第四十八話 エピローグ
−−−
王都での戦いから二日が経った。
街は各所で復興作業が行われていた。
街中の至る所で損壊があり、急ピッチで作業が進められている。
学園は、その損壊した家屋の人達の仮の住まいとなっているため、当分の間休学が決まった。
学生は、勉学をすることが出来ないので、やる事がなくなったかと思うが若者の労働力は貴重である。
街に繰り出せば、そこかしこから声がかかり手伝いをさせられる。
だから大半の生徒は、街の復興に向けたお手伝いをしている。
時期もそろそろ冬に差し掛かる頃。
寒くなる前に終わらせたいというのが、国民の共通認識だった。
俺はというと、その復興作業には加わっていない。
断じてサボっているわけではない、という事を最初に断っておく。
あの日、全てを見届けた後、倒れたサディクとセリウスをフランメと二人で診療所に運んだ。
その時にこの診療所の所長であるゲリールさんに捕まってしまった。
「ちょっと待ちなさい。あなた、また何かやったのね?」
「えっと、それは……」
また何か、という言葉に俺は戸惑った。
その視線は鋭い。
どうやら俺のマナの異変を見抜かれてしまったようだ。
以前にもこんなことがあったからな。
「前と同じで、魔法を使い切っただけです」
この状況の原因となったあの魔法の事は、話す気になれなかった。
「普通にマナを使い切っただけでそこまでのことは起こりません。とりあえず、治るまではあなたもここでしばらく休みなさい」
深くは聞かず、ただそう言ってくれた。
俺はその言葉に甘える事にした。
どうせ、しばらく学園も休みになるだろうと思っていたし。
そして今に至るというわけである。
「具合はどうだ?」
俺は近くに寝ていたセリウスに問いかけた。
「正直、不思議な気持ちだ。あの時死んだと思ったからな。だが、こうして生きているのも、リーベストが助けてくれたおかげだ。本当に感謝している」
感謝の言葉に照れくさい気持ちになった。
「友達だから当然だろ? だからそう言う堅苦しいのはやめにしよう」
「それでも言わせてくれ、ありがとう」
そう言って頭を下げた。
俺はそこまでしなくても良いと思ったが、本人が納得していないのであれば受け入れるのが筋だろう。
「わたくしからも感謝をお伝えします、リーベスト」
エクレレも昨日、サクレ王子にここに連れられて来た。
彼女の境遇についてはその時に話してもらった。
話を聞く限りでは、彼女もなかなか重たいものを背負って生きていたのだと知った。
エクレレは、その封印の鍵を使用した事による体調の経過観察のために来たと、後で教えてもらった。
「そんな、王女様が頭を下げてしまったら、俺は地面に埋まらないといけないじゃないか」
「あら、こちらは本気なのに随分と不真面目な返答ですね」
軽い冗談だったが、どうやら普通に受け取らないといけないようだ。
でも、言葉とは裏腹にクスクスと笑っていた。
「でも、本当に感謝しているんですよ? あなたが居なければ、この戦いはどうなっていたことやら」
「そうだぞ、国から表彰されるべき功績を収めたんだぞ?」
「俺はそう言うのはいいんだよ。結局はみんなが頑張った結果なんだし。俺は最後の良いとこ取りしただけって感じだよ」
「とても本心には思えませんね」
いや、九割以上は本心だ。
「そういう行き過ぎた謙遜は失礼なことなんだぞ」
と、なぜか責められた。
実際俺は未来視で得た情報しか教えてないし、対処したのはみんなのおかげなんだけどな。
「ちょっと、そんなにしゃべる暇があるんなら手伝いなさいよ」
部屋の入り口にはフランメが立っていた。
どうやらご機嫌斜めの様子だ。
「それは無理ですね。わたくし達は絶対安静ですし、貴女と違って体調の変化に気を配らなければいけませんの。あー、その丈夫な身体が羨ましいですね」
身体を抱えてわざとらしくフランメを挑発した。
「病人のくせにいい度胸してるわね」
怒りのボルテージが一気に上がる。
ここは落ち着かせなければ。
「フランメ、ここでは静かにしておこうな」
