第五十六話 予選
武術祭で学園が盛り上がる中、アゼルは鍵の無い扉の前にいた。
そこで一人静かに目を閉じ、じっと立っている。
「あれから900年、わしはずっとお主に言われた事を守ってきた。この中にある物がわしの同胞たちによって消されぬように。お主はいつの日かこう言ったの、『この先人間達と魔族達が再び争うその時、この力と知恵をその時代を生きる者達に託してほしい』と。その為の人物選びまで任されて、その契約に従ってわしはこの900年生きてきたが、ようやくその契約を終わらす時が来たようじゃな」
そして目を見開き、扉を見つめた。
「こんな大層なものを作ってまでお主が伝えたかった事、わしは見る事が出来んがきっとお主の事じゃ、どうせ自分の後始末の事でも書いておるんじゃろう。この世界を知り、真実を悟ってしまったお主をな。まったく、そんな事を託されたあいつらも大変じゃな。じゃが、いずれ来るその日に備えその時残っていた自分の感情でこれをわしに頼んだんじゃろう。この世界に隠された秘密が何なのか、それを知った時自分に何が起こったのかを。最後、お主はこう言ったな、『本当に戦うべき相手はこの世界にはいない』と。そのための準備ならちゃんとしてきたぞ、クヴァールよ」
くるりと踵を返し、扉を背に歩いていく。
「この時代の選ばれし者とその仲間達がお主の目にどう映るか、今から見に行こうではないか」
俺達三人が行動に辿り着いた時には、そこには既にたくさんの生徒で溢れていた。
「すごいな、これが今日の参加者か」
「この中から32人まで絞られて本選に進むわけか」
「どのみちここにいる全員に勝てば良い話でしょ」
セリウスは参加者の人数に驚き、フランメは相変わらずと言った感じだ。
と、そこへ一人の男がやってきた。
「ふん、気楽な庶民どもが」
「ん? あんた誰だっけ?」
「なっ、俺はグロコションだ!」
「あー、ねえこいつ誰?」
フランメは小さく俺に聞いてきた。
俺は少しだるそうな返答をした。
それくらい覚えておいてやれよと呆れていたので。
「ほら、入学してすぐフランメが吹っ飛ばした生徒だよ」
「ん? あ、思い出した! 生意気に勝負吹っかけてきて私にボコボコにされた奴!」
その言葉に彼は不機嫌な顔をした。
そして、反抗するように大きな声を出した。
「な、確かにあの時は油断していたが、今回は負けるつもりはない! それまで精々必死になってこの武術祭に挑むといい」
そう言ってこの場から去っていった。
「何よあいつ、ムカつくわね、もう一回ぶん殴ってやろうかな」
「彼は一応王都で有名な貴族の息子だ、関わるとろくな事が起こらないぞ」
「セレウスの言う通りだ、今は我慢だよ」
「もう、分かってるわよ!」
フランメは不機嫌そうに強く言った。
その様子に俺とセリウスは苦笑いをした。
「おはよう、武術祭に参加する生徒諸君」
しばらくしてから、講堂の壇上にエヴェックが現れた。
すると、ザワザワとしていた会場がすぐ静かになった。
「今年もこの武術祭を開催する事ができ、非常に嬉しく思う。汝らも知っての通り、世界は今魔族達の勝手な行動により混乱が生じている。そんな魔族達の脅威からこの王国、ひいてはこの世界を守るために、今回の武術祭は学園の優秀な生徒全員を参加させる事にした。そこで自らの力と他の力がぶつかり磨き合う事で、さらなる変化が生み出される事を我は願っている。また、武術祭の期間中は、たくさんの来賓が訪れる予定だ。その者達に汝らの才能を知らしめ、そして、その先で待ち構える強大な敵に立ち向かう覚悟を示したまえ。優秀な才能を持った生徒達よ、汝らはこの学園の中でも特に優れた者達だ、その力を存分に発揮してほしい。最後になるが、汝らの健闘と祝福を祈る」
エヴェックが話終えると、会場からは拍手が鳴り響いた。
彼が壇上から下りる時、一瞬俺と目が合った気がした。
「いよいよだな」
「うん、どうしたの?」
「いや、何でもない」
彼もどうやら俺には期待しているみたいだ。
こちらとしてもこの前の戦いの借りがあるから、ここは彼の期待に添えなくてはならないな。
「それでは、予選を開始する。各自自分の番号が書かれた数字のところに向かってくれ」
予選は8つのグループに分けられ、そこで技能テストを行い、その上位4名が本選に出場できると言うわけだ。
