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変転人生~唯一の異世界ライフを歩む物語~  作者: 風竜 巻馬
第三章 王都学園編 〜守るべきモノと大切なモノ〜
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第四十六話 猩々の咲く頃に




 ここは一面が白い世界。

 見渡す限り、白い景色が広がっている。

 そこに、小さな天使が下を眺めていた。

 「エルミーレ様、こんな所にいらしたんですね」

 エルミーレは、呼びかけられた方に目をやった。

 「ん、なんだレヒターか」

 レヒターと呼べれた女は呆れるようにため息を吐いた。

 「あまり下界に加担する事は、やめた方がいいのでは?」

 「別に、少し気になったから見ていただけだよ」

 何もしていないと、悪びれもなく言った。

 その姿にもう一度ため息を吐いた。

 「ハァー、皆さんに何を言われても知りませんよ?」

 「そんなの分かってるよ。それで、もう始めるのかい?」

 「ええ、皆さん集まり始めてますよ」

 「そうか、じゃあ行くとしよう」

 小さな天使は立ち上がり、徐に歩き始める。

 「また、会える日を楽しみにしているよ、リーベ」

 再び下を見つめながら、ポツリと独り言ちた。


 −−−


 目の前が真っ暗だった。

 冷たい水の中に浮かんでいるかのように、感覚もない。

 ここはどこだろう?

 闇の中で一人。

 昔にもこんな景色を見たことがある。

 思い出したくもない記憶。 

 そんな時、救いがない僕に手を差し伸べてくれた人がいた。

 その人は、闇の中の自分を拾い上げてくれた。

 

 (あの光は?)

 真っ暗な目の前に光る、一筋の光を見つけた。

 その光に惹かれ、光が指す方へ歩いていく。

 その先で一人の人物が立っていた。

 光のせいで、誰かははっきり見えない。

 腕を掴まれ、光の先へと歩いていく。

 進むたび、眩しさに目を細める。

 ある位置まで来ると、その人物は掴んでいた手を離し、光の先へとサディクの背中を押した。

 慌てて後ろを見ると、歩いてきた所の側まで闇が迫っていた。

 光が消えていき、やがてその人物の顔がはっきりと見えた。

 「待って、どうして僕を置いていくの、リーダー!!」

 浮遊感が襲い、目の前が一度暗転した。

 消える瞬間に見えた彼は、笑った気がした……




 「ハッ?!」

 目を覚ますと、見知らぬ廊下だった。

 (あれ、僕は? 確かあの場に現れた悪魔みたいな奴に身体を乗っ取られて、それで…………)

 「そうだ、こうしてる場合じゃ!」

 全てが繋がり、急いで身体を起こした。

 「っっ!」

 身体に激痛が走った。

 少し動かすだけで、刺すような痛みが襲った。

 痛みの原因は分からなかったが、それでも身体を引きずり、戦闘音が聞こえてくる場所へと向かった。

 

 そこでは、大きな黒い魔物と倒れ込んでいる魔族の姿が見えた。

 魔物はどういうわけか、苦しそうに悶えている。

 そして光り輝いた剣が、魔物を切り裂いた。

 「グオオオおおおお!!」

 叫び声を上げ、身体から黒いモヤが吹き出した。

 やがて、覆われていた黒の鎧が剥がれていき、中から一人の人物が現れた。

 

 「リーダー??」

 その姿を見間違えることはない。

 あの時手を差し伸べてくれたその人だ。

 「リーダー!!!」

 大きな声を出し、身体が軋んだ。

 痛みを堪え、彼の元へと向かった。



 

