第二十一話 解決への手掛かり
「リーベ、私、魔力のコントロールをもっと上手くなりいたいの」
ヘンドラーとグレンツェと出会った次の日の早朝、学園内にある実技棟に来るといきなりそんな事を言ってきた。
今までは細かいのは苦手だと言って、あまりきちんとやって来なかったが、昨日のグレンツェの言葉で考えを改めたみたいだ。
「分かった、じゃあ難しいと思うけど、フランメも自然のマナから魔力を使う練習をしてみよう。そうすれば魔力のコントロールもできて、違ったマナの使い方が見えるかもしれないし。けど、フランメはそのデカい魔力で攻撃するのが合っているんだし、その個性は大事にしよう」
それに一つ分かった事がある。
ロリババアはマナを魔力に変換する時に、自分を通さずそのまま自然に流れているマナから魔力に変換して魔法を放っていた。
これが出来るなら対象の死角から魔法を発動させたり出来るかもしれない。
自分の魔力を使う時もそれができない事はないが、やはり照準を合わせるのに少しリスクを伴ってしまう。
どっちにしろ難しいのだが、どうせなら難しい方にチャレンジしても良いと思う。
大切なのはイメージだからな。
フランメにもやり方を教え、実際にやってみてもらう。
ただ、やはりイメージが掴めないみたいだ。
「リーベこれ本当に良く出来たよね。私ちっとも分からないんだけど」
「イメージが大事だからな。自然のマナを何か分かりやすくイメージ出来るものに変える、って言った方が良いのかな?」
「うー、何それ、余計分からないよー」
「おはようございます。二人ともお早いですね」
エクレレとシュヴァリエがやってきた。
シュヴァリエは軽く頭を下げた。
「おはようエクレレ、シュヴァリエ。二人も来たんだ」
「ああ、おはよう」
「毎朝早起きは欠かせませんのでついでに自主練をと思って来ましたの……あら、どうやら落ち込み期間が終了したんですね」
フランメを見て微笑みながら軽口を飛ばす。
それにしても人の機微をよく見ているなと感心した。
「はぁー? 別に落ち込んでなんかないし。
「わたくしには、もう終わったみたいな顔をしているように見えていましたよ?」
「あれはただ悩んでただけだし!」
ギャーギャーと朝から元気な二人だ。
「おはようリーベスト。あれは一体何をやってるんだ?」
「さあな。お互い仲良しって事なんだろ」
「やれやれ」
何だかんだで5人集まりそれぞれ練習を始めていく。
そんなこんなで今日もまた一日が始まった。
それから毎朝と毎夕はみんなで魔法の練習をしていた。
シュヴァリエは魔法が扱えないので、魔力コントロールでストレスが溜まったフランメと共に組手を交わしたりしていた。
その時に分かったが、彼はどうやら剣術二大派閥の中の聖剣流の使い手らしい。
動きも剣捌きもこの年にしては優れている方だと俺は思う。
俺を敵対視してるのは俺がリヒャルトの弟子だからだろうか?
それともただ単にマウントを取りたいのか。
もし私怨だとするならそれは良い迷惑なんだけどな。
「そういえば昨日ジィーベン商会に行くって言ってたよな。何をしに行ってたんだ?」
「昨日は今王都で問題の魔物に関することで、ちょっと協力を仰ぎにな」
「例の事件か。確かに不安がないわけじゃないが、それにしてもどうして商会なんだ?」
「あの魔族の方の学園長が言ってたんですよ、事件を調べるならこの国の商業を深く調べろと。それで調べに行ったというわけですね」
エクレレは話が早くて助かる。
俺は首肯した。
「それで、どうだったんだ?」
「協力してもらえる事にはなった。事件が起こった半年前〜一年前までの新商品を改めて調べてくれるらしい。それでも数は膨大だから時間がかかるとは思うがな」
「それでも何も手掛かりが無いよりかマシではありますね」
「それと、その辺りから登録をした商人もギルドにかけあって調べてくれると言っていた。とりあえず何か情報が入るまでは俺たちも何が起きても良いよう特訓するだけだ」
