第二十八話 水面下で進む企み
学園の夏休みも終わりに差し掛かった頃、俺たちはセレニテに呼ばれ学園の研究室に来ていた。
ここでは先生が監視の下、生徒が様々な研究を行なったり出来る場所だ。
イメージしやすく言えば部活動みたいな感じか。
そんな研究室で彼女は今、ポーション作りに励んでいる。
その成果を見てほしいとのことだったが——
「何か、すごい事になってるね」
部屋は荒れており、その中で彼女は髪を乱しながら地面に顔をつけて横たわっている。
「どうしましたのセレニテ?」
心配しているエクレレの声でようやく彼女は起き上がり、今にも泣きそうな顔でポツリと呟いた。
「せっかく上手くいってたのに、最後の調合で失敗しました……」
まあそうだろうなとは部屋を見た時に分かったが、
「一体どうしたんだ?」
そう聞かずにはいられなかった。
「実は———……」
溢れ出そうな涙を抑えながら彼女は事の経緯を最初から話してくれた。
まず、調合自体は特に問題がなかったこと。
そして分量もしっかり調整して判るように分けて置いていたこと。
あとは仕上げをして作るだけだったということ。
でも、今日仕上げようとしたら何故か失敗したこと。
「と言うわけなんです」
「うーん、勝手にいじられたんじゃない?」
フランメが出まかせに喋る。
「そ、それはないんじゃないかな? 一応部屋の鍵はかけておいたはずだし、鍵もちゃんと先生に預けたし」
「分からないよ〜、その先生がいじっちゃったりして」
「しかし、それだとしたら問題行為だな。ただでさえ調合のミスは何が起こるか分からないからな、もしいじったのなら許されないぞ」
セリウスがやけに熱く感じる。
そういえば本仲間としてセレニテとは仲が良いもんな。
「もしかしてセリウスとセレニテってありますか?」
小声で俺に耳打ちをするエクレレ。
随分良く見てるな、目敏いというか。
「それは本人たち次第なんじゃないか?」
俺はそう言うだけに留めた。
「何か手掛かりでも残っていればな」
セリウスは顔に手を当て何かを思案している。
考えた所で何か思い当たる節でもあれば良いんだがな。
ただ、これは単なるイタズラとも言い難い部分がある。
この研究室に来るような人物たちは魔導具の分野に於いて精通している者たちがほとんどだ。
だからイタズラをすればどうなるかって事ぐらい分かっているはず。
それでもこういった事が起こったってことは、何か感情的な部分での行動と考えられる。
人も所詮生き物、感情が支配する時だってある。
それが一体誰がやったかってことなのだが。
「セレニテって今回のポーション作りの事、他の人に話したりしたのか?」
一先ず今ある情報を整理すべく俺は彼女に質問をした。
「えっと、ここにいるみんな以外だと同じ学年のパードン君と二つ上のメロンジュさんかな? この二人とはよく一緒に研究する事もあるし、お互いの事を手伝ったりもしているから」
「その二人は今何をしているんだ?」
セリウスが食い気味に質問する。
「二人は、えっと、今日は居ないかな? パードン君は街に行くって行ってたし、メロンジュさんも家の用事だって言ってたから」
「……怪しいな」
「今日わたくし達がここへ来るって知ってたんですよね?」
「一応二人にはそう伝えておいたんだけど」
「リーベストはどう思いますか?」
「え、俺?」
急に話を振ってきたので素っ頓狂みたいな声が出た。
「何ですかその声は、何か考えていたんじゃありませんの?」
「買い被りだな、ただ疑問を聞いただけで深くは考えていなかったよ」
「そうですか? わたくしにはどこか引っかかる所がある、と言うような顔をしているように見えましたが」
「本当か? 何か分かったのか?」
俺を見るみんなの目が眩しくて心が痛む。
「分かったわけじゃないけど、可能性があるって話だからな」
俺はやれやれと思いつつも思った事を説明した。
「——つまり、こう言う事だと思っている」
