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33. 第二コース膠着

時は少々遡る。


中継映像を観ていた群衆たちの頭上に、突如として黒い影が差した。

何かと上を仰ぎ見れば、大きな黄金色の瞳と無防備に目が合う。

巨大なドラゴンがスタジアムの外壁によじ登るようにして凭れ掛かり、ぐるりと群衆たちがひしめく席を見回していたのだ。

途端に観客席は悲鳴で溢れ返り、我先にと逃げ出す群衆らで一気に大混乱に陥った。


しかしそんな中で。

ドラゴンの顔のすぐ近く、関係者席に座っていたシーファの耳にそれは届いていた。


《……いないか》


恐怖と驚愕のあまりに聞こえた幻聴かと思ったが、それにしては嫌にはっきりと耳に残る声だった。

この声は、いつかどこかで聞いた記憶が―――


「シーちゃん下がって」


初めて聞いた女神ファランケの不穏な鋭い一言に、はっとシーファは我に返る。

その瞬間、黄金色に輝くドラゴンの瞳がぐるんとこちらを見た。


《―――ああ、これは使える》


恐ろしくも荘厳な雰囲気を持つドラゴンにしては生々しく人間らしい声に、シーファは一瞬にしてその主に思い当たった。

そうだ間違いない、この声は!


女神ファランケに押し退けられるように彼女の後ろへと下がった瞬間、何か強い衝撃が関係者席を襲った。

シーファの意識はそこで途切れ、次に目を覚ました時には何故だか映像越しに観ていた乾いた土のレース会場にいた。






「メイル!!シーファ!!」


ぐったりとしていた二人に声が届いたのか、まずシーファが呻き声を洩らして顔を上げた。

状況がわからないのだろう、ぼんやりと地面を眺めてからやがてこちらへと視線が上がる。


「……イファ、リス……様……?」


目が合って意識が段々とはっきりしてきたのか、徐々に見開かれた青い瞳はすぐさま驚愕と混乱に彩られた。


「え?え、なぜ……あ、なに、いや、動けない、」

「じっとしていて二人とも!すぐに助けるわ!」


落ち着かせるように声を張り上げるが、内心私も気が気ではなかった。

二人は上半身だけが見えている状態で、あとはドラゴンの体に埋め込まれているようにしか見えなかった。

どんな状態かはわからないが、助け出さなくてはならないことだけは確かだ。

シーファの隣で同じ状況であるメイルも自分の現状を理解し、恐怖と混乱で今にも泣き出しそうな顔をしていた。

すぐにでも飛び込んで行きたい気持ちを抑えつけ、ギリリと奥歯を食い縛ってドラゴンの目を睨みつける。


古代種、幻獣種。それらに分類されるドラゴン。高い知能を有し、その多くは人と関わらない生態を選んでいると聞く。

それが何故、人の多く住まう国の中心で、しかも仮にも神に牙を向けるというのか。

いつでも応戦出来る体勢の神々に下手に動かないで欲しいと目配せをすれば、それぞれの反応で全員が了承を示してくれた。

毅然とした態度で油断なくドラゴンを睨む。


「その方、古く気高き竜の種族と見受ける。如何な理由があって我が神官をその身に取り込み、我に牙を向けるか!」


一歩も引かない姿勢でドラゴンに語り掛ければ、彼はただ唸るように目を歪めてこちらを見上げる。

よく見ればその目は、敵愾心というよりも、嫌悪や不快感、あるいは不満を浮かべているように思えた。

より端的に言えば、そう―――苦しそうだ。


《はは、》


不意に、場違いな笑い声が聞こえてきた。


《はははははは。新たな神というのは思ったよりも悠長なようだ》


その声はドラゴンから聞こえる。けれど苦し気な彼にしてはあまりにも軽妙で、あまりにも愉快そうな男の声だった。

その声が聞こえた瞬間、ドラゴンの顔が一層嫌悪に歪む。