参加者は事前に出場登録証が渡されており、そこに番号が書かれている。
俺の番号は132番だ。
大体1グループ62、3人ぐらいだから、132番は第3グループの会場に向かわなければならない。
「セリウスは何番だった?」
「俺は396番だから、第7グループか」
「フランメは?」
「私は80番だから第2グループね」
「みんなバラバラか」
「ライバルが居ないだけマシな気がするがな」
「とりあえず、本選に出れればそれで良いんでしょ。なら簡単じゃない」
「そうだな、まずは無事本選に出れるように頑張ろう」
俺は二人と別れ、会場に向かった。
俺達第3グループが会場である実技棟に到着すると、そこにはダミー人形らしき物が複数置いてあった。
そして、その隣にいるのは、紺色をしたマッシュヘアに、頭の上で蝶々結びを簪でまとめた見た目が特徴的な女性だった。
「ご機嫌よう、参加者の皆さん。私はこのグループの試験官を務めるファンメイです。それでは早速ですが、今回の予選について説明をしたいと思います。まず、皆さんにはこの私の目の前にあるダミー人形に攻撃してもらいます。ああ、ちなみに魔法を使おうが何をしようが皆さんの自由です。皆さんがこのダミー人形をどれぐらいの早さで壊す事ができるのか、それが今回の評価のポイントとなります」
このダミー人形を魔法や剣術を使って壊すというのが、この俺たちのグループが行う予選の技能テストらしい。
一見すると、何の変哲もない簡単な試験のように思えるが、実際はそれほど単純な事ではないかもしれない。
試験官であるファンメイ先生はどれぐらいの早さで壊すかが評価のポイントと言った。
別に粉々にしろと言っているわけではない。
つまり、このダミー人形は生半可な攻撃ではかすり傷くらいしか付かないのではないか?
「では、時間もありませんし、番号が少ない人から順に5人ずつ始めていきましょう」
このグループは124番くらいから始まるから、俺は2番目に順番が回ってくるのか。
できればもう少しじっくりとあのダミー人形を観察し、どのようなものか確かめたかったが……。
だが時間は待ってくれない、そうこうしているうちに最初の5人がダミー人形に向かって一斉に攻撃を始めた。
みんな精一杯の力で攻撃をするが、やはりかすり傷が付くくらいで、なかなか壊すまで至らない。
その様子を見た他の生徒たちからは、「何だあれ」や、「硬すぎてどう壊せばいいんだ」と言った悲観的な声が漏れ出ている。
「それにしても、こんなに防御魔法ガチガチのダミー人形をまともにやって壊せる人がいますかね? 真正面からやれば、私でも10分くらいかかりそうなのに、今の生徒では果たして正解に辿り着くまでにどれだけかかりますかね。下手すれば何も出来ずに終わる人もいるでしょう。まあ、正解に気付いたとしても20分を切れれば優秀ですね」
彼女の思惑通り、ただ時間だけが過ぎていく。
30分ほど経つと、挑戦中の生徒達は肩で息をしていた。
いくら攻撃をしても壊れない目の前の人形に、挑戦している生徒達の心が疲弊していく。
予選が8つにグループ分けされ、一日という猶予を取ったのもこう言う事なんだな。
今のこの世界の魔法力はこんな物というわけか。
詠唱時に余分なマナの漏れがあり、魔法に変換するタイミングでもさらにマナが溢れる。
俺は、昔の自分もこのように魔法を使っていたんだよなー、と思っていた。
それが今この世界での魔法の使い方だから。
それでも今回は合格できる基準があるって事だ。
じゃないと全員失格で終わってしまうからな。
このダミー人形の弱点に気付けるかどうかが、この試験の本当の評価ポイントというわけか。
結局、この組の生徒達はダミー人形を壊せずにマナが尽きたため終了した。
「はーいそこまで。残念だけど、あなた達は失格です」
手を叩き終了の合図を送る。
しかし、試験を終えた生徒から不満の声が上がった。
「ふざけないでください! こんなのどう頑張っても無理じゃないですか。こんなのおかしいですよ!」
あくまでも自分の実力のせいだと認めないのはどうかと思うが、そう言いたい気持ちも分からなくもない。
それくらいあの人形は強度がおかしい。
真正面からの切り崩しじゃ誰も成功なんて出来ないんじゃないか?
