聖女セージが完成しました
それはぱっと見は巫女さんのようだった。
でも、そう思ったのは一瞬だけ。
落ち着いてよく見ると、全然違う。
まず、全部真っ白。
袴じゃなくて細かいプリーツが入ったワイドパンツに、襟なしのVネックのシャツ。
腰には金糸で見事な刺繍が施されたサッシュベルト、透け感のある袖、ベルトと同じ刺繍が施された太めの布製チョーカー。
さらに、袖口や胸元にはキラキラ輝く小さな宝石みたいなものがあしらわれていて、主張はしてないけど華やかだ。
喉仏やすね毛などの、男らしい部分はきっちり隠されているのに感心してしまう。
若干、女性っぽい気はするけど、聖女用だからこれくらいは仕方ないし、男の俺でも着るのに抵抗はない。
「リリアナさん、天才」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに微笑むリリアナだけど、これは本当にすごいよ。
一晩でデザインして、一からこれだけのものを作り上げるって、裁縫の知識がなくても大変なことだってことくらいは分かる。
「すごく素敵だと思う。ただ、俺が着こなせるかどうかが心配ですね。衣装に負けそう」
「いいえ、そんなことはありません!聖女様はとてもお綺麗です!絶対に似合います!!」
力説するリリアナに気圧されて、思わず後ずさりする。
まあ、普段どおりの俺なら似合わないかもしれないけど、マリベルたちが綺麗にしてれたしね。
まだ自信はあまりないけど、ここまで準備してくれたんだから覚悟を決めないと。
よし、と小さく自分に気合を入れて、衣装を手にした。
「じゃあ、着替えますね」
「お手伝いいたします」
「い、いや!一人で着替えますから、後ろ向いててください」
「でも…」
「着替えたあとの手直しとか調節はお手伝いしてもらいますから。今は回れ右!」
「…わかりました」
納得いかない様子のリリアナだったけど、なんとか説得できた。
この世界の貴族とか偉い人は、一人で服を脱いだり着たりしないんだろうな。
だから手伝ってくれるっていうのは分かるんだけど、俺にとっては恥ずかしくて仕方がないんだよ。
3人が後ろを向いたのを確認してから、手早く着替える。
想像通り、着心地のいいシルクのような生地だ。
シャツというよりはブラウスっぽい上着とか、ハイウエスト気味のワイドパンツとか、着慣れてないから変な感じになるかなと思ったけど、案外いけるもんだね。
鏡を見ると、中性的と言ったらいいのか、とにかくいつもの俺ではない俺が映っていた。
「もう大丈夫ですよ」
声をかけると、3人ともこちらを振り返り、俺の姿をみてまた固まってしまった。
沈黙が怖い。
何か言って、お願い。
「あの…もしかして似合ってないですか?」
沈黙に耐えられず、こちらから聞いてしまった。
個人的には悪くないと思ったんだけど、やっぱりどこか変だったのかな?
俺の言葉に、一番最初に反応したのはリリアナだった。
「え?!と、とんでもない!とてもお似合いです!」
「ええ、リリアナの言うとおり、お美しいですわ」
「綺麗というか、カッコイイというか…素敵です、聖女様」
3人が褒めてくれて、ほっとする。
よかった、とりあえず変ではないみたいだ。
胸をなで下ろしたとき、扉がノックされ、
「セージ、準備は出来たか?」
王子の声が聞こえた。
「はい!ご準備、整いました」
俺ではなくマリベルが返事をして、扉へ駆け寄って開けた。
入ってきた王子は、ファンタジーの王子様そのもので、瞳と同じ色のマントが憎らしいほど似合っている。
言っていた通り、うっすらと化粧をしているせいか、いつもよりさらに男前で俺から見ても色気さえ感じるくらいだ。
うん、これはモテるな。
そんなリアル王子様は、俺を見て満足そうに大きく頷き、
「うん、いいな」
と、一言だけ言った。
いや、シンプルすぎるよ。
もう少しなんかあるでしょ。
俺に対してじゃなくて、リリアナたちに。
みんな頑張ったんだから、誉め言葉のひとつくらいかけてあげてもいいじゃん。
俺の微妙な表情に気付いたのか、王子が慌てて言葉を足した。。
「すごく似合っている。見惚れていたんだ」
嘘くさい、と一瞬思ってしまったのは内緒。
でも、そう言われると嬉しいもので、自然と頬が緩んでしまう。
って、そうじゃなくて。
他にも言うべきことかあるだろ?
