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変転人生~唯一の異世界ライフを歩む物語~  作者: 風竜 巻馬
第一章 一つの出会い
8/64

第七話 変転I

人名少し変更してます。



 ---


 

 あれから月日が経ち、俺も七歳になっていた。


 師匠が屋敷に現れた日の朝、ベルンハルトに呼び出しを受け、師匠の事について話をした。

 俄かには信じられない話であるため、渋い顔をしていた彼だったが、リヒャルトの言い分と無詠唱で魔法を使って見せた事で最終的にはきちんと納得してくれた。

 イーデルもその姿に驚くどころか、逆に興奮して「うちの子は王国で一番の魔法使いになれるわ!」と終始上機嫌だった。

 優秀かどうかはまだ俺にはわからないのだが。


 それからは午後の魔法の時間が師匠との特訓になり、林への立ち入りも許可された。

 師匠との特訓は難しいことも結構あったが、ちゃんとついていけた。

 師匠曰く魔法には二属性の魔法を合わせて、別属性を作ることが出来るらしい。

 例えば水と風で氷や火と土で岩といった形で魔法は存在しているらしい。

 これが特殊魔法と言われる所以らしい。

 魔法の混合には、相当な魔力の扱いが重要になるらしく、普通の人ではなかなか成功できないんだとか。

 しかし、これらは古くから伝わっているみたいで、一応現代でもそれなりに使える人がいるんだとか。

 その話を聞いて、俺も水魔法と風魔法だけでは他の人よりもレパートリーが少ないと思い、師匠にやり方を教わった。


 「身体の中で二つのマナの流れを作り出して、それらを均等に混ぜ合わせる感じだよ」

 最初にそう言われたが、全然出来なかった。

 普通に風魔法を撃つだけなら、風を作り出すイメージでマナを手に集めるだけだが、二種類だと風と水の両方を作りだして手にマナを集める必要がある。

 それに、集めた二つのマナを一つに合わせる作業まで増えるし、魔力のコントロールが上手くいかなかった。


 しかし、特訓を重ねるうちにある方法を思い出した。

 それは水を冷やせば、氷になると言うこと。

 何を当たり前のことを、と思われるかもしれないが、当然こちらの世界にはサイエンスという概念が存在しない。

 全部が魔法を使っているため、化学現象の事を少し忘れていた。

 だから、水を冷やせば氷になるという簡単な事ですら失念していた。

 それに気付いてからは簡単だった。

 片方は水を作り、もう片方で風を作ったら、水を風で冷やしていくイメージでやってみることで無事氷魔法を完成させれた。

 こうすることで、マナが偏ることなく均等に混じりあうことが出来たと師匠は言っていた。

 ここに至ったのは前世の科学知識のおかげといったところだろう。


 師匠との特訓が家族に知れ渡ってからしばらくすると、イーデルが師匠について息子がお世話になっているのに野宿は申し訳ないからと、お礼の意味も込めて屋敷で寝床を用意しようと言った。

 それに反対する者はいなかったので、師匠は屋敷で住むことになった。

 そのことを師匠に伝えると結構反対されたが、「弟子の頼みを聞いてくださいよ〜」と飲み屋のキャッチなみにしつこく勧誘したら、しょうがないとため息混じりで納得してくれた。