 大きな声が聞こえ、振り向くと、そこにサディクが立っていた。

 身体を引きずりながらこちらへ向かって来る。

 「……」

 サクレ王子が静かに剣を構える。

 「待ってください」

 俺は手で彼を制した。

 「ここは俺たちに任せてください。王子にはまだ、やる事が残っていますよね?」

 俺がそう言うと、サクレ王子は剣を納め、

 「そうだな。ありがとう、リーベスト。君達には助けられた。最大の感謝を伝えるよ」

 俺の肩をポンと叩いた。

 それから頭を深々と下げた。

 助けられたのは俺の方も、なんだけどな。

 「こちらこそ、この戦いで勝てたのはあなたのおかげです。ありがとうございました」

 俺も深々と頭を下げた。

 「では、俺たちは急いで父様がいる王宮の間へ向かわせてもらう。行くよ、エクレレ」

 「はい、兄様」

 エクレレは少し険しい表情だったが、サクレ王子の後を追いかけ、王様の元へ向かって行った。

 「さてと」

 俺は二人を見送り、倒れ込んだ敵の方に向き直る。

 「この魔族はどうするの?」

 フランメが聞いてきた。

 「このまま情報を引き出すか、即刻処分かはサクレ王子が決めることだ。俺たちはもう、こいつをこれ以上何か出来る力はないからな。とりあえず、捕縛魔法を使う人が早く来てくれないと、どうしようもないからな」

 「また暴れたりしないよね?」

 「こいつの流れている時間を遅くして、燃焼と再生を繰り返していたんだ。燃える速度は普通だが、再生は遅くなった時間の影響で普段よりも時間がかかる。燃焼スピードに対して再生スピードが追いつかず、無理やり再生スピードを上げて粘ったんだ。こいつにとっては、ずっと長い間相当な力を使ったはずだ。それに、他にも色々力を使ってたし、もうそんな力は残ってないだろう」

 一先ず、こいつはここに放置で良いだろう。

 問題は……


 「リーダー!!」

 こっちの方だな。

 果たして、上手くいくといいが。

 「リーダー!!! しっかりして!」

 サディクは必死に呼びかけた。

 「サディク、か?」

 ボロボロの身体で、何とか声を捻り出した。

 「待ってて、今すぐ治療を……」

 回復ポーションを取り出し、使おうとするサディクだったが、それを手で制した。

 「良いんだ、この傷は、もう治らない。それに、力を、使い切ったんだ」

 「そんな、治らない??」

 愕然とした表情で見つめた。

 「これは、神剣の力じゃないと、ダメなんだ」

 「そん、な……」

 サディクは肩を落とした。

 「分かっているんだ、俺はもう、ここまでだって」

 口から大量の血が溢れた。

 やがて弱々しくなる呼吸。

 彼はもうすぐ命尽きる。

 死相がはっきりと分かるくらい。

 「情け、ないよな。俺も、結局は、何も出来なかった」

 「そんな事はないよ! リーダーは、僕のことを闇の中から救い出してくれた大切な人だ。あの時、リーダーが助けてくれなかったら、僕は今頃、奴隷となってクソみたいな生活を送っていたかもしれないんだよ!?」

 サディクの過去は以前、戦いの最中偶然知ることになった。

 サディクは奴隷商の荷車にいた所を、このリーダーという男に助けてもらった過去がある。

 「だから、リーダーは、ルシアーノは僕にとっては命の恩人なんだよ」

 溢れ出そうな涙を堪えながら、サディクは手を握った。

 「……ああ、この感じ」

  

 −−−


 「リーダー、こいつら片付けておいたよ」

 メロンジュや他の仲間が奴隷商人を撃退し、俺はその奴隷商人が運んでいた荷車の元へと向かった。

 その中には一人の獣人の少年がいた。

 その眼は、どことなくあの頃の俺と似ていた。

 大切なものが奪われ、どうしようもない怒りが宿った、そんな眼だった。

 その時の俺は、こいつを連れて行こうと思った。

 なぜかは分からない。

 それでも、このまま放っておく事が出来なかった。

 そして少年の手を取り、外に連れ出した。

 口では、この先はこの子が決めることだなんだと言ってはいたが、心の中では勝手に仲間にしようと思っていた。

 だからついてくると聞いて少し安心した。

 それから各地の色んな場所を巡り、一緒にいっぱい戦ってきた。

 人身売買を営む貴族、貧しい国民を卑下し、権力でふんぞり返っているだけのバカな王族の暗殺。

 人攫いや、その奴隷の解放など。

 各地で義賊まがいの行動を起こしてきた。

 俺たちは辛い人たちのために頑張っている。

 己だけが全てのクズどもに制裁を加え、判らせてやっている。

 そんな気分だった。

 