「分かってるわよ!」
食い気味の返答で強く返してきた。
その溜まったイライラを俺にぶつけたのだろう。
復旧作業中の仕事で理不尽な事でもあったのだろうか。
「本当、リーベストには素直ですね」
若干八つ当たりされた気がするが……
「ん? 何か言った?」
「いーえ、何も言ってませんよ。そういえばシュヴァリエはどうしてるか知ってますか?」
シュヴァリエは、戦いの後治療され、翌日には街の中を動いていた。
ただ、エクレレを守れなかったことがショックだったようで、あまり元気がないようだ。
「別に、普通に働いてるよ。ちょっと落ち込んでる気はするけど」
「そうですか……」
少しエクレレも心配しているようだった。
だが、強大な敵と戦った事で悩むのは仕方ないことだ。
ここで成長出来るかどうかは本人次第だろう。
「それで、あいつは起きたの?」
「いや、まだみたいなんだ。息はしているし、体調も落ち着いてるからもう少しすれば目を覚ますと思う」
あいつとはサディクのことだ。
あの場で倒れ込んだまま、今も寝たきりだ。
身体の骨はボロボロで、筋肉もズタズタだったようで、治療には時間がかかったみたいだった。
そこは、この国一番と言われているゲリールさんの腕だけあって、損傷箇所は全て回復したらしい。
俺も時間魔法のレベルアップの為に、治癒魔法を習ってもいいかもしれない。
感覚を掴むというためにも。
「サディクだっけ? そいつは本当に信用していいやつなのか?」
「一応敵だったわけですしね」
エクレレとセリウスは、まだサディクの事を信用していないようだった。
まあ、警戒するのも無理はない。
「いずれみんなにもきちんと挨拶させるさ。ちょっと難しいとこはあるけど、基本は真面目で良いやつだよ」
そこは追々打ち解けていってもらうしかないからな。
「こんにちは、皆さん、ご飯できたので持ってきました」
四人で話していると、セレニテが部屋に入ってきた。
「セレニテ、すまないな」
「いえ、すごく頑張って戦っていたと聞きましたから」
セレニテは俺たちと別れた後、この診療所で怪我人を診ていた。
治癒魔法が使え、回復用のポーションも作れる彼女は重宝された。
学園にも行かなくていい今は、この診療所で手伝いをしているらしい。
ゲリールもその素質を評価しているとか。
「あ、セレニテ、私の分もある?」
「ええ?! ここは食べ物屋じゃないから、そんなこと言われても……」
そんな無茶を言うもんだから、セレニテが困ったじゃないか。
まあ、お腹が空いてるのだろう。
「いいよ、俺の分食べて」
俺はそう言ってもらったスープをフランメに渡した。
「いいの?」
反応を見るに、どうやらお腹が空いていたから不機嫌だったらしい。
朝から何も食べずに動いていたんだろう。
ならば、その努力を労ってやるとしよう。
「どうせ起きて来ない奴がいるし、その分を貰うよ」
フランメは、もらったスープを一気に飲み干した。
「よかったですね、空腹でのたれ死ななくて」
「それはどういう意味よ?」
バチバチと視線の火花が散っている。
「どうしてこの二人はいつも喧嘩するんだ?」
セリウスは呆れてため息を吐いた。
セレニテはアワアワしている。
「ここは診療所よ、喧嘩はよそに言ってやりなさい!」
偶然部屋の前を通ったゲリールが二人を窘めた。
いつもと違った口調に、二人はすぐに黙った。
その日の晩に話があるからと言って、ゲリールが俺を呼んだ。
呼ばれた部屋に行くと、そこにゲリールとサクレ王子がいた。
「あれ? どうしてサクレ王子がここに?」
「私が呼びました。あなたとサクレ君に話があって」
俺は何だか分からず、促されるまま席に座った。
「単刀直入に言いましょう。リーベスト君、あなたは『神贈の恵与』が使えますね」
「……ええ、まあ」
突然の内容に頭が追いつかなかった。
どうしたんだろう急に。
まあ、ここにはサクレ王子もいるから、嘘をついてもバレるからしょうがない。
「使ってて違和感とかありますか?」
「いえ、特には何も」
本当になんなのだろうか?