「なるほど、確かにその線はありそうだな」
「どのみち聞かなければいけなかった事ですし、良いんじゃないでしょうか」
「やることが分かれば早速やらないと!」
「待て、やるって言っても何をすれば良いのか分かってるのか?」
「え、そいつ見つけてリーベが魔法でそいつの事をじんも……」
「ちょっと待てフランメ!!」
俺は急いで彼女の口を塞いで首に腕を回し、そのままみんなと逆の方向に顔を向ける。
「バカ! その事はみんなに言うなって言っただろ!」
「だってその方が早いでしょ!」
「あれは仕方なくであって、今回はそこまでする必要なんてないんだよ!」
コソコソ話す俺たちをポカンと見守っている他の四人。
俺は彼女を言い伏せみんなの方に向き直る。
「と、取り敢えず原因をまずは探そうか」
ぎこちない笑顔でその場をやり過ごした。
それからしばらくみんなで部屋を見回り原因を探った。
シュヴァリエはこういったことに疎いため外で見張りをしている。
もちろん怪しい人がいないかを探すためでもある。
特にこれといった目ぼしいものは無かったが、セリウスがある事に気付いた。
「みんな、ちょっとこれを見てくれないか?」
そう言って彼が指を差した所に少し色の違う塗料が付いていた。
「これは、一体?」
「これって、違う薬草から抽出したやつ。どうしてこのポーションに混じってるんだろう?」
「これにはどういった効果があるのです?」
「普通はこの青色のルメッド草から抽出したやつなんですけど、こっちの藍色っぽいのはとある鉱物から削ったやつで、ルメッド草エキスと混ざると反応して爆発を引き起こすって。よく爆発用の魔導具として使われてる奴です。でも私、危険って分かっているから今はこの部屋に持ち込んでいないはずなのに……」
「なるほどな、これで今回のことは故意的な行為だと判明したな」
確かにこれは単なる嫌がらせと違って悪質な行為ではある。
本人に問い質してみないとまだ分からない事もあるが、とりあえずその人を見つけないとな。
「それで、上手くいったの?」
「あれくらいで片付けば苦労しませんから」
王都の某所にて一人の獣人の少年とハーフエルフの女性が会話をしていた。
少年はフード付きの服を着ているが今は被っておらず耳が露呈していて、ピンと立っている。
ハーフエルフの女性は背が高く豊満な胸をしており、通りすがる人達にゲスな目で見られても仕方がないと言った容姿だ。
「あんまり派手に動くとバレるからやめとけって言ったはずだぜ?」
背が高くスラっとした男性がその二人の下へとやってきた。
「あ、リーダー、どこ行ってたの?」
「ちょっとした情報収集だ、今後に向けてのな」
リーダーと呼ばれた男性は紙袋を下ろし近くに置いてあった木箱に座った。
「それで何か良い情報でもありました?」
「そうだな、どうやらこの前の事でジィーベン商会のトップが動き出したみたいでな。今は協力者と一緒に俺たちの対策を練っているらしい」
「それって、僕たちのやることが漏れてるって事?」
「恐らくそうだろう、それに明らかに第一王子の動きが変わった。王都の外で騒ぎが起きても奴は王都から動こうとはせず、動いたとしても周りに誰かしらついてやがる」
男は持ってきた飲み物を一気に飲み干した。
「今までは率先して自分から動いていましたから、確かに不自然ですね」
「あいつしかいないよ絶対。死んでからも足引っ張るじゃん」
彼はブーブー文句を言った。
それを窘めるように、ハーフエルフの女性が口を挟む。
「まあまあ、それについては過ぎた事だから。それで例の予定はどうするつもりですか?」
「その事だが、少し早めるみたいだ。決行は建国パーティーの日、あと10周間後だな」
「10周間か、まだまだ日にちあるけど大丈夫なの?」
「どうやら最短でこの日らしい。それまでは奴らを牽制し続けるしかないな」
「仕方ないからとはいえ、割に合いませんね」
