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変転人生~唯一の異世界ライフを歩む物語~  作者: 風竜 巻馬
第三章 王都学園編 〜守るべきモノと大切なモノ〜
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第二十七話 異変

  



 −−−


 気がつくと、夏休みも20日が過ぎていた。

 毎日特訓に明け暮れていた俺たちは、そろそろ疲労がピークに達しており我慢の限界が来てしまう。

 「せっかくの休みなのにわたくし達、何も楽しい事してないじゃないですか!」

 エクレレのその一言がきっかけで今日はみんなで出掛ける事になった。

 みんなここまで黙々と特訓をしていたので、口には出さなかったが本当は出かけたかったのだろう。

 やりたい事はやりたいと口にしてくれると助かるな。

 

 と言うわけで俺達は王都から少し離れた場所にある湖にやってきた。

 この場所に来るとついこの前の戦いを思い出してしまうが、普段はこの国の中でも有数の観光地である。

 三日月型をしたこの湖は長閑であり、水も非常に綺麗だ。

 湖畔にはリゾートホテルとしていくつか建物が建っているが、全体的な景観に配慮されており風景の一部として溶け込んでいる。

 太陽がキラキラと湖を照らしており、見るだけで心が洗われるような気持ちになる。

 「それにしてもどうしてこんな所に? どこか他の場所でも良かったんじゃないか?」

 セリウスは少し微妙な顔をして問いかけた。

 「ここは昔よく来ていたので好きなんですよ。こうやって落ち着いた自然の中でゆっくりと過ごせるこの時間っていいと思いませんか?」

 エクレレはグーッと背伸びをしながら答えた。

 「はっ、まるでおばさんみたいだね」

 フランメは馬鹿にするように笑った。

 それは偏見だと思うがな、と俺は思った。

 「あら、お子ちゃまにはまだこの良さが分からなくて当然ですよね、それは失礼なことをしました」

 「な、誰がお子ちゃまだ!」

 そうして二人はいつもの様に口喧嘩をし始めた。

 その様子に俺とシュヴァリエは呆れ、セリウスが仲介に入る。

 セレニテは少しオロオロしているだけで何をするわけでもなかった。


 「そういえばさっきからボーッとしてどうしたんだ?」

 二人の口喧嘩を何とか治めたセリウスが訪ねてくる。

 「そう言えば前に魔族と戦ったのってこの辺だったみたいですね」

 「いや、別にそんな感傷に浸っていたとかそう言うわけじゃないんだけど、こうして自然の中でのんびりするっていうのが久しぶりだったから師匠との修行を思い出したんだ」

 最近は都会で日々毎日過ごしていて、こういった自然あふれる場所に来る事があまりなかった。

 なので久しぶりに自然を感じると昔の記憶が思い出となって蘇ってくる。

 一緒に過ごした小さな存在との日々を。


 「あ、あの、リーベスト君は以前に自然のマナを扱えるって言ったよね? それって、もしかしてエルフの人とかに教えてもらってたの?」

 「いや、教えてもらってたのはエルフの人ではないよ」

 「じ、じゃあ一体どんな人に?」

 「んー、それは教えてはいけない約束をしてるからな……」

 「その事なんだけどさ、もう良いんじゃない? だって、別に今のみんなだったら話しても大丈夫だと思うんだけど」

 フランメはそう言って俺の方を見てくる。

 もう黙っているのがめんどくさいから話しちゃおうよって顔だ。

 みんなも興味深そうに俺を見てくる。

 「はぁー、分かったよ。ただし絶対に口外厳禁だからな」

 俺はため息を吐き師匠の事をみんなに話す事にした。

 師匠、約束を破る事を許してください。

 文句ならフランメにお願いします。


 「いきなり聞いて信じられるかは微妙だけど、俺とフランメは昔「世界を均す者(シャイデマン)」のエルミーレって人に魔法を教えてもらってたんだよ。その時はこう言った自然の中で特訓をしていたから懐かしくなるんだよ」