「ではもう一つだけ、『世界を均す者』を知っていますか?」
「知ってはいますが、それは伝説の存在じゃ?」
「会ったことは?」
「…当然ありません」
不意打ちを食らって、少し返答に間ができてしまった。
「なるほど、分かりました」
しかし、あっさりと認めてしまった。
本当になんだったのだろう。
「実は、今日二人に集まってもらったのは『神贈の恵与』について少し気になったことがあったからなのです」
「気になること?」
「はい。今までの経験や、史書によると『神贈の恵与』の多用により、身体に変化が生じるといった事例が確認されてきました。今回もその傾向が現れました。ですよね、サクレ君?」
「はい。今回は特に多用したせいで、手から腕にかけて未だに力が入らないのです」
「骨とか神経には異常はありませんでしたが、力の反動が如実に出ているわけです」
「それで、自分も使っているから身体に変化が起きてないか確かめたかったというわけですか?」
「話が早くて助かります。ですが、あなたも身体のマナがおかしい事に気付いていますよね?」
確かに、あの後から上手く魔力を練れない状態が続いており、今も普通に魔法を放つのは少し難しい。
ただ、これは恐らくだが、師匠の技を無理やり使ったからだと思っている。
「そうですね。でも、どうしてそのような事が起こるんでしょう?」
「それは恐らくですが、自分のキャパを超える力を使っている点にあると思います。聞いたことはあると思いますが、魔法を使いすぎることで魔力切ればかり起こすと、魔法が使えなくなります。これはキャパを超えすぎると、いずれ耐えられなくなり、限界を迎えてしまうからです。これと同じで、あなた達の力も使いすぎるといずれ限界を迎え、壊れてしまうと言うことです」
なるほど。
確かに、「裁きの光杖」は限界まで魔力を高める必要がある。
師匠と違い、俺はその魔力量に身体が耐えきれなかったのだ。
そのため、今でも魔法が使えない状態に陥ちていると。
「だから、今後はあまり無理をしない方が良いと思います。あなた自身の為にも」
「もし、使うとどうなりますか?」
「……もし次、一回でも使えば魔法が使えなくなると思います」
それは随分と重いな。
でも確かに、使えれば一撃必殺のような魔法だし、その代償も大きいという事か。
「分かりました。貴重な話をありがとうございます」
俺は一礼をして部屋から出た。
「リーベスト、少し話をしないか?」
部屋から出ると、サクレ王子に呼ばれ外に歩きに出た。
「そうだ、改めて言いますが、サクレ王子にはお世話になりました。挨拶が遅れた事は申し訳なく思っています」
「いや、気にしなくていいよ。それに、君には戦いの前から随分とお世話になったから、お互い様だよ。戦いには勝てたが、君には随分と負担をかけたね」
「それこそお互い様です。最後、勝てたのはサクレ王子の力のおかげでしたから」
冷たい夜風が肌を刺した。
それに街の明かりが、どことなく儚げな雰囲気を醸し出している。
「身体は、その、大丈夫なのですか?」
「確かに、今は問題があるけど、時間が経てば大丈夫さ。ゲリールさんの意見も分かるけど、こればっかりは仕方ないからね。それに、君だって身体は大丈夫なのかい?」
「まだ魔法は使えませんけど、俺も時間が経てば大丈夫だと思います。以前もそんな感じでしたから」
サクレ王子はそっか、と呟いた。
少しの間の後、
「実は、さっきゲリールさんには隠している事が一つあるんです」
と、俺はここで自分の話をすることにした。
「俺とフランメは『世界を均す者』の元で特訓を積んできました。そこで『神贈の恵与』の事も色々教えてもらったのですが、その時その師匠はそんな事一つも教えてくれませんでした。今回こうなったのは、その師匠の技を無理やり使ったからなんです。アシュメダイという悪魔を倒すために。この国を守る為に使った魔法でこうなったわけではなく、自分の為に使った魔法の反動がさっきの話に繋がるので、サクレ王子が気に止むことはありませよ」
