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エッチしないと出られない部屋にメスガキ幼馴染が入りたがるので、俺は分からせることにした。

作者: 夜分長文

「ねぇねぇ。この部屋入ろうよ」


 俺、前住亮太が住む街にはこんな店がある。

 『エッチしないと出られない部屋、お貸しします』。


 あまりにも胡散臭すぎて、誰が使うのかもよく分からない店だ。

 ターゲット層はイチャラブ付き合いたてのカップルと言ったところだろうか。


 そんな店の前を通り過ぎる度に、俺の幼馴染である宮本花はにまにましながら入りたがるのだ。


 幼馴染ということもあり、比較的仲もいいので登下校は一緒にしているのだが。

 どうしてこんな店が学生が利用する大通りに展開されているのだろうか。


 そして、どうしてコイツがこの店に入りたがるのだろうか。

 いささか謎であるが後者はだいたい分かっている。


 漫画オタクである俺の勘では、こいつの属性――キャラはメスガキに当たる。

 今もこうやって、俺の頬を突きながら、


「ざぁーこ。幼馴染とこんな部屋に入る勇気もないのぉー?」


 とからかってきているからだ。

 この性格は昔からそうで、何かあれば俺をからかってきた。


 が、この店が出来て以降。それがかなり酷くなった気がする。

 全てこの店のせいだ。


「なぁ。お前、そんなにこの部屋に入りたいのか?」

「まあねー。で、も。臆病でヘタレでヨワヨワな亮太には無理でしょー?」


 くねくねと腰を動かしながら言ってくる。

 なんだろう。すごく腹が立つ。


 別に馬鹿にしてくるのは昔からなので、別に構わない。

 が、この店の件で馬鹿にされると男として馬鹿にされているように感じる。


 俺は拳を握り、一度大きく息を吸い込む。


 よーし。こいつ一回分からせるか。


「なら入ろうじゃないか」

「はえ?」


 俺は花の手を引いて店の中に入っていく。

 店内にはいくつもの部屋があって、店員さんはいない。


 どうやら券売機で千円札を購入して自由にしろという、セルフタイプらしい。

 俺は躊躇せずに千円札を突っ込む。そして、適当に説明文を読み、


「ちょ、ちょっと! マジで言ってるの!?」

「マジだが」

「私達幼馴染だよ!?」

「それがどうした。ギャルゲーでは定番のシチュエーションだ」

「オタクキモい!!」

「言ったな? それじゃあ分からせてやる。部屋に入るぞ」



 暴れる花を無理やり引っ張って、部屋の中に入った。

 室内は全面真っ白でなにもない。


 ただ、振り返ってみると扉の上に『エッチしないと出られない部屋』と書かれていた。

 花は慌てた様子で扉のノブを回すが、


「開かないんだけど!!」

「ほう。画期的だな」


 どうやら本当にエッチしないと出られないらしい。

 カメラでもあるのだろうか。いや、それだと店主の趣味が悪すぎる。


 まあ、説明文を読んだので大体は分かっているが。


「さて、花さん。あなたはこの部屋に入りたがっていましたね。どうです、入った感想は」

「……ふん! 別に亮太と入ったって恥ずかしくもなんともないわよ!」

「それは俺とするの、オーケーってこと?」

「そういう意味じゃなくて!!」


 頬を膨らませて、顔を真っ赤に赤らめる。

 くくく……想定通りの反応だ。


「それじゃあ始めるか。長居すると親に怒られるからな」

「なら、どうしてこんな部屋に入ったのよ!」

「お前が入りたいって言ったんだろ」

「……それはそうだけど!」


 さて、時間も惜しいので早速分からせることにする。

 花の肩を掴み、抱き寄せる。


「ちょ、ちょっと!?」

「どうした。なにか不満でもあるのか?」

「不満とかじゃなくて……その、心の準備というか……」


 顔を背けて、何かぶつぶつと言っている。


「心の準備か。なら早めに頼む」


 そう言って、俺はあぐらをかく。

 じーと、花のことを見据えながら。


「な、なに見てるのよ!」

「いや別に」

「心の準備してるから見ないで!」

「心の準備くらいなら見ていても構わないだろ」


 そんな会話を続けていると、観念したのか花がこちらに歩みを寄せてきた。

 そして、俺の膝に座る。


 銀色の髪が顔に当たって、少しこそばゆい。


「……ごめんなさい。私の負けよ。好きにしたらいいじゃない……」

「そうか。なら好きにしよう」


 そう言って、俺は花の唇に人差し指を当てた。


「むぐっ」


 同時に説明文に書かれていた言葉を叫ぶ。


「エッチしたので鍵を開けてくださーい」

「え、ええ……?」


 すると、ガチャリと鍵が開く音がした。

 俺は踵を返し、扉を開く。


「いやさ、説明文見たら自己申告制らしくて。普通にドッキリの撮影とかに使われるスタジオらしいわここ」

「え? それじゃあ……そういう目的で使う人いないの?」

「知らんが。まあ、大体はドッキリ目的じゃね? 調べたら有名動画配信者もドッキリで使ってる場所らしいし」


 俺は先程調べたスマホの画面を見せつける。

 そこには、『エッチしないと出られない部屋に入ってみた!』という動画が多く載せられていた。


「そ、それじゃあ私……勘違いしてたの?」

「らしいな。ウブで可愛いじゃないか」


 帰宅中に立ち寄ったので、普通に時間がやばい。

 これ以上長居すると本当に怒られるので、俺はそそくさと部屋を出る。


 すると、俺の背中を必死の形相で追いかけてくる花の姿があった。


「ごめんなさい……今までからかってすみませんでした……」

「分かればいいんだよ分かれば」


 そう言いながらも、俺は心の中でガッツポーズとキメる。

 あれほど俺のことを馬鹿にしてきた幼馴染を分からせてやったのだ。


 あー、最高に気持ちがいいわ。


「ってあれ?」

「どうしたのよ、急に立ち止まって」


 待てよ。よく考えてみたら、コイツ最終的に「心の準備をする」って言って俺の膝に座ってきたよな。

 ……おい、ということはそういうルートもあったのか?


 いや、まさかな。

 今回の勝負は俺の勝ちだ。


 そうだ、きっとそうだ。

 心の中で何度も反芻しながら、俺たちは帰路についた。 

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