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変転人生~唯一の異世界ライフを歩む物語~  作者: 風竜 巻馬
第一章 一つの出会い
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第九話 それぞれの思い




 魔族との戦いから一夜明けた。

 領地に帰還したベルンハルト達は、昨日隣村が襲撃され、村が消滅したこと。

 リーベストとフランメが重傷を負って寝ていることが知らされた。

 その話を聞いて、速攻でイーデルは治療へと向かった。


 「リーベストは本当に無事なんだな?」

 「リーベスト様は命に別状はありません。その、エルミーレ様が傷だらけのリーベスト様とフランメ様を運んでくださり、今は部屋におります」

 屋敷のメイド長のハナが沈痛な面持ちでそう告げた。

 「そうか、エルミーレ様がお救いなさったのか。あのお方にはなんと感謝すれば良いのやら」

 「フランメ様と村に帰った時に恐らく巻き込まれたでしょうから。エルミーレ様の助けがなければ今頃……」

 それから先は口には出さなかった。

 「わかった。詳しくはリーベストが目を覚ました時に聞こう。だが、ノインはどうした? 奴がそう簡単にやられるとは思えん」

 結果は何となく分かっていたが、それでも聞かずにはいられなかった。

 「残念ながら、ノイン様は殉職したと聞いております」

 「そうか…………」

 重苦しい雰囲気が部屋中に漂っていた。

 「他に村の住民は他に誰か生き残った者は?」

 「……それが、非常に申し上げにくいのですが、今のところフランメ様以外誰も」

 「そうだったか。なにか悪い夢を見ている気分だ」

 そう言って頭を抱えた。

 青天の霹靂、すぐに現実を受け入れることが出来なかった。

 

 ---


 三日の眠りから覚めた俺はフランメと共にベルンハルトに呼ばれた。

 今回の件について詳しい事が聞きたいとのことだった。

 俺たちはあの日の出来事をそのまま話した。

 村に着いた時には既に煙が上がっていたこと。

 その後、村に急いで向かうと村が炎に包まれていたこと。

 村を燃やした犯人が魔族だったこと。

 そしてそいつは、ドミニオン領の隣の領地のシュバイン辺境伯の側にいた人物だったこと。

 俺たちは戦い、奴に完膚なきまでに叩きのめされたこと。

 それを救ってくれたのが師匠だったこと。

 話が終わると、先にフランメだけ部屋から出て行った。

 

 「念のための確認だが、今話したことに間違いはないんだな?」

 ジッと見つめる父を見つめ返した。

 「間違いありません」

 「わかった。リーベスト、君を信じよう」

 「しかし困りましたね、あの辺境伯が本当に我々の領地に踏み込んでくるとは」

 リヒャルトがそう告げる。

 「だがあの男には元々黒い噂があった。領民への不当な重税、領地の強奪など。だが調べた者たちは姿を消すと言った事象が何回もあった。後ろに魔族がいたなら少し納得できる気がするがな」

 ブラックすぎて領民がかわいそうだな。

 それに、調査をしていた人達もあの魔族にやられたのか。

 それにしても、疑問がある。

 今回、なぜこの領地に攻めて来たのか。

 「ただ何の条件もなく魔族が加担するとは思えません。お金など見返りを渡していたのでしょう」

 「そのためのお金かなにかを、最近王都との交流が活発なこの町から奪おうとしたってことですか?」

 「多分そのつもりだったのだろう。そうであるなら許されざる事件だ。この事は一応王家にも相談するつもりだ」


 その後、俺はベルンハルトと二人きりで部屋に残った。

 「フランメの事だが、これからはドミニアン家の養子として迎え入れる事にした。慣れない事ばかりだろうから、お前がしっかり面倒を見てやってほしい」

 彼女には身寄りが無いから当然ではある。

 もちろん、俺もそのつもりだ。

 「分かりました」

 「今回の件、子供のお前たちにとっては辛かっただろう。親として助けることが出来ずに済まなかった」

 ベルンハルトは頭を下げた。

 「そんな、謝らないで下さい。確かに辛い出来事ではありましたが、今生きていることが全てですから」

 そう言うと彼は顔を上げ、フッと笑った。

 「それもそうだな。しかし、リーベと話しているとたまにお前が子供であることを忘れてしまいそうな時がある。お前は不思議な子だ、あのお方に認められているところも含めてな」