彼は黙って聞いてくれた。
自分の事を語るのは、自慢しているみたいで嫌だったので、今まではあまり人に話した事はなかった。
ただ、どうしてか彼になら話しても良いと思えた。
まあ、あくまでも原因は俺であり、あなたのせいではないと伝えたかったからかもしれない。
「なるほど。君の強さはその師匠譲り、という事なんだね」
「これでも師匠の足元にすら及びませんけどね」
「それほどなのかい? 俺も一度は会ってみたいな」
「でも意外とシャイだから、知らない人に会うのは苦手らしいですけどね」
そんな他愛もない話をして街を散策した。
至る所にまだ戦いの爪痕は残っているが、それでも前を向き、復興に向けて日々みんなが頑張っている。
今こうしてここにいるのも、あの戦いに勝ったからなんだなと感じた。
その他にも、戦いの顛末を聞いたりした。
王様に会った後、サクレ王子とエクレレは二人で兄弟のエスピシオを探した。
彼は王城の隣にある別棟に隠れながら、魔族の男から貰ったという魔導具を用いて魔物を操作していたようだ。
しかし、あの黒いローブの魔族が倒されてからは効力を失ってしまい、魔物も動かなくなった。
そうして、何も出来なくなった所を二人に見つかり捉えられたのだと。
何というか不憫な男だと思った。
優秀な兄の存在により比較として挙げられ、日々劣等感に苛まれながら暮らしていた彼は、その心の隙を魔族に利用され段々と堕ちていった。
やがて、優秀な兄を倒し自分が上に立つ事で見返そうと考え、今回の戦いの手引きをしたそうだ。
あくまで自分は自分という価値観を持てず、他人を妬み苦しんだ事が今回の騒動の原因なのだろう。
彼を捕らえた後は、争いの火種が段々と鎮火していったのだった。
今は取り調べが行われている。
「そうですか、その弟さんも苦労したんですね」
「だからといって今回の事は許すわけにはいかない。厳罰な処分が下されるはずだよ」
あくまで事務的な言葉だが、やはりどこか寂しそうだった。
「そう考えると、君の兄は強いと思うよ。弟がこれだけ出来る子だし。カールも苦労したんじゃないか?」
「どうでしょう? カール兄さんはでも俺より剣術は達者ですから。昔から勝ち越したことはありませんよ?」
カールは多分、周囲の雑音を剣術に集中する事でシャットアウトしてきたんだろう。
そうして、剣術の道を極めてきたんだと思う。
なかなかできる事じゃない。
「あいつもそうだったら、今頃違ってたのかなと思うよ」
それはもはや誰にも分からない。
誰しもが強い人間である事はない。
そこに気付けるかどうかが、別れ道だと俺は思っている。
しばらく街をしゃべりながら歩いた後、俺はサクレ王子と別れ、診療所に戻っていった。
−−−
それから一週間が経った。
俺は無事、魔法が使えるようになっていた。
相変わらず、急激に良くなるようで、ゲリールさんも戸惑っていた。
その頃になると、サディクも目を覚ました。
「あれ、ここは?」
「ここは王都の診療所だよ」
「あんた、10日も寝てたのよ」
「え!? そんなに寝てたの!?」
とりあえず戦いの結果は話しておいた。
そうなんだ、と口数は少なかったが、どこか納得したような顔つきだった。
「この先はどうするの?」
「どうって?」
「こいつも起きたし、このままここにいるわけにもいかないんでしょ?」
それもそうだが、少しあの人に会うことが憚れるんだよな。
これからどうするかは既に決まっているから、会わないわけにはいかないか。
「どうするかは何でも良いけど、こいつ呼ばわりは気に食わないな」
ジロッとフランメを見た。
「だって名前知らないんだから仕方ないでしょ」
「いや、俺教えただろ?」
「そうだっけ? あんまり覚えてないわね」
いや、それくらい覚えといてやれよ。
俺はため息を吐いた。
