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変転人生~唯一の異世界ライフを歩む物語~  作者: 風竜 巻馬
第三章 王都学園編 〜守るべきモノと大切なモノ〜
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第二十六話 夏休み開始




 季節は夏。

 夏と言っても前世の日本と違って爽やかで、かつ暑さも大した事はない。

 クランプスの戦いから月日が経った。

 

 「———以上だ。何か質問はないか? ないならこれで終わりだ、また5周間後に皆揃って会おう」

 今日を以って学園は休みに入る。

 いわゆる夏休みってやつだ。

 ちなみに5周間と言うのは30日だ。

 この世界は6日で一つのサイクルであり、それを1周間と呼ぶ。

 1年が365日であるため年に60周と5日の休日がある事になる。

 

 夏休みと言っても、別に学園で特訓しても良いし実家に帰っても良い。

 それは個々人の自由というわけだ。

 俺も帰って良いのだが、王都との往復だけで半分費やす事になるので今回は帰らない事にしている。

 それにこの王都でいつ何が起こるか分からないのに帰る気にもならなかった。

 イーデル達には申し訳ないが今回は大目に見てもらおう。


 授業が終わりみんな帰路に着く中、俺はとある場所へ向かった。

 校舎を歩いていたその途中である人物と遭遇する。

 「こんな所で何をしている?」

 「別に大した用事ではない、ある人に呼ばれているだけだ」

 話しかけてきたのは、以前俺たちに因縁を吹っかけてきてフランメに打ちのめされたグロコションだった。

 彼は俺のあっさりとした態度に苛立ちを見せるが、以前ほど突っかかってきたりはしない。

 「俺はまだお前が魔族を倒した事は信じていないからな」

 そうでもなかったみたいだ。

 「わざわざそんな妬みを言いに来たのか?」

 「違う! 俺たちが魔族相手に勝つ事は普通有り得ない。それなのにこの俺と同学年のお前が勝つなど妄言も良いところだ!」

 会うなりいきなり随分な物言いだな。

 別に信用する、しないは個人の自由だから気にする事もないが。

 「信じなくても構わないがそれは自分の能力を伸ばす事をやめているだけだぞ」

 「何だと?!」

 「信じたくはない気持ちも分からなくはないが、実際お前はフランメに完敗したはずだ。本当に必要な事は上には上がいると理解する事だ。それが向上心につながるし、結果として実力の向上にもなる。強くなりたいんだったらまずはその取るに足らないプライドを捨てるんだな」

 「黙っていればペラペラと……俺に指図するんじゃねえ!」

 逆ギレするなんてよほど図星だったのだろうか。

 心の中でそう感じれているならまだ成長の余地はある。

 それに俺はグロコションの実力自体は認めている。

 この歳で上級魔法を使えるのはそうそういるものじゃないし、それに保有しているマナの量も学年ではトップクラスだろうしな。

 ただそれ故の性格が災いして成長を止めてしまっている。

 今後を考えると一人でも戦力が欲しいところだし、何とか良い方に向いてくれると良いのだが。


 「良いか、俺はこの学園で最強になるんだ。そんな俺に向かってアドバイスなど余計なお世話なんだよ」

 そう言って俺の脇を取り抜けて行った。

 (やれやれ、そう簡単にはいかないか)

 その後ろ姿をずっと眺めていた。


 余計な時間を取ったが予定の時間にはまだなっていない。

 俺は目的の部屋に着きそのまま部屋に入ろうとすると、ガチャっとドアが開く。

 「時間通りじゃな、入ってええぞ」

 「わざわざ丁寧にすいませんね」

 部屋に入ると何故かエクレレが先に来て座っていた。

 「あれ? 一体どうしてここに?」

 「学園長に少し聞きたいことがあったのですよ」

 「へぇ、奇遇だな、俺もちょっと尋ねたいことがあったんだよ」

 とりあえずエクレレの隣に座る。

 相変わらずきちんとお茶を淹れてくれるロリババア。

 普段からそうやってきちんとしてると良い奴なんだけどな。

 