誰かいる。ドラゴンとメイルとシーファ、それ以外にも誰かがいる。


うすら寒い何かが背中に走った。かと思えば、ドラゴンの額に何かが浮かび上がって……否、浮き出てきた。

じわじわと形のはっきりしてきたそれは若い男の顔のようで、その表情はいっそ穏やかに笑っていた。


「えっキモッ」


見ていたヤズムが素直な感想を溢す。

だが完全に同意だ。荘厳な雰囲気のドラゴンの額に人間の顔が生えるって、どう控え目に見ても結構なグロ事態だ。

そんなヤズムの反応には構わず、男の顔はこちらに向かって口を開いた。


《お初にお目に掛かります、女神……イファリス、と仰いましたか。この度はご降臨を非常にめでたく思います》

「下郎が、何者か。何の故あってそのドラゴンの体に巣食う。我が神官たちを取り込んだのも貴様の差し金であろう」

《流石、お話の早い。しかし私の正体なぞどうでも良いことです。このお二人の神官殿につきましては、貴女の神気を追うのにちょうどよかったのと、貴女が向こう見ずに突っ込んで来てくれないかと期待したのですが》


当てが外れました、とさして残念でもなさそうに笑う男の顔に純粋に冷めた怒りが募った。とにかくこの男、不愉快で気持ちが悪い。


「何の目的があって我を求めるのか」

《簡単な話です。神という存在は非常に興味深い。故に、以前から色々と調べてみたいと思っていたのですが、何分長らく在る神々は存在強度が強く近付くことすら難しい。なので、この度新たに降臨なされて日の浅い貴女に望みを賭けたのですよ。女神イファリス》


なるほど、ラディアンと似てはいるがまた違った意味でのマッド野郎というのはわかった。ただ純粋に自分の好奇心を満たしたいのは同じ、しかし手段を選ばないタイプだ。

こいつが多分現状全ての元凶だが、ドラゴンとの融合、主導権の掌握、自我の確立。どれを取っても並大抵の所業ではない。マッドで有能なんてこの上ない厄介さだ。

しかもこのドラゴンが、今の自分の状況をどう思っているのかも問題だ。男と何か利害の一致があるのか、それとも単に利用されているだけなのか。場合によってはドラゴンも静めねばメイルとシーファ共々道連れにされかねない。


考えあぐねいていると、それまで会話を聞いていたシーファが震えながらも声を上げた。


「イファリス様!こやつはクレセルトです!」

「クレセルト?」


その名を聞いた瞬間、男の顔が「ほぅ」と感心したように見えた。


「クレセルト・ファンドゥン。カランド、マリスティア、バランディムの三国から追放処分を受けた狂気の魔術師です!元はマリスティアの宮廷魔術師で、身分を隠しながら国々を渡り、その常軌を逸した思考や度重ねた禁忌の魔術実験により、各国から危険人物と見なされた手配犯と聞いています!」


絵に描いたようなヤバい奴じゃないか。


《よくご存知だ。お嬢さんはもしや、どこかで私と会ったことが?》


楽しげに笑うクレセルトの顔には焦りすらない。そんなことは些末とでも言わんばかりだ。

一方でシーファは苦々しげに顔を歪めたが、後ろめたいという様子でもない。嫌な思い出があるらしいことだけは確かだ。


「なるほど、裁きを下すに遠慮の要らぬ相手というのはわかった。クレセルトとやら。貴様の目的は我が肉体をそのドラゴンに取り込むことか?」

《まぁ、とりあえずはそうなりますな。その上で無力化を試み、後でじっくりと神という存在の解剖に挑ませて頂きます》


好奇心はわかるが大却下だ。降臨して早々こんな奴に好き勝手されて堪るものか。

それに二人を巻き込んだ礼はしなくてはならない。ただ人質に取るだけならまだしも、ドラゴンの体に埋め込まれるだなんて下手をすればトラウマ確定事案だ。どうにかして二人を傷付けないようにドラゴンないしクレセルトを無力化させて、穏便に彼女らを解放させなくては。