 確かに子供としては少し達観しすぎな部分は出ているのかもしれない。

 まあ前世ではいい歳した大人だったから、もう少し年相応の振る舞いに出来るよう気を付けねば。

 「それは――師匠の影響かもしれないですね。僕の憧れの人なので、つい真似しているのかもしれませんね」

 転生しました、とか言っても信じてもらえないだろうしな。

 「憧れ、か——ではリーベ、お前は今後どうしていくつもりだ?」

 「どうしていく、とは?」

 「この先の事だ。いつまでもあのお方が傍にいてくれるとは限らないだろう。その時お前が何をしたいかということだ」

 唐突に現実を突きつけられ、少し戸惑ってしまった。

 「……それは、今の時点では分かりません。ただ、その時が来るまでは師匠の下で強くなりたいです。もちろん、リヒャルトにも剣術を学ぶことは続けたいと思っていますが」

 「なるほど、わかった。やりたいことがあるのならその通りにやってみなさい。ただ、後悔だけはするんじゃないぞ」

 そう言われ、身が引き締まる思いがした。

 「ありがとうございます、父様。これからも日々精進して参ります」

 一瞥して俺は部屋を後にした。

 

 「失礼します」

 部屋から出たら先に出ていったはずのフランメが待っていた。

 「なんだ、先に戻ったんじゃなかったのか?」

 「リーベストに話があったから待ってたの」

 俺に話が?

 「分かった、聞こう」

 まさかそういう展開が来るのか?

 前世では一人が楽で、全然そんなことに縁がなかった俺もとうとう異世界で初めて——

 「私、強くなりたいの」

 「えーっと、強くなりたい?」

 もちろんそんなわけはなかった。

 まあ当然っちゃ当然か。

 少しだけ期待した自分を少し憐れんだ。

 「私、大事なものを何も守れなかった。リーベにも助けてもらって、そんな自分が嫌いになった。だからお願い! 私もあなたと一緒に強くなりたい!」

 彼女はあんなことが起きたのに、もう立ち上がり、前へと歩き出そうとしていた。

 辛くて悲しいはずなのに。

 変な期待をした自分が恥ずかしかった。

 「フランメはその、強いんだね。」

 「そんな事ない。ただじっとしてたら自分の事が嫌いになりそうだから」

 その表情は決意に溢れていた。

 (大丈夫、全然強いよ)

 俺なんかと違って、と昔の俺と比べていた。

 そう言っても今は信じないだろうけど。

 「じゃあ、行こっか。強くなるために、師匠の所へ」

 

 こうして俺たちは、屋敷を出ていつもの特訓場所の林にやってきた。

 「誰もいないね」

 「そう思うでしょ。師匠って意外とシャイな所があるんだよ。だから、他の人に見られないために見えなくしてるだけだよ」

 そう言ってフランメの手を引いて先に進むと、少しムスッとした顔でその人は待っていた。

 「リーベ、ミーの事を間違って彼女に伝えることは感心できないよ」

 「まあまあ、そんなに怒らないでくださいよ」

 「それにもう一人連れてくるなんて、君以外とは関りを持たないって言ったじゃないか」

 「そこを何とかお願いします、師匠」

 力強い目で師匠を見た。

 「お願いします! 私も強くなりたいんです!」

 フランメも同じく師匠を見た。

 

 「……意思は固いんだね、全くしょうがないなぁ」

 そう言って、はぁーとため息を吐いた。

 「今回だけ特別だからね」

 苦笑いだったが、どこか嬉しそうだった。

 本当は、関わりを持つ事は嫌いじゃないんだ、と感じた。

 それからまた、特訓の日々が始まった。

 