 「して二人とも今日は何のようじゃ?」

 質問しておいて視線は目の前のカップに釘付けだ。

 「実はこの国の事で少し話があるのですが?」

 「まあ答えられる範囲なら何でも聞くが良い」

 「ではお言葉に甘えて。実は最近父の体調が思わしくありません。ついこの間まで何事もなかったのに最近になって急に……それに国の外で魔獣の目撃が増え始め騎士団の仕事が増えているとの報告も受けています。時期的に重なっているので少し尋ねたいと思いました」

 そんな事は今初めて知った。

 割と大事だが、それでも情報が流れてこないって事はちゃんとした情報統制がされているのかもしれない。

 「それをわしらが何か仕組んでると言いたいのか?」

 カップをゆっくりと近づけて優雅に飲む。

 その行為と見た目のギャップがおかしいんだよな。

 

 「普通ならたまたまと言いたい所ですが、この前リーベストに聞いた事もありますから」

 この前ヘンドラーに聞いた事はエクレレや他のみんなには伝えてある。

 貴重な情報は共有すべきだしな。

 「なるほどの〜、しかしそれをわしに聞きに来るのはさすがに甘えすぎじゃないか? 一応敵なんじゃから知ってても教えるはずがなかろう」

 「一応、ですか。でもわたくし達のことを気にかけてくれるのは一体どうしてでしょうか?」

 「それはわしの娯楽と前に言ったはずじゃろう、最近ここまで楽しませてくれる奴らはおらんかったからの」

 「そこが少し気になっているところで、娯楽の割にはわたくし達を()()()()()()にしている気がするのです。あの日リーベストとフランメが戦いに行った時も、貴女は何故かわたくし達を学園の外へ行かさせてくれなかった。もちろん偶然を装ってですけれど」

 うん? 外へ出させないようにしていた?

 「でも診療所では俺たちが勝手に行った事に文句言ってなかったか?」

 「あの時は確かにそうでしたが、後々他の人の話を聞いていたら考えが変わりました。休みの日だっていうのにわたくしは買い物に行こうとシュヴァリエと出かけたのですが、門で認証用の魔導具が機能しないから直るまで外出できなかったんです。それにセリウスも別の門で同じことが起こっていたと。それでも他の人たちに聞いてもそんなことは無かったと言っていたんです」

 「それはたまたまじゃろ?」

 「たまたまにしては時間がピンポイントすぎますけれどね」

 確かにたまたまと押し通しても、反論できる証拠が不十分なエクレレの方が不利ではある。

 何か他に決定的なものがあれば……

 

 「ですが偶然あの時セレニテが魔導具の違和感に気付いていたみたいで、彼女が調べたところあの時あの魔導具には特別な仕掛けがしてあったと言ってました。特定のマナを感知すれば誤作動を起こすようにと。その時にはもう遅かったですけどね。

 「それに、彼女の知識には本当驚かされましたが、それと同時にそんな特殊な仕掛けをするのは貴女しかいないと思ったんです」

 「なるほど、人を惹きつける魅力と勘が冴える奴という()()()の言ったことは本当じゃな」

 アイツ?

 「魔族の動きを知っているなら、あの日あのような偶然を引き起こす事にも納得できると思うのですがいかがですか?」

 「はぁー、確かにお主の勘は間違っとらん。わしはあの時お主らがこやつと接触せぬよう遠ざけた。お主らにはまだわしらと戦うにはちと早すぎるからの」

 「どうしてそこまでしてわたくし達に肩入れをするのですか?」

 確かに敵に渡した情報も最新ではなかった気がする。

 それに敵も最初から俺が「世界を均す者(シャイデマン)」の弟子と気付いてなかった。

 少しアバウトに教えていた、そんな風に思えてくる。


 その言葉を聞いて少しの間があったが、どこか思い出に浸るように答えた。

 「……いずれ来るその時になれば教えてやるわい。今はまだその時じゃないからの」

 また曖昧な答えを。

 「それじゃ答えとして物足りませんね」

 呆れ気味にエクレレも言葉を吐いた。

 だが全く気にした様子もなく、

 「まあ今はとにかくもっと頑張る事じゃな!」

 と笑い、その話を強引に終わらした。

 納得いかない様子の彼女だが、これ以上聞いても何も答えてくれないと感じたのか背をもたれかけ息を吐いた。

 