「それまでは注意を払って動くことだ。特に学園の生徒、クランプスを仕留めたアイツにはな。良いか、今度は怪しまれる行動はするなよ、サディク」
サディクと呼ばれた少年は少し申し訳なさそうに謝った。
「ごめん、リーダー。あの時はつい反射的に反撃の姿勢を取っちゃったけど、今度は大丈夫だよ」
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫さ、あのリーベストって奴にもう一度会ってもヘマはしないようにするよ」
「はぁ、会ったらまずいから出来れば会わないでいてほしいんだがな」
真顔で言い放った。
ギクッと一瞬固まったが、笑って誤魔化した。
「今はとにかく目立たないで行動しろよ、俺たちの目的の為にもな」
「それにしてもどうして俺が除け者にされたんだ?」
「本当だよ、何で私もあそこにいちゃいけないのよ」
「エクレレ様がそう決めたから仕方ない、と言いたいが確かに納得出来ない」
「そんなに文句言うなら行けばええじゃろ、何でここにおるんじゃ!」
俺とフランメ、シュヴァリエの3人はなぜか研究室から追い出された。
色々聞きたい事はあったんだけどな。
まあエクレレが何の考えも無しに俺達を追い出したとは考えられないし、ここは彼女たちを信じるしかない。
いざとなればセリウスもいるからな。
追い出された俺たちは学園長アゼルの部屋に来ている。
ここのお茶とお菓子は美味しいから割とよくお世話になっている。
だから寮で待つよりここで時間を潰そうと考えたわけである。
当の本人はすごい嫌そうな顔だが気にしない。
今後も迷惑をかけてくるだろうから、おあいこだ。
「ここのお茶とお菓子は美味しいんだな」
「本当ね、リーベよく知ってたね」
「おい、わしは店の店員じゃないんじゃぞ」
「そう言いつつ何だかんだでいつもお茶とお菓子出してくれてるじゃないですか」
「普通こう何度も何度も敵であるわしの所に来るかの? まったく油断しすぎじゃ、と言ってもお主には見えとるか」
はぁー、とため息を吐く。
「まあじゃが、お主がここに来たと言う事は何か話でもあるんじゃろ?」
俺の隣の奴はその言葉に反応した。
「え、ただお茶しに来ただけだと思ってた」
やれやれとシュヴァリエも苦笑いした。
その姿にバツが悪くなったのか、
「わ、私だってそれくらい分かってたし!」
と知ったかぶりで誤魔化す。
そのやり取りを受けて、フランメにジト目を向けるロリババア。
とりあえず可哀想だから話を進めよう。
「学園長、この学園って部外者が入る事ってあるんですか?」
「何じゃ急に、別にそれくらい普通じゃろ」
「いえ、何となく気になっただけです」
「ふむ、何か含みのある言い方じゃな」
うーんよく分かってるな。
少し関わり過ぎたせいで俺の性格の事よく理解している。
「学園に出入りしている中で怪しい奴でもいると言うことかの?」
「いや、それだと範囲が広すぎるので、俺が気になったのは学生に紛れていると言う事です」
「紛れてるて言っても、それだとリーベがマナを見て見抜けるんじゃないの?」
「そうだな、バレる危険を鑑みるとリスクが高いように見えるがな」
「いや、そいつは恐らく魔族ではない」
「「!?」」
二人とも驚いたような顔をした。
「厳密に言えば魔族に加担している奴らといった方が良いかもしれないな」
「なるほどの、そいつについて知りたいと?」
「知っているのなら聞かせて頂きたいですが、どうせ答えてくれないでしょう?」
「知ってるも何も今回の事はわしはノータッチじゃからの。わしも詳しくは聞かされとらんし、ただ学園に入れてやってくれと言われただけじゃからな」
「魔族に手を貸している時点でそいつは同罪だ、なぜそのような奴をこの学園に?」
「やめとけ、この人に問い詰めても意味はない」
「全く、わしは敵じゃと何回も言っておるんじゃがな。学園長という肩書きだけで判断するのは良くないぞ?」
アゼルはそう言うが、実際自分が敵だと判断させなくしているんじゃないか?
