第四十七話 戦いの終結へ
「仲間にするのは良いけど、どこで暮らすのよ?」
「確かに、僕達が使ってた場所はもう取り押さえられてそうだし」
二人は疑問に思いながら聞いてきた。
「そこはまあ、今後の交渉次第といったところか。一応何個かは考えている」
「ふーん、それなら良いけど」
と、フランメは納得した。
「ほ、本当に大丈夫なの?」
しかし、サディクはまだ不安そうだった。
「とりあえず、今は戦いの後片付けをしないと……」
その時、少し気持ちのどこかで引っ掛かりを覚えた。
何か、嫌な雰囲気がする。
辺りを見渡し、確認をするが何も見当たらない。
「どうしたの?」
フランメが訝しがった。
フランメもこの嫌な雰囲気に気づいていない?
気付かないうちにミスをしてしまったかのような感覚を。
そう思った時だった。
「まさか、彼を懐柔してしまうとは」
慌てて声のする方に身体を向けた。
そこにはさっきまで倒れていた奴の姿しかなかったはずだ。
緊張感が一気に高まる。
「いけませんね、あなたはそれで良いと本当に思っているのですか?」
ユラッと起き上がった。
「……!! やっぱり、まだ生きていたのね!」
フランメは戦闘態勢に入った。
「その傷で、何でまだ生きているんだ……?」
サディクは緊張していた。
「さすがに冷や冷やしましたよ。まさかここまでやるとは。しかし、残念でしたね。私はこの世界の最強種族の魔族ですよ? これくらいはどうって事はありません」
「やっぱり殺すしかなかったのね! やるよリーベ!」
フランメは十分やる気だった。
しかし、俺は黙ったまま動かずにいた。
「リーベ?」
「動けるなら真っ先にこっちに向かって来るはずだが、来ないってことは別の意図があるはずだ」
まだ何か隠している物でもあるのか?
「あなたは本当に、それで良いのですか? 彼の理念を受け継がなければ、死んでしまった彼にあわせる顔がないのでは?」
「違う! 僕は、もう決めたんだ! それに、リーダーは最期に僕に言ってくれた。自分を思ってくれる誰かと笑って生きろって。誰にも縛られる事なく、自由で生きろって!」
サディクは感情を堪えながら、魔族の男に言い放った。
「はぁー、それは残念ですね。彼も結局は、自らの野望を託す事のできない自分に甘いだけの男でしたか。そうであるなら、死んでしまったのは当然だと思いますよ」
サディクの感情を煽るような口調だった。
「何だと?」
ピリッとした空気が、彼を纏った。
「要は彼も所詮、ここで死んで当然の塵芥の一人だったのですよ」
その言葉にサディクは激昂した。
「お前、それがずっと共に戦ってきた奴が言うセリフなのか!!」
「はて? あなた達を仲間だなんて思うわけないでしょう? 我々魔族のための道具としてしか見た事がありませんね」
悪びれる事なく言い切った。
「ふざけるなぁぁぁ!!」
黒いオーラが吹き出した。
その様子にニヤリと笑う。
「やはり、あの方の力が彼に入り込んでいましたか」
その様子を見て、俺はこの魔族のしたい事が何となく分かった。
(はぁーん、そういう事ね)
俺はサディクの元に歩いていき、肩を叩いた。
「落ち着け、奴はお前の感情を利用しようとしているだけだ。今は抑えるんだ」
俺は優しく戒飭した。
「その男は彼の仇なのですよ? 我慢する必要はありません。すぐにそこの男を殺しなさい」
フランメは、今にも飛び出しそうな勢いだった。
だが、彼女は俺が視線で制している。
「さあ、早く」
「くっ、うっ、うあああぁぁぁ!!」
叫び声を上げ、手を振り上げた。
そして、自分の顔を殴った。
バキッと鈍い音がした。
すると、サディクを纏っていた黒いオーラが消えた。
「ハァハァハァハァ……」
息を切らし倒れ込んだ。
「無茶しすぎだっての」
俺は倒れ込んできた身体を支え、優しく地面に寝かせた。
「残念だったな。こいつを暴れさして、まとめて俺たちを殺そうとしたんだろうけど、上手くいかなかったな」
俺は見下すように、魔族の男を見た。
「……仕方ありません。これまでのようですね」
そう言って刺さっていた剣を投げ飛ばした。
「!?」
その隙に奴は、影に隠れて見えなくなった。
「……!! あいつ、逃げやがった!」
「いいよ、ほっとけ」
「でも、このまま逃したらあいつは!」
「自分で何も出来ないから、サディクを暴れさせようとしたんだ。逃げる力しか無いほど追い詰められてたってことだ」
「でも、だからって……」
あいつは許せない、そういう事だろう。
逃しはしたが、仕留め損なったわけではない。
「心配するな。あいつがこの先生き延びることはないはずだ。戦いの前にそれだけはちゃんと確認済みだ」