全員が頷き、特訓を再開する。
(早めに見つかってくれれば良いんだがな。)
心の中でそう考えていた。
−−−
それから二ヶ月が経った。
あれから一度もヘンドラーからの音沙汰はない。
調べるのに時間がかかっているのか、それとも手掛かりが消されているのか。
相手もそう簡単に尻尾を掴ませてはくれないみたいだ。
だがあまり悠長にかまけてもいられない。
あのロリババアが言った通りなら敵がいつ動いてもおかしくはない。
そうなる前に早く見つけ出さないと。
しかし考えても何も思いつかない。
(しょうがない、気分転換に本でも読むか)
俺はその日の夕方、図書館に寄る事にした。
大体いつもは人がそれなりにいるぐらいだったが、今日はなぜか人が多い。
(何だ、人が多いな。人が多いと落ち着いて本が読めないんだよな)
俺は昔から人が多いところで何かをするのが苦手だった。
視線に気を配る癖があるのであまり集中できない。
見られてるかもって思ってしまう。
とりあえず商業に関する本を取り、空いている席に腰掛けた。
しばらく読んでいると、不意に声が聞こえた。
「あの、ここ、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ」
そう言って俺の前に座った彼女はセレニテという女の子だ。
この二ヶ月で図書館に通ってるうちにお互いそれなりに仲良くなった。
彼女も少し内気な面があり、この人の多さに少し気まずそうな表情だ。
「そういえばセレニテってよく魔導具の作り方に関する本を見ているよね」
「あ、そうなんです。私、実は色々魔法の道具に興味があって、その、最近はポーション作りにハマってるんです」
「ポーションか。作るのって結構大変なのか?」
「そうですね、なかなか思い通りに行くことがなくって。もっと効果の高いものを作らないと、って思うんですけど」
彼女はどうやら魔導具についての知識があるみたいで、週に一度は実験室を借りて籠ったりするらしい。
今はポーション作りに勤しんでいるようだ。
「今度そのポーションを見せてもらっても良いかな?」
「え!? その、本当にたいしたものじゃ無いですよ?」
「大丈夫、俺も少し興味があるだけだから」
「……分かりました。今度作っておきますね」
ここで彼女がある話題を切り出してきた。
「あの、そういえば最近魔物がよく現れるって話、よく聞きますよね」
「そうだね。実は今この王都に流通しているものの中に人が魔物に姿を変える何かがあるんじゃないかって俺は予想してるんだよ」
「そ、そうなんですね。本当、怖いですよね」
「どうにかして原因を突き止めたいんだけどな。なかなか尻尾が掴めないんだよ」
すると、セレニテが何か心当たりがあるかのように考え始めた。
「……うーん、ひょっとしたら、何かの薬かもしれないですね」
彼女は顔に手を当ててそう言った。
何か根拠がありそうだ。
「そう思う理由を聞かせてもらっても良いかな?」
「私、魔導具の本が好きでよく読んでるんですけど、最近読んだ本曰く〈魔族の血〉って特別みたいで、その血を人間が摂取すると人間の身体に変化を与えるって書いてあったので、意外とそういうものだったりするのかなって」
なるほど、魔族の血液か。
それに身体変化を与える、か。
「それが魔物に姿を変える根拠はあるのか?」
「えっと、それは分からないです。ただ、魔族の組織自体私たちとは基本合わないってその本には書いてありました。でも、その血に適合すれば魔族みたいに力が得られるって」
それを飲むと力が得られると。
なるほど、その線は有り得るかもしれないな。
魔族はこの世界を支配したがっている。
そのために仲間を増やすため、自らの血を使っているとしたら?
ひょっとして、今の魔物が現れるのは魔族がその適合者を探しているのか?