エクレレもシュヴァインも、そして俺も敵と思っていながらも頼ってしまいたくなる所がある。
そんな自分が少し腹立たしい。
だが……
「生徒としてこの学園にいる事は間違い無いんですね?」
情報は情報だ、ありがたく受け取っておこう。
「うむ、じゃがどこのどいつかは自分たちで探す事じゃな」
「分かりました、それだけ分かれば十分です」
「本当に何か分かったのか?」
「ああ、今回セレニテが失敗するように仕向けたのは恐らくメロンジュって人だろう。そしてセリウス達の所に来るとすればパードンって奴だな」
「え?? どうして??」
「そのメロンジュって人がその学園に忍んでいる魔族と繋がりのある人物だからだよ」
「一体どうしてそう思うんだ?」
「今回の件で爆発を狙ったのは俺たちが標的だからだろう。正確には俺と言った方がいいのかもしれない。彼女は俺たちが研究室に来るって言うから勘違いしたのか分からないが、ポーションの作るところを見せるって勝手に思い込み、ポーションに入れてはいけないものを混ぜた。俺たちにそんないたずらを仕掛けるのなんて奴らかその仲間だろうからな。まあ結局、セレニテが一人で作って失敗して爆発したが彼女は自分の身を守るだけだし防げた。俺たち全員となると流石に厳しかっただろうけど。だが、失敗すれば爆発の証拠として残ると考え、わざわざ隠蔽しようとした。俺たちの誰かがあそこにいれば防がれる事も一応考えていただろうし、その保険として彼を利用したんだろう」
「なるほど、だが研究友達なのにそんな事をするか?」
「そこは想像だが、多分脅しか精神系の魔法を使って操ったかのどっちかだな。それを聞いておきたかったのに除け者にされたからな〜」
「じゃあ今すぐ行かないと!」
「心配ないだろ、俺がいなくてもエクレレがやってくれるだろうし、あいつは頭がメチャクチャ切れる奴だから」
その頃、研究室ではセリウスとエクレレ、セレニテが後片付けをしていた。
「ほ、本当に戻ってくるんですかね?」
セレニテはどこか不安そうだった。
「大丈夫ですよ、ちゃんと裏は取ってありますから」
「あとは何事もなければ良いのだがな」
それに対して二人は落ち着いていた。
「二人ともよくそんなに落ち着いていられますよね、私なんて全然、未だに王女様といる事すら夢のようで……」
「ここでは学生ですし王女様だなんて仰々しいですよ。ここでは王女という肩書きは捨てたいですから、まあ落ち着いて見えるのは少し俯瞰的だからですよ」
「僕は常に冷静でいる事が大切だと思っているからだ。だからって別に真似しようだなんて思う必要もないからな、君は君らしくやればいい」
その言葉を聞いてエクレレはクスクスと笑った。
「なんだ、何がおかしい」
「いえ、ちょっと、思い出し笑いですよ」
首を傾げるセリウス。
セレニテも何か分からないって顔をしている。
そんな雑談を交わしていると、ガチャっと音がした。
三人ともその方角へ視線を向けると、そこには一人の生徒が立っていた。
「あれ、何で君たちがまだここに?」
「初めましてだな、確かパードン、だったか?」
「わたくし達はあなたに少し話があります、お時間頂いてもよろしいでしょうか?」
「くっ!?」
「ムダだ!」
魔法を行使しようとしたパードンをセリウスが土魔法で拘束する。
「な、んだこれは?」
「貴方は編入生の事をご存知ではないかも知れませんが、ここにいるセリウスの魔法発動スピードは学年でもトップクラスですよ」
「魔法での戦闘及び研究室での不法な魔法の行使だ、懲罰は免れないぞ」
「待って、セリウス君」
セレニテが彼の元へ歩んだ。
「パードン君どうしてこんな事をしたんですか?」
「それは、お前がこんなポーション作ったりしてすげえなってちょっと嫉妬したんだよ」
「でもだからって、それでこんな事して許されるわけもないだろ」
「分かってるよ、ただつい魔が差したっていうか、頭が軽くなったっていうか」
「一体何を……」
セリウスが何か言おうとした所をエクレレが制止した。
「貴方、ひょっとして何か最近飲み始めた物とかってありますか?」
いきなり何を聞いているんだ、とセリウスは感じていた。
しかしふと思い出したかのようにエクレレの方を見た。
彼女は険しい表情だった
「まさか……!?」
セリウスは何かに気付いた。
