コーヒーを飲もう(二人で)
ノートパソコン喫茶店に持ち込んで、小説を書いている青年がいた。
アイスコーヒーを注文すると、銀色の容れ物にガッチガチに冷えたコーヒーが出された。
「歯に染みる」
青年は知覚過敏だった。
仕方がないのでしばらく執筆に熱中する。
銀色の容れ物が汗をかいて水滴が流れ落ち、コースターを濡らした。
ガムシロップが底に溜まっているので、ストローでかき混ぜる。氷がカラカラ音を立てる。
いい頃合いだった。
青年がアイスコーヒー(適温)を味わっていると、スマホにLINEが届いた。
「元気?」
「元気」
「小説の方は?」
「絶好調」
「デートしない?」
はた、と青年の動きが止まった。
この前彼女とショッピングモールでデートした時、彼がコーヒーを飲みに行こう、と誘ったら、彼女はカルディに行って、紙コップのコーヒーをもらって店内を巡った。
「違う!」
「何が?コーヒー、美味しいよ」
「俺は、お店の雰囲気とか味わってゆっくりと座って飲みたいんだ!」
だから、違うんだよ。
コーヒー店は店の雰囲気も売りで、代金に入ってるんだ。
彼はその日、彼女をほったらかして帰ったんだ。
「コーヒー飲もうよ。私の家で」
ん?それならいいかもしれない。
彼は執筆を切り上げて、料金を支払うと、途中で切花を買って彼女の家に向かった。
ピンポーン
「はーい」
「はいこれ」
「お花?」
「飾って」
「うん」
「おーい、早く来いよー」
誰?
「友達のカップルも呼んじゃった」
「帰る」
青年は仏頂面できびすを返すと帰ろうとした。
「なんで?」
「俺は、二人きりで飲みたかったんだよ!」
「むー」
いつになったらわかってくれるんだ?
「じゃあ、あの子たちほっぽって、二人でコーヒー飲みに行こうよ」
「えっ」
彼女は財布だけ手に持って、玄関から出てきた。
「ね?」
「う、うん」
二人は並んで喫茶店目指して歩いて行った。
「お花、きれいだね」
「だろう?」
喫茶店のテーブルに花を飾ってもらって、二人でコーヒーを飲んだ。
「この今の気持ちを小説に書きたいなぁ」
「いいね」
青年は幸せそうに、彼女を見つめた。