表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変転人生~唯一の異世界ライフを歩む物語~  作者: 風竜 巻馬
第一章 一つの出会い
2/64

第一話 序章




 暗く何も見えないし何も感じない。

 水の上に浮いているみたいにフワフワとした感じだった。

 虚無に包まれたこの空間で、ただ身を任せるだけ……。

 不思議な感覚だったが、居心地は悪くない。

 それに、温かい何かに包まれているようだった。

 (そっか、俺は死んだんだ)

 俺は、意味も分からず殺されていた事を思い出した。

 だが、そんな事はどうでも良いと感じるほど心が穏やかだった。


 果たしてどれくらいの時間が過ぎたのだろう。

 この場所は、そんな概念すらないような所なのだろうか?

 死後の世界には興味があったが、こんな不思議な場所だったとは。

 このまま何も感じる事なく過ぎていくのだろうか。

 そう思っていた時だった。

 急に視界が眩しくなった。

 その光に吸い込まれるようにして、身体が動いた。

 (ようやくあの世に着くのか)

 俺はその力に流されるようにした。



  「――。・・・・、―――。」

 何だ、何か聞こえてくるな。

 「――、―――。・・・・・。」

 「/////。――。」

  聞いたことのない音の言語だな。そう思わずにいられなかった。

 その時、甲高い声が耳に聞こえる。


 「んぎゃああ、ほぎゃあ」

 赤ちゃんの泣き声だった。

 赤ん坊なんてどこにいるんだ?

 あの世にも赤ちゃんがいるのか、と思ってしまった。

 そうして、次第に視界がクリアになる。

 ハッキリと捉えた景色はどこかの家の中のようだった。

 そこに見たことのない男の人がいた。

 その男は少しホッとした表情だ。

 もう一人、若い女の人がいる。

 男の人と違い、少し疲れた表情だった。

 さらにもう一人、メイドの服を着た女の人がいた。

 あとは二人の男の子の計五人に囲まれている。

 知らない人達に、見慣れない天井。

 自分の腕はとても小さく、手も柔らかい。

 (赤ん坊の泣き声って、ひょっとして俺なのか!?)

 ようやく自分の置かれた状況に理解が追いついてきた。

 あの世だと思っていたここは、どうやら違う場所らしい。

 さらにあの時言われた「2度目の人生」という言葉。

 これだけの事から一つの答えにたどり着いた。


 俺は異世界に転生したということを。



 −−−




 それから半年の月日が経った。

 最初は全く理解できなかった言葉が、少しずつ聞き取れるようになってきた。

 見知らぬ国でも半年間過ごしていれば、その国の言語を理解できるようになるのと同じ原理だ。

 それでも、所詮は半年だからまだまだ分からない事だらけではあるが。

 それに、自分も赤ん坊のせいか、満足に話す事も出来ない。

 異世界ということは、この世界は現代とは異なるところがいくつかある。

 家電製品といったものはなく、車もない。

 電球といったものはないが、大きなランプが部屋にいくつもある。

 (あのランプはどういった原理なのだろうか?)

 詳しく知っていく必要がありそうだ。

 ただ、その中でハッキリと分かったことは、この家はとても大きいということだ。


 「イーデル、帰ったぞ」

 「あら、戻ってきたのね、おかえりなさい」

 「ベルンハルト様、お帰りなさいませ」

 イーデルと呼ばれた女性は、この世界における俺の母親の名だ。

 髪はロングでブロンド、顔は美女で肌は白い。

 見た目の年齢は20代半ばといったところか。


 「ああ、ご苦労だハナ。どうだ、イーデル。リーベは大人しくしていたか?」

 「それはもう、とてもいい子で手がかからないわ。もう少し大変だと思っていたくらいよ」

 ベルンハルト、この男が俺のこの世界における父親だ。

 髪はショートで精悍な顔つきが特徴だ。

 見た目的に年齢は多分20代後半か。

 髭のせいで年齢に自信がない。

 そして、ハナと呼ばれた女性はこの家におけるメイドの仕事をしている。

 両親に代わって俺の世話をしてくれている。

 見た目の年齢は両親よりも普通に年上だ。


 家は三階建てだが、屋敷といっても差し支えないほどだ。

 どうやら、新しい我が家は領主だという。

 屋敷の周りは、新しく開拓され始めたとわかるくらいまだ建物が少なく、少しばかり田舎だ。

 一応前世では都会みたいな所だったからか、今の場所は少々寂しさを感じる。 

 それは半年経った今でも変わらない。

 (ちょっとだけホームシックになっているのか?)