そして彼女の質問の意図を理解した。
「何でそんな事を」
「良いから答えなさい、これは大事な話だから」
いつもの口調ではなくなり語気が強くなる。
その勢いに気圧されたパードンは口を開いた。
「確かに、これ良いよってメロンジュさんに勧められたポーションを飲み始めたけど、それがどうしたってんだ」
この言葉でセレニテもようやく理解できた。
そしてもうある程度片が付いていたと思っていたあの事件が掘り返され心臓がバクバクと音を立て始める。
「悪いことは言わないからそれだけはやめなさい」
今ままで聞いた事がないトーンでエクレレは注意した。
「彼女の言う通り今すぐやめた方がいい」
セリウスも警告を発する。
「わ、分かったよ、そんなに怖い顔しないでくれよ」
「パードン君、私はただ自分の為にずっと研究を続けてきたの。それがどうあれ、邪魔されたことはすごく悲しい、だからこんなことはもうしないって約束して!」
セレニテは力強い眼差しで彼を見つめた。
「悪かった、セレニテ。本当にすまなかった!」
こうしてこの件は無事幕引きとなった。
そうしてしばらくすると三人と合流した俺たちは何があったのかをお互い共有することにした。
「なるほど、そのメロンジュって人が魔族と関わりがあると。だから彼に例のポーションを渡した訳ですね」
話を統合したエクレレが納得したように頷いた。
「じゃあやばいんじゃないの? そいつの知り合いに広められたりしてるかもしれないんでしょ?」
「そこは今考えても仕方ないな。とにかく最優先はメロンジュという生徒に接触する事だろう」
「それにしても、どうして魔族じゃないのに魔族に手を貸す奴なんているんだろうね」
「それは分かりませんね。ただ一つ言える事はその人らもクーデターを起こす為に動いていると言うことでしょう」
クーデターを起こすための協力者、それは分かるがそれでもなぜ魔族に加担するのかは見えてこない。
ここが分からないままだとその協力者たちに辿り着けない気もする。
「怪しそうな奴を見つけるにしてもこの王都で探すのは広過ぎて難しいぞ」
その時、フランメが何か思い出したのか、俺にある質問をした。
「そう言えばリーベ、この前の戦いで敵がいるのに襲ってこないって言ってたよね。その時の敵がそいつらだとしたら顔で見つけられないの?」
「いや、あの時は顔まで視えたわけじゃないから分からないな」
「んーそっか」
「ただ俺が王都に来た時、フードを被った少年で怪しい奴は見かけたな」
「少年でフードを? それは本当なのか?」
「背丈が俺とあまり変わらなかったからそう思っただけかもしれない」
「あー! あの時の奴か! 確かに尋常じゃない殺気をぶつけられたんだ!」
「なるほど、ではそのフードを被った少年はマークしておくべきですね」
みんながそれぞれ部屋に戻り始めた時、俺はエクレレに呼ばれた。
「実はリーベストに話す事がありまして」
彼女は改まった態度で話をする。
「パードンは薬を飲んで魔が差した、頭が軽くなったと言ってました。何か心当たりはありますか?」
「いや、ただ俺は精神干渉系の魔法だと思っていた。それを聞くと魔物に変わりつつあるとも考えれるな」
「例の事件がまだ裏で動いてたことは迂闊でした」
「本当にな、全くもって厄介だよ」
そう、こちらが対処しても別の方法でまた俺たちの前に現れてくる。
イタチごっこみたいな展開だ。
やはり大元から切り崩していかないとこっちが不利なのは変わらない。
「メロンジュという人から何か聞けると良いんですが……」
「どうだかな、雲隠れされると何も情報が得られないからな」
押し黙る二人、そこに風が吹く。
夏も終わりかけの涼しい風が俺たちを吹き抜けていく。
「そうだ、今度夜ご飯いかがですか? 実はリーベストに会いたいという人がいまして」
話題を変え暗かった空気を和ませる。
「ああ、別に俺はいつでも大丈夫だよ。都合が良い日を言ってくれれば調整しておく」
特に夜に用事があるわけではないし断る理由もなかった。
「分かりました、そのように伝えておきますね!」
そうして俺たちは別れ、それぞれの部屋へと帰っていった。
早くも学園の再開が近付いており、休みらしい休みを過ごす事がなかったので寂しい気がした。
この先もまだまだ大変なのだろう、そう思いながら俺は部屋に帰るのだった。