「なんだ、そうだったのね」
フランメはそう言って息を吐いた。
だが、実際俺はそんな未来を見ていない。
俺が見たのは、手負いの敵が逃げるシーンだ。
そこまでは見えたが、それが誰だとか、その先どうなるかとかはうまく見えなかった。
つまり、どうなろうとあいつによって俺たちに対する危機は訪れないからだ。
それでも万が一を考え、もし逃げられた時の為にある人に片付けを頼んでおいた。
その人にあとは任せよう。
あとはここに応援が来るまで待機だ。
俺たちの仲間は、この危機を誰一人欠けることなく乗り切ったのだった。
「よもや私がここまでやられるとは。このままいけば、いずれ彼は1000年前と同じで我々の前に立ち塞がる危険が高い。サタナス様の封印をすぐにでも解いて、本来の力を取り戻し、早めに始末しなければ」
何とか王城から脱した魔族の男は、そのまま街の南東に向かった。
影をつたいながら、人影に紛れ進む。
しばらくすると、大通りから外れ、人気のない路地に入った。
(ここまで来ればもう安心ですね)
少し警戒を解いた時だった。
「!?」
(動けない?)
どういうことだ、と思い自分の足元を見ると、何かの罠魔法が発動していた。
「動くな」
奥の方から声が聞こえた。
「手負いの獣が来るから、捉えるための罠をいくつか用意しておいて正解だったが、こんな路地に来るとは。まあ、どうやら獣ではなく、ただのネズミだったようだが」
「……誰でしょうか?」
コツコツと足音が近づいてくる。
「しがないただの教師さ。王国の学園のな」
そこに現れたのは、ソージュだった。
「あなたは確か……」
「知っていようが知らなかろうが関係ない。この場にてお前は死ぬんだからな」
刺すような冷たい瞳で睨んでいた。
「あなたのような人間ごときが面白いことを言いますね」
「……? 何を言っている、私はただ掛かった獲物の正体を見にきただけだ。殺すのは私ではない」
「??」
すると、ソージュの後ろからもう一人の人影が現れた。
「……!? まさか、あなたが出張ってくるとは。これは予想外でしたね、エヴェック学園長」
エヴェックと呼ばれた老人は、ゆっくりと歩き魔族の男の前までやってきた。
「我にはお前のような下賤な奴など知らん。だがまあしかし、かつての全盛の力は使えなかったようだな。その力を取り戻すため、今回の騒ぎを起こしたのだろうが、我の生徒に敗北するとは。残念ながらお前達の企みも、これまでの努力も無駄に終わった。これからは、この世界の者達が魔族の動きに警戒し、お前達を倒すためにより一層強くなるだろう」
「さあ? どうでしょうかね? あなた達人間がどれほど頑張ったとしても、我々に対抗できるとは思えませんがね?」
エヴェックは眉一つ動かさず、魔族を見ていた。
「確かに、奴らの介入が始まっているみたいですが、それでも完全に動くまではまだ時間がかかるでしょう。その間にも我々の計画は進み、滞りなく準備を進めていく。つまり、本当の勝負はこれからですよ」
魔族の男は不気味に笑った。
しかし、エヴェックは一歩も動揺しない。
「サタナスの眷属であるお前が力を取り戻していないということは、封印の解放に失敗した。それがただの失敗だと思っているのか?」
「ほう、それはどういう意味か聞きたいですね」
未だに余裕を見せるバエル。
何も分かってないと思ったエヴェックは、呆れるように話し始めた。
「お前達はあの少年をみくびりすぎた。今回の行動の一つ一つが上手くいっていると思って疑わなかっただろう? だがそれはあくまで泳がすための餌。本当は全て敷かれたレールの上を歩いていたというわけだ」
魔族の男は、失笑した。
「ふふふ、面白い冗談ですね。いかに『世界を均す者』の弟子だろうと、それはさすがに荒唐無稽ですね。それだったら、もっと早くに対処していたはずでしょう?」
「そう思うだろうが、我たちにとってはこれが一番効率的だ。お前達の事情を知り、今後の計画を立てるための情報を集める為にな。早めに対処しようと焦って動くと、こちらの動きが派手になり警戒心を生んでしまう。そうする事で、知りたい情報を逃す可能性があったからな」
「その為には国民の犠牲も、王の命も関係ないと?」
「果たして、そうなったかな?」
そう言われ、バエルはこの国の生命を感知する。
「……!? なぜ、あれほどの騒ぎがあったのに、人の魂が漂っていないというのです?」
驚きと疑問で少し混乱した。
「計画がうまくいってると勘違いし、盲目的になってしまったようだな。だが、少し対応が遅れてしまい、尽きてしまった者達がいることは悔やまれるがな」
そう言って天を仰いだ。
「ならば、ここでのんびりしている暇はなさそうですね!」
