第二十三話 VSクランプス 前編
今日のお話は2話掲載になります。
後編はこの後9時ぐらいに投稿します。
「ところで誘拐犯がどこに行ったかなんてリーベ分かるの?」
街の中心部に向かって走っている時にフランメが尋ねてきた。
「とりあえず商会に行って手掛かりを探す。あとはまあ、何とかなるさ」
「何か適当じゃない? 本当に大丈夫?」
「最悪俺が苦労すれば良いだけさ」
疑問に満ちた表情で俺の方を見てくる。
正直こればっかりはやってみないと分からないことだからな。
そうこうしてる間に商会に辿り着いた。
中はヘンドラーが攫われたことで大パニックに陥っていた。
とりあえず何か当時の状況を知っている人がいれば話を聞きたいが。
そんな暇も無いほど慌ただしい。
そんな中、やけにソワソワしている人物が目に入る。
(慌ただしいのはわかるが、あれは流石に不自然だよな)
「ん? リーベ、ちょっとどこに行くの?」
俺はその人物に向かって歩いて行った。
「あの、すいません。ヘンドラーさんって一体どこで攫われたか知ってますか?」
その言葉を聞いて男は少し動揺した感じだったが、すぐに落ち着きを取り戻してこう告げる。
「いや、俺も分からないんだ。 」
「本当ですか? 少し挙動が変ですよ? それにどうしてそんなに動揺しているのですか?」
少し強引だが男の素振りを大袈裟にして質問をしてみた。
違う人なら何言ってんだこいつみたいな顔をするだろう。
だが、もし何か知っているなら必ず自分は違うと否定してくる。
「何も知らねえんだって、ったく俺だって忙しいんだ」
否定に早く逃げたい心理が働いて会話の拒否か。
俺は彼の目を凝視した。
すると視線が俺から少しだけ外れる。
恐らくビンゴだな。
放火犯じゃあるまいのにどうしてこんなところにいるんだか。
まあここまで来たらあとは軽く追い詰めるだけでボロが出るだろう。
「本当に何も知らないんですね?」
「だから知らねえって言ってんだろ!! 何だってんだてめえはよ」
「失礼しました。ヘンドラーさんは自分の伯父にあたるので、攫われたと聞いて黙っていられないんですよ」
暗く低いトーンに強い視線で男を睨んだ。
すると彼の目に動揺が見えてくる。
「それが何だってんだ、俺には関係ないだろ!」
「関係あるんですよね。なので少し失礼します」
「な、何をするつもりだ!?」
「大丈夫です、ちょっと辛い思いをしていただくだけですから」
そう言って俺は男の鳩尾を殴りそのまま時間魔法を使った。
「時間持続」
殴られた痛みがずっと感じられるようにする。
一種の拷問みたいな感じだ。
一瞬の出来事の体感をずっと長い時間受け続けているかのようにするこの魔法はこういった事にあまり使いたくはないが、そうも言ってられないので手段は問わない。
みんなを連れてこなかった理由のうちの一つにこの魔法の存在があった。
多分セリウスにはドン引きされそうだからな。
フランメもちょっと引いている。
良いんだ、毒には毒ってやつだ。
「リーベってこんなえげつないこともするんだ」
「必要悪ってやつだ。俺だって本当は使いたくないよ」
しばらくすると男の顔色が悪くなってきた。
そろそろ限界か。
魔法を解くと、男は胃から吐瀉物を吐き出した。
「さて、これで何か話す気になれましたか?」
俺は笑顔で問う。
それに恐怖したのか、男は素直に白状してくれた。
「それで、ヘンドラー伯父様を誘拐した犯人はどこへ逃げたんですか?」
「今は多分王都の外だ。北東地区の人目の付かないところへ行くって言ってたから」
「なるほど、情報提供感謝します。それと、少々手荒だったことは謝ります」
そうして男にお金を渡して俺たちは商会を後にして北東方面の出口に向かった。
王都の出口についた頃にはもう夕方になっていた。
日が暮れると厄介だ。
それまでに何とかして探し出さないと。
俺たちは門番の人に尋ねてみた。
「すいません、昼から夕方にかけて何か怪しそうな人たちを見かけませんでしたか?」
「怪しい人? うーんちょっと見てないかな?」
「そうですか、ありがとうございます」
「ここからどうするの?」
「鼻の匂いで何か分からないのか?」
「私は犬じゃないんだけど。何で急にふざけるのよ」
「いや、ちょっと聞いてみただけだよ」
すると右肩をバシッと叩かれた。
結構強めに叩かれた。
「痛いじゃないか」