「いや、名前ぐらい覚えとけよ!」
ほら、サディクも同じこと考えてるよ。
「しょうがないでしょ! そういうの苦手なんだから!」
ギャーギャーと騒ぎ立てる二人にもう一度ため息を吐いた。
これでこの先の幸せは大体逃げていったな。
「診療所では静かにしなさい! そんなに元気ならもう出て行きなさい!」
二人はゲリールに怒られてシュンとしたが、目が合うと再びバチバチし始めた。
何かデジャヴな光景だな。
また騒がしくなりそうだと、俺は三度目のため息を吐いた。
「サディクはもう歩けるのか?」
少し落ち着いたタイミングで問いかける。
「普通に動けるけど、どうかしたの?」
「じゃあ、ちょっとついて来てくれ。今から行きたい場所があるんだ」
「私も一緒に!」
「いや、働いてきなさい」
フランメといると騒がしくなりそうだし。
もちろん、納得なんてしてくれなかったが、無理やり街の人に押しかけて置き去りにした。
後で多分殴られるが、そこは何とかしよう。
フランメを巻いた後、俺達二人でとある場所へと向かった。
「ここは……?」
「ここはエールトヌス学園だよ」
「学園って、ひょっとしてここに通えって言うこと?」
「簡単に言えばそう言うこと。ここに通えば住むところも困らないし、退屈しのぎにもなるだろうから」
難しい顔でこっちを見ていたが、サディクは色々勉強することがあるから頑張ってもらいたい。
そうして、俺達は学園の中に入っていった。
今は仮の住まいになっている為、門での入場管理は行われていない。
難なく学園に入り、真っ直ぐに用のある場所へと向かった。
何度も通った道だが、少し懐かしい気がした。
廊下を歩き、魔法で隠された扉を抜け、狭い道を歩いていると、やがて閉ざされた扉がある広い空間に出た。
「ここは?」
「この先に何があるのかを俺は知らない。もちろん、この扉の開け方もな」
「ふーん」
空間の端にある螺旋状の階段を登り、上へと上がっていく。
しばらくすると、階段の目の前を扉が隔てていた。
一応丁寧にノックをして扉を開けた。
扉を開けた目の前には、一人の少女が椅子に腰掛けこちらを見ていた。
「……お前さんか」
「久しぶり、ですね」
今までと違って、若干の距離を感じた。
「っっ!!」
サディクは彼女を見るや、すぐに警戒態勢に入った。
瞳孔が開いており、鼻息も荒い。
「いきなり随分な挨拶じゃの。この可愛いわしに対して」
頬杖をつき、一つ息を吐いた。
悪魔のくせに可愛いて。
「な、何者だお前!」
サディクは大きい声を上げ、緊張感を露わにしていた。
「そんな緊張しなくても襲ってきたりしないから大丈夫だよ」
一先ず宥めてみるも、警戒を解く気はないようだ。
「どうせここに連れてくるなら、わしが誰か伝えておけば良かったじゃろ?」
「どのみち警戒されるなら初めから顔見せした方が良いと思ったので」
俺は部屋の真ん中にあるソファに座って、お茶を淹れた。
今までみたいな軽口を叩ける気になれなかったので、じっとしていると少し気まずかった。
「それで、何の用じゃ?」
「簡単に言うと、今度の編入でこの子を学園に入れてもらえないかと相談しに来ました」
俺は淹れたお茶を一口啜った。
その姿を見てサディクは俺の隣まで来て、横に座った。
もちろん、いつでも動ける態勢ではあるが。
「何かと思えばそんな事か。そいつは一応この国を陥れようとした奴の仲間じゃろ? 何でお主がそう面倒を見るんじゃ?」
なかなか答えにくい質問を投げかけてきた。
こうやって鋭い時は、何か試している時だ。
「この子の親代わりだった男から頼んだぞって託されたからです。それに、俺が仲間として一緒に頑張っていきたいって思っていますし」
相手の目を見てハッキリと答えた。
「ほー。果たしてそれだけなのかの?」
それでも少し疑われていた。
やはり、俺のことを試している視線だ。
そして、俺の隣に視線を向けた。
