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変転人生~唯一の異世界ライフを歩む物語~  作者: 風竜 巻馬
第二章 王都学園編 〜忍び寄る悪意〜
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第二十話 親子




 今日は学園の休日だ。

 こちらの世界に一週間といったものはなく、6日に一回の休日が設けられている。

 6日で一つのサイクルであり、そのサイクルが何回終わったかで時期とか季節を判断している。

 6日に一回の休みだと、30日で5日しか休みがないのはどうかとも思うのだが、意外にも批判は起こっていないのだ。

 これも前世との差であり、未だに慣れない部分である。

 それに、いちいち何回周ったかなんて数えるのが面倒くさくないか、と最初は思っていたがこれは意外と慣れるものだし、季節自体感覚的に分かるものだからな。

 ちなみに前世と同じで一年は365日ある。

 つまり60回のサイクルと、5日の年越し、年明けの連休日を経て一年の経過としている。


 話が逸れたが、その貴重な休日を使って俺はフランメと共にジィーベン商会にやってきた。

 いつもならこういう真面目な話がある時は嫌そうな顔をするのに、今日は素直に付いてきた。

 やはり心境の変化があるのかもしれない。

 さて、そんなジィーベン商会はこの王都の中央区のメインストリートにある。

 商会は一際大きいので、通れば一瞬でここだとわかる。

 中は一階と二階が吹き抜けになっていて、一階が商業ギルドの受付、二階が商会の窓口になっている。

 人が多く、世界各地からの商人が集まっている。

 俺たちは二階の商会の窓口に用があるので二階に上がると、そこにはカールが先に待っていた。

 

 「やあ、二人とも久しぶりだね」

 「カール兄さんもお元気そうで何よりです」

 「どうもお久しぶりです、カールお兄さん」

 今日は、カールにベルンハルトの兄であるヘンドラーを紹介してもらう事になっている。

 彼はベルンハルトに連れられて何度か会った事があるらしく、顔見知りでもあるので今回の事に対して便宜を図ってくれた。

 いきなり俺たちが突撃訪問しても相手にしてくれないのでここはお言葉に甘えて、兄の人脈を借りる事にした。


 それにしてもカールは立派な大人になった。

 もう17歳だからほぼ大人ではあるが、それでもだいぶ大人びて見える。

 「それで、学園生活はどうだい?」

 「楽しいですが、色々と問題がありすぎて大変です。ただこの事については後ほど話させてもらいます」

 今は人目が多く、どこに敵がいるかもわからないからな。

 「そうか、わかった。フランメはどうだい?」

 「私は、まだまだ自分が未熟だと思いました」

 彼女は静かにそう告げる。

 その姿にカールも訝しむが、俺はジェスチャーでフランメが言ってる事に否定を示さなかったのでカールも深く追求はしなかった。

 

 「とりあえず立ち話もなんだし行こうか」

 俺たち3人は受付の方に行き、受付の人にカールがこう告げた。

 「新しい商品についてお話があります。お時間頂けますか?」

 「——少々お待ちください」

 どうやらこれが合言葉のようだ。

 誰でも言いそうな言葉ではあるので、受付の人はちゃんと区別出来てるのだろうか?

 少し不思議だ。

 しばらくすると獣人の畏まった服装をした人が現れた。

  

 「これはカール様、お久しぶりですね」

 「ああ、久しぶりだねエレゴン。忙しいところすまない」

 エレゴンと呼ばれた獣人の男は俺たちを受付奥の別室へと案内した。

 「では、こちらで少々お待ちください」

 しばらくすると俺と同い年くらいの子が入ってきた。

 「わぁ、カールお兄ちゃんお久しぶりです!」

 その子は入ってくると、カールに飛びついた。

 ん? お兄ちゃん?

