、当然収入がありません。こちらでの生活の保障はありがたいのですが、無収入のままでは元の世界での生活に支障が出ます。生活にはお金が必要です。ですから、働いた対価として賃金がほしいんです。もちろん常識の範囲内で結構です」
「聖女の仕事に対する対価…」
思ってもみなかった提案なんだろう。
王様も王妃様も、アレン王子もぽかんとしている。
俺にとってみては労働=賃金は当たり前のことなんだけどね。
口を挟まれないのをいいことに、さらにアピールを続けた。
まるで就職や転職での最終面接みたいに。
「私に与えられた仕事は最後まで責任をもって、誠心誠意、取り組ませてていただきます。いかがでしょうか?」
これなら筋が通るはず!
タダ働きや押しつけではなく、きちんと対価を払ってると思えば王様たちの心理的にも楽になるかもしれないし。
我ながら良い案だと思う、うん。
しばらく呆然としていた国王夫妻だったが、顔を見合わせると同時に笑い始めた。
えっ、そんな笑うこと?
やっぱり変なお願いだっただろうか。
俺がオロオロしながら様子を見ていると、ようやく落ち着いたらしい王様が口を開いた。
「いや、すまぬ。そなたの申し出があまりに意外でな。実に面白い。その話、受けよう」
「ホントですか!?」
「ああ。そなたの働きに見合うだけの報酬を約束しよう。とりあえず当面はこちらで使う通貨で支払い、全てが終わった後には、そなたが希望する物を与えよう。そなたの世界ではこちらの通貨は使えないだろうからな。それで良いか?」
「はい!ありがとうございます!」
やった!
これで戻ってからも当分の間は安心して暮らせるぞ。
「採用ありがとうございます!あ、自己紹介がまだでした。私は高梨誠二、セージとお呼びください。よろしくお願いいたします」
俺は改めて深々と頭を下げた。
そんな俺を見て、王様は苦笑しつつ言った。
「聖女よ、そなたは実に面白い。アレンが言っていたとおりだ」
「そうですわね。私もアレンと同じ印象を持ちました」
王妃様もクスクスと笑っている。
そういえば、ルーカス王子も風変りとかなんとか言ってたな。
一体、アレン王子は俺のことをなんて言っていたんですか…?
聞きたいような、聞くのが怖いような。
俺が微妙な顔をしていることに気付いたのか、王様はふっと微笑んだ。
「まぁ、アレンの言葉は置いておくとして、これからよろしく頼むぞ、セージよ。私も名乗っていなかったな。私の名はシュナイデル・フォン・クレル。クレル王国の王をしている」
「妻のミリアです。どうぞよろしくね、セージさん」
王様に続いて、王妃様もにっこりと笑ってくれた。
こうして俺は、異世界で収入源を確保したのだった。
*****
「はー、緊張した…」
「とてもそんな風には見えなかったがな」
王様との謁見を終えた後、俺たちはさっきまでいた控室に戻った。
俺のお披露目を兼ねた貴族たちとの懇親会までは時間があるらしく、それまではここで待機だそうだ。
「いやいや、内心ドキドキでしたって。あんなこと言って大丈夫だったかな…」
「今更だろう。父上が快諾されたんだから大丈夫だ。それにしても、よくあの短時間で言いくるめられたものだな」
「言いくるめるって人聞きの悪い。あれは正当な要求ですよ」
部屋に用意されていたお茶を淹れながら、俺は先程の謁見について思い出していた。
雇ってほしいと言ったときの王様の驚きかたから考えると、聖女というのは普通なら職業とは思われてないんだろうな。
尊い存在といった感じだろうか。
「これまで聖女には給料は支払われてなかったんですか?」
「聞いたことはない。そもそも聖女が金を稼ぐ必要がない。衣食住をはじめ、聖女に必要なものは全て完璧に国が管理しているからな。自分で何も買う必要がない」
なるほど。
住む場所や食事に困らず、綺麗な服を着られて、欲しいものは揃えてくれる。
そんな王侯貴族のような生活してたら、お金のことを気にしないのは当然だ。
それが悪いとも思わない。
右も左も分からない異世界へ急に連れてこられたのだから、国が色んな面で守るのは当たり前だ。
でも無賃で働くというのは、俺の身に染みついたサラリーマン精神が許さない。
「俺はいただいた賃金で、自分の物は自分で買います」
「…本当に変わった聖女だな、セージは。いままでの慣例が通じん」
「そんなの、女性じゃない時点で普通じゃないんですから、今更ですよ」
「ははっ、それもそうだな」
呆れたように言いながらも、なんだか楽しそうに目が笑っている王子のカップにお茶を注ぎながら、俺は王子に笑顔で言った。
「社宅と社員食堂…じゃなくて、俺の部屋と三食は国の費用でお願いしますよ。福利厚生は手厚くしてくださいね」
クレル王国の通貨単位はクストです。
セージの給料は、王国で働く人の平均給料よりかなり多くなる予定です。




