31. 第一関門を突破しまして
滑らかに空中滑走するルアルの後部座席(?)で風を受けながら、私はミリアーセの操縦テクを堪能する。自分で飛ぶのとは違ってミリアーセにあらゆるものを委ねている形になる訳だが、これがなかなかに気持ちが良かった。
無茶苦茶に方向転換をしたり無闇矢鱈とスピードを出している訳ではなく、まるで優雅に見えない空路に乗って走っているような安定感があってとてもいい乗り心地だ。
「大したものねぇ、貴女の操縦テク。結構堂に入ってるわー」
「ありがと。まぁ、去年貰ってから散々乗り回したもの。これでも最初の頃はおっかなびっくりだったのよ?」
「あら、ちょっと見たかったわねそれ」
堂々と乗りこなしている今の姿からは想像が出来ない。可愛い初心者姿が見られなかったのは残念だ。
それはそうと、最後の障害物の群れが過ぎて大分経つ。現在トップは私たちのペアで、少し後ろにシュナードとヤズラルムがついて来ている。レオナルドとユージーンは大分引き離したようだ。
「もうそろそろ第一関門よね。一体何があるのかしら」
「碌でもないことだけは確かだわ」
心なしかミリアーセの言い方に容赦がない。しかし初っ端から食らわされた閃光弾擬きのことを思えば、それも致し方ない気もする。きっと今まで開催された神フェスでも色々あったんだろうなぁ。
ふと、視界の端にちらりと自動追尾型の無人カメラが入って何となく思った。
「そう言えば、私たちが乗ってる機体の説明ってしてなくない?」
「あっ」
「あっ」
『あっ』
操縦するミリアーセ、後ろで聞こえていたらしいヤズラルム、そしてカメラから聞こえてくる実況担当のラファルトとやらの声。
私も今の今まで失念していたけれど、普通一番最初に入る解説じゃなかろうか。
『……さて現在トップを走るミリアーセ&イファリスペアが操る機体は天舟ルアル!去年女神ミリアーセが神フェスを勝ち抜いてゲットした代物になります!』
何事もなかったかのように解説が始まった。どうやら向こうも完全に忘れていたらしい。
『優雅に天を翔る青き三日月型のこの舟は基本的に神の力のみで動くものとされ、一応魔力も動力源となるらしいのですがその際必要となるのは町一つで使用される魔力炉三台分とのことです!』
よくわからない。
『要するに一つの町が3ヶ月暮らしていけるだけの魔力でようやく動くということだ。今はまだ魔力があらゆる動力源の国の方が多いからこっちのがわかりやすいだろう』
あ、なるほど、地球で言うところの電力的な。……待って3ヶ月分?この舟一つ飛ばすだけで?嘘ぉ!?
「言うて人間基準の魔力で換算したらや!ミリアーセの姐さんの神力ならそないにコストも掛からんやろ!」
「そうなの?ミリアーセ」
後ろから飛んできたヤズラルムの付け足しを耳にして本人に問えば、何でもないことのように彼女は頷いた。
「ええ、扱いにも大分慣れたし出力調整もバッチリよ。私が乗り回す分には問題ないわ。初期の試作機みたいだし、もし後継機なんかを作るんならその辺は今後の課題なんじゃないかしら」
『とのことですが製作元!』
『鋭意製作中だ。そのうち多分完成する。勿論その辺の課題も折り込み済みだ』
『だそうです!これは果たして我々の寿命が尽きる前に陽の目を見ることがあるのか!期待せずに待っていましょう!
さぁそして現在2番手、シュナード&ヤズラルムペアが操る機体!登録によればジェットスキーとのこと!動力は同じく神力を用いておりますこちら、地面の上を滑る乗り物であるようですが車輪などの存在はないのでしょうか!?』
『ない。ルアルもそうだがこいつも100%神の力をあてにして作ったやつだ。大地の神であるシュナードが操れば地面という地面を自由自在に走るし、風の神であるヤズラルムやイファリスが操れば空中を飛ぶことも出来る。勿論水の神である俺が乗れば水上でも問題はない。乗らんがな』
マジか。今度乗ってみたい。
うずうずしてちらりと後ろを振り向くと、同じことを思ったのかヤズラルムが試しに操縦しようとしてシュナードに止められていた。
同族にはなりたくないので何でもない顔をして前を向いたが、ミリアーセはばっちり苦笑していた。
『では3番手、レオナルド&ユージーンペアの機体であるバイクもそうなんでしょうか?』
『原理は同じだ。乗り手によってどこを走れるかが決まる。ただこっちは車輪で走る性質上、可能ではあるが水上はあまり向かん。乗り手の技術が大いに試される。まぁ今回のコースに水場はないから特に問題あるまい』
『なるほど、ではラディアン神には到底無理ということですね!』
『ラファルト貴様今月の給料全額カット』
『ラディアン神は知性溢れる素晴らしい神です!』
『8割カット』
主従コンビのコントのようなやりとりを聞き流していると、遠く前方に黒く光る大きな何かが見えてきた。
もしやあれが第一関門かと身構えると、すかさずラファルトの声が降ってくる。
『おーっとようやく見えてきたようです第一関門!見たところ黒く巨大な岩のように思えますがどうなのでしょう!?』
『黒くて巨大な岩だ』
そのまんまだった。
しかしなんだろう……あの岩……つい最近……どこかで……
『だがただの岩ではない。今回不参加で力をもて余したとある暇神が大人げなく万力の力を込めて圧縮し密度を極めた言わば神の密岩だ。ちょっとやそっとの力では破壊出来ん。それを3つ用意した』
つい最近見たわうちの神殿で!!!!サイズが100分の1くらいだったけど!!!!