 だが、いつからか、その行為では心が満たされなくなり始めた。

 そんな時、いつも側にはサディクがいた。

 俺はサディクの事を、弟のようなものだと思っていた。

 こいつには、もう辛い経験をさせたくない。

 その時、あの人を思い出した。

 生き生きと夢を語る、あの人を。

 そしてこう思った。

 二度と同じ過ちを繰り返さぬよう、こいつの事は絶対に俺が守ると。

 

 −−−


 その時握った手の感触を思い出した。

 「あの時、俺はお前の事を、俺の復讐のために、利用しようと考えたんだ。自分と似たような目をしていたから、俺と同じで復讐をしたいんだろうって。だから、自分と同じ世界を恨む悪者として、ここまで育ててきた」

 「何言ってるのさ! 僕は僕の意志であの手を取った。世界の敵になるって、あの時決めたんだ。この人になら、ついて行っても良いって」

 その目から、一筋の涙が溢れた。

 「だが、俺の尊敬してる人は、そうは教えていなかったんだ」

 今思うと、彼は自分から遠ざける事で、俺が酷く悲しまないようにしていたのかもしれない。

 幼い俺には分からなかった事だ。

 それに、今ではもう取り返しはつかないんだ。

 懐かしむような目をして、天井を見つめた。


 「俺は、お前の家族になれてたのかな?」

 「今更何言ってんのさ、最初から僕にとっては家族だったよ……」

 「……そうか」

 男の瞳からも、涙が流れ落ちた。

 その言葉の後、身体に異変が起こり始める。

 身体は色を失い、白色に変わり始めた。

 (ああ、力の代償か)

 あれほど強力な劇薬で、ノーリスクはありえないとは思っていたが。

 指先から徐々に灰となり、崩れ落ちていく。

 「そんな、リーダー! しっかりしてよ!」

 「力の代償だ、こうなる事は、わかっていた」

 サラサラと響く音が虚しさを強調させた。

 「お前に会えて良かった。子供のお前に、良い夢を与えることが、出来ない俺はダメだった。けど、お前は俺とは違う。自分の夢を見つけ、誰にも縛られる事なく、どうか幸せな人生を送ってくれ」

 「そんな、嫌だよ、リーダーがいない世界なんて」

 「大丈夫、お前の事を、大事に思ってくれる奴はいる。そいつらと、楽しく、笑って生きろ。俺からの、最後の命令だ」

 チラッと俺の方を見た。

 「どうか、お前()、のこれ、から、に、幸、あれ……」

 その言葉を残し、崩れ落ちた。

 最後の言葉は、俺にも向けられていたような気がした。

 僅かに口元が、『こいつを頼んだ』と動いたように思える。

 敵として褒められた人物ではなかったが、僅かの邂逅でこの人の人となりが少し理解出来たはずだ。

 本当は他人思いの良い奴だったんじゃないかって。

 それでも、人は変わる。

 同じでいる事は出来ないんだって。

 それは悲しい事だけど、その()()()を取り戻した人間は輝いているように思えた。


 −−−

 

 (俺は……)

 辺りには何もない暗い場所にいた。

 (そうか、俺は死んだのか)