罠を掻い潜り、影に入ろうとした。
「動くなと言ったはずだ」
しかし、影に入れず、地面にぶつかってしまう。
「くっ! これはアゼル様の……」
反魔法を使い、魔法をレジストする。
「では、地獄でこれまでを懺悔するがいい」
光の粒がエヴェックの手に集まり始め、やがて小さい剣の形になる。
「神聖光魔法 悪魂因縁切」
光を纏った手刀を振り下ろし、切り裂いた。
「この時代は我たちのものではない。過去の因縁に囚われているお前達が、これから時代を作るあの子達の邪魔はするべきではないのだ」
「随分甘いですね。あなた達は、分かっていないのです。あの天使共の恐ろしさを」
捨て台詞のようなものを吐き、バエルは消滅した。
「お疲れ様です、エヴェック学園長」
しかし、エヴェックは少し疲れた表情だった。
「すまなかったな、ソージュ。これしきで力を使い果たすとは、我も老いたものだ」
力を使い果たし、壁にもたれかかった。
「そんな事はありません。あの化け物相手に互角に戦える人はあなたしかいませんから」
ソージュはあの少女の事を思い出していた。
「とりあえず、言われた役目は果たしておいた。あとは、あの子達がどうしたかだな」
そう言って二人は王城に視線を向けた。
王城の最上階にある王宮の間。
そこに兄様とわたくしが着いた時には、かつての華々しさは鳴りを潜め、壮絶な戦いがあったことを表していました。
扉を開けると、そこには結界に包まれている父様の姿が見えました。
結界が無事だと知り、少しほっとしました。
「結界は無事のようだね」
「ええ、本当によかったです」
結界を解除し近くに寄ると、
「お前達、無事だったのか」
弱々しい声で父様は呼びかけたのでした。
「父様、あまり動かない方が良いですよ。いくらこれまで受けてきた呪いの効力を弱めてると言えど、まだ完全に治ったわけではありませんから」
身体を起こそうとする父様を、兄様は慌てて制しました。
父様の身体は呪いを受けていると、先日、国一番の治癒魔法の使い手が言っていました。
即効性は無いものの、徐々に蝕んでいくようなもので、国で出回っていた例のポーションと少し似ている物だったと。
「今回の戦いはほぼ、決着がつきました」
兄様がそう言うと、父様はあたりを見回し、
「ほぼ、か。それに、ここにはエスピシオがおらんのだな……」
少し寂しそうに兄の名前を口にしました。
「はい、申し訳ありません父様」
「良い、あいつは今回の反乱を起こしたのだろう?」
「…………はい」
兄様は悔しそうな顔をしていました。
それに比べ、父様は兄が敵対することが分かっていたようでした。
「残念なことだ。しかし、あいつが捻くれた理由も、今になっては少し分かる気がするかもしれんな」
そう言ってわたくしの方をチラッと確認しました。
思わず視線を逸らしてしまいました。
どこか、まだ昔の記憶が残っているのでしょうか。
「こうして寝込む日々が増えると気づく事があった。今までは激務故、なかなか自分の子供達を慮れていなかったと今になって痛感したんじゃ。あいつもじゃが、特にエクレレ、お前に対しては素直になれなかったと思っている」
その言葉にドキッとしました。
けれど、この事はどうしても聞かなければいけません。
「……父様は、どうして封印の事を黙っていたのですか?」
ギュッと感情を抑え、あの魔族に言われたことを思い出していました。
「やはり、余の間違いでは無かったか。お前に宿っているはずの鍵が見当たらんかったので、まさかとは思ったが……」
そうして、少し間があった後、呟くように話し始めました。
「あの扉の先に封印されているのは、魔族の幹部、サタナスが当時身につけていた武器や力の殆どが眠っておる。1000年前の戦争の時、強大な力を宿していた奴だったが、勇者達によってこの場所に封印された。本体は封印できなかったみたいだがな。それ以来、この国が代々その封印を守ってきたのだ。ただし、その封印には呪禁がサタナスによってかけられておっての。それが、この封印の鍵を宿したものは封印の鍵が我が身から離れた瞬間、呪いに蝕まれ必ず死ぬと言うものじゃった。それもなぜか、女だけにしか作用しないものだった。故に王の妻となった者は皆、子が生まれ、その力を託すと同時に死んでいった。子はやがて王の妻となったものに鍵を渡し、同じく死んでいく。お前達の母である、ミルフォアも例外ではない」
「どうして、父様はわたくしに母様が私を生んだ後、力尽き死んだと嘘を吐いたのですか?」
一番疑問に思っている事だった。
どうしてもその真意が知りたかったのです。
