第三十七話 VSメロンジュ①
アゼルに見張られ身動きが取れない俺は、この建物の中を見て回っていた。
中を動き回る事は特に何もされない。
じっとしていても落ち着かないからな。
その中で一番可能な脱出の経路の確保もしておく。
それにしても、建物の中に飾ってある武器や装備はかなり年季が入っている。
それでいて、どれも保存状態は悪くない。
一体誰がここまで綺麗に保存をしているんだ?
それにこっちは本が置いてある。
正確には本と言うより伝記のようなものだ。
確か建国の記録が残っているって言ってたよな。
俺はそれをぺらぺらとめくり中を見た。
そこに書かれていたものは字が今のものと少し違っている。
ここには何が記されているのだろうか、と調べたい気持ちが出てくる。
「それは全然読めんじゃろ」
「これは一体誰が書いたやつなんだ?」
「それを書いたのは裏を見てみれば分かるはずじゃよ」
そう言われたので俺は裏返してみる。
するとそこにはとある名前が記されていた。
『ここに書き記すは我が主クヴァールの願い』
我が主クヴァール?
それに願い?
「クヴァールは1000年前の人、それが600年前に我が主って言ってるのはこの書いた人は勇者の子孫か何かなのか?」
「そうじゃ、これを書いたのはあいつの末裔じゃ。変な奴での、先祖の事を主とか言いよる奴じゃった」
「中には一体何て書いてあるんだ?」
「それはわしにも分からんのじゃ。何せ字が汚くての、何を書いておるのかさっぱりで解読は諦めとる」
首を横に振り分からないアピールをした。
分からないのなら今は時間の無駄だな。
またこの戦いが終わった時にでも他のみんなと一緒に解読してみるか。
「他にも気になる事はいっぱいあるが、今はそんな事に時間を割いている暇もないしな」
そう言って俺はアゼルを見た。
「ほう覚悟を決めた目じゃな、一体何を企んどるのやら」
「策はない、が、やれる事は既にやっている。後はその時を待つだけだ」
「他人に任せるだなんてらしくないのう。あんなに自分で何とかしなきゃと動いてた男が、今は静かにしてるだなんての」
「仲間を信じろと言ったのはあんただ、それにあいつらにも気付かされたんだ。ただそれだけ、人が変わるのには十分な刺激だったのさ」
人は一人では生きていけない、ベルンハルトが昔そう言っていた事を思い出した。
思えば、昔から俺は一人で何でもやろうとしすぎていたな。
それには限界があるって事はわかっていたつもりだったけど、行動に移すとやはり自分だけでやろうとしがちだな。
人を信じるのが怖かったって事かもしれないな。
「自分しか信じれないのはこっちよりの考えじゃな。人間にしては珍しいが、そこもやはり似ておるんじゃな」
ポツリとこぼした言葉は外の喧騒にかき消された。
「何か言ったのか? 聞き取れなかったんだが」
「別にわしの知り合いによく似とるなって話じゃ」
知り合いだなんて碌な奴じゃなさそうだ。
そんな人に似てると言われ少しショックを受けた。
「本当にあいつらは勝てると思ってるのか?」
素直な疑問だった。
「そうじゃな、組み合わせが悪くない限りは大丈夫だと思っておる。それにどうせお主が仕組んできたんじゃ、やる事はやったという事はそういう事じゃろ?」
そこまで読み取られてたか。
俺はフッと笑い、
「さあ、どうなったんだろうな?」
はぐらかすようにして答えたのだった。
だが、恐らく目の前のこいつは分かっているかもしれないが、それでもいつどこで誰が聞いているか分からないので深く言及はしない。
時間は刻々とリズムを刻み続ける。
外の喧騒だけが部屋中に聞こえていた。
王都の北西地区に於いて。
セリウスは少し迷いを抱いていた。
こうした実戦は初めてであり、上手く戦えるか不安だったからだ。
鼓動が早くなっているのが分かる。
緊張で口の中や唇が乾く。
「早く終わらせるとかって言ってたけど、まさかこれで終わりだなんて思ってるわけ?」
さっき拘束した魔物たちがそれを解いて再び動き出す。