 つまらないと思っていたあの世界も、離れてみると心残りってものがあるのだろうか。


 (心残り、か)      

 あの時のあれが一体誰だったのか?

 貴明と思っていた人物がそうでなかったという疑問は、未だに闇に包まれている。

 そうは言っても、この世界に生まれた以上、前世のことは引きずっていられない。

 (とりあえずこの世界について学んでいこう)

 そう心の中で呟いた。



 −−−


 

 それから三ヶ月が経った。

 この頃になるとハイハイが出来るようになり、家の中を移動するようにした。

 その度にハナが探しに来て、心配そうな顔で部屋に連れ帰られた。

 それに対し、イーデルは「元気があっていいじゃない」とハナを窘めている。

 この広い家(屋敷)で赤ん坊がいなくなると、気が気じゃなくなるというのは分かる。

 父親のベルンハルトは、仕事で家にいない事が多いし、いたとしても何か仕事をしている。

 母親のイーデルも、どちらかと言うと俺の事はハナに任せている。

 それに兄弟もいることだ。

 五つ上と、三つ上の兄、その二人の勉強などに時間を割いている以上仕方ない。

 さすがに迷惑をかけるのも申し訳ないから、部屋から窓の外を眺める時間を増やすことにした。


 ある日、外を眺めていると五つ上の兄であるカールが特訓をしていた。

 どうやら剣術の稽古のようだ。

 まだ五歳の幼さだが、特訓に精が出ている。 

 幼いのにこんな事をするなんてとも思ったが、スポーツ選手の中には幼い頃からやっていることを鑑みても、別におかしなことではないのだろう。

 寧ろ、将来を見越した上でのことなのだろう。

 それに俺もやってみたいという気持ちは強い。

 前世でも一応、アニメや漫画はよく見ていた方だった。

 テレビを見るよりも十分有意義な時間つぶしだったからな。

 だからこういったファンタジーの世界に憧れていた。

 魔法や剣を使って冒険する、そんな夢みたいな世界に憧れはあった。

 そんな俺が、今こうしてその世界に生まれてくる事ができたし、今後思いっきり満喫しようと思っていた。


 そうこうしてると、どうやら稽古が終わったみたいだ。

 人気が消え、外には誰も残っていない。

 見るものが無くなったので、ベッドに横になった時に足音が聞こえてくる。

 部屋の入り口を見ると、カールが汗をかいたまま、なぜか俺がいる部屋にやってきた。

 「リーベ、今日はずっと見てたね。そんなに楽しかったかい?」

 そう言って少し照れくさそうに笑った。

 「あう、あいあ」

 まだろくに話せないのがもどかしいがとりあえず返事をする。

 「ふふ、そうか。リーベもそんなにやりたいのか?」

 どうやら表情に出ていたみたいだ。

 この体にまだなじめていないせいで、考えていることと行動が一致しない。

 その俺を見て、カールは穏やかに笑っていた。

 「もう少し大きくなったら、君も学ぶようになると思うよ。」

 そう言って俺の頭を撫でて、じゃあねと言い自分の部屋へ帰っていった。


 「さぁリーベ、お休みの時間よ」

 そう言って、寝かしつけるイーデルは笑いながら独り言ちる。

 「あなた、今日はカールの稽古をずっと見ていたんですって? カールが嬉しそうに言ってたわ」

 なぜカールと言い二人とも穏やかな笑みを向けてくるのか?

 剣の稽古を見ることはそんなに穏やかなことなのだろうか?

 少し気になるが、その疑問に答えるようにイーデルが言葉を紡ぐ。

 「あなたもやっぱりあの人の子供なのね。剣術の稽古をずっと見てるなんて、本当そっくりね」

 あの人、つまり父であるベルンハルトの事だろう。

 どうやら父のベルンハルトも剣術が好きみたいだ。

 どのみち興味があったし、血統ってわけではないかもしれないが。

 「そのうちあなたもとても逞しい子になれるわ、だからそのまま健やかに成長していってね。」

 その言葉はなぜかうれしく感じた。

 こういった温かい言葉は久しく聞いてこなかったからだろうか。

 少し照れくさくなった。



 まだまだ分からない事だらけの異世界生活、不安もあるが、何より毎日が刺激的で楽しい。

 (よし、決めた! 俺はこの世界を楽しんで生きていこう。前世のように、自分を大切に思ってくれる誰かと共に、自分にしか歩めないこのリーベストという人物の物語を)

 寝静まった夜で一人、そう心に誓った。

 

 

 


 


 


 

 


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