「そう言われても、それが今回の武術祭のルールですし、私に文句を言われても筋違いですよ。文句があるなら私じゃなく主催者であるエヴェック学園長に直接言ってくださいな」
彼女はにこやかに告げた。
エヴェック学園長という言葉に、反論をした生徒はたじろいでしまった。
「さ、時間もあまりない事ですし他に話がなければ次に行きましょう。では、次の5人の方はこちらにどうぞ」
ファンメイ先生がそういうと、新しいダミー人形が出てきた。
俺の順番だ。
「さっきの生徒達を見ても分かると思いますが、生半可な攻撃では壊すことが不可能なので、しっかりとした攻撃をお願いしますね」
と、相変わらずニコニコしている。
その笑顔の裏では、まるでこんなのさっさと終わってほしいな、と言いたげに感じる。
このまま黙って見てるのも退屈だと。
「それじゃ始めてください!」
みんなが一斉に攻撃を開始する。
が、やはりこのダミー人形はびくともしない。
そんな中俺は、このダミー人形に近づいた。
その様子に周囲が騒つく。
「えっと、リーベスト君? 何をしているのかな?」
「別に触ってはいけないルールなんてないはずですよね? 何をどうしようが自由と、ファンメイ先生は仰ってましたし」
「ええ、そうですね。でも、そんな事をした所で何か変わりますかね?」
「敵を観察するのは、戦いにおいても重要だと教わってきましたから」
ただ闇雲に攻撃するだけじゃ体力の無駄だ。
まず相手がどのようなものか観察する。
そして、分析をし相手の弱点を探る。
このダミー人形を間近で観察すると、ある事が分かった。
(やはりこの人形は防御魔法の魔法陣が組み込まれているな)
何重にも重なった魔法陣がこの人形の耐久を物語っている。
わざわざご丁寧に外からではそれが全く分からないカモフラージュを施して。
これほどの労力をかけてまで今回の武術祭は対魔族を意識している。
素早く、鋭い攻撃を打たないと、奴らには何のダメージもならないからな。
だが、あくまで今回は人形だ。
魔法陣で重ねているという点に少し弱点がある。
それは、陣と陣の接続点は耐久が弱いということだ。
そこに威力の高い魔法を正確に打ち込めば、簡単に破壊できる。
そうすれば、この人形の防御魔法は形を崩し簡単に壊せる。
本当は真正面から壊した方が上的には良いのだろうが、それは俺が面倒だ。
ここはせこく突破させてもらうとしよう。
「接続点は、やはり関節か」
俺はそこをめがけて魔法を放つ。
「風魔法 風刃」
風の刃を纏った手を突き刺し、魔法陣同士の接続点を攻撃する。
すると、バキンッと音がし、人形に亀裂が走る。
再度『風刃』を放ち、ダミー人形をバラバラにした。
圧巻のスピードに会場の空気は静まったままだった。
「……お見事です」
しばらくしてファンメイ先生は手を叩いていた。
「記録は35秒です!」
そのタイムを聞いて、ようやく辺りが騒然とし始めた。
それに俺は無詠唱魔法を使ったので、そのざわめきがしばらく収まる事はなかった。
「それにしても、このダミー人形の仕組みによく気付きましたね」
彼女は俺の方に歩いてきて、賛辞を述べた。
「魔法陣同士を組み合わすには接続点が必要で、そこはどうしても効果が得られない場所だと一度は習いますからね。幾ら何重に魔法陣を重ねようがそこを攻撃すれば回路が壊されて魔法陣の効果が得られなくなるので、あとは普通に攻撃を入れれば人形は勝手に壊せるという感じです」
「敵を観察し、上手く対処する事が戦いに於いては重要です。今回は魔法陣の弱点、そこに気付き適切な対処をしたあなたは十分合格です。恐らく、この早さで気付き、壊せる者はなかなかいない事でしょう」
「過分な評価ですね」
「いえいえ、正直この早さは今の学園にいる教師の私たちを含めても、なかなか早い方ですよ。やはり、噂に違わず素晴らしい才能の持ち主ですね」
「それは素直にお褒めの言葉として受け取らせてもらいます」