「何!?」
「だから言ったでしょ、そんな程度じゃこの魔物は縛れないんだって。さっきのあの子みたいに完全に倒し切るのが正解だったんだから、あなたは甘ちゃんね」
甘ちゃんと言われてもそういう指示が出ていたから逆らえない。
それに生きていればまだ助かる方法だってあるはず。
「その人達も人間だ、殺すわけにはいかないだろう!」
「はっ、それが甘ちゃんなのよ。この人達が元はどんな人だったかなんてあなた知ってるの? そんな見ず知らずの人間を助けたところであなたに何になるっていうの? 単なるヒーローごっこの遊びほど戦いというのは甘くないんだから」
「僕はヒーローごっこで今ここに立っているわけじゃない。困っている人がいるから、その人達の助けになりたいからここに立っているんだ!」
その純心な言葉にメロンジュは苛立ちを覚えた。
「ほんっとあなた達みたいなガキを見てると腹が立つんだから」
ギリッと奥歯を噛み締めた。
「そんなの、ただの夢物語だって事が分かる頃には、あの世へ旅立つときなんだから」
彼女が持っている魔導具が再び起動し二体の魔物が同時に襲いかかってくる。
「セレニテ頼む!!」
「はい! 『防御魔法』!!」
光の膜のような防壁が二人を覆う。
攻撃を受けたその防壁はバチッという音が鳴り少し凹んだが魔物の攻撃を防ぐ。
「我は求む、我が力を以って敵の動きを封じる足場となれ、『泥沼の地!」
セレニテが攻撃を凌いでいる間にセリウスが魔力を練り、魔法を発動した。
発動した魔法は相手の地面を底なし沼のようにし、魔物は動きが鈍った。
「へえ、なかなか難しい魔法を使うんだ。でも見た感じ、あなたは保有マナがそこまで多くなさそうだし、そんな大技使って大丈夫なのかしら?」
相手の言う通りセリウスのマナの上限はこの年の平均よりも少し下回る。
だが、そんな事は彼も承知の上だ。
「ああそうだ、僕は元々マナが少ない。でもだからこそ、僕は他の事をずっと練習してきたんだ」
そう言いもう一度魔力を練った。
「風と水の力が合わさりし時 我のもとに特別な力が宿らんとす
我がマナに大いなる水と 吹き付ける風の力で その魔法に冷たさと鋭さを乗せ
いかなるものをも貫く槍となりて 相手を穿つ一撃となれ
『吹雪の投槍』!!」
魔力が水に変わり、そして徐々に冷やされ固体へと変化していく。
それはやがて氷の槍に形成された。
「なっ、氷魔法?!」
彼女はとても驚き慌てて魔力を練った。
そして放たれた氷槍はゴオッと音を立て、空気を裂きながらメロンジュのところに向かっていく。
「火の精霊よ、汝の力を我に与えたまえ」
一言そう唱えた。
すると彼女の手の先に炎が集まり出す。
「炎の壁」
その炎を地面に向けると地面から炎の壁がせり上がった。
その炎の壁に氷槍が衝突する。
接触した面から徐々に溶かされ、次第に勢いがなくなる。
「ふぅー、いきなりとんでもない挨拶してくるんだから」
「くそ、精霊の力か」
「その通り、私は半分エルフの血を引いてるから精霊達から力を借りる事が出来るのよ」
精霊の力は、普及している魔法よりもパワーアップして技を使うことが出来る。
それに、彼女の魔法の発動速度も熟練の魔法士よりも速い。
セリウスも発動速度自体は並みの魔法士よりかは速い方だ。
それでも、同時に発動すればメロンジュが勝つだろう。
だから、いかに彼女より素早く魔法を放つ事が出来るかが鍵になってくる。
「それに今の相手は私だけじゃないんだからね!」
動きを封じた魔物の足元の泥沼に向かって土魔法を放ち、足場を固めて脱出の手助けをする。
身動きが出来る様になった魔物達は、すかさず攻撃を仕掛けてきた。
魔物達はさっきに比べて苛立っているのか動きに迫力が増している。
左右からそれぞれ大きな一撃が襲いかかってきた。
「セリウス君!」
カバーに入ったセレニテが「防御魔法」を展開する。
大きい光の膜が再び二人を包んだ。
バチッと音がし、攻撃を抑える。
しかし、さっきと違って威力があるせいか光の膜に亀裂が入る。
