第十八話 魔王軍三大幹部アゼル
誰かのために何かをする。
大体の人がそんなことは馬鹿らしいと思うだろう。
だが、誰かが輝いているのを見ると嫉妬をする。
そうして揚げ足を取ることに優越感を感じるようになる。
足を引っ張り合うことが前世では美徳だと、言葉に発する者はいないがみんなそういうものと納得していた。
それほど他人の価値など個人にしてみればガラクタのようなものだった。
客観的に見ればおかしな話だが、その視点で物事を考えれないほど思考が腐っていた。
ふと前世の事を思い出した。
誰かのため、そんな事重荷になるだけだと思っていた。
自分に害が無ければ知らないふりで誤魔化していただろう。
けれど、こちらの世界に来てから変わった気がする。
誰もが支え合って、誰かと関わりあう大切さを思い出すことができた。
昔なら煩わしいと感じていた人付き合いも、最近では悪くないと思い始めている。
そんな中、大切な幼馴染がやられた。
これに闘志が出ないなんて事はない。
フランメの仇は俺が取る。
「わしをぶん殴るとは、なかなか大きく出たの。じゃがそれは無謀な宣言だったということになってもわしは知らんぞ?」
アゼルは余裕の笑みで俺を見下している。
「別に舐めてもらって構わないですよ。その方が俺としてもありがたいので」
俺は倒れているフランメを抱えて、みんなの所に運んだ。
「リーベ、ごめん、負けちゃった」
「大丈夫。フランメの仇はちゃんと取るから」
負けたことがショックだったのか、いつもの威勢が彼女にはなかった。
師匠の時と違って、完敗を経験したからだろう。
俺はそのまま着ていた制服のジャケットを脱ぎ捨て、アゼルの前に立った。
「いつでもかかって来て良いからの」
「それじゃ、遠慮なく行きますね」
「大丈夫なのか? リーベストは強いかもしれないが、相手の強さは化け物だぞ」
「確かにあいつも強いけど、リーベストの本気は私なんかじゃ全然敵わないよ。だから黙って見ときなさい」
「なるほど、ではその実力、とくと見せて頂きましょう」
「風魔法 風翼の矢」
ウインドアローの強化版の風魔法をまずは一発放つ。
風の矢に翼のような渦巻く風をプラスした上級魔法だ。
だが、それはあっさりガードされる。
「無詠唱で上級を使いこなすか、じゃがこんなもんきかんとさっきの戦いでわかっとるはずじゃがな?」
俺はもう一度ウイングアローを形成する。
「また同じ魔法ですの?」
「それじゃ何回やっても同じじゃないか!」
「……大丈夫だよ」
みんなが無謀だと思っている中、一人違う反応をフランメは示した。
あいつの力はここからだと言わんばかりに。
その期待に応えるべく、俺はウイングアローをもう一度射出する。
それと同時に魔法を願った。
(時間魔法 『時の加速』)
ついでに、魔法の射出時に捻りを加えて威力を増す。
その放たれた矢は先ほどとは比べ物にならない速度で飛んでいく。
「なっ!?」
完全に油断していたアゼルは全力で回避した。
しかし、風圧でかわしたはずでも服が少し破れた。
そして、その下からわずかに血が飛び散る。
焦りがその表情から滲み出ている。
そう、なかなか良い顔つきじゃないか。
「な、なんだ今のは?」
「魔法の種類を変えた? いや、そんな風には見えませんでしたが……」
「使ってる魔法は一緒だよ、もう一つ魔法を使ったけどね」
「なるほど、魔法の重複か——だがどんな魔法を使ったんだ?」
「それは多分、もうちょっとしたら分かるかもね」
「まさかいきなり傷つけられるとはの。お主、やはり力を隠しておったな」
「隠してはいないですよ、ただ今まで披露することがなかっただけです」
俺は淡々と返事を返す。
「その魔法も教えてもらったというんじゃな」
「……まあそうなりますね」
−−−
4年ほど前。師匠との特訓をしていた時。
「師匠、時間魔法ってどういったものがあるんですか?」
「んーそうだね。そもそも『神贈の恵与』自体、具体的な事象を願えば何でも魔法として可能だとは思うんだけどね。時間の停止とかはリーベが今使ってるし、他は、何だろう?」