(いや、今は考えても仕方ないか)
しかし、彼女の意見は一応覚えておこう。
「今日はありがとう。なかなか興味深い話が聞けたよ」
「いえ、あくまでも本に書いてたから気になっただけなので……」
「いや、助かったよ。これで違う考え方が出来るからね」
そう、薬とかでこれを飲めば力が湧いてくるとか言ってる商人、もしくはその事を売りにしている商品があれば答えが見つかるかもしれない。
そこまで簡単かは分からないが。
俺は彼女に礼を言って図書館を後にし、そのまま街へと繰り出した。
時間的にはちょうど夕飯時だ。
今日は俺一人なので、しばらくぶらぶらしてると見知った姿の子がいた。
「グレンツェ、今日は一人か?」
「あ、リーベ! うん、そうなんだ。今日は父様も王都から出かけてて僕一人なんだ」
グレンツェとはお互い空いてる時間で魔法を教えたりしていてよく遊ぶことがある。
グレンツェは魔法に興味があるみたいで、魔法に関することには全力だった。
センス自体は悪くないので、教えている側としても楽しくやれている。
「今から晩飯か?」
「うん、そうなんだ。でも一人でどこに行こうか迷ってるんだ」
「じゃあ俺と一緒に食べないか? 俺も今日は一人なんだ」
「本当? じゃあ一緒に食べようよ!」
こうして俺はよく行く食堂の店に足を運ぶ。
ここは学生御用達のお店で、定食は値段が安く、量も多く、味もまあまあといった感じだ。
言ってしまえば普通のご飯屋さんだな。
給料のない学生にとってはありがたい存在である。
店に入るとちょうど壁際の席が空いていた。
そこに二人で座り、注文をする。
程なくして、頼んでいた定食がテーブルに運ばれてきた。
「それで、ヘンドラー伯父様は何か手掛かりが見つかったのか?」
「それが全くと言っていいほどなんだ。そもそもの数が多いのも原因ではあるけど、うちを通してなくて他の所から売りに出してる可能性もあるんだ。そうなるとギルドに聞かないと分からないし、そうするともっと時間がかかると思うんだ」
グレンツェは残念な顔をしてそう教えてくれた。
「結局有力な手掛かりは未だ見つからず、か。なかなか奴らも用意周到だな」
「ごめん、本当はもっと力になりたかったんだけど……」
「仕方ないさ。色々手伝ってもらってるだけでありがたいよ」
俺はグレンツェを励ました。
そういえば、と俺はセレニテの言葉を思い出した。
「そういえば学園の知り合いが言ってたんだけど、魔族の血と適合すれば強力な力が手に入るって聞いたんだが、最近何かそういった力が湧いてくるみたいな事を謳ってる薬か何かをどこかで見かけたりしてないか?」
「薬? 薬かー。あ! そういえばこの前王都の南東地区で人の出入りが多いポーションを売ってる店があったよ。元々マジックポーションが有名なお店だけど、そこに行けば何か分かるかもしれないよ?」
ポーションが売ってる店か。
確かに調べてみる価値はありそうだ。
ポーションならセレニテがよく知っているから彼女を誘ってみよう。
あとは、博識のセリウスにも聞いてみるか。
ご飯を食べ終えた俺達は、そのまま解散する。
今回はグレンツェにご馳走になったので、今度は俺が奢る約束をした。
「今日はありがとうね! 僕も何か分かったら連絡するから!」
「俺の方こそ助かったよ。今度そのお店に行って調べてみる」
こうして俺たちはそれぞれの方角へと歩みを進めた。
−−−
それから次の学園の休みの日に、俺とセレニテとセリウスの三人で例のお店に行く事になった。
二人も図書館で顔馴染みになっており、俺を含めた三人でよく本を読んだりしている。
セリウスも博識だから、お互いマニアックな話題で盛り上がったりもしている。
さて、店に着くとそれなりの人で賑わっていた。
「ここは有名なポーション屋じゃないか。ここのポーションは品質が高いから冒険者や騎士団の人とかもよく買いに来るっていう話だ」
「そ、それに、品数も多いから、勉強になるんだよ」
「実は、今日はポーションを買いに来たわけじゃないんだけどな」
「それはどういう事だ?」
「ちょっと事件のヒントがここにあるかもしれないって思ってな」
その言葉に二人の顔がびっくりしていた。
「だがそんな怪しい物なら普通売らないんじゃないか?」
「薬というなら、こうやってポーションだと偽って売っていても不思議じゃないと思っている」
「でもリーベスト君、あれは私の妄想だから間違っているかもしれないよ?」