「ふざけるのが悪いんでしょ。で、本当にどうするの?」
どうするか、この王都から近くて人目がつかなさそうな所。
盗賊がアジトに使っているような場所。
待てよ、北東には確かこの先に湖がある。
そして怪しい場所はこの先に……ある。
湖から少し王都側に向かい、街道から外れて少し離れた所に確か使用されてない建物があるってセリウスが言ってた気がする。
かつて宿として利用されてたが観光客が増え、湖の畔に宿が建てられ始めたことにより少し離れた場所にあるその宿は今は建物だけ残っているって。
そこは今は誰も近寄らない廃墟になっていると。
俺はそこへ向かった時の状況を知るために「未来視」を使う。
魔力を込め、そこに辿り着くまでの経路を何通りかシュミレーションし、その時の自分から情報を得る。
その経験分の情報が頭に流れ込んでくるので、あまりやり過ぎると人間の脳じゃパンクして気を失ってしまう可能性があると昔師匠に教わったことがあるので必要最低限だけの未来を確認する。
「ふぅー」
「何か分かった?」
「ああ、敵の居場所と人数は確認できた。それに朗報だ、敵に魔族がいる」
その言葉で彼女の闘争心に火が点いた。
「そっか、じゃあ早く行こうよ」
「ああ、だがすまない、もう少しだけ休ませてくれ」
俺は酷い頭痛と鼻血が出ていた。
「え? 大丈夫?」
「ここまで未来視を使うのは初めてだったけど、師匠の言った通り反動が出たがここまでとは思わなかった」
便利な能力ほど使い勝手が悪いのは少し残念だ。
時間を少しロスしたが、俺たちはヘンドラー救出に向けて再度出発した。
先程までは明るかったが、今では薄紫色の空が広がっており、夜が近づいている事を示している。
いくら整備されていて安全と言われている道でも夜になれば魔物が現れることがある。
無駄な体力だけは使わないようにしなければ。
とにかく全速で目的地である廃墟の宿に向かった。
「一体どうして俺をこんな所に連れてきた?」
男、ヘンドラーは廃墟と化した建物にいた。
「思ったよりも冷静だな。流石は大商会を束ねてきた人間だけある」
廃墟の中でヘンドラーと一人の男の会話が響いている。
「人間? ……そうか、貴様は人間の姿をしている魔族か」
「ほう、よく知っているじゃないか。そう、私は主人サタナス様に仕える魔族軍の幹部であるクランプスだ」
クランプス、男は誇らしげに自らをそう名乗った。
「なぜこんな事をする?」
「答えは簡単だ、お前が私の計画の邪魔をしたからだ。本来であればお前が買い占めたあの薬を王都でばら撒き、何も知らない人間共がそれを飲んで魔物になるその様子がたまらなく美しいと思わないか? しかし最初にばら撒いたやつは失敗でね、魔物自体が弱くて簡単に倒されてしまった。だが今回のは違う、サタナス様から頂いた『魔王の血』があればもっと強力でもっと美しいものが生まれると、そう思っていたのだ。だがその薬を買い取られ、私の楽しみを奪ったお前は排除せねばならん。あの美しさをもう一度取り返すためにもな」
こいつは一体何を言っている。
ヘンドラーは理解に苦しんだ。
「……お前の考えは腐っている」
そしてヘンドラーは魔族のその思いを一蹴した。
「腐ってる、だと? お前如き人間に私の何が分かる!? お前達みたいな群がるだけのハエどもが私たちみたいに強く美しいものになれるんだぞ! それのどこが腐ってるって言うんだ? むしろお前達人間を私たちと同じ存在まで高めてあげてるんだぞ? その素晴らしさがどうして分からない? 普通感謝するべき所だろう?」
矢継ぎ早に自分の感性を押し付けてくる。
ヘンドラーは、この魔族とはわかりあう事は出来ないと悟った。
ならばなるべく時間を稼いで助けを待ったほうがいい。
下手に刺激するのは危険だと感じた。
「質問を変えさせてもらおう。お前達はなぜ我々人を魔物に変えたがる?」
時間を稼ぐためだが、この事はどうしても聞きたかった。
「その質問には答える必要がない。だがせっかくだ、冥土の土産に教えてやろう。このポーションを使いお前達人間を魔物にした後、そいつらを王都で暴れさせるつもりだ。そうしてその混乱に乗じて第一王子と王を始末し、第二王子を新しい王にする。これが私たちの計画だ」
「サクレと王の暗殺だと? なぜそんな事を!?」