そんな話をしていると、何かに気付いた生徒たちが攻撃のパターンを変え始める。
どうやら、俺のやったことに気が付いたみたいだ。
「まあ、あなたのやった事がみんなにヒントを与えたみたいですね」
彼女は驚いたような声を上げた。
それもそのはず、さっきまでかすり傷程度の攻撃しか与えられなかったのが、段々と傷をつけ始める。
それでも、やはりこの魔法陣は強力で、次の成功者が現れるのはそれから20分後だった。
「これは思ったよりも成功者が出そうですね。これなら、周りを閉ざして周りの情報を見えなくするべきでしたね」
実技テストの様子を見ながらファンメン先生は独り言ちた。
まさかここまで早いタイミングで成功者が出るとは思ってなかったようだった。
それ故、ここまで解放的な空間で試験を取り行ってみたいだ。
結局それは俺によって失敗だったと彼女は感じているようだが。
あの後、成功者は20人くらい出た。
タイム的には10分が最高だ。
やはり俺の35秒は異次元みたいで、周りから俺に向けられた視線が気になる。
こういうのが嫌だから、もう少し大人しくしとくべきだったと後悔した。
けど、今回は初めから手加減はしないつもりだったから仕方ないか。
「ではそれまで! これより本選に進む上位4人を発表します」
「まず最初の一人目は———」
ファンメン先生が、名前を呼んでいく。
その瞬間、呼ばれた生徒は喜びの声をあげ、また、呼ばれなかった生徒は肩を落とした。
「——最後に、リーベスト・ドミニアン」
最後に俺の名前が呼ばれ、無事本選出場が決定した。
当然と言われれば当然だが。
「おめでとうございます、本選でも頑張ってください」
彼女は手を差し出してきた。
俺はその手を取る。
「ありがとうございます、先生もお疲れ様でした」
「まあ、随分と気が利きますね」
俺はつい社交辞令のような言葉を口にしてしまう。
未だに前世の癖が出てしまうが、初対面の人に悪い印象を与えないから別にいっか。
「では、名前を呼ばれた4人の生徒達は明日も頑張ってください。それでは今日はこれで終了です」
しばらくして俺は会場を後にした。
他の二人はどうだったろうか。
落ちてるって事はないと思うが、一応確認したい。
俺は一度教室へと戻った。
そこには既にセリウスとフランメがいた。
「お疲れ、二人はどうだった?」
「もちろん合格よ!」
「俺もだ」
無事二人とも合格し、本選出場が決定していた。
これも当然ではあるがやはり無事通過できて嬉しい。
「二人はどんな試験だったんだ?」
俺は二人の技能テストがどういったものだったのか気になったので、尋ねてみる。
「私は何か球みたいなものをどこまで飛ばせるかってやつだったな。意外と重たかったけど、まあ壁まで吹っ飛ばしてやったわ!」
と、誇らしげに鼻を鳴らした。
どうせ、みんなを騒つかせたんだろうな。
その様子が容易に想像出来た。
「俺は的に魔法を狙って当てる、だったな。制限時間内により多く的に当て、なおかつ真ん中を狙って高得点を取るというゲームに近いやつだったな」
「なるほど、て事はみんなそれぞれ違う内容だったんだな」
「リーベはどんなのだった?」
「俺は防御魔法でガチガチに固めたダミー人形をいかに早く壊すかだったな」
「何それ、楽しそう!」
「確かにフランメが好きそうな試験だな」
「あー、そうかもな。でも、本当は魔法陣の欠点に気付きそこから突破口を切り開くっていう分析が問われる試験だったな」
「そういえば、セリウスの的当ても魔法の正確性を確かめるのが目的って事よね」
「言われてみれば確かにそうだ。だったら、フランメは魔法の威力を問われる試験だったって事じゃないか?」
「……っ! 本当だ!」
「つまり、俺達の得意分野の試験だったって事か」
「そこまでして本選にこの3人を出したいというのか?」
それはまた随分と高待遇な事だ。
あからさま過ぎて、何か俺が考えれていない企みがあるのではないかと勘繰ってしまう。
エヴェック学園長は一体何を企んでいる?