 シンっとみんなが静まり返ったので、俺は一瞬時が止まったのかと思った。

 魔法なんて発動していないはずなのに。

 しかし、フランメがうんうんと頷いているのでそこは大丈夫みたいだ。

 「今、『世界を均す者』と言いましたか?」

 「ああ、そう言ったよ」

 「あの伝説の、1000年前に勇者に力を授けたっていう……」

 「実際は、力を授けたというよりか力の使い方を教えただけらしいんだよ」

 「そ、そんな人に教えてもらっていた?」

 「うーん、人ではないんだけど……」

 なかなか会話が続かない。

 みんなこの事を理解するのに時間がかかっているのだろう。

 それもそうだよな、突拍子もない事をいきなり言われたんだから。

 そう思っていた俺は何か言葉を発そうとした時だった。

 突然川の堰を切ったかのような質問攻めにあう。

 「す、すごいです! 何か他に特別な事は……!」

 「どうりで同い年にしては魔法の扱い方が常人レベルを……」

 「そんな存在に¥¥&#%○☆なんて%¥##☆○♪*¥%&」

 エクレレに至っては興奮し過ぎて何を話しているのかはさっぱりわからなかった。

 最初とあとは2、3文字くらいは何とか聞き取れたが。

 とにかくこれじゃ話が出来ないと思い、俺はみんなが落ち着くのを待つ事にした。


 「それでその話は本当なんですよね?」

 「間違いないさ、とは言っても証拠があるわけじゃないけどな」

 「いや、逆に君達の異常な強さの理由がはっきりした。普通なら信じないが魔族を倒すレベルだからもう驚いたりはしない」

 「『世界を均す者』が関与したという事は、俺たちは運が良いのか悪いのか、時代が大きく変わる時を生きているって事だからな」

 「それは間違いないでしょう。でも、普通なら出来ない経験とも捉えれると思いますし」

 「でも、ひょっとしたらまた会えるかもしれないよ? そうだよね、リーベ」

 「そうだな、いつ会えるのかは知らないけどな」

 「ほ、本当に会えるの?」

 「一応別れ際に魔力を込める魔導具をもらって、それに魔力を注ぎ続ければ良い事があるって言われただけなんだけど、何となくその可能性はあると思うんだよな」

 「それじゃあその魔導具にわたくし達も手伝わせてください」

 「ありがとう、その方がこっちとしても助かるや」


 みんなが受け入れてくれた事は素直に良かったと思う。

 これだったらもう少し早めに話せば良かったな。

 (自分で勝手に決めつけて行動を起こせない所は俺の悪い癖だな)

 こいつらはもう信用できる仲間だっていうのに、全く情けない。


 しばらくみんなで楽しく話し込んだ。

 たまにはこういった落ち着いた所で雑談するのとかも良いもんだな。

 「こういうちゃんとした休日過ごすのって久しぶりだよね」

 フランメはそう俺に聞いてきた。

 「昔師匠にボロボロにされたのを思い出すけどな」

 「あはは、確かに今思えば楽しかったけどあの時は恐ろしかったね」

 苦笑いの彼女も少し干渉に浸っているように見えた。

 「さて、じゃあもう少し歩きますか」

 