「それは私たちがこの国を支配するためだ。あの第二王子は兄への劣等感で恨みを持っており、私たちが唆すだけで簡単に操れる貴重な人間だ。王女も考えていたが、あいつは少し疑り深い性格で計画には邪魔な存在になると判断した。だがそれも今はアゼル様が監視しているから何も心配はいらないがな」
「なぜそんな回りくどい事をする必要がある?」
「質問の多い奴だな、だが今は気分が良いから話してやろう。私たちは過去に何度もこの世界の支配を試みてきたが、全て『世界を均す者』に邪魔をされてきた。しかしあいつらはあくまでも世界の均衡を保つための存在だ、俺たちが全滅させられることもなかった。そこで考えたのさ、この世界を支配するのに武力だけでは奴等が邪魔になる。そこで魔王様は封印前に私たちに教えてくれた、恐怖や実力で思考をコントロールし、何も抵抗をさせない方が良いと。それを良しと思える世界であれば奴等も手出しはしないと。そしてその計画は順調だ、今お前達人間共の魔法力はアゼル様によって低下している事すら気付かずそれでも魔法に頼った生活に慣れている。そんな中強い魔物が王都で暴れてみろ、何も出来ないだろう? そこで私たちが人間の姿で魔法力を見せつけ倒せばお前達は私たちに歓喜を示す。そうして国を乗っ取った後は魔族とバレても問題がないよう徐々に逆らえなくしていけば支配の完成だ」
ここで疑問に思うことがあった。
どうして魔族にここまで回りくどい計画を立てれたのか?
奴らは知能自体高いがそこまでの考えに至るほど賢くはないはずだ。
いや、今はそんな事を考えている暇はない。
この事を伝えるまで死んでしまうわけにはいかない!
力強い眼差しで睨んだ。
「そんな事、できると思っているのか」
「当然だ。ん? その眼、気に食わないな。まさか助けが来るなんて思っていないだろうな? ここは人目がつかない場所だし、ましてやもう夜だ。真っ暗の中こんな所まで来るやつなんているわけがないだろ」
確かにそうだ。
こんな所に来る奴なんていないだろう。
誰でもいい、せめてコイツらの企みさえ伝えることが出来れば……。
「クランプス様、大変です!!」
「何だ、騒がしいぞ」
「それが、我々のこの場所に侵入者が!」
その言葉を聞いた瞬間はとても嬉しかった。
だがどうしてこんな場所に気付けたんだ?
いや、今はそんな事どうでも良い。
ヘンドラーは希望を持った。
「そんな奴らとっとと蹴散らせば良いだろう」
「そ、それがとんでもなく強いガキ共で……」
「ガキ? 何をふざけている?」
「いえ、ふざけてなんか……」
バゴーン!!! と強烈な物音と共に扉が吹っ飛んだ。
そこに現れたのは二人の少年少女だった。
「ようやく着いたね!」
俺はゼーゼー言いながら膝に手をついていた。
こいつのスピードと体力はバケモンだ。
ついていくので精一杯だった。
「何これくらいで疲れてんのよ、ちゃんとしなさいよ!」
「いくら罠がない、って言ったって、飛ばしすぎだろ!」
俺は息も絶え絶えになりながら悪態をついた。
フランメは全然疲れてるようには見えない。
「リーベがいるから強気なの。信頼してるんだから、ちゃんとしてよね」
後半、ちょっと照れくさそうにボソボソと喋っていた。
まったく、素直じゃないな。
「分かった、行こう!」
そのまま廃墟の宿に向かって突き進んでいく。
ここからは敵のお出ましだ。
俺は未来の出来事を予測し、それをフランメに伝えつつそのまま突っ切っていく。
「この先敵が三人、それぞれ魔法を放ってくる!」
「オッケー、じゃあ私の新魔法の出番ね!」
しばらく走ると、敵が三人魔法を放ってきた。
それを難なく二人ともかわし、そのままフランメは魔法を放つ。
「螺旋炎!」
炎をそのまま螺旋状に放出する魔法だ。
本来は中級魔法の一種だが、彼女独自のオリジナルとして手に発生させた炎をそのまま操っている。
だからスピードも威力も普通の螺旋炎とは違い、彼女の拳の振り方で変化する。
なんて言うか型にハマらない魔法ばっか使うな。
まあでも操るまで相当魔力のコントロールを頑張っていたからな。
威力自体は炎拳より劣っているが、射程距離は格段にアップした。
そのまま二人で敵を蹴散らし、どんどん先に進んでいく。
そして建物の前に辿り着いた。
俺はここから未来視を使用しながら中に入る。
未来は無数にあり、常に状況は変化する。
致命的なミスを避けるため、多少の無理も覚悟の上だ。
しかしどうした事か、敵はまだいるが俺らの相手ではなかった。
(一体どういう事だ?)