「そんな!?」
そんな状況でもセリウスは冷静に魔法を唱え始めた。
「火と土の力が合わさりし時 我のもとに特別な力が宿らんとす
我がマナに燃える様な熱い火を以って 脆弱な土に硬さを与え
相手を打ち砕く硬い岩の弾丸となり 撃ち貫いてみせろ
『岩の弾』!!」
攻撃を防いでる隙に魔力を練り再び魔法を放った。
今度は火魔法と土魔法を合わせた岩の魔法で魔物を倒すようにした。
このままでは彼女との戦いに集中できないと思ったからだ。
そのためにも今ここで倒す決意をした。
放たれた岩の弾丸はそのまま魔物の身体を貫いた。
大きな音を立てそのまま魔物達は横に崩れ落ちる。
「今度は岩魔法?! 本当、どうなってるのよあんたの魔法!」
驚きを隠せないでいた。
それもそのはずであり、氷魔法や岩魔法は二つの属性を合わせることで発動出来る特殊な魔法であり、誰もが皆使えるわけではない。
それを二つも使ってみせたセリウスを彼女が驚くのも無理はない。
「僕は昔から魔法について周りとよく比べられていた。だが大した魔力量じゃない自分にとって普通に魔法を使える事は価値が低かった。だから誰よりも努力をし魔法のコントロールを身につけ、それを磨く事で自分の価値を高めるようにした結果、僕は特殊魔法が使えるようになった」
だがそれは自分だけでは到達できなかっただろう。
コツを教えてくれるリーベストや、悔しいがアゼルの教えがあったからこそだ。
「!?」
急にセリウスを眩暈が襲った。
気分もなんだか悪くなってきた。
(くそ、こんな時にもう……)
「マナ切れを起こした」
メロンジュが冷静にそう分析した。
「それもそうよね、あんなバカみたいに出力の大きい特殊魔法はマナを多く使用する。それをうまくコントロールするのにも、それなりにマナを使う必要もあるんだから、当然ね」
氷魔法や岩魔法の特殊魔法が他の魔法に比べ誰も使えないのにはもう一つ理由がある。
それが魔法のコントロールの難しさである。
二つのマナを掛け合わせるのにも、ちょうどバランスが釣り合う所を探し、そのままバランスが傾く事なく混ぜる必要がある。
そして作った魔法を放つのにも、他の魔法と違って威力や扱いが異なるため、軌道を合わせるために少しマナを消費する。
これが出来ないと思った通りに魔法が飛んでいかなくなるのだ。
「せっかくの才能もそれの元になるマナが少なければ結局は意味がないって事なんだから。確かにそのセンスは認めてあげるけど、私にはエルフの力がある」
エルフは、魔族と同じで周囲のマナを使って魔法を使うことが出来る。
つまり魔法の撃ち合いは強いと言うことであり、現にセリウスと違い彼女は顔色の一つも変わっていなかった。
「精霊達の力で、あなた達に本当の魔法を見せてあげる」
すると周囲の空気がざわついた。
ピリピリとした感覚が肌を刺してくる。
「セリウス君!!」
セレニテが鞄の中から液体の入った容器を取り出しセリウスに投げた。
それを受け取ると、蓋を開け飲み干した。
その瞬間に身体の眩暈が楽になり、気分も回復した。
「それは、回復のポーション……!」
彼女は忌々しそうにそれを見た。
「そうです、これはメロンジュさんと共に研究してきた物です……。私は、確かに戦闘では役に立たないけど、こうしてみんなをサポートして支える事が出来ます!」
今まで見た事が無いくらい力強く言い放った。
その瞳には並々ならぬ覚悟があった。
その理由は彼女にも分からなかった。
ただ友達として彼女の行いを止めたい、その気持ちが胸にある事だけは分かっていた。
その姿にかつてのあの人を思い出した。
とある出来事によって、生きる目的を失ってしまった自分を救ってくれたあの人のような真剣な眼差し。
それに似た目だ。
この子は本当に、暗闇にいる自分を光の方へと導こうとしている。
あの頃の学園での自分に戻ってほしいとそう願っているのだろう。
けどそれは出来ない。
私はもうそっちでは生きられないほど犯した過ちがあるのだから……。