 湖の畔を歩きながら景色を眺めていると、フランメがポツリと呟いた。

 「今日はほんと楽な一日だったなー」

 おい、今日はまだ半日しか過ぎてないぞ。

 「おい、いかにもこれから楽じゃない事があるフラグを立てるなよ!」

 俺がせっかくフラグを立てないようにしていたのに。

 「そうですよ、貴女はもっと空気を読む事を覚えませんと!」

 「別にそう思ったんだから仕方ないでしょ! それにフラグって何よ!」

 そっか、この世界にはそんな言葉ないのか。

 「フラグって言うのはだな……」

 言いかけたところで不穏な気配を感じた。

 だがここは観光地であるがため、普段この時間は魔物がこんな場所に居ないはずなんだけどな。

 「リーベ、何かいるね」

 フランメは俺とほぼ同時にそれを感じた。

 「随分と面倒くさいタイミングで現れるもんだ」

 セリウスは俺たちの反応で即座に臨戦態勢を取る。

 「エクレレ様は私の後ろにいて下さい」

 シュヴァリエは前に出て剣を取り出す。

 まったく、誰かさんがフラグを立てたせいで俺たちの休日は終わりを迎えることになった。

 ここからは修行の時間だ。

  

 茂みの中から怪しげな光が見え始める。

 俺は「未来視」を使って即座に未来を視る。

 すると、その魔力に反応したのか魔物達が唸り始めて戦闘態勢を築く。

 1、2、3……全部で10匹か。

 「数が多いな」

 だが、幸い周りにいるのは俺たちだけのようだ。

 「とにかく僕たちで……」

 「いえ、シュヴァリエとフランメで攻撃を、撃ち漏らした敵はリーベストとセリウスでフォローをお願いします」

 エクレレの判断は早く的確だった。

 「フランメは良いがシュヴァリエは大丈夫なのか?」

 「心配いりません、あの子だってやる時はやりますから」


 まずは5匹がそれぞれ飛び出して襲ってくる。

 襲ってきたのはレリックハウンドだ。

 嗅覚に優れており、魔力を嗅覚で判断し襲ってくる魔獣だ。

 大きさはブラックハウンドよりも少し大きく、何でも噛み砕いてしまう危険なやつだ。

 それをフランメとシュヴァインが迎え撃つ。

 「フランメ、俺を巻き込むんじゃないぞ」

 「誰に物言ってんのよ、あんただってちゃんと倒してよね」

 フランメは襲いかかるレリックハウンドをギリギリまで引き付けて、近付いた所を炎拳でまとめて燃やし暴発させた。

 5匹のうちの2匹が消し炭の灰となる。

 しかし残りの1匹がフランメに襲い掛かろうとしている。

 それをセリウスが土魔法の「土の壁(アースウォール)」で土の壁を地面から突き出してレリックハウンドを上空へ突き飛ばし、フランメが「螺旋炎(フラメ・スピラ)」で撃ち抜き、コアを破壊された魔獣はそのまま灰となった。