その手段を考えているところで、それまで沈黙していた追尾型カメラから盛大に音声が響き渡った。


『全員伏せてろ!!』


ラディアンの声と理解するより早く身構えると、いつの間にか切れていた岩壁のレーザーが一斉にドラゴン目掛けて発射された。

爆音と土煙が立ち込め、メイルとシーファが悲鳴を上げる。


「ちょっと―――!」

「待ちぃ、姐さん!」


思わず降下しようとした私を、ヤズムが制止した。

加えていつ来たのかルアルに乗って背後に近付いてきたミリアーセに肩を掴まれて、何とかその場に踏み止まる。

ヤズムが風を一起こしして爆煙と土煙を晴らすと、そこには健在な様子のドラゴンとメイル、シーファの姿があった。

ホッと胸を撫で下ろすが、それよりも二人がいるにも関わらず容赦なく攻撃を仕掛けた張本人が許せなかった。


「ラディアンッ!!」


『そう怒るなイファリス。こいつは想定内だ』


「はあ!?」


言われた意味がわからず更に食って掛かろうとすると、ドラゴンが身を翻した。


《流石にこの数の神々を相手取るのは面倒ですね。今回は出直すとしましょうか》


二人を取り込んだままコースの壁を越えて逃げようとするドラゴン―――否、クレセルトを止めようとすれば、再びミリアーセに身体を押さえ込まれて止められた。

何故、と振り返れば彼女は冷静に、よく見るようにとドラゴンが前足を掛けた岩壁を目線で指す。その目線を素直に追えば、不可思議な光景が目に入った。


《……何?》


ぶぅん、とまるで岩壁の手前で空気を撫でるように、ドラゴンの前足が空回る。反発する磁石のS極とN極のように、岩壁に触れようとしても鋭い爪の先すら掠りもしない。

どういうことだとクレセルトは眉を潜めた。


『この神フェスはいかんせん問題児が多くてなぁ。今回のコースもまた腕によりをかけて強度と強制力を向上させた。例えばその岩壁、そこにいる奴らなら触れるくらいは容易だが、神でもない貴様が無理に乗り越えようとすれば身体中に重力が加わったように動きが鈍くなるし、問答無用でコースに向き直る仕様だ。破壊などとはもっての他。したところで岩壁内部に仕込んだ暴発の術式で自分に衝撃が跳ね返る。無論上空を飛んでゴールに一直線などという愚行を犯さぬよう、上部の空間にも飛び出し禁止の術式を施してある。神だから多少で済む効果を、一介のドラゴンが打ち破れる筈があるまい?』


傲岸不遜に言い切るラディアンの物言いに、クレセルトは再び穏やかな表情を戻した。


《それはそれは。上空から侵入した際には何の気配も抵抗もありませんでしたが》


『そりゃあ中からの衝撃、暴走を阻止する為だけの目的だからな。(面倒だし)外部からの干渉は想定していない。行きはよいよい、帰りはこわいというやつだ。だがしかし参考になった、次からは外部の防御面も検討しよう』


いけしゃあしゃあと(のたま)うラディアンにやはりクレセルトは顔色を変えない。ならばと私たちが元々目指していた進行方向へと進路を取った。


《仕方がありません。どこか隙を見つけて脱出する他ありませんね。流石に上位神の全力を想定した強制フィールドを破るのは骨が折れそうだ》


言うや否や、翼を広げてドラゴンは飛び立った。巨大な図体では狭いだろうコースの道のりを、迷いなく突き進んで行く。


「逃がさないわ!!」


追おうとする私を遮り、装甲を解いたスキーに乗ったシュナードが「落ち着け」と割り込んできた。


「闇雲に追っても仕方がない。幸いここは一本道だ。俺たちが奴を追って足止めをするから、イファリスたちは一旦情報の擦り合わせをするべきだ」

「でも!」

「君がそんなじゃあの二人は助けられない。まずは冷静に、状況を把握するんだ」


「行くぞヤズム」とシュナードはジェットスキーを走らせてあっという間に二柱の背中が見えなくなる。それを忸怩たる思いで見送った。

状況を把握と言っても、一体どうすれば。


『イファリス、これを持ってろ』


追尾型カメラから何かが降ってきて、私は咄嗟にキャッチした。

何かと思えば青く透き通る雫型の小さな石のイヤリングだった。


『通信機の代わりと思え。カメラはこのままあのドラゴンを追う』


そう言ってカメラは飛び去った。私は迷わずイヤリングを右の耳に取り付ける。


『付けたか、聞こえるな?』

「ええ、感度良好」


早速聞こえてきたラディアンの声に少しばかり冷静になって返す。

確かに多少頭に血が上っていたことは認める。自分の力もまだ全ては把握しきれていないし、ドラゴン、しかも魔術師と融合した特殊個体とやり合うのなんか当然初めてだ。確実に二人を救出するなら、まずは冷静な判断力を取り戻さねば。