「じゃあ、こう、自分の動きだけ加速とか、相手の動きを遅くしたりとかって出来るってことですか?」
「そういう事は多分出来ると思うよ。何回も言うようだけど、大事なのはイメージだからね。それはどの魔法でも同じさ。リーベがイメージ出来て、それが時間に関係するならそれは時間魔法として成立する。『神贈の恵与』ってのはそういうもんなんだよ」
「なるほど、ちなみに師匠は『神贈の恵与』を使えたりしますか?」
「まあ、使えない事はないんだけどね。マナの流れを真似すれば良いだけだから。だけど、イメージがミーにとっては難しいんだよ。時間の概念はミーにはあまり分からないものだからね」
「確かに長い時間存在していると時間なんて概念はなくても良いような気がします」
「そういうことさ、とりあえず色々試してみいるといいよ」
「なるほどね、魔法を射出して相手に届くまでの時間を加速か。なかなか良いと思うよ」
「あと、他にも対象の範囲の時間を遅くしたりとかも考えているので、それもちょっとやってみようと思うんですけど」
「良いんじゃないかな、じゃあ練習相手になるよ」
「ありがとうございます!」
そうして俺は師匠と特訓を積み重ねた。
−−−
まだまだ課題は多いが、それでも大体はこの魔法を使いこなせるようになってきた。
実戦で使うのは初めてだし、どれだけやれるかを試すには丁度いい。
「悪いですけど、僕の練習に付き合ってもらいますよ」
「どこまでもわしをバカにしよるの。さて、それが蛮勇かどうか見極めてやろうではないか」
二人ともニヤリと笑った。
接近を試みて俺が一歩踏み出そうとした瞬間に向こうから接近してくる。
「大体特殊な魔法を使う奴は接近戦が苦手というのが相場じゃ」
さっきのフランメとは違って、接近戦を仕掛けてくる。
確かに「神贈の恵与」はマナを大量に集める必要がある為、発動に少し時間がかかる。
それでも俺は剣術だって習ってきたから近接戦だろうが心得はある。
俺は身体強化を施し真っ向から勝負する。
(未来視!)
相手の動きの先を視て攻撃を次々にいなしていく。
リヒャルトに教わった柔剣流の動きを体術に応用した形だ。
「ほうなかなかやるの!」
「意外と接近戦もするんですね!」
だがいまいち強くはない。
これならリヒャルトの方が強い。
少しだけ見せた隙を逃さずに蹴りを入れる。
もちろん防がれるが、時間が取れればそれだけで良い。
俺は周囲のマナを使って魔力を練り、時間魔法を発動させる。
「時の減速!」
さっきとは別の時間魔法を使った。
魔法と共にアゼルの動きが遅くなる。
「おお、何じゃ!?』
あっちからみれば急に俺の速度が上がったように感じるだろう。
今はまだ大体五分の一程度が限界だ。
この魔法も相手との魔力差によって持続時間が変わる。
早めにケリをつける。
マナを大量に練り上げて、大量の魔力を手に集める。
そして、氷の槍を作る。
「あれは、氷魔法!?」
「魔法の重複をあそこまでこなすなんて、彼は相当な技術の持ち主ですね!」
動きの鈍ったままじゃ避けきれないはずだ。
「吹雪の投槍!」
魔力を込めた氷の槍は空気を切り裂き、相手を貫く勢いで飛んでいった。
俺が今まで放った中でも圧倒的な威力だった。
しかしアゼルは不穏な空気を纏っていた。
そしてドス黒いオーラが彼女を包んだ。
「虚無の穴」
作り出された黒い穴が俺の魔法を飲み込んだ。
そして、遅くなった時間も元通りになる。
氷魔法だけでなく時間魔法すらも飲み込まれた。
「ふむ、これだけの威力とは末恐ろしいの。お、何じゃ普通の感覚に戻っておるの」
子供のようにはしゃいでいた。
「はぁ、今のは結構手応え感じたんですけどね」
渾身の一撃が無傷に終わり、ため息を漏らしてしまった。
「確かに良かったがの、わしには残念じゃが通用せんな!」
あの威力の魔法でもダメージを与えるには至らなかった。
「今のでもダメージに至らないのか」
「本当、とんでもない化け物ですね」
「リーベ…」
「……」
各々が心配そうに見つめていた。
「さあ、他には何か無いんかえ?」
俺の心を挫いたと思ってニヤニヤ笑っている。