 「やあグレンツェ、久しぶり。随分大きくなったね」

 グレンツェと呼ばれたのは中性的な見た目が特徴的な子だ。

 カールの事をお兄ちゃんと呼んでたという事は——

 「初めまして、リーベストさん、フランメさん! 僕はグレンツェ・ドミニアンと言います! ヘンドラー家なので、ベルンハルト家とは従兄弟って事になりますね!」

 すごく活発的で印象が良い。

 それにこの見た目も相まって、第一印象で嫌いになるものはいないだろう。

 笑顔がとても眩しい。

 「こちらこそ初めましてグレンツェ、って呼んで良いのかな? 俺の事はリーベって呼んでくれ」

 「うん! 大丈夫だよ! 噂は色々な人から聞いてるしね! よろしくね、リーベ!」

 「どうも初めまして、私はフランメ、よろしく」

 フランメは少々戸惑っている。

 多分この中性的な見た目が気になっているのだろう。

 だがフランメ、こういうのは聞かない方がロマンなんだ。

 と、おかしな事を考えてしまう。

 「よろしくねフランメさん!」

 「私もフランメで良いよ」

 「わかった、そう呼ぶね!」

 本当に何て言うか、元気だな。

 元気の良さに圧倒されてると、カールが話を切り出した。

 「じゃあ挨拶も済んだみたいだし、伯父様の所まで案内頼めるかな?」

 「そうですね! じゃあ皆さん、こちらへお願いします!」


 部屋の奥の本棚の中から1枚の紙を取り出した。

 そこには紋様が描かれている。

 「それって魔法陣?」

 「そうですよ。父様の部屋に行くにはこの転移魔法陣を使わないと行けないようになっているので」

 なるほど、転移魔法陣か。

 中央大陸とクヴァール大陸の物資の流通にも使われている。

 こうする事で海路の費用がかからないし、海上で魔物に襲われることもない。

 この世界の商業においてとても大切なものだ。

 それを自分の部屋の行き来に使ってるのだから、豪華なセキュリティだし防犯対策は万全だな。


 ここで俺は気になった事を問いかけた。

 「それはグレンツェのマナにしか反応しないのか?」

 その言葉にビックリしたようだ。

 「さすがリーベだね! その通りだよ、ベルンハルト叔父さんが言ってた通り、魔法に関しては本当に天才的だね!」

 「それはどうも」

 グレンツェはキラキラした目で俺を見ていた。

 この純粋な視線が眩しすぎる。

 するとカールが視線で促してる事に気付き、申し訳なさそうに魔法陣を起動させた。

 「じゃあ転移するから、僕の近くにいてね!」

 そして魔法陣が起動し、俺たちはこの部屋から姿を消した。


 一瞬でさっきまでとは違う扉の前にきた。 

 転移を経験するのは初めてだが、なんかフワッとした感覚で慣れないと気持ち悪いところがある。

 「ウッ、なんか気持ち悪い」

 フランメも同じ感覚に陥ってたみたいだ。

 「最初のうちは気持ち悪いけど、慣れればなんて事なくなるよ」

 カールは何度か経験してるみたいでケロッとしている。

 「さあ着きましたよ。もう待っているみたいなので入っても大丈夫です!」

 そのままカールが扉をノックした。


 「入って構わないぞ」

 扉を開くと、そこには物腰の柔らかそうな人が座っていた。

 「お久しぶりです、ヘンドラー伯父様。今日はお忙しい中、時間を頂き感謝します」

 「別に大丈夫だカール。それに今日はプライベートだ、畏まることはない。それで最近の騎士団での調子はどうだ?」

 「なかなか大変な時がありますが、楽しくやらせてもらってます」

 「そうか、それは何よりだ。それで、その二人はお前の弟と妹か?」

 「こっちは弟で、もう一人がノインさんの娘です」

 カールは俺達に挨拶をするように促した。

 「初めまして、ヘンドラー伯父様。僕はベルンハルト家三男のリーベストと申します」

 「そうか、君がリーベストか。よくベルンハルトが君の事を褒めていたよ。魔法の天才だと」

 「それは恐縮です」

 「そして——」

 「初めまして、フランメ・アンファングです。今はドミニアン家の養子としてお世話になっています」

 フランメは丁寧に頭を下げた。

 「なるほど、君がノインの娘か」

 「父さんをご存知なんですか?」

 「ノインはよくうちの商会の商品を買いに来ていたからね。ベルンハルトとも仲が良かったから一応知り合いだよ。だけど、大変だったね、ノインの訃報を聞いた時は私も悲しかったよ」

 どうやら俺たちの事の情報は頭に入っているみたいだ。

 彼は穏やかな口調で、どこか聞いてしまうカリスマ性が感じられる。

 それに加えてこの当たりの柔らかい感じが居心地の良さを引き出している。

 たった数分だが、放たれているオーラでこの人がすごい人物だと思った。

 