ここには間違いなくヘンドラーを攫った敵がいるはず。
あの王都で誰にも気付かれずに外に連れ出すなんて並大抵の奴では出来ない。
何を企んでいる?
そう思いつつ未来視をしていたが襲ってくる未来が視えなかった。
俺は魔法を解除してヘンドラーがいる部屋の扉を開けようとフランメに目で合図をした。
そしたらなぜかフランメがその扉を吹っ飛ばしてしまった。
「俺が開けるって意味だったのに、どうして吹っ飛ばすかな? 巻き込んでたらどうするんだよ?」
「だって私に『頼んだよ』って顔だったじゃん! だからやっても大丈夫なんだなって思ったの!」
言葉足らずここに極まれり。
「これはこれは可愛い子供達がきたものだ。ここは遊ぶ所じゃないのだがな」
「リーベスト、それにフランメ、何でお前達がここにきた!?」
「ヘンドラー伯父様を助けるためですよ」
「それと、そこの魔族をぶっ飛ばしにね!」
「ほう、私が魔族である事を見抜いているとは。だがそれなのにどうしてここに来たのかな? 子供が遊びで戦って勝てる相手じゃないと教わっているだろう?」
「そうだ、お前達今すぐ逃げるんだ! 私の事は大丈夫だから!」
必死に訴えかけてくるヘンドラー。
だがそれで素直に逃げる俺たちじゃないぜ。
主にフランメの事だが。
「とりあえず奴を倒さないと意味がなさそうですから。ここは僕たちがやります」
「不安だと思うけど、任せてください!」
「ふはははは、お前達が私を倒す? それがどんな意味かわかって言っているのか?」
「フランメ、ヘンドラーさんを安全な所へ連れていく。その為に止めるから一発ぶちかましてやりな」
「オッケー、それはテンション上がるね」
フランメはニッと笑った。
「どうやら痛い目にあわないと分からないみたいだな」
魔族はジャラジャラと魔法で鎖を作り出した。
「ヒィッ!」
それは悍ましいオーラを纏っており、そばにいた男は尻餅をついた。
今まで眼中になかった男を見て何か思いついたのか、ニチャリと笑った。
「私が相手をしてもいいが、それだと面白くはないな」
そう言って懐から何やら怪しげな液体を取り出し、そばにいた男の口に流し込んだ。
するとドクン、と言った音が聞こえ、次第に男は形を変えていく。
「が、あああ、ぐあああアアアア」
「ああ、美しい。これぞ私が求める美だ」
これが美しいだって? 冗談じゃない。
あいつキチガイだな。
だがこの状況で敵がもう一体増えるとはな。
それでもまずやる事はヘンドラーの救出だ。
「いくよフランメ、時間は持って数秒だからな!」
「いつでも準備いいよ」
「こそこそしても無駄だ! さあ、お前達も美しい姿を見せてくれ!」
「残念だけど、そのご期待添えするのは無理だな」
魔力は十分集まった。
その魔力を解放し、魔法を放つ!
「時間停止!!」
俺たちの周りに時間が止まった空間ができ、俺とフランメだけが動けるようになった。
そのまま俺はヘンドラーを俺たちの後ろに運び、フランメは全速力で魔族に接近し炎拳をぶち込んだ。
「!??」
そして魔法が解除され時間が動き出す。
「どうだ?」
「だめ、もっと威力込めないと貫けなかった」
「これは、いつの間に俺はこんな所に?」
「説明は後にします。今はそんな余裕がありませんから」
煙が晴れると、全身やけどをしたクランプスが現れた。
「いつの間に、この私に攻撃が? たかが人間が、私にダメージを与えるなど、そんな事あってはならない!」
ブツブツと独り言を言っているが、その間に体の傷が癒えていく。
「やっぱりあのすぐ回復するやつ鬱陶しいよね」
「ああ、だが無限ってわけではないはずだ。それまで攻撃を叩き込んでいくしかなさそうだ」
俺とフランメは少しずつ戦いの中で敵を分析していき、弱点を見つけようとする。
戦いに関しては、彼女の勘も信用に値する。
ただ、目の前の魔族は怒りで頭に血が上ったのか激昂した。
「お前達人間如きが!! この美しい私に!!! 傷をつけたなんて、断じて許さんぞ!!!!」
溢れ出る殺気とオーラで息がしにくい。
さて、ここからが本当の勝負だ。