俺の全力の一撃をあっさり打ち破ったからだろう。
その笑みはどこか人を恐怖させるものであった。
この悪魔には何をやっても敵わないんじゃないか。
戦うだけムダなんじゃないか。
お前なんか赤子の手を捻るくらい倒すことは簡単なんだと無言の圧力をかけてくる。
それでも俺は笑った。
「ん? その顔はどういう意味じゃ?」
まだあいつを殴る術はある。
この技は俺のとっておきだからな。
「リーベ、やるんだね」
「??」
「やるって何をですの?」
「まあ、見てても分かんないと思うけど、とにかくすごい魔法だから」
フランメは俺が使う魔法がわかっている。
「何てったって一番師匠と練習した技だからな」
「ほう、それは楽しみじゃな」
それでもどこか余裕のある顔だ。
何が起きても無意味だと言いたいのだろうが、この魔法は何をする事も許さない。
俺は呼吸を整え、もう一度マナを周囲からもらい受ける。
「まあどんな魔法かを見てもええんじゃが、少し隙だらけじゃな!」
「くっ!」
強烈な重力が俺にのしかかってくる。
俺は地面に倒れ込んだ。
「お主は強力な魔法を打つ前に時間がかかりすぎるのが弱点じゃの」
そして俺の方に向かってきて耳元で囁いた。
「お主、周囲のマナを取り込んでおるな? そんなこと出来るのはわしら魔族と憎たらしいエルフの奴らだけじゃぞ? 一体誰に教えてもらったんじゃ? まさか、『世界を均す者』か?」
最後の言葉には温度が感じれなかった。
「さあ、それはご想像に、お任せしますよ」
曖昧な態度ではぐらかす。
そして、身動きが取れない俺はキッと睨んだ。
こんなGがかかっている中特訓をする某バトル漫画の主人公達はやはり化け物だなと感じた。
だが、裏を返せばそれくらい俺の中にも余裕があった。
「そうか。あくまでも答える気はない、か。今日のところはとりあえず終わりにさしてもらうとするかの」
そう言って俺をさらに重力で押し潰そうとした。
「へっ、俺だってさっきから黙って、話を聞いてたわけじゃないからな!」
魔力を解き放ち、魔法を願った
「時間魔法 時間停止!」
俺以外の周りの時間が停止する。
重力の魔法も今は起動していない。
かなりの量の魔力を込めたつもりだが、師匠の時は3秒も保たなかった。
それと同等に時間の猶予はないだろう。
幸い俺のそばまできてくれていた。
身体強化を思いっきり使ってアゼルを殴り飛ばした。
無音だったが、拳は彼女の顔面にクリーンヒットし、地面に着地と同時に魔法が解ける。
「…は?」
気付けば頭上を見ていて、頬には殴られた鈍痛がある。
さっきまで魔法で動けなかったはずだが、今では立場が逆転していた。
その刹那に何が起きたのか分からず混乱していた。
「俺は言いましたよ、ぶん殴るって。言うことはきちんとやる男なんでね」
ムクリと起き上がる頃には顔の殴った後は治っていた。
やはり魔族と戦う上でこの再生力は厄介だ。
「お主、一体何をしたんじゃ?」
「さあ? 何が起きたんでしょうね」
「まあ良い、いずれ分かるじゃろう。それよりもわしを殴った奴は久しいの。この先はわしもどうやら本気で相手をするべきじゃな。」
空気が割れる感覚がした。
威圧感だけで震えが止まらなくなりそうだ。
もう立ち直っている。
これが魔族の頂点に君臨する者の全力か。
「参ったな、今の俺じゃ全然届かねーや」
「安心せい、ちゃんと手加減はしてやる。むしろわしにここまでの力を引き出した事を素直に褒めてやるぞ」
恐らく時間停止でも、このマナの密度じゃすぐに解除されるだろう。
師匠とはまた違ったプレッシャーだ。
だが、その瞬間一人の女性がやってきた。
「こんなところであなたが全力を出せばここは潰れることになる」
冷静にこの場に割り込んできたのは俺たちの担任のソージュ先生だった。
「先生、どうしてここに?」
セリウスが質問した。
少しほっとしたような表情だ。
「もう時間も遅いのにここから怪しい気配を感じてな。そうして駆けつけたはいいが、まさか私の生徒を怪我させるつもりだったので? アゼル学園長」
そう言ってアゼルを睨んだ。
静かに怒っているが凄みがある。