『よし。まずこちらの状況だが、突然あのドラゴンが現れて二人を拐って行った。特に派手な攻撃を仕掛けられた訳でもないから安心しろ』

「マルトは、マルトは無事なの?」


それまで押し隠していただろう不安をあらわにするミリアーセを見て、そうだ関係者席にはメイルとシーファ以外にもまだいたのだとようやく思い出した。


『軽く頭を打ったようだが、命に別状はない。念の為医療班に見せている。今は意識もはっきりしているし問題はないだろう』

「良かった……」


ホッと胸を撫で下ろすミリアーセに申し訳ない気持ちになった。彼女だって身内の安否が気になっていた筈だ。それなのにその気持ちを抑えて、私の抑止に回ってくれた。全部終わったら礼をしなくては。

気持ちを切り替えてラディアンに問い掛けた。


「他の観客たちは無事なの?」

『突然ドラゴンを見たせいでパニックになったが、今は何とか落ち着いた。元凶がすぐにいなくなったからな。スタジアムの防御を強化したから、今は下手に避難するより留まった方が安全だと言い聞かせた。念の為周辺の街の警戒レベルも上げさせている』

「ファランケは?関係者席にはファランケがいた筈よね?」


彼女が傍に居ながら何故メイルとシーファが拐われたのか。戦闘力だけなら随一と言っても過言ではない筈だ。

それなのに何故。


『まぁ相性が悪かったというか、向こうが一枚上手だったというか……あいつは言うまでもなく攻撃が得意だ。だが守る戦い、防衛戦に関しちゃ粗が目立つ。ぶっちゃけそこらの人間相手なら立ってるだけで厄除けになれるから問題はないが、ドラゴン相手に複数人を守りながらとなると話は別だ。そうでなくとも周囲はパニックに陥った観客らでいっぱいだった。大火力相手に周囲を気遣って加減をしながら、なんてガラでもないことを考えたんだろう。マルトを狙った一撃を防ぐ間にあっさり二人を持って行かれてたぞ』


なんか……何とも言えない。

その状況を自分に置き換えて考えると、間違いなく同じ結果が出そうな気がするからだ。


『安心しろ、マルトを医療班に預けてすぐイイ笑顔ですっ飛んでったからな』

「いや駄目じゃない!?」


確実にキレてるでしょそれ!

不安要素が一つ増えた!


『こちらの状況は以上だ。さてユージーン、次はお前だ。知っていることがあるならさっさと吐け』


は?

何故だかラディアンに名指しをされた当人を見ると、サイドカーから降りて地面に立っていたユージーンはため息を一つ吐いてから私を見た。


「あのドラゴン、覚えがある」

「知ってるの!?」

「昔にちょっとな。だが俺の知ってる奴なら、何であんなことになってんのかいまいちよくわかんねぇんだが……」


ボリボリと頭を掻いて、腹を決めたようにユージーンは真剣な表情をした。


「奴の名はケプルドゥストゥス。穏やかな気性で争い事を好まない質の筈だ」


ケプ……なんて?


「でだ。もしあいつが本当にケプルドゥストゥスなら、お前の神官二人はまず危害を加えられる心配はない」

「それは……何故?」

「ケプルドゥストゥスの逸話の一つでな。あいつはかつて、一人の少女と共に暮らしていた。それ故女性という存在だけは決して傷付けないと己の因果を定めたらしい」

「いや、さっき私思いっきり攻撃されましたけど!?」


真っ正面からブレス食らいましたわ!避けたけど!女は女でも神だからノーカウントってか!?

しかしユージーンは顔色を変えずに続けた。


「そのブレスな。お前、ドラゴンのブレスには大きく分けて二種類あるって知ってっか?」

「知らない」

「まず一つ、属性のブレス。ドラゴンにも火とか土とか自然に属した属性がある。あいつは水と風を持ってるから、その属性ブレスが使える。さっきのはそうだったか?」


言われて、思い返す。

まず水では間違いなくなかった。では風かと問われればそんな感じも全くなかった。同じ属性を打ち消した手応えは感じなかったからだ。

首を横に振れば、想定通りの答えを得たユージーンは一つの結論を出した。


「なら、あれはあいつの固有ブレスだ。余程若輩のドラゴンでもなきゃ、大体は自分が定めた因果に則った固有のブレスを一つ持ってる。さっきのがそれだ。"乙女、我が息吹の内にて生きよ(ラ・ザカルアンド・ブレス)"。女だけは絶対に傷付けないあいつだけのブレスだ」