サディクは仲間という単語に少し照れていたが、すぐに向けられている視線に気付き、警戒し直す。
「なるほどの。まあ、別に断る理由もわしにはないからの。あいつにはわしから直接伝えておくとしよう」
あっさり許しが出た。
正直、もうちょっと質問がくると思っていたため、少し肩透かしをした気分だった。
「良いんですか?」
「うむ。その代わり、入学までにきちんと勉強させておくんじゃな。言っておくが、学園で事件を起こしてもわしは責任を取らんぞ?」
サディクの本能的な部分の弱点をこの人は気付いていた。
サディクは人間が嫌いだ。
学園では、これまでと違って暴力は許されない。
その点をしっかり教えておけと言うことなのだろう。
「その辺はきちんとしておきますよ」
ともかく、簡単にまとまったので良かった。
一息つき、特にこれと言った会話もなかったので、診療所に戻るとしよう。
「それでは失礼しました」
部屋を後にしようとした時だった。
「リーベスト」
呼び止められ、後ろを振り向いた。
どこか、難しそうな顔で俺を見ていた。
「……いや、何でもない。編入については、後で連絡するからそれまで待っといてくれんか?」
「分かりました、その時はまた呼んでください」
それだけを伝え、俺たちは部屋を後にした。
(何か言いたいけど言いづらそうだったな)
少し気がかりではあったが、今は気にしてもしょうがない。
「あの子、一体何者だったの?」
サディクはようやく警戒を緩めることができ、ホッとしていた。
「あの人は魔王軍の幹部だよ。少女の見た目してるけどな。だから、その警戒心は正解だったと思うな」
「え、魔王軍幹部って、敵じゃないか!」
「これは説明すると長くなるからな〜。みんなと集まった時にでもまた話をするよ」
「本当に大丈夫なの?」
「今の所は分からないってとこだな。敵意はないと思うけど」
敵意はない。
だからこそ、あの少女は難しい選択をしているのかもしれない。
あれもきっと、その悩みだったのだろう。
そんな事を話しながら、俺たちは帰路についた。
「あ、やっと帰ってきたわね! もうみんな集まっているよ!」
「えっと、これは……?」
診療所に帰ってくると、建物の外でみんなが集まっていた。
「戦いが終わって、みんな無事だった事を祝いましょうって昨日決めたんですよ」
「準備はここの人達に手伝ってもらい、材料は街の人を手伝った時にくれたんです」
そこにはバーベキューのセットが置いてあった。
既に準備は整っていた。
つまり俺達を待っていたというわけだ。
「お前達には色々と迷惑をかけたからな、何か礼をしたかったところ、エクレレ様がパーティーを提案してくださったのだ」
「まだ復興は終わっていないが、せっかくだからやろうってな」
「そう言うわけだから、早く始めましょ!」
全く、よくゲリールさんも許可したものだ。
だがまあ、たまにはこういうのも悪くないな。
「それと、新しい仲間の歓迎もしたかったですし」
エクレレは微笑みながら俺の隣を見た。
サディクはどうしたら良いか少し戸惑っていた。
俺はその背中をポンッと叩き、サディクを見た。
「これからは、こんな楽しい世界があったんだっていっぱい知ることになると思うぜ」
俺の顔を見た後に、辺りを見回した。
その光景に少しの感動を覚えてくれたらと俺は願った。
まだ違いに戸惑うことはあるだろうが、それでも今日の事を忘れないでほしいと。
そして、宴が始まった。
この戦いで経験した事は、今後の人生において忘れられないモノになった事だろう。
この先どんな困難が訪れたとしても、俺たちなら超えていけるはずだ。
周りに流されず自分自身を強く持つ大切さと、守るべき仲間と共に、今後も俺たちは歩き続ける。
今回の話で三章、並びに物語の一つの区切りが終わりました!
これまでこのような拙作を読んで頂いた方には感謝を。
まだまだ物語を続けていけたらとは思うので、今後ともよろしくお願いします!