その表情にバツが悪くなったのか、明後日の方角に視線を外した。
「むぅぅ、確かにわしも少しカァーッとなった所はあるが、別に怪我はさしておらんぞ!」
「いや、私に怪我負わせたでしょ」
そう言われ少し狼狽えていた。
「それについては後でゆっくり聞かせてもらうとして、ともかく、さっきのは本気で魔法を使うつもりだったのでは? それにあなたは本来生徒に危害を加えない約束だったはずだが?」
「そ、そのくらいはわかっておったぞ。あれは、そう! 単なる脅しじゃ!!」
そうとか言ってる時点で今考えついた嘘だろうな。
緊張の糸が切れたせいでなんかどっと疲れが込み上げてきた。
「脅し? 私にはこの実技棟を吹き飛ばすくらいの魔法を使おうとしていたように見えたが、それは私の勘違いだとでも?」
「そ、それはじゃな、その、えっと…」
言い詰められてあたふたしてるロリババア。
さっきまでの迫力が嘘のように無くなってる。
「とりあえず、きちんと約束は守ってもらわないと困るのだが?」
「うぅぅ、そんなにわしをいじめて楽しいか? この悪魔めが」
いや、自分が悪魔だろ。
それにしても随分ソージュ先生の言いなりだな。
この二人の関係は一体何なんだろうか?
それに約束、深いわけがありそうだ。
「すまない、この悪魔が邪魔したな。この人の事は私に任せてお前達は帰りたまえ。もう遅いから気を付けて帰るんだぞ」
そして、アゼルはソージュ先生に無理矢理連れて行かれて、離せとか、嫌じゃとか叫んでいた。
その光景に俺たちはポカンとしていた。
−−−
「それにしても何だったんだ?」
「ソージュ先生とあのロリババアは何か深い関係でもあるんじゃないか?」
「ロリババアって……まあそれはともかく、とにかく無事で済んで何よりだ」
「それにしても伝説の魔族はぶっ飛んでましたね。魔法のレベルもそうですけど」
「お前たち、よくあんな化け物相手に戦ったな」
「結局私もリーベも負けたけどね」
「あれは、実際勝てる相手じゃないだろ」
「今のままでは無理だな。それで、今後みんなどうするつもりだ?」
俺は疑問を投げかけてみる。
この先魔族との戦いは避けられないものになるかもしれない。
今のまま魔族の好きにさせると、魔族が支配する世になってしまう。
そうなると俺たちはどんな扱いを受けるか分からないからな。
そうなってくると、魔族に狙われる可能性も増えてくる。
あれほどの化け物はそういるもんではないはずだが。
「別に、僕はこのまま大人しく過ごす方がいいと思う。今だって不自由なく生きれているし、敵対してまで戦う事はないんじゃないか?」
「わたくしはこのまま魔族の好きにさせるつもりはありません。今でも魔族が裏で何かやっていて、そのせいで傷付いている人たちがいるかもしれませんし。その人たちを見捨てるわけにはいきませんし」
「エクレレ様がそう言うのであれば、私はそれに付き添うつもりです」
ありがとう、とエクレレはシュヴァリエに告げる。
「私もこのままやられっぱなしはムカつくからもっと強くなりたいよ。それにあいつらの好きになんてさせたくないしね」
「な、みんな正気か? 相手は化け物だらけなんだぞ? このままじゃ命がいくつあっても足りないぞ!」
「それでも俺は戦うよ。何であいつらがこの世界を支配しようとしているか分からないけど、この世界はみんなのものだ。それを己たちのエゴの為に私物化しようとするなんてたまったもんじゃない」
みんなの視線が俺に向けられる。
「俺たちは戦う力があるんだ。この世界の平和のために、自由のために俺は奴らに立ち向かう!」
そう高らかに宣言した。
フランメは当然といった顔で、エクレレは頷いていた。
シュヴァリエは返事こそないが納得の表情だった。
セリウスはまだ納得していなさそうだったが、
「もういい、わかったよ。だったら僕も君たちと共に戦おうではないか」
俺たちと一緒に行動する決意をした。
そして俺たち五人は拳を合わせた。
「これからどんな強敵だろうと、俺たちのために戦おう!」
「「「「おー!」」」」
こうしてここから俺たちの学園生活は波乱に満ちていくのだった。