 その姿を見て、案外押しに弱いのかもしれない、と俺は思った。


 それから師匠は午後の特訓の後、屋敷に来るようになった。

 最初は家族も緊張していたが、日を追うごとに徐々に打ち解けていった。

 師匠は師匠で、みんなの前ではマナを抑制してくれてるみたいで、今の所問題も起こらずに済んでいる。

 夜は寝るまでの間、昼間の反省や魔族と人の歴史について色々と聞かせてもらった。

 そんな師匠だが、俺が寝た後はどこかへ出掛けているみたいだ。

 その事を聞くと、師匠は別に睡眠は必要ないと言っていた。

 だから俺が寝たあとは林に戻ってみんなを避けているんだとか。

 何か逆に申し訳ない気分だった。

 そんな生活が二年ほど続いて今に至る。


 ---


 さて、今日は兄のカールとリヒャルトの三人で林の最奥付近にやってきた。

 この辺りは山脈が近いため、マナの濃度が少し濃いので低級の魔物や害獣が数多く生息している。

 その魔物たちが町に下りて来ないように定期的に見回り、時には駆除をしている。

 季節はそろそろ冬に向かっているので、食べ物を求め町まで下りてきやすい。


 「では今日はこの辺りを回ります。もし襲ってくるようなら倒しても構いません」

 「この時期は気性が荒くなるから襲ってきやすいし、気を付けてねリーベ。とはいっても、多分大丈夫だと思うけどね」

 「いえ、何せこうして魔物とかと対峙するのは初めてなので、少し緊張しています」

 そんな話をしながら、三人で目的地まで向かった。


 しばらく歩いているとリヒャルトが俺たちを手で制止させた。

 「見てください、ワイルドボアの群れです——少々数が多いですね。このままでは食糧欲しさに町まで来てしまう恐れがあるので、ここは手分けして倒しましょう」

 ワイルドボア自体はそこまで強くはないが、八匹程の群れではあるし、マナの影響で普通より少し頑丈になっている個体もいると言う。

 冬眠前の餌探しで気性もいつもより荒くなっている。

 それでもこのまま放置できないので、カールと俺は頷き一斉に駆け出した。

 

 まずはリヒャルトが二体を切り伏せる。

 圧倒的な素早さだった。

 動きに目が追いつかないし、剣速も速すぎて見えなかった。

 2体やられた事に反応したワイルドボアの群れがこちらを睨み、向かってきた。

 カールは俺と反対方向に行き、半分引き離した。

 残りの三体は俺の方に真っ直ぐ向かってくる。

 いくら低級と言えど、三体のイノシシが猛ダッシュで向かってくる光景はプレッシャーがある。

 しかしやらなければこちらがやられる。

 覚悟を決め、手を構えた。


 「風魔法 風の矢(ウイングアロー)!」

 中級風魔法のウイングアローを唱え、三本の矢を形成しそれぞれ目掛け放った。

 その三本の風の矢が放たれると、そのまま三体のワイルドボアを貫通した。

 そして、ワイルドボアたちは血しぶきと共にその場に倒れこんだ。

 

 「お見事です、リーベスト坊ちゃん」

 近くで見守っていたリヒャルトは、手を叩いて褒めてくれた。

 「ありがとうございます。思ったよりも上手く出来ました」 

 実戦前は緊張をしていたが、本番では意外とテンパることもなく、無事初めての実戦を終えることができた。

 するとカールも難なくワイルドボアを倒してきた。

 「初めての割に上手いじゃないか。ちょっとだけ心配だったけど、やっぱりそんな心配はいらなかったね」

 ちょっとだけ心配って俺の方が弟なのに冷たくないか、と思った。

 だけどまあそれだけ信頼されてるって事か。

 「ありがとうございます、カール兄さん。上手くいって良かったです」

 仕留めたワイルドボアは町に持って帰り、食料として処理される。

 冬の間の貴重なたんぱく源として有能である。

 「では一旦私は町に戻って人を連れてきます。この数を三人で運ぶのは少々無理があるので」

 