 「それで今日はどういった用件かな?」

 「伯父様は最近王都で人が魔物に姿を変える事件をご存知ですか?」

 「その話はよく知っている。おかげさまで王都に人が来たがらなくて物資が滞っている。そのせいで売上が少し下がっているんだ。こちらとしても何とか原因を突き止めたいと思ってるんだがなかなか分からなくてな」

 「その事で実は一つ聞きたいことがあるのですが」

 二人の会話を遮って俺はこの前聞いた事を話す。

 「ほう、それは何かな?」

 「僕とフランメは魔族についてこの前、色々教えてもらう機会がありました。その時に魔族がその人を魔物に変える何かを、商業を通じて流通させているのではないかといった情報を教えてもらいました。魔族は人に姿を変えるものもいるみたいですし何か怪しい人の情報はありませんか?」

 これはあのロリババア(アゼル)が言っていた事に俺の憶測を足した言葉だ。

 もし本当なら、商人の中に怪し誰かがいるかもしれない。

 「確かに魔族が人に姿を変える話は聞いたよ。だからと言って区別がそう簡単につくものでもないだろう? そのために一人ずつ調べるというのは少し無茶がある。それにその情報を教えてくれた人はどんな人物だね?」

 「それは学園の先生です」

 「ふむ、しかし学園の先生と言えど情報に信憑性が無いのは確かだからな」

 確かに聞いた情報だけで根拠が示せたわけではない。

 あくまでも聞いた話と憶測にすぎない。

 もう少ししっかりと情報を集めておかないと協力はしてもらえなかったか。

 俺はそう少し反省した。

 

 「もし例えばですが、事件が起きた前辺りに新たな商品を売りに来た人とかを調べることは可能でしょうか?」

 カールがそう提案した。

 なるほど、それなら確かにだいぶ数が絞れる。

 「事件が起き始めたのは、確か半年ほど前からだったはずです。その半年以上前くらいに新商品と言って売りに来た者を探せれば見つけられるのではないかと思ったのですが」

 「それだったら、人物ではなく商品で探してみよう。その方がこちらとしては負担が少なくて助かるし、時間もかからないだろう」

 「分かりました、ご迷惑をおかけします」

 「いや、気にするな。この事件が解決しないとこっちとしても困るからな」

 

 有力な手掛かり自体は見つからなかったが、今後に向けて一歩踏み出せたと言ったところだろう。

 今日はやはりカールがいてくれたおかげで助かった。

 彼が助けてくれなかったらそのまま追い返されてたかもしれない。

 俺ももっと機転がきくようにしないといけないな。

 

 「それではこの辺りで失礼します。今日はありがとうございました」 

 ヘンドラーはこの後用事があるので、今回はここで帰る事にした。

 「ご苦労だった。何か分かり次第すぐに連絡を入れるからそれまでは待っていてくれ。グレンツェ、あとは頼んだよ」

 「分かりました、父様」

 こうして俺はヘンドラーに一礼して部屋を後にするのだった。


 「それにしても魔族が人に姿を変えてるなんて初めて知ったよ」

 グレンツェは興奮気味に語った。

 「実際私とリーベは見てるからね」

 「だけどその事実が公になっていないと考えると、やはり魔族側の誰かがこの国で情報をコントロールしている可能性があるかもしれないな」

 「奴らも単体では動きづらいと思いますし、誰かの後ろ盾があると思った方が良いのかもしれないですね」

 アゼルの存在も意図的に隠しているって事だろうしな。

 そういえば、エクレレが前に執政官が怪しいと感じるって言ってたな。

 彼女はよく人を観察する人間だから、その事も一応頭に入れておいた方が良いかもな。

 そう考えると、本当にどこに敵がいるか分からない。

 暗闇の中を手探りで歩いているような状態だ。

 一つずつ手掛かりを見つけて探していくしかないのだろうか?