 そして互いの健闘をサムズアップで讃える。


 「ふん、相変わらず野蛮な奴だ。スマートさが足りない」

 シュヴァリエは2匹のレリックハウンドを睨みながら独り言ちた。

 相手はグルルル、と唸りながら攻撃の機会を窺っている。

 「さて、俺もとっとと片付けないとな」

 カチャっと剣を前に構える。

 スッと瞼を閉じ、静寂に身を委ねる。

 その静かな殺気が魔獣達の警戒心を引き上げ、堪らず彼に襲いかかった。

 全く動じる事もなく、そのまま剣を左腰に構え直し振り抜く。

 「聖剣流奥義 竜殺しの剣(アスカロン)!」


 振り抜かれた剣はそのまま2匹の魔獣を真っ二つに切り裂いた。

 切り裂かれた魔獣は灰となって消え、シュヴァリエは剣を収め目を開ける。

 一切ブレない太刀筋に剣速も早い。

 しかも聖剣流の奥義をここまで使いこなしているとは。

 さすがは王女の護衛を任されているだけあると言うところか。

 「なるほど、彼も只者じゃないんだな」

 セリウスが感心した。

 「ええ、昔からサクレお兄様の修行を受けてますから」

 エクレレは誇らしげにそう言った。

 「剣術だけだったらリーベストより強いんじゃないか?」

 「まあ、単純な()()()だけだったらな」

 俺はそこだけ強調した。


 とはいえあと5匹残っている。

 仲間が倒され殺気だっているようだ。

 「何匹いようが一緒だけどね」

 「その通りだ、この程度は相手ではない」

 二人が再び戦う姿勢を取る。

 だがあまりにもこっちが暇なんだよな。

 そこで俺は二人に提案してみた。

 「二人とも、こっちに少し譲ってくれてもいいんだぞ」

 「「断る!!」」

 「あっ、はい」

 即答かよ。

 しかも軽いノリで言ったつもりだったが本気で否定された。

 何かいけない事をして怒られた気分だな。

 「それにしても普段物静かなシュヴァリエがここまで好戦的だったなんてな」

 俺はエクレレに問いかける。

 「そうですね、あの子も負けず嫌いなところがあるので、みんなに触発されているんじゃないですか? 特に彼女に」

 エクレレはフランメを見た。

 確かに普段からこの二人は良く学園でも戦っている。

 授業的には魔法の方が実戦の機会が多いし、剣術の模擬戦もあるにはあるが同学年では誰も彼には敵わないらしいしな。

 「今はその負けず嫌いが発動していると思いますよ」

 彼女は微笑みながらシュヴァリエを見ていた。

 なるほど、それがお互いの刺激になっているんだな。


 そうこう言ってる間に二人は残りのレリックハウンドを倒し、それらは灰となって消えた。

 「結局僕らは何もする事がなかったな」

 セリウスは少し残念そうだった。

 「本当だな、俺らはただの飾りだな」

 俺は卑屈そうに呟いた。

 「まあまあ何事も無かったんですし良いじゃないですか」

 「まったく、リーベは心配しすぎなの! 未来予知なんてしなくても平気だから!」

 「フランメの言う通り、無駄な魔力を使うなんてスマートさに欠けるな」

 なんだ、これは俺が責められているのか?

 俺はちょっと心配してただけなのにな。

 それにお前の言うスマートさってなんだよ。

 ただの冷静アピールだろ。

 と、心の中で悪態をついているとセレニテが話題を変え、

 「ところで、どうしてこんな場所でこんな時間に魔獣なんか出るんですか?」

 と、今まさにタイムリーな疑問を問いかけた。

 「最近の話だが王都周辺で魔獣の目撃情報や襲われたって報告が増えてきているみたいだ」

 その疑問にセリウスが答える。

 俺は彼がどこから情報を仕入れているのか少し気になった。

 「ええ、そのせいでどうやら騎士団も忙しいみたいですね。リーベストが前に言っていた魔族の話だとこれも何かの作戦の一部だと考えた方が良さそうですが」

 「確かに、王都の外に意識を散らして中を撹乱するってやり方の可能性もなくはないかもしれないし、まだこれは計画前の序章の可能性だってある。十分気を付けるに越した事はないかもな」

 「とりあえず、今日の事は家族に話しておく必要があるので、わたくしとシュヴァリエは一旦先に帰らせてもらいます」

 「ああ、気を付けてな」

 彼女はニコッと笑ってシュヴァリエと共に足早に王都へ帰っていった。


 「さて、俺たちも帰るか」

 程なくして俺も帰る事を提案する。

 「そうだな、結局休みのつもりがとんだアクシデントに巻き込まれたな」

 「そう? 私は全然楽しかったけどなー」

 「わ、私も初めての戦いでちょっとだけ疲れました」

 「はい、3対1でフランメの負け」

 「は、ちょ、それってどう言う意味よ?」

 「一人だけ気楽で良いなって事だな。それに君が引き連れてきたアクシデントだし」

 「な、セリウスまで!?」

 「で、でもフランメちゃんのそういう所私好きだよ」

 「セレニテまで私の事バカにするの!?」

 「え!? 褒めたつもりだったんだけど……」

 「もう良い、みんな嫌い!!」

 そう言って一人先に駆け出す。

 その後ろ姿を見て俺たち三人は笑った。 

 歩み始めた俺たちは夏の夕日に向かって進んでいった。

 

 

 

 

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