盗賊団の襲撃
村長の妻ベルとジルは
食事の後片付けをしていた。
「そうそう、ジンをかくれんぼで
見つけるなんて、ほんとびっくりしちゃった。」
ベルは目を丸くして
ジルに話しかけた。
「そうでしょー!?
ジンは本当に隠れるのが上手で
全然見つからないの!
なんてゆうか、
そこにいるのに見えないってゆう感じ。
あれ!?そこ探したのにっ!?
ってゆう所からヒョコって現れたりするの。」
ジルは口を尖らせて喋る。
「ふふっ、ほんとよね。
そういえば昔、ジンがまだ幼い時に
とつぜん村からいなくなっちゃった事があったの。
もう村の大人達は
大慌てで村中を探したけど、
全然見つからないの。
いくら探しても見つからなくて
日も落ちかけてたから、
もう皆んな、諦め出してきちゃったの。
もしかしたら、
村の外にでてしまったんじゃないかって。」
「えー!どうしちゃったの!?」
「流石にもうダメかなーって時に
突然ひょっこりジンが現れたの!
皆んなびっくりしちゃって
大騒ぎよ!
そしたらジンが一言、
なんて言ったと思う?」
「えー?わかんないよー。
なんて言ったの?」
「皆んなどうしたの?
誰か探してるの?
ですって!!」
「あははっ!さすがジンね!
ちっちゃい頃からかくれんぼが得意だったのね!」
「そう、それから何回か
突然ジンが居なくなる事があったんだけど、
探しても見つからなくて
やっぱりどこからかヒョコって現れるの。
だからちゃんとジンを見つけたのは
ジルが初めてね!本当にすごいわ!」
「へっへー!
ジンを見つけられるのは
あたしだけかもね!」
ジルはドヤ顔で
綺麗に洗われた食器を
履いてきた。
一方その頃、村の広場では
「ハ、ハ、ハックション!!
うう〜・・・ずるずる」
「なんだジン!風邪か!
どうせ腹でも出しながら寝たんだろ!
だらしない奴め!」
「ちがうわ!
鼻が痒かっただけさ!」
カンッ、カンッ、カンッと
木剣と、木剣の弾く音が
広場に響く。
「ちがうちがう!
まーた剣を手で振りよったな!
いいかジン!剣は手だ!剣は足だ!
身体の一部だ!力任せに振るんじゃない!」
「はぁ、はぁ、っく!
頭でわかってるんだけど、
なかなか・・!」
「しっかり腰を落とし、
腕の力だけに頼らず、
流れるように、
こうっ!!」
パカーン!!
軽い音が広場に響く。
「くあーーーー!!!
いってええーーー!!!」
村長の剣が
ジンの頭にヒットした。
「はっはっは!
ジンよ!これでお前はちょうど1000回死んだぞ!
お祝いでもするか!?
はっはーー!!」
「くっそー、
なんでこのじい様は年寄りなのに
こんな強いんだよ・・・。」
「はっはっは。
まだまだ若いもんには負けないわい!」
剣の稽古をする2人を横目に
3人の騎士が広場に通りかかる。
「おっ!またジンがじい様に
やられてるぞ!」
「頭の形がそろそろへこむんじゃないか!」
「そろそろじい様に殺されちゃうぞー!!」
ケラケラとバカにするように笑う
3人の騎士。
「かー!ったく、身につけてる物は一人前だが、
心構えがなっとらん。
散歩する暇があるなら
近隣の魔物でもたおしてこんか!
3バカトリオめ!」
村長は王より遣わされている3人の騎士が嫌いだ。
名目は王国内の村の警備として
配備されているが、実の所は
毎月の税収係だからだ。
仕事もせずに、酒を飲み、
フラフラ偉そうに闊歩するだけの騎士に
村長は呆れていた。
「あーっ!言ったな!!
俺らを馬鹿にすると、
王様にいいつけてやるからな!」
「お前らみたいな3バカに
王が耳を傾けるとは思わんがな!
それよりわしに文句があるなら
その腰の剣を構えてかかってこんかい!」
「ぐっ、村人に手を出してはならぬと
言われているからな!
今日のところは見逃してやる!
だが次は許さないからな!」
捨て台詞を吐いて3人の騎士は
宿場にある酒場へ向かっていった。
「はは、流石村長だね。
騎士達もタジタジだ。」
「全く、稽古の邪魔をしよって。
日が暮れてきちゃったじゃないか。」
気づくと空は紫色にそまり
夕焼けを迎えていた。
「そろそろうちは帰るか。
しっかり休んで明日の朝の畑仕事に
精を出さなければならんからな!!
帰って我が妻の美味しい料理を食べて
しっかり寝るとしよう!」
「なんだか、
ベルさんの料理をディスっているように
聞こえるんだよなぁー。」
「んん!?なんか言ったか!?」
「なんも言ってないよ。さ、帰ろ」
2人が帰路につこうとした時だった。
2人を目掛けて
慌てながら走ってくる男の姿が見える。
厩舎場のバンスだ。
「はあ!はあ!はあ!
そ、村長!!大変だ!!」
「どうしたバンス、そんなに慌てて。
落ち着いて話してみろ。」
「はあ、はあ、はあ、
落ち着いてなんていられない!!
盗賊だ!盗賊団が村に向かってくるのを見たんだ!」
「なんだと!?」
「もうじき来ちまうよ!どうする村長!?」
「なんてことだ・・・!
村の皆を教会に避難させる!
戦える者は武器を取り応戦するように!
バンスは騎士に連絡して
王に救援を出すよう伝えてくれ!
酒場にいるはずだ!」
「わかった!皆に知らせてくる!
騎士達にも伝えてくるから任せてくれ!」
バンスは大慌てで走っていった。
「ジンはわしと一緒に来い!
一度家に戻るぞ!」
「わ、わかった!」
「くそ、なぜこんな田舎の平和な村が・・・。」
いつも明るい村長の顔からは
焦りと緊張で
いつもの優しい顔ではなく。
険しい顔で歪んでいた。