 「それでリーベストは何を聞きに来たんじゃ?」

 「実はこれからの学園の休みの期間中に魔法の特訓に付き合ってもらいたいのですが、よろしいですか?」

 その言葉にエクレレは正気ですか、と言わんばかりに後ろにもたれた体を起こしこちらを向いた。

 「ちょ、何を言ってるのですか?! 相手は敵なんですし、そんな敵に情報を与える真似してどうするんですか!?」

 「それはそうだが、君もさっき俺たちを殺させないようにしてるって言ってたじゃないか。だったら能力を敵に教えたところで俺たちがやられないと判断しない限り、さっきの話と同じで出し抜こうとするだけだ。それに俺がこの学園で学べるとしたら多分この人以外いないし」

 「それはそうかもしれませんが、だからといってそれはリスクが高い気がします!」


 「別に構わんぞ」

 カップのお茶を飲みながらアゼルはこちらを見て告げた。

 「何ならついでにお主ら全員見てやっても良いぞ」

 「な、一体何を狙っているのですか?」

 「別に教師として生徒を教えるだけじゃろ。何をそんなに身構えておる」

 「だって貴女はわたくし達の敵ではありませんか!」

 「確かにそうは言ったがそんなに心配なら別に来なけりゃ良いだけじゃ。それでも教えてもらいたいならわしは歓迎するがの」

 エクレレは簡単に俺たちを鍛えてくれると言うアゼルが信用ならないみたいだ。

 その気持ちはすごく分かるが、ソージュ先生が以前言っていた「やる事はやる人だ」という言葉を俺は信じてみようと思う。

 あの人は魔族ではないし、この人の隠している事も何か知ってそうだしな。

 

 「それでもお願いします。それに俺の魔法は使える人と場所が限られていますから」

 「うむ、わしに任せるがよい」

 「本気で言ってますの、リーベスト?」

 「疑う気持ちは分かるが、この人だって何か俺たちを見守る理由があるはずだよ。それに、本物の魔法を教えてくれるんだ、利用しない手はない」

 複雑な表情だったが、それでも彼女は頭が良いから納得してくれるだろう。

 そう思っていると、彼女は決意を固めた眼差しで、

 「分かりました、リーベストがそこまで言うんであればわたくしもその話に乗ります」

 と、そう告げるのだった。

 

 そのまますぐにみんなにこの事を伝え、次の日からアゼルの講義が始まった。

 意外にもセリウスやフランメも即答でOKの返事をもらった。

 セレニテは少し悩んでいたが、やはり知識を学びたいとの事で参加する事に決めた。

 シュヴァリエはエクレレの付き人だから当然参加だ。

 と言うわけで結局全員が参加する事になった。


 「意外ですね、セリウスも来るなんて」

 「正直信用はしていない。だが、今はそんなことよりも強くなることが最優先だ、なりふり構ってなどいられないさ」

 かけているメガネをクイっと上げてセリウスは質問に答えた。

 「フランメはあの人の事嫌いだから来ないかと思ってたけどな」

 「別に嫌いじゃないよ、ムカつくけど。でもやっぱ強いのは強いからやりがいがあるんだよね」

 そう言いながら早く戦いたそうにしている。

 こいつの場合は戦いが基準なんだろうか。

 それはともかくとして、以前に比べてだいぶ考えて毎日特訓しているように思える。

 毎朝組手をしているが木剣だけでは普通に負け越しだ。

 今だったら前ほどこのロリババアに圧倒的に負けるってことはなさそうだけどな。

 