『1ペアにつき一つを破壊して貰う。でなければ次のコースへの道は拓かれん。まぁ別に他のペアが壊した箇所から入ってもいいが。漁夫の利というのもまた手段の一つだろう?』
わざとらしくラディアンが付け加えた一言に、主に遊撃手の神々の闘志が燃え上がった。余計な一言をくれやがって……。
「ミリアーセ、そのまま飛んでて」
手短にそれだけ伝えると、私はルアルから飛び上がって瞬間的に速度を上げた。
次いでヤズムも飛び出す気配を感じたが、そう簡単にあのファランケ岩(仮)を壊せるとは思えないし放置する。
考えなしにあの岩に突っ込むのはどう考えても悪手だったので、一先ずは岩の前に降り立ち対象をまじまじと観察する。
デカい。分厚い。先程のアンドロイドの背丈の2倍はある。よくもこんなものを用意してくれたものだ。
この間のファランケ岩(小)はわりと難なく割れたが、このサイズとなると確実に一筋縄ではいかない気がする。試しに取り出した槍の柄で小突いてみたが、いっそ面白いほどに音が響かなかった。こいつ……堅い……!
「どいてや姐さあああーーーーーん!!」
軽く検分していると後方からお騒がせ小僧がすっ飛んで来たのでひらりと避ける。
器用にキリモミ回転しながら全身に旋風を纏って勢いよく岩に突っ込んだヤズラルムは、案の定弾かれて地面をバウンドした。ゴム毬かな。
ちなみに岩は無傷だった。
「なんっっっやこれかったっ!!!!」
『だからそう言った』
「こないな代物いつから準備しててん!?」
『ファランケが一晩でやってくれた』
ファランケぇぇぇぇぇっ!!!!
ノリノリで岩を押し固めるファランケの様子が容易に想像できる。道理で昨夜は姿が見えなかった訳だ。
しかしまぁ、なんだ。このレースが全世界に中継されているとなると、当然カランドでも観ていることになる。
そうするとこの間ファランケ岩(小)を割った時その場に立ち合っていた第一騎士団の皆様も観ている確率が非常に高いという訳で。
負けられない戦いが、ここにはある(迫真)。
私は集中して槍の穂先に風を集めた。大体大型台風級のものを収縮させて纏わせる。食らったら家の一軒や二軒や十軒は容易く吹っ飛ぶものと考えて貰っていい。
気合い一閃、いざっ!!
呼吸を整えて、脳内師匠であるジファードの構えや動きをイメージし、踏み込む。壊せずともヒビくらいは入れるつもりだった。が。
ガンッ!!と堅い手応えの先に出来上がったのは、独楽がぴったりはまりそうなくらいの小さな穴だけだった。
「ファランケぇぇぇぇぇっ!!!!」
つい声に出た。
『関係者席から中継です』
『みんなに楽しんで貰えるよーに張り切ってぶっ固めましたー!ちなみに試作品自分で割ってみたけど思った以上にしんどかったよ!』
『製作者である女神ファランケご本神の力を以てしても難しい難易度!これを第一関門に持ってくるとは流石ラディアン様えげつない!!』
双方ともちょっと黙ってて欲しい。
ううむ、風量を増やしても恐らく無駄だろう。風だけで壊そうとしても多分周囲の地形が変わるだけで岩自体は残る気がする。ならばやはり槍との組み合わせは外せないが、どうしたものか。
「イファリス!!」
悩んでいると後方からミリアーセの声が掛かる。しまった、もう追い付かれたかと後ろを振り向けば、シュナードとレオナルドもスピードを増して追い上げて来ていた。ちょっ、待っ、早っ!