 −−−


 そしてひと月の月日が流れた。

 あの後、リュグナー辺境伯は王都へ出頭命令が出された。

 領民から不当に得た税金を横領していた事が調査で発覚した、という表向きでそのまま逮捕に至った。

 実際は魔族との繋がりを尋問やらで問い質すつもりだろう、とベルンハルトは言った。

 そして、彼の領地は他の領地に分配されることになり、我がドミニオン領もその一つだった。

 その対応に追われ、日々多忙なこの男も大変だと思う。


 そんなある日、リヒャルトとの剣術修業をしていた時だった。

 「おや、旦那様、珍しいですな」

 「今日は業務があまりないのでな。たまには息子との剣比べをしてみたいと思ってな」

 「それは良いですね。では坊ちゃん、今日は旦那様との模擬戦と致しましょう」

 「父様とですか?! それは少し緊張しますね」

 実の父親との実戦は、緊張しない方が無理だ。

 そもそも俺は、この男の実力がどれほどのものか全く分かっていない。

 「心配するな。今のお前がどれほどのものか知りたいだけだ」

 「分かりました。では、全力で臨みます!」

 「良い覚悟だ。ではかかって来い!」

 

 結論から言うと、ベルンハルトはかなり強かった。

 剣を打ち込めば簡単にあしらわれ、剣を捌こうとしても、剣速がリヒャルトよりも速く力で態勢を崩してしまった。

 まあ、リヒャルトが普段から手加減していたとは思うが。

 その隙に木剣を突き付けられ、勝負あり。

 何本か挑戦してはみたが、一本も取ることが出来なかった。

 

 「ハァハァ、ありがとうございました。父様には全く敵いませんね」

 「動きは悪くなかったが、まだ剣に振り回されているところがある。まだまだ鍛える余地があるな」

 「そうですね、剣を振る時にまだ力が入りすぎな所は修正してもいいですね」

 「ご高説ありがとうございます」

 魔法はイメージがしやすいから良いが、剣術はなかなか上手くできない。

 剣と身体の動きがハマってないといった感覚は何となく分かっていた。

 まだまだ練習が必要だ。

 「ですが、元騎士団隊長クラス相手にそれだけできれば十分でしょう。これからもその調子で頑張りましょう」

 「え、父様が元騎士団? しかも隊長クラス?」

 それは初耳だった。

 今までそんな事一言も聞いてない。

 「もう十五年も前の話だ。自分から進んで話す事でもないと思ってたからな」

 どうりで今まで教えてくれなかったわけだ。

 「そうだったのですね。初めて知りました」

 「その割には今でも腕が鈍ってないですね」

 「それは、しみ込んだものが抜けないだけだ」

 「そう言えば父様とリヒャルトってどういった関係なのですか?」

 前に深く聞いてこれなかった部分について聞いてみた。

 「そうですね、坊ちゃんとエルミーレ様のようなものですよ」

 「それってつまり師匠と弟子ってことですか?」

 「そうだ。俺とリヒャルトは二十年来の関係だ」

 「それも初めて知りました。つまり、僕は父様の弟弟子という事になるんですね」

 「なんだ、リヒャルトに聞いてなかったのか」

 「はい、稽古に必死だったもので」

 「余計な事に気にしない、それは好ましいことですよ」

 そう言い、リヒャルトは笑った。

 剣術に夢中で、他人の来歴には触れていなかった。

 まさかこの二人にそんな接点があったなんて。

 でも、どうして元騎士団だった事を父はともかく、母のイーデルも黙っていたのだろうか。

 確かに、前世にはない魔法とかに興味ばかり示していたから、お父さんはすごい剣士だったのよとは言いにくいところがあったのかもしれないしな。

 