 「何じゃお主ら、ずいぶんやる気じゃの」

 予定時間より遅れて登場したロリババアはあくびをしながら降りてきた。

 場所はいつもの実技棟ではなく彼女の部屋の下にある大きい扉がある場所だ。

 ここは広い空間で外部から人が入ってくる心配もない。

 「どうしていつもと違う場所なの?」

 「ここの方がちょっと都合が良いんでな、能力をバレたくない奴もおるからの」

 そう言って俺の方を見てくる。

 「それにここはあそこと一緒で魔法の対策もバッチリじゃから思いっきりやっても壊れん。じゃから安心するんじゃ」

 そこまでしてこの扉を守るほど扉の奥に何か重要な物でも置いてあるんだな。

 一体何が隠されているのやら。

 「さて、とりあえずお主らは何を教えて欲しいか決まればわしに何でも聞いてこい」

 こうして夏休みの特訓が始まった。


 −−−


 いざ始まってみると、この人はいつものような軽いノリ、ではなく真面目に俺たちに向き合ってくれていた。

 「お主は魔法のコントロールが上手いが所有しておる魔力が少ないから、もっと消費を抑えるよう意識して無駄遣いを減らすんじゃ」

 「治癒魔法はそんなに曖昧にやっとっても時間と魔力の無駄じゃ、もっと的確に治したい箇所だけをやるようにするんじゃ」

 「サポートが得意なんであれば防御魔法(ブルク)にもっと力を入れてみてもええじゃろうな」

 それぞれの伸び代を教え具体的にどうすれば良いかと話してくれる。

 こうやってみると普通に良い教師なんだな。

 「なんかここまで親身だと逆に怪しいよね」

 フランメもこの態度に怪訝な表情をしている。

 「気になるのはしょうがないけど、ちゃんと教えてくれるから技術だけでも学べば良いんじゃないか?」

 「本当に一体何考えてるんだろう」

 そう疑ってはいたがアゼルに手招きされるとそんな事どうでもいっかといった感じでアゼルの元へと向かった。

 何が正しいかなんて事はそのうち分かる事だからな。

 それまでは出来る事を必死にやるだけだ。


 −−−


 「よし、じゃあ今日はここまでじゃ」

 みんなゼーゼー言って疲れているが、ロリババアは全くそんな様子を見せなかった。

 俺たち6人の相手をしていたのに、やはり化け物だな。

 「お主らにはちゃんと言っておくが、わしは確かにお主らにとっては敵かもしれんがこの学園の長でもある。教える事は当たり前じゃから何でも聞きに来るとええ。そして今後成長すればいずれこの扉の先が分かる時がくるかもしれんからの」

 そうやって後ろの扉を指さす。

 「その扉の中には一体何があると言うんですか?」

 セリウスが質問する。

 「それはまだ言えん。知りたければ強くなる事じゃな」

 いつも通り曖昧な答えを告げて自室へと戻っていった。


 「実際みんな今回の事どう思ってるんだ?」

 俺はみんなとの帰り道に尋ねてみた。

 「確かに怪しさはあるが、だがあの人が俺たちの事を育てたいと思っている事は伝わった気がする」

 「しかもわたくし達が学園では学べない事まで教えてくれますからね」

 「でも油断しちゃダメだから。ちゃんと他の仲間達に私達の能力の事とかバラすかもしれないんだし」

 「そ、そうですね。裏で本当は情報収集のための可能性だってありますし」

 「お互いの言ってる事はどちらも正しい。気を付けつつ対策を練っておくべきだろう」

 各々思っていることを話す。

 みんなやはり信用と警戒が半々くらいと言ったところだ。

 逆に言えば敵なのに信用できる事自体が少しおかしいんだがな。

 俺も心の中でそう思っている所がある。

 やはり考えれば考えるほど謎な人だ。

 

 こうして夏休みの一日が終わった。

 思ったよりも疲れた。

 気を使っていた部分があったのだろうかとも考える。

 これからはこんな特訓の日々が続いていくのだろう。

 貴重な長期休暇が潰れていく事だけが今分かっている事だな。

 









 

 

 


お待たせしました、三章です!

のほほんな特訓回からですが段々と夏の空のように不穏になっていく王都でどのような物語があるのか。

是非お読み頂けると幸いです!

今後ともよろしくお願いします!

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