「それは、お前に自由にいてほしかったからだ。いずれ死にかかる呪いを込められていて、その鍵を狙ってくる者もいるとなれば、小さい子にどれほどの負担がかかるのか。それで人生を諦めてしまうのではないかと思った。だが、いずれ話さねばならないその時までは縛りたくなかった」
「それが、エクレレが10歳の時かな。俺はこの話を父様から聞いたんだ」
「そうだったのですね」
そうか、だから助けに来た時に大丈夫か聞いてきたんですね。
封印の事を兄様は知っていたから……
「このまま家に置いていても変わらない日々が続くと思い、学園に行くことを勧めたのだ。それに、その時にちょうど魔族達の動きも気になってきたところだったので、エヴェックの元に預けたのだ。あいつは昔からの仲で、信頼できる人物だからな。そこで良い思い出を作ってくれれば、大好きな居場所を作れたらと、そう願っていた」
更に父様は続けました。
「でも、結局それは単なる自己中心的な思いやりだった。自分の娘と向き合うことなくこれが正しいことなのだと思い込み、それをお前に強要してしまった。自分から遠ざけることで、真実を話さないことで少しでも幸せになってくれればと思っていた。だが、それは間違いだったと気付いた。結局、知られた時の反応を恐れ、突き放した態度で扱い、母親の死は自分の責任だったと思わせてしまったようだ。本当はもっと自分が守るべきであり、もっと愛してやれば良かったのだ——だがそれは、今では取り返しのつかない事だ」
そう言うと身体を動かし、わたくしの方に近寄って、
「エクレレよ、今まですまなかった」
深々と頭を下げた。
「こうする事で許されることではないと思っている。それでもすまなかった」
正直、言葉が出てきませんでした。
今までまともに会話をする事もなかったのですから。
そんな父様が、覚悟を決め全部話してくれました。
偽らざる本音で、自分の思いを。
確かに、わたくしは今まで自分は嫌われているものだと思ってきました。
でも、今この時、父様の行動は確かにわたくしの事を思っていたのだと分かりました。
「頭を上げてください、父様」
この時、互いの冷え切った関係が、徐々に溶かされていく感じがしました。
「確かに、わたくしは昔辛い思いをしてきました。でも、今はそんな事はありません。父様が幸せになってほしいと願って入った学園での生活ですが、今では大切な仲間がいます。その方達と過ごす毎日は、とても楽しいです。それに、ずっと魔法の勉強をしていて、学園では色々な魔法のことが知れてとても楽しいです。まだまだ分からない事もたくさんあるので、もっと勉強してみたいですーーだから、父様が幸せを思ってくれたおかげで、わたくしは幸せな毎日が送れているのです」
わたくしは嬉々と学園のことを話しました。
その姿に父様は、涙を流しました。
「そうか、余の行いは、許してもらえるのか……」
「わたくしを思っての事ですから、当たり前ですよ」
今までの蟠りが崩れ落ちて行くのでした。
「しかし、魔族にあの扉の封印の鍵は開けられてしまいました」
わたくしは申し訳ない気持ちだった。
せっかく父様が守ってくださったのに。
「封印が開けられたことは余にも責任がある。味方に気をつけず油断し、隙を見せてしまったからの」
「それは一体どういう事なのですか?」
兄様は食い気味に質問しました。
ですが、わたくしにはその人物が誰かは、何となく想像がついていました。
「父様に普段から接触できるのはルカヴェリさんくらい。つまりあの人が、父様に呪いをかけるようにしてたって事ですね」
「そう言うことだ、余もあいつの事は昔から信用していたからの」
「やはり、リーベストの勘は当たっていたと言う事ですね」
兄様は頷きました。
「リーベスト? だが心配はいらん。封印の鍵はお前だけではないからの」
そう言って兄様がもう一度頷きました。
「鍵のもう一つはここにあるからね」
そう言って自分の胸を指さしました。
「え?! でも女性にしか現れないんじゃ?」
「それはちょっと前の事じゃ。ある女性が急に余の前に現れて、鍵を少し預からせてもらうぞと言ってきてな。当然反対したんじゃがそいつが、『今のままでは彼女が狙われて危険だ。鍵を渡せばその鍵の呪いの力を弱めることができ、娘が死ぬ事も無くなるだろう』と言ってきおった。それでも渡すつもりはなかったんじゃが、その後の言葉にどうしても頷くしかなかった。少し経ってから、鍵が二つになって返ってきたのじゃ」
「その時、封印のことを聞き、父様に一つもらったのは覚えているけど、まさかそんなことが起きていたなんて」
「でも、もし奪われたとしてもわたくしは死んでしまうのじゃ?」
どうも矛盾していると思いました。
一体どうやって盗んだのか?