 その後、ワイルドボアを持って町に戻った後、屋敷に戻るところで隣村のフランメと出くわした。

 「こんにちはフランメ、こんなところで一体どうしたの?」

 「こんにちはリーベスト様。今日は父さまがベルンハルト様への用事があり、それに付いてきただけですよ」

 五誕行祭以来俺とフランメはちょくちょく会う機会があり、その度によく話をしていた。

 彼女は最初こそ物静かだったが、話していくうちに段々と打ち解けていき、今では気軽に話しかけてくれるほどだ。

 特に最近は魔法に興味があるらしく、一緒に練習したりしている。

 「そういえば、今度王都で行われるパーティーに呼ばれているって父様が言ってた気がする」

 「そのために町の警備の打ち合わせを今していると思います」

 「それはそうとフランメ、二人きりの時は別に敬語じゃなくていいんだよ?」

 「そうは言われてもつい癖で……わかった、これからは気を付ける!」

 「折角の同い年なのに、敬語はなんか嫌なんだよね」

 「そうなんだ。貴族の子供なのにさ、リーベストは変わってるね」

 「それは昔から言われてるよ」

 どこか懐かしいセリフに、思わず思っていた事が口に出ているようだった。

 「ん? 今なんか言わなかった?」

 「別に、何でもないよ」


 しばらく話していると、屋敷の方からノインが歩いて出てきた。

 それからフランメはノインと一緒に村へ帰っていくのだった。

 最近の師匠はというと、用事があるからと言ってこの町にはいない。

 すぐに帰ってくるとは言ってたが、長い時を生きるあの人のすぐは一体いつになるかわからない。

 どこで何をしているかは俺にはわかるはずもないし、師匠が伝説の存在であることはここ最近の生活からすっかり抜けていた。


 ---

 

 それから数ヶ月が経ち、冬本番を迎えていた。

 「じゃあ行ってくる。留守番をしっかり頼んだよ」

 冬の寒空の下、王都で開かれるパーティーに参加するためベルンハルト達は王都に向かって出発した。

 ちなみに俺はここでお留守番だ。

 王都へ一度は行ってみたかったが、今はまだ俺の事を他の貴族に知られたくないとか言って断られてしまった。

 なんとなくだが、貴族同士あまり仲が良いとは言えないのかもしれないな。


 そして、ベルンハルト達が王都へ向かって二週間が経った。

 特に問題も起こらず、そろそろベルンハルト達が帰ってくる頃だろう。

 王都までは早馬車で片道一週間程度であるため、何事もなければ明日にはこの町に着く。

 「リーベスト、魔法の特訓しようよー」

 そう言ってフランメが屋敷を訪ねてきた。

 「フランメ、ちゃんとノインさんに許可を取ってきたのかい?」

 「大丈夫、今日はちゃんと取ってきたよ」

 前に何度かノインに内緒でこの町まで来て俺と特訓をした事があり、その時は俺もフランメも叱られた。

 その時俺は、彼女が無断で出てきてるとは知らなかったため完全にとばっちりだった。

 彼女は少し活発的すぎるところがあり、村でもよく世話を焼かれているみたいだ。

 「君のその行動力はほんと大したものだよ」

 「えへへへ。今日はどんな事をするの?」

 「今日はマナを魔法に変換するときにしっかり溢れないようにするための特訓だな」

 「えー、私そういう細かいの苦手なんだよね」

 「これが出来ないと魔力の無駄遣いですぐ魔力切れを起こすからね。それに同じ量でも魔法の威力は全然違うよ」

 「そうなの? うーん、わかったよ。頑張ってみる」

 

 それから二人で特訓を始める。

 フランメは大雑把に魔法を放つ癖があり、規模が少し大きくなってしまう。

 それでもなかなか魔力切れを起こさないので、元々の魔力量が多いのかもしれない。

 「そのまま細く絞って魔法を作るんだ。

 「こ、こう?」

 「そうそう、いい感じだよ。だいぶうまくコントロールできるようになったじゃないか!」

 「うーん、でもやっぱり難しいよ。もっとこう思いっきり放ちたくなるんだよね」

 「それでもこういう基礎は大事って俺の師匠はよく言ってたよ」

 「師匠って『世界を均す者(シャイデマン)』だって言う伝説の人でしょ、本当にいるの?」

 「今はここにいないけど、多分そのうち戻ってくるかもしれないから、その時にでも紹介するよ」

 「ふーん、なんかリーベストってその人の話する時すごく嬉しそうだね」

 「そうかな? まあ確かに俺にとって大切な存在ではあるからね」

 「そうなんだ、なんか羨ましいなー」

 「村の人たちもみんないい人じゃないか」

 「それはそうだけど、私もそんな大切な人がいたらなーって思っただけよ」

 