「仮に偽って売っていたとしてもこの店の信用が落ちるだけだ。そんな事をするか普通?」
「少し語弊があったな。そうだな、何も知らずにその商品を売ってるとしたらどうだ?」
「学園みたいに魔族が騙しているって事か?」
「それを本当かどうか確かめにきたんだ。さあ、中に入ろう」
店の中は、数十種類の数の商品があった。
治癒系や魔力回復、その他にも解毒、解呪、身体能力向上といったものがあった。
その品数の多さに、セリウスもセレニテも物珍しそうに見ていた。
中には一つ100000トワーズもするポーションがあった。
一体そんなの何に使うんだろうと思った。
その店内に一際目立つところにそれは置いてあった。
「これは、初めて見る物ですね」
「お、あんたら学園の生徒さんかい? そいつは最近王都で流行り始めたポーションだよ。何でも飲むと疲れが吹き飛ぶってんでリピーターが多いんだ。どうだい、一つ買ってくかい?」
その言葉の中に気になる単語があった。
「飲むと疲れが吹き飛ぶ」と。
そんな物、単なる誤魔化しにしか過ぎない。
大切なのは、その裏に隠されている真実に気づけるかどうか。
そして恐らくこれが事件の元凶だと思った。
しかしこれだけ堂々と、しかもこの商品のリピーターが多いとなるとこの先さらに被害が増えるかもしれない。
ここの店員もこれが最近の事件の原因だと夢にも思ってないはずだ。
とにかく、これが事件の原因だという証拠をまずは確かめないと。
「おじさん、それを一つくれませんか?」
「はいよ、まいどー!」
商品を買って俺たちは店の外に出た。
「リーベスト、それが君の言っていたやつか?」
セリウスが怪しそうに見ている。
「詳しく調べてみないと分からないけど、恐らくこれがそうだと思う」
「だが、何が入っているかなんて一体どうやって調べる気だ?」
「今からこの商品の時間を巻き戻す。そして作られる前の状態にする」
「そ、そんな事出来るんですか?」
「やった事はないが多分大丈夫だ。イメージは出来る」
「本当に大丈夫なんだな?」
セリウスは俺をジッと見ていた。
その眼差しは俺を信頼してくれているようだ。
「じゃあ始めよう、時間魔法 『時間遡行』!」
瓶の蓋を開け魔法を発動すると、液体が波を打ち始める。
そしてそのまま液体は色が分かれ始め、初めは水色だったが次第に青と白の液体に分離し、そこから更に数滴程度の葡萄茶色の液体が出てきた。
「こ、これは!?」
「う、何か見たくもないです」
(何だ、この強烈な忌避感は?!)
見るだけで悍ましいものを感じた。
俺はすぐに元の状態に戻した。
「な、何だったんださっきのは?」
「あれはもう見たくないです……」
「あんなものみんな飲んでしまったのか。これは早急に知らせる必要がある」
まだ因果関係はわからないが、それは有識者に聞けばいい。
「俺はとりあえず学園に戻る。これが本当に原因かどうか聞いてくるが二人はどうする?」
「もちろん俺も行く!」
「わ、私も行っていいのかな?」
「構わないが、何を言われてもいい覚悟は必要だよ」
そうして三人で学園に向かった。
学園は休みだが、図書館とかは一応開いてるので、校舎の中には入れる。
そんなとこは見向きもせず俺たちは学園長のいる部屋に真っ直ぐ向かった。
「まさか学園内にこんな場所があったなんてな」
セリウスもセレニテもここに来るのは初めてか。
「ここはあの人の部屋だからな」
「あの人って誰ですか?」
「この学園の創始者みたいな人さ、そして、俺達の敵でもある」
「えっ?!」
俺は扉を開けた。
部屋に入るとその人は机に座って一人チェス盤と睨めっこをしていた。
俺たちが入ってきたのを確認すると、立ち上がってこっちまで歩いてきた。
「何じゃお主ら、休みの日じゃというのに随分忙しいの」
「実は聞きたいことがあって……」
俺が持っている容器を見て俺が何を言おうとするか理解したみたいで、
「それの中身について、じゃな」
「やっぱり知ってたんですね」
「まずはそこまで辿り着いたことを素直に褒めてやろう。して、何が聞きたいんじゃ?」
知っていたかどうかは聞き流された。
まあ、今はそれより聞きたいことがある。
「この中に赤黒い色の液体が混ざっていました。その液体を見た時に俺たちは強い忌避感を覚えました。一体それは何だか知りたいんです」
その言葉に一瞬眉間が動いたが、すぐに冷静になった。
「それはお主らには耐え難いものじゃろうな。何せ『魔王の血』じゃからな。普通の人間たちにとっては強い拒否反応が出るのも当然じゃ」