 ゆっくりと歩き出した。

 しばらくすると、赤い光が見えた。

 近づくと、そこに一人の男が座って焚き火をしていた。

 「ポールさん……!」

 その男、ポールはルシアーノを隣に座らせ、静かに焚き火を眺めていた。

 「ポールさん、俺、実は……」

 「何も言わなくていい」

 「え?」

 「お前の事はずっと見てきた。ルシアーノ、お前はよく頑張って生きていた」

 怒られると思っていたが、返ってきた言葉は優しい、労いの言葉だった。

 「頑張ったんだ、もうゆっくり休んでいいんだよ」

 その言葉に涙が溢れた。

 「俺は、僕は……!」

 パチパチという焚き火の音が、この再会を祝福しているようだった。


 −−−


 「リーダー、リーダー、うわあああああああぁぁぁぁ!!」

 サディクは泣いた。

 年相応の子供のように、人目を憚らず、泣いた。

 俺たちは黙って眺めていた。

 「どうして、どうしてリーダーが死ななきゃいけないんだよ!!」

 目の前の現実を受け入れることが出来ず、ひたすら泣き喚いた。

 「何で、リーダー、どうして…………」

 鼻水を啜る音と、嗚咽だけが広間に響いた。

 少し落ち着いたところで、俺は彼の元へ歩み寄った。

 

 「……何だよ」

 「お前の家族は、いい人だったんだな」

 「そうだよ。それがどうしたんだよ」

 「お前はさ、これからどうするつもりなんだ?」

 この時サディクは何かを思い出したように、しばらく黙り込んでいた。

 「分からない。けど、僕は多分捕えられるんだろ?」

 ようやく口を開いたが、少し生きる事を諦めかけているように感じた。

 「それは、俺が決めれる事じゃないな」

 この件の処分は、学生の一存で決めれることではないから。

 「だったら何だっていいだろ。僕にはもう、何も残ってないんだから」

 彼は投げやりに答えた。

 俺はしばらく黙ったあと、サディクの前にしゃがみ込んだ。

 「お前、死にたいのか?」

 突き放すように、冷たく言った。

 少し、ビクッと身体を震わせた。

 そして恐る恐る顔を上げる。

 「獣人の村は確か南の大陸の方だよな? お前の本当の家族が今、どこで何してるか確かめたいと思わないのか?」

 「それは、家族には、確かに会いたい。けど、もう生きてるか分からない。それに、俺には居場所なんてどこにも……」

 「だったら、一緒に生きて探してみないか?」

 「え?」

 「俺たちと一緒にこの世界を見てみないか? 今はまだ無理でも、この先大きくなったら世界中を旅しよう! そしていつか、お前の家族に会いに行かないか?」

 少し唖然とした表情だったが、次第に俯き加減になる。

 「でも僕は、この世界が好きじゃない。いつか、また、許せない事が起こる」

 俺はため息を吐いた。

 「何その年で分かった気になってんだよ」

 俺は頭を優しく叩いた。

 「?!??!」

 訳が分からないと言った顔だ。

 「お前は、世界の一部分だけ見て勝手に色眼鏡つけてるんだよ。それじゃ、空がどれだけ青いかって気づかないだろ? 今は無理でも、いずれその色眼鏡を外してみろ。そうすれば、この世界の凄さに気づくことになると思うぜ」

 いつかの時みたく、今度は俺がお前を支える番だ。

 「何言って、僕は敵だったんだよ?」

 「それがどうした? 戦いはもう終わっただろ」

 「この国を滅ぼそうとしたんだぞ!」

 「別に滅んでねえじゃねーか」

 「僕は人間が嫌いなんだぞ!!」

 「人間以外好きなのかよ」

 「う、それは……」

 「ちょっとリーベ、あまりにもこいつが惨めで見てられないんだけど」

 「な?!」

 「おいおい、もうちょっとマシな言い方してあげろよ」

 「な、惨めって、別にそんなんじゃないし!」

 

 しばらく口喧嘩? みたいな事をしていた。

 「——あーもう、とりあえず俺たちの仲間になれ!」

 「随分雑なまとめね」

 「仕方ないだろ、一向に話進まないんだし」

 そんな俺たちを見て、サディクは少し笑った。

 「本当に、君たちってバカなんだね」

 その言葉に、俺とフランメは顔を合わせた。

 そして二人で笑った。

 「そうだな。で、どうだ? こんな俺たちと一緒にバカやらないか?」

 俺は手を差し出した。

 少し戸惑っていたが、やがてその手を取った。

 「いいよ、しょうがないし、君たちとこの世界を見てあげるよ」

 その手は温かく、柔らかな感触だった。

 

 

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