 それからしばらく特訓をした後、俺はフランメを村に送るため一緒に向かうことにした。

 町から村までは歩いて30分ほどだったが、その道中は楽しく、他愛もない話で盛り上がったりしていた。

 そして、村が見え始めた。

 今日もいつものようにここでお別れをするはずだった。

 しかし、村からは黒煙のようなものが上がっているように見えた。

 「なんだ、火事か?」

 そうだとしたら急がねばならない。

 そう思って駆け出そうとした時には、フランメが真っ先に駆け出していた。

 「待ってフランメ!」

 俺の声は届かず、彼女はそのまま村へ向かって走っていった。

 「くそっ!」

 後を追いかけるように俺も村へ駆け出した。


 

 村は町の北西に位置し、近くまでは整備された道路があり、利用する人もそれなりにいた。

 が、村付近に来ても今は人の気配を感じられない。

 火事だったとしても、誰かしらは付近にいるはずなのだが……。

 何か嫌な予感がする。

 全速力で走り村の前まで来ると、そこには既に火の海になった村の姿があった。

 

 「父さま! 母さま!」

 急いで村の中へ入ろうとする。

 「ダメだフランメ! それは無茶だ」

 俺は慌てて飛び込んでいこうとした彼女の腕を掴む。

 「でも、このままじゃみんな……」

 「落ち着いて、この火事で恐らくみんな避難しているはずだから、多分近くの場所に避難しているはずだ」

 「そ、そっか、そうだよね」

 そう言い彼女を落ち着かせる。

 みんなはどこに逃げたんだ?

 一つ気になる事は、ここまで全く人の気配を感じれないこと。

 それに妙な胸騒ぎも感じる。

 とにかく急いでみんなを探さないと、と思っていた。

 

 「なんだ、まだ子供(ガキ)二人残ってるじゃねーか」

 突然背後から聞き覚えのない声がして急いで振り返った。

 「んー? 誰かと思えばそこの町の領主のガキか。もう片方は、知らねえな、この村のガキってとこか?」

 2メートルくらいありそうな背の高い男は、そう言いながらこちらに近づいてきた。

 「あんたは何者だ? どうして俺の事を——?!」

 「あーん? あーそうか、お前はこの姿しか知らないんだっけか」

 すると男は姿を変え、俺が知っている人物としてそこに立っていた。

 これは多分変身魔法だ。

 「あんたは、あの時リュグナー辺境伯の隣にいた……!?」

 「そうだ、思い出したか?」

 リュグナー辺境伯とは五誕行祭で一度会っているし、その時にこの男もそこにいた。

 そういえば師匠が昔言っていた。

 魔族の中でも特に上位のものや、それに仕えている魔族は人の姿になりすましていることがあると。

 しかし、この魔族は俺が思い出したことなど歯牙にもかけていなかった。


 「だが、思ったよりこの村の村長ってやつは手強かったから少し時間がかかったな」

 そう言って血まみれのノインの首を掴んでいた。

 そして、その身体を俺たちに目がけ投げ飛ばした。

 「父さま!!」

 フランメは急いで駆け寄りノインの体をゆすった。

 泣きながら何回も何回も。

 しかしノインの反応はなかった。

 「ったく、うるせぇガキだな。お前も一緒の所へ送ってやるから安心してろ」

 すると直径一メートルほどの火の玉を作りそれを彼女に向ける。

 「じゃあな」

 そしてそのままその火の玉を放った。


 「水魔法 水の球(ウォーターボール)!!」

 奴のより少し小さいが、精一杯の魔力を込め、水の玉を作りぶつけた。

 

 そのまま魔法同士がぶつかり、蒸発した。

 「ほう、なかなかやるじゃねーか」

 二人の前に立ち、目の前の魔族をキッと睨んだ。

 「よくもこの村を——お前だけは絶対に許さない!」

 「はっ! ガキのくせに随分と生意気だな。まあ俺の事も知ったからには、どのみちお前も一緒にあの世へ送ってやるよ」

 嘲るようにして笑った。

 その姿に怒りが込み上げる。

 だから、怒りに満ちたこの感情を全力でぶつける。

 




 

 


 

  

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