「三人とも合格おめでとう」
そこへ現れたのは、担任のソージュ先生だった。
「「「ありがとうございます」」」
3人とも揃って返事を返したのだった。
その偶然にお互い目を向け合い笑った。
「当然の事とはいえ、無事にクラスの生徒が本選に進む事ができてホッとしている。試験は明日も続く、今日の所はゆっくり休むといい。明日からの方がお前達にとっては重要な戦いになるだろうから、きちんと責務を果たすためにも良い結果を期待している」
それだけを告げて彼女は教室を後にした。
その顔は夕日に照らされよく見えなかったが、どこか浮かない様子にも見えた。
「何か、あんまり嬉しそうじゃなかったね」
フランメも彼女の様子に違和感を感じていた。
「やはり、何か学園側も考えがありそうだな」
セリウスは今回の学園側の意図を怪しんでいた。
実際、予選の試験内容や俺たちの能力からして予選は確実に通過してね、という意図が見えている。
本選で昔の魔法を世間に知らしめるという考えが学園側にはあるので、その気持ちも分からなくはないが、そこまでしなくても俺達なら大丈夫だと思うが……。
「やはりここにいましたか、三人とも無事本選出場おめでとうございます!」
あれこれ悩んでいると、エクレレ達が教室に帰ってきた。
「特に心配していなかったけどね」
サディクも二人に続いて入ってきた。
だが、その顔には疲労の二文字が張り付いている。
「サクレ王子との散歩は疲れたか?」
俺はそんな冗談を彼に飛ばした。
「そりゃ、一応仇なわけだし。僕の大切な人を殺した本人だから」
そう告げる彼の表情は、どこか難しい。
自分が一番慕っていた人物を殺した相手と共に行動したのだからそれも当然か。
「けど、これも僕に課せられた罰なんだ、仕方ない事だよ」
「そうか」
俺はそういうに止まった。
これ以上深く聞くのは野暮だと思ったから。
こいつもあの時から進もうと頑張っているし、だから今回サクレ王子と行動を共にしたんだろう。
自分の弱さを乗り越えるために。
「とりあえず、予選通過おめでとう」
照れながらサディクは告げた。
明後日の方角を向いて目を逸らしているが、尻尾は横に動いている。
俺はそれを見てふっと笑った。
「ありがとうな」
窓から差し込む西日が、朱く教室を染めていた。
「うふふ、ここまでは予定通りね」
日が沈んだ校舎で一人薄気味悪い笑みを浮かべる人物がいた。
その者は、机に並べられた資料を確認しながらブツブツと独り言のようなものを呟いていた。
「あの子達は当然として、他にもなかなか面白そうな子達がいるじゃない。やはりこの学園は素材の宝庫ね」
そう言いながら机の資料を手に取っては下に投げ捨てていく。
ばら撒かれた紙が散らばり、床が散乱な状態になっている。
「あら、この子——あー、なるほど、そう言う事ね。あの時の子供がまだ生きていたのね」
一つの資料を確認し、あることを思い出していた。
「せっかくだから、この子にしましょう。あの時の続きがまた見れるなんて、楽しみだわ〜」
口角を吊り上げ、不気味な笑みを浮かべる。
その様子はまるで、悪巧みを思いついたピエロのように悪どかった。
「うふふ、明日が楽しみね」
月光に照らされた廊下を歩いていく。
そして、そのまま闇に飲まれて消えていったのだった。