「ありがとうございます。リリアナさんたちの腕がいいから」
「そうだな。素晴らしい出来栄えだ。お前たちに感謝する」
俺の言葉で、ようやく王子はマリベルたちに視線を向けた。
遅いと思ったけど、3人に向ける目はとても優しくて誇らしげで、信頼しているのだと伝わってくる。
「恐れ入ります」
「ありがとうございます!」
「光栄に存じます」
マリベルたちは嬉しそうに笑顔を見せて、頭を下げた。
「セージが男だと分かっていても、実は女性だと言われたら頷いてしまいそうだな」
「王子でそうなら、聖女は女性だと思い込んでいる人たちは男だとは思わないでしょうね」
「セージの思惑通りだな。あとは声だが…」
見た目は合格。
あと、俺の男性らしいところは声だ。
「たしか、一時的に変える方法があるって言ってましたよね」
「ああ。魔法薬を飲めば声を変えることが出来る」
便利だなあ、異世界って。
でも魔法や薬を使って声を変えるのには、少し抵抗がある。
自分から女性の声が出てくるのを想像すると、違和感しかない。
「王子、俺は…」
「そのままでもいいんじゃないか?」
「えっ?」
「女装じゃなくて変装なんだろう?なら、無理に声を変える必要はない。声の低い女性も実際にいる。セージはセージのままでいい。まあ、口調は少し変える必要はあるだろうがな」
俺の言いたいことを、王子はあっさりと言った。
その言い方はまるで、俺の考えはお見通しだと言わんばかりだ。
「…王子は俺の心が読めるんですか?」
「そんなわけないだろう」
即答されてしまった。
だって俺の気持ちをこんなにすぐに察してくれるなんて、そうとしか考えられないじゃないか。
「セージが顔に出やすいだけだ。分かりやすい」
「マジですか」
思わず両手で顔を触る。
そんなはずないと思うんだけど…
「セージは本当に見飽きないな」
王子はくすっと笑って、俺の頭をぽんと叩いた。
もう、この癖はなんとかならないんだろうか。
せっかくセットしてくれた髪が崩れちゃうよ。
俺が抗議しようとする前に、王子はすぐに手を離して、扉のほうへ歩いて行った。
「さて、そろそろ行くぞ」
その言葉に、ドキッとする。
いよいよ城へ行くのか。
気を引き締めないと。
「はい!」
王子に続いて部屋を出る。
廊下に出ると、そこには王子の護衛騎士らしき人たちがいた。
5人いて、みんなイケメン揃いだ
全員が俺の姿を見て、驚いたような表情をしている。
…やっぱり変なんだろうか。
不安になって王子を見ると、王子は苦笑しながら口を開いた。
「彼らを紹介しよう。彼らは近衛騎士団の騎士で、俺を常に守ってくれている。右から順に、アルフォンス、ウィリアム、ヒューイ、ライル、カールだ」
「初めまして、セージです。よろしくお願いします」
王子の紹介を受けて、挨拶をする。
俺の挨拶を聞いた5人はハッとしたように姿勢を正すと、一斉に俺に向かって礼をした。
「こちらこそ、よろしくお願い致します!」
「どうぞ、ご安心ください。我々が必ずお守りいたします」
「何なりとお申し付け下さい」
「誠心誠意務めさせていただきます!」
「命に代えてもお守りいたします」
みんな、真剣な表情で俺を見つめて言う。
ちょっと大げさだなあと思っていると、王子が耳打ちをしてきた。
「セージ、あいつらにはどうやら男だとバレてないようだぞ」
あ、そういえば。
普通に地声で話したけど、全然気にしてないようだった。
聖女=女性という固定観念は強力なんだなあ。
「よかったです。これなら大丈夫そうですね」
ほっと息をついた俺に、王子はさらに耳打ちしてきた。
「だが油断するな。口調には気をつけろ。しばらくは『俺』は禁止だ」
女言葉を使えということではない、と付け足した王子に、俺は素直に頷いた。
敬語なら性別で違いはないし、今より少し丁寧に話すだけでいいと思う。
イメージは入社のときに習った、マナー講座の先生の口調だ。
俺はスッと背筋を伸ばし、綺麗な姿勢をとって王子ににっこり笑って言った。
「分かりました。この衣装を着ているときは、『私』にしますね」
王子は上は紺、下は白、マントは青です。こちらは銀糸で刺繍がされていて、豪華です。