慌てるも具体的な打開策が浮かばない私に、ミリアーセが声を張り上げた。
「そのままさっきの、槍の風をもう一回!」
「えっ……わ、わかったわ!」
言われた通り、槍の穂先にもう一度風を集める。
すると何が起こるか察したのか、ヤズラルムが泡を食って逃げ出した。
迫り来る三日月状のルアルの先端に、ボッと鮮烈な赤が灯る。
それは一気に騎乗しているミリアーセごとルアルを包み込み、巨大な火の玉のようになってこちらへ猛スピードで突っ込んできた。
「合わせてイファリス!!」
叫ぶミリアーセの呼吸と重ね、ふっと息を吐く。
突っ込むルアルとともに、全力の突きを踏み込み一閃。
周囲の砂や石ころすら巻き込んで巻き起こる旋風がミリアーセの炎と交わり、巨大な火柱となって岩へとぶつかった。
ミリアーセの力と一体となった感覚の後、堅い感触の先に先程とは違う手応えが返ってくる。
ビシリ。
広がる亀裂と止まらない突貫。
私とミリアーセは駄目押しとばかりに力を込めた。
「「ああああああああああああっ!!!!!!」」
ゴォッ……!!と鈍く大きな音を立てて、3つのうち真ん中にあった大岩は盛大に崩落した。
『決まったああああああっ!!!!最初に突破したのはミリアーセ&イファリスペア!!炎と風のコンビネーションです!!』
『何だかんだで岩だからな。熱で多少は脆くなるという訳だ』
『つまり火に当てれば難易度が下がると?』
『あのサイズの巨岩を一撃で壊すにはどこを熱するかがポイントになるがな。ついでに熱した隙を逃さずそれなりの力で打ち砕く必要がある』
『つまりどちらも規格外の力を持っていたからこそ出来た離れ技という訳ですね!良い子の皆さんは決して真似しようなどと思ってはいけませんよ!』
『そもそも真似する機会もそうないだろう』
なんだかあまり褒められた気がしない。
しかし正々堂々突破したことには違いないので、ミリアーセと二人やりきった笑顔を合わせて先を急ぐ。残ったペアがそう簡単に足止めされてくれるとも思えない。
と思っていたら、やはりラファルトの声が上がった。
『あーっと、これは凄い!まず男神ヤズラルム、一旦ジェットスキーの後部へと舞い戻った!そして後ろか押すようにして……出たーっ!!エンジン全開!ヤズラルムターボッ!!』
ターボとかエンジンって概念この世界にもあるの。
『シュナード&ヤズラルムペア、文字通りの凄まじい追い風に乗り猛スピードで大岩へと突っ込んで行く!まさかあのまま突っ切るつもりか!操縦する男神シュナードは特に焦った様子もなく冷静に大岩めがけて方向を定めているぞ!』
えっ待ってシュナードどうしちゃったの!?
「大丈夫よイファリス、シュナードは何の考えもなしに簡単に突撃を選ぶような奴じゃないわ。それにもし撃沈しても死にはしないし、自己責任よ」
さらっと仰ってくれますなミリアーセ姐さん。
しかし彼女の言う通り、彼らの選択にこちらがいちいち一喜一憂するのもおかしな話だ。何より今は競争相手なのだから。まずは自分たちの心配をしなければ。
『そしてこちらもレオナルド&ユージーンペア!男神ユージーンが先んじて身を乗り出し炎の玉を連続して繰り出している!残像がさながらビームのようです!』
もう突っ込まない。
『そしてそれを食らった大岩は熱により変色している!先程のミリアーセ&イファリスペアと同じ方法を狙うか!』
『いや違うな。熱した箇所をよく見ろ』
既に過ぎ去った場所の様子はわからないが、何やら妙な予感がする。
『これは……?地面と接している部分が集中的に熱せられているようですね!どんな狙いがあるというのでしょうか!そしてそんなことを言っている間にシュナード&ヤズラルムペアがいったーーーーーっ!!!!大岩のド真ん中めがけて勢いよく突っ込んだーーーーーっ!!!!』
「来るわイファリス、気を抜かないで!」
ミリアーセに促されてこちらも身構える。
ちらりと後方を見れば、もくもくと白っぽい土煙の中を健在な様子で二柱が突っ走ってきた。
「嘘ぉ!?」
『突破したーーーーーっ!!シュナード&ヤズラルムペア、あの大岩をものともせずに粉砕して突き進んだ!!男神ヤズラルムが突撃してもびくともしなかったあの大岩が何故!?』
『何故も何もシュナードは大地の神だからな。岩は大地から出るもの。であればそれを司る者が打ち破れずしてなんとする』
『ではこの第一関門、男神シュナードと男神レオナルドにとっては元から有利であったと?』
『そうとも言えるが、あの大岩を加工したのは戦神ファランケだ。単純にその力に対抗する為にはシュナードだけでは足りん。だからこそ、ヤズラルムが後押しする必要があったんだろう』
『なるほど、ではレオナルド&ユージーンペアにも……おや?こちらも一直線に突っ込んで行く!もしやシュナード&ヤズラルムペアと同じ手か!』
いや絶対違う。上手く言えないが良くない予感がする。
さっき言っていた、大岩の根元を熱していたというのはどういうことか。多分突破だけが目的じゃない。彼らは―――
「行くぞ、レオナルド!!」
「うむ!ドカンと一発ド派手に頼む!!」
二柱の掛け声の後、大きな爆発音のようなものが響き渡る。そして地鳴りのようなものが後から続き―――
―――ふと、大きな影が後方から真上を過ぎ去って行った