なぜわたくしの身体から離れても無事なのか?
「不思議な雰囲気の子じゃったぞ? この王国ではあまり見ないような顔だったが……ゴホッゴホ!」
「父様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。何とか、今の所はだが。とりあえずお前達、早く行ってあのバカの目を覚ましてやってくれ」
そうです、まだ終わりではありませんでした。
早く残りの街の魔物達をどうにかしないと。
まだ話をしなければいけない相手がいるのですから。
疑問を抱えたままでしたが、一先ずここは置いておきましょう。
「では父様、また後で」
「あいつの事を頼んだぞ、サクレ、エクレレ」
「はい、父様」
こうしてわたくし達は兄の所に向かいました。
この戦いの全てを終わらせるために。
学園のとある一角で、一人の少女が椅子に座っていた。
「ったく、あやつめ。思いっきり魔法を放ちおって」
身体の再生が遅い。
神聖魔法を使われたせいだと考えた。
だから、誰もいないこの場所で治療に専念しなければならなかった。
早く治して街に行かなければ。
ここにいる事が見つかると、少々面倒なことが起こりかねない。
そう思っていた時だった。
「与えられた仕事もせず、こんな所で油を売っているのか」
「はぁー、どう見たらこれが遊んでいると思えるんじゃ?」
厄介な奴に見つかったと思った。
よりによってこのタイミングで。
外面は普段通りを装っていたが、内心は焦っていた。
だが、そいつはため息を吐いた。
「この際だからはっきり言おう。お前は人間の味方か? それとも俺たちの味方か?」
どうやら、自分を今処分する気はないようだ。
「それはもちろん……」
「俺たちの方だと言うつもりか?」
少し言葉に詰まった。
「……わしは、魔王様に対する恩がある。じゃが、それと同時にもう一人助けられた奴がおる。お主も知っておるじゃろ? 恩という契約に縛られたわしらは、その通りに従うしかないのじゃと言うことを」
「だから人間の助けもすると?」
サタナスは鋭い目つきだった。
「このままでは味方の士気に関わる事だ。これからどうするか、ちゃんと考えておくんだな」
そう言って目の前から消えていった。
「これからどうするか、か。そんなもん決められたら苦労しないよ」
ただ一人、静まり返ったこの場所で佇んでいた。
「良いんですか、サタナス様?」
学園の外に出ると、一人の魔族が立っていた。
「ああ、不満はあるがちゃんと仕事はしている。それよりご苦労だったな、ウィザート。いや、今はルカヴェリと名乗っているんだったな」
「それにしても、してやられましたね。まさか、スパイがいる事を見抜いた上で、敢えて知らないふりをして偽の情報を掴ませていたとは。あの子は、初対面の時から鋭いとは思っていたが、どうやら考えている事も他の奴らとは違い、危険な人物ですね。おかげでバエルを失ってしまった事は痛手ですね」
「確かに残念だが、あいつはそれなりの成果を上げた。それでも奴は今後障害になる、出来れば早く始末したいが、あの学園にいる以上俺たちは手を出せん。それに、あいつはエルミーレの秘蔵っ子だ、簡単に殺せはしないだろう。だが、いざとなれば、アイツをぶつけるとしよう。とりあえず、今はまだ戦力を集める必要がある、そのための準備を怠るなよ」
「はっ! 我が主の仰せのままに」
サタナスは闇に光る王都を眺めていたが、やがて背を向け歩き始めた。
「いずれまた会う事になるだろう、リーベスト・ドミニアン」