〈魔族〉のではなく、『魔王の血』。
「それを飲むと、俺たちは本当に魔物になってしまうのか……?」
事実を知り、強い嫌悪感をセリウスは示していた。
「すぐとはいかんじゃろな。初めは疲れが無くなって身体が軽くなったと錯覚する程度じゃろうな。じゃが摂り続ければいずれ限界を越して血が暴走し、『魔王の血』に侵蝕され、最終的に魔物に変わる」
「そんなもの、そんなものをどうして俺たちに買わせるつもりだ!」
「さあの? わしはリーベストには言ったがこの件には何も関わっとらんのじゃ」
「お前がやめさせれば済む話じゃないか……!」
「何を寝ぼけた事を。身内が勝手にやっとる事をどうしてわしが止めねばならんのじゃ? それにお主は勘違いしておるかもしれんが、元々この世界をわしらは支配しようとしておるんじゃぞ? むしろ勝手に人間がわしらの手下になってくれるんじゃ。これを止める意味がわしにはない」
「あ、あの、支配するって、それにあの子は一体何者なんですか?」
小声でセレニテが聞いてきた。
そういえば彼女にはまだこの学園の事やアゼルの存在についても教えてはいなかった。
「ごめん、それはまた落ち着いた時に話すよ。とりあえず、今あいつが言ってる事は本当だと思っておいてほしい」
「う、うん分かった」
「さて、他に何か聞きたいことはないのか?」
「では聞きますけど、あなたはあくまでもこの件には関わらないってことでいいんですよね?」
「ああ、あくまでもわしはこの件に関わるつもりはない」
少し含みのある言い方だな。
まあ良い、原因も分かったことだし、大体の目的も掴めた。
概ね予想通りではあったがな。
「分かりました。お休みの所失礼しました」
「お主はまさかこれで勝った、なんて思っとらんよな?」
「そんなまさか。これからが本当の戦いですから」
「なら良い。じゃがせいぜい気をつけるんじゃな、そう簡単に勝てる相手はおらんからの」
俺たちは何も言わずそのまま部屋を出た。
「今の話、聞いておったんか」
「——……」
「それはお主の好きにせい」
「———…………」
「うむ。では任せたぞい」
謎の人影はそのまま消えていくように部屋からいなくなった。
「さてと、これからが楽しみじゃ。これくらいどうにかしてくれんと約束どころではないからの」
「くそ!」
壁を拳で叩く。
どうやらさっきの事で苛立っているようだ。
セレニテはどうして良いか分からずオロオロしている。
「リーベスト、僕は決めたぞ。あいつらの好きにさせないためにもこの事件、何としてでも解決するぞ」
その瞳はやる気に溢れていた。
「もちろんそのつもりだ。そのためにみんなで力を合わせて頑張ろう」
「あの! わ、私も何か力になれることがあれば手伝うから」
「ありがとう、セレニテ」
さて、これでようやく戦いのスタートラインに立てたってところだな。
明日からまた忙しい日々になりそうだ。
「サタナス様、もう時期種は蒔き終わります」
サタナスと呼ばれた男は静かに腕を組み座っていた。
「そうか。しかし最近商会の連中の動きが騒がしい、嗅ぎつけられないように注意しておくんだな」
「はっ!」
そう言って一人の魔族がこの場から去っていった。
「何をしに来た」
「何じゃ、冷たいのー。せっかくの旧友がきてやったというのに」
すると今度はどこからともなく、一人の少女が現れた。
「そんなくだらない事のために来たのなら今すぐに帰れ」
「本当相変わらずよの。まあ良い、今日は良いことを伝えに来たんじゃからな」
それまで相手にしてなかった彼女に視線を向ける。
「何だ? 言ってみろ」
「奴らの弟子が今回の事件の事に気付きおった」
「……とうとう動き出したか、忌々しい。そうすると予定は早いが次の段階に進む時が来たようだな」
「今回のはどうするんじゃ?」
「今回失敗した所で特に問題はない。それでこの国の奴らが安心して警戒心が緩めばそれだけで上出来だ。最初から期待などしていない」
「まだまだこれからが本番と?」
「すでに次の種は蒔いてある。芽吹くまではもう少し時間がかかりそうだがな。それまではきちんとそいつを監視しておけ」
「心配はいらんぞ。わしを誰だと思っとる」
「じゃあ話は終わりだ。早くここから立ち去るんだな」
「はぁー、しょうがないの。それじゃあ失礼するでな」
アゼルは渋々帰っていくのだった。
サタナスは何も言わず彼女を見送った。