 「では今日はここで終わりにしましょう」

 「リーベ」

 「何でしょう、父様?」

 剣術の稽古の終わりにベルンハルトに呼び止められた。

 「この後少し時間はあるか?」

 「はい、大丈夫です。何か用事ですか?」

 「少しだけ付き合ってくれ」

 そうして俺たち二人は屋敷を出て、村の方へ歩いて行った。

 

 「こうして二人きりになるのは久しぶりだな」 

 確かに今までこういった事はあまりなかった気がする。

 「ええ、そうですね。ですが、父様はお忙しくされているので文句は言えません」

 「実は、俺も昔は父とこうして話す機会はあまりなかった」

 「僕のおじい様ですか? 確かジィーベン商会の」

 ジィーベン商会はこの国で武器等の装備一式の販売や、他国への物資の流通といった幅広い業務を行なっている商会で、規模もとても大きい。

 「そう、今は兄が経営しているが、元々あの人があそこまで大きくした。すごい人だったよ。ただ、毎日色々な所へ行ったりしていたから、俺たちに構う時間がなかった。それに厳しい人だったから全然褒められたこともなかったな」

 「そんな過去が父様にもあったのですね」

 何を言えばいいか分からなかったので、無難な相槌をする。

 「でも、父は俺のやりたいことを受け入れてくれる優しい人でもあった。決して見捨てることはせず、家を出た後も色々手助けしてくれたりもした。だから俺も、お前のやりたいことを受け入れたいと思っている。なかなか時間が取れなくてそういった機会がなかったが。あの時の言葉も父に言われたことだったからな」

 やるからには後悔するな、というやつだろうか。

 「あの時ははっきりと答えることが出来ませんでしたが、今では自分のやりたい事が見つかった気がします。僕はこの世界について何も知らないので、もっと色々見てみたいなとは思っています。この世界を渡り歩いて、自分のこの目でこの世界を感じようと思っています」

 ベルンハルトの目を真っ直ぐに見つめ、俺は宣言した。

 「……そうか、しっかり頑張るんだぞ」

 「はい!」

 春を目の前にした少し肌寒い風が、二人を撫でる。

 

 村に着くと、ベルンハルトはノインの墓へ行き、そこで手を合わした。

 俺も彼と一緒に手を合わした。

 「ノインさんとは古い付き合いだったのですか?」

 「俺が商会にいた時からの知り合いだ。若くして冒険者の見習いとしてよく物を買いに来ていた」

 「随分昔から知り合いだったんですね」

 「ああ。家を出た後もよく討伐に一緒に参加したり、騎士団に入った時も、王都で飲みに行ったりもした」

 昔からの仲か、それほど古くはないが、俺にも気の置ける奴がいたな。

 今は何をしているんだろうか、そもそもあの後どうなったんだろうか。

 知る由もない事に思いを馳せる。

 「死んでしまった事はショックだった。あの時もう少し早く着いていればと後悔もした。今でもその思いは変わらないな」

 ベルンハルトは悲しげに天を仰いだ。

 俺は大切な人が亡くなる経験をしたことがない。

 ノインの死は確かに悲しかったが、ベルンハルトほど時間を過ごしたわけではない。

 だがこれだけは言える。

 別れは、ただ流れる時間のように淡々と起こるものだということを。

 

 「じゃあ帰るか」

 挨拶が終わり帰路へとつく。

 「父様、やはり別れって悲しいものですね」

 頭では仕方ないと思っていても、やはり寂しい気持ちになってしまう。

 「そうだな、だが願っても元には戻らない。リーベにもその内分かる日が来るだろう」

 「師匠、ですか」

 俺は前にベルンハルトに言われたことを思い出した。

 「今と同じなんてことはないからな。変わっていくことを受け止めきれる覚悟は持っておいていいだろう」

 「はい。だからこそ今の時間はとても貴重ですね」

 「ああ、本当に貴重だ」

 お前の分まで俺が生きてやる、その覚悟がベルンハルトにはある。

 その姿は他の誰よりも逞しく、堂々としていた。

 

 

 

 

 

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