言われて気がついた。

初見でとにかく必死に防いだが、あのブレスは確かに強い威力を持っていたのにやけにあっさりと私の受け流しシールドに従ったのだ。確かに全力で防ぎはしたが、明確な敵意や殺気が乗っていればもっと違う手応えがあった筈なのに。


「じゃあまさか、あの時私に向かって撃ったのって」

「暗に敵意がないって伝えるつもりだったのかもな」


何と。初めてドラゴンに遭遇したからってテンパり……いや、ビビり過ぎただろうか。本当にそうなら申し訳ないことだ。


「とにかくだ。どれだけあのクソ野郎に侵食されてるかは知んねーが、まだあいつの自我は残ってた。なら何がなんでも、お前の神官二人を傷付けないように守る筈だ」


断言するユージーンの言葉は何故だか安心して信じられた。説得力というか、確固たる確信があって言っているのだとわかる。

私はうんと頷いた。


「ならば何故、その誇りあるドラゴンと魔術師が融合しているかよな。あのクレセルトとやら、三国を追放されておると言う話だったが」

「まぁ間違いなく奴の魔術によるもんなのは確かだ。だが他の種族と融合して身体を乗っ取るなんてのは聞いたことがないが……マッドな輩ってーのは頭のネジがぶっ飛んでる分無駄に有能らしいな」


恐らく確実にこの場には居ない誰かのことを言っている。

それを察しているのかいないのか、イヤリングからはマイペースなラディアンの声が聞こえる。


『なるほどな、大体わかった。ケプルドゥストゥスの名は俺も聞いたことがある。その上で奴の体内に半ば取り込まれた人質二名に、魔術による人間との融合。恐らく状況はそう悪くないと推察する』

「根拠は?」

『魔術師とドラゴンの肉体の融合が魔術によるものだというのはほぼ間違いない。古くは八千年より昔にその術の兆しがあってな、今の時代で完成されていてもおかしくはない。ただそれでも、魔術というのはあくまで人為的な技の一つだ。自然現象や不慮の事故でもなければ解除する(すべ)は必ずある。

加えて女を傷付けないと己の因果に刻んだケプルドゥストゥスの在り方だ。奴は己の魂と引き換えにしてでもあの娘たちを守り通すだろう。手っ取り早く人質にしたかったからだろうが、身に取り込んだのはケプルドゥストゥスとしても守る上で都合がいい。いくら身体の主導権を奪われていても、体内深くまでは奪われてはいないだろうさ。そこまでは時間もコストも掛かりすぎる。恐らくそこに勝機がある』

「長い。三行」

『・原因が魔術なら解除可能。

・ドラゴンに取り込まれているなら人質は寧ろ安全。

・解析はこっちでするから適度に足止めして時間を稼げ』

「おk把握」


そこまで都合よく行けるかは果たして疑問だが、悲観的になりすぎても身動きが取れない。まずは出来ることからやって行こう。

両手でぱんっ!と自分の頬を叩く。絶対助ける。助けなくては。


「ミリアーセ、ユージーン、レオナルド。お願い、力を貸して」


この場に残った神々の目をそれぞれ見て助けを乞う。新米女神たる私だけの力ではきっと駄目だ、確実に二人を助ける為には万全を期さなければ。

返事は迷わず返ってきた。


「ええ、勿論」

「当然よな、任せておけ!」

「これからって時に邪魔されたんだ、礼は高くつくさ」


頼もしい三柱の返答に気を引き締める。

おっと、もう一柱忘れていた。


「ラディアンもよろしく。魔術云々は私にはさっぱりだから」

『ああ、その辺はこっちに丸投げして構わん。興も乗った。しかしなイファリス、一つだけ言っておくぞ』


ん?

珍しく真面目なラディアンの声に耳を傾ける。


『お前のコントロール力は認めるが、それ以前に発想が力業過ぎる。せっかくの技量もそれでは死にスキル同然だぞ』

「…………肝ニ、銘ジマス」


有り難いお言葉に耳が痛くなった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  おー。  この回で、ずいぶん伏線を仕込んだ様に見えますね。  読者は今回の内容を大体覚えておけば、色々ニヤニヤ出来そうですわ(勝手な思い込み)
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