 「じゃあ、俺はここで帰るよ。また何か分かれば連絡してほしい」

 「分かりました、カール兄さんも気をつけて下さい」

 「それと、フランメの事、ちゃんと見てあげてね」

 別れ際にそう耳打ちされた。

 いつも明るい彼女が今日はおとなしいので、カールも心配してくれている。

 俺は、「分かりました」、と告げ彼を見送った。


 「じゃあ、俺たちも帰ろっか」

 「うん、そうだね」

 「今日はありがとう、グレンツェ」

 「ううん、僕もリーベとフランメに会えて嬉しかったよ! そうだ、今度僕にも魔法教えてくれないかな?」

 そう言って俺より少し低い所からキュートな上目遣いで見てきた。

 やはり人たらしの天性の才がこの子にはある。

 とても危険な人物になり得るなこりゃ。 

 「分かったよ、今度お互い暇な時にでも一緒にやろう」

 「うん! 約束ね!」

 俺はそう言って甘いマスクに押し負けてしまうのだった。

 「フランメも一緒にやろうね!」

 「え? 私は、その、教える立場じゃないから……」

 「何で? フランメもすごいんでしょ?」

 「私は全然ダメだよ。リーベの方が凄いよ」

 落ち込んでいるからか、言葉に力が入ってない。

 それでもグレンツェは無邪気な笑顔で答えた。


 「何で、そんな事ないと思うよ? フランメだってリーベよりも凄い部分があるはずだよ。人の才能はどうしても自分の才能よりも眩しくて目が行っちゃうかもしれないけど、よく見れば自分だって凄い部分を持ってるはずだって昔よく父様が言ってたもん! その事に気付けるかどうかで人は成長できるか、そのままになるか、だから自分の事をもっとよく見なさいってよく言われたんだ。だからフランメも、自分の凄さをもっと見つけるようにしたら良いんじゃないかな?」

 その言葉に俺はゾクっとする何かを感じた。

 前世では、自分自身の凄さを自慢すると冷ややかな目で見られることが多かった。

 それゆえ、自分よりも他人の良いところを見つけて褒める癖がついていた。

 けれど、成功する人っていうのは多分、そういう自分の武器を見つけていて、他人の良いところも自分の武器へと昇華させる事ができるのだろう。

 その事を誇示しないが、誇りは持っていたはず。

 自分を知るっていうのは難しいと思ってるだけで、やってみると案外簡単だったりするのだろうか?

 

 その言葉を聞いて、フランメも少し目を開いていた。

 そして、口を紡いで拳を握り、自分の顔を小突いた。

 「え? ど、どうしたの?!」

 「ありがとうグレンツェ! 私、不甲斐ない自分に嫌気が差して落ち込んでいた。でもグレンツェが言った通り、私にしかないものだってあるって気付けたし、もっと自分の事を知りたいって思えるようになれた! だから、ありがとう!」

 顔は赤くなっているが、その目からは普段の力強さが感じられた。

 「それなら良かった! フランメはそうして笑ってる方が良いと思うよ!」

 フランメはちょっと照れた。

 それにしても今回俺は何も出来なかったな。

 自分の事ばっか考えて隣にいる者を励ますことも出来なかったなんて。

 はぁー、と俺はため息を吐いた。

 「何あんたがため息吐いてんのよ」

 「いや、今日の俺はダメダメだなって」

 「何それ、リーベはいつだって頑張ってるよ」

 そんなの当たり前でしょみたいな顔をされた。

 「そうだよ! リーベはこうしてみんなを巻き込んで問題の解決に動いてるじゃないか! 何でも一人で出来たら苦労なんかしないでしょ?」

 みんなを巻き込んでって、迷惑かけてるみたいな言い方だけど、

 「それもそうだな」

 俺は情けない自分に苦笑いをした。

 フランメもやっといつもの彼女に戻った。

 もう一度心をリセットしてこれから頑張ろう、そう思った。


 「そういえば、グレンツェって女の子なの?」

 俺は背筋がヒュッとなった。

 俺が敢えて触れなかった話題に彼女は何の躊躇いもなく切り込んだ。

 「……フランメはどっちだと思う?」

 そう告げるこの子は魔性の目をしている。

 やはりこの子は危険だ。

 「えー、でも僕って言ってたしやっぱり男の…」

 「さて、どっちだろうね?」

 フランメの言葉に被せ気味に言った。

 本当意地悪だな。

 「えー、どっちなのよ、答えてよ!」

 「じゃあ帰るよフランメ」

 「ちょっ、リーベも気にならないの?」

 「本人が言う気ないんだったら俺は聞かないよ」

 「そんなー!? 私は気になるよー!」

 どうやら元気が出たみたいで何よりだ。

 お帰り、フランメ。

 そんな三人のやり取りは夕日に照らされ、朱く輝いていた。

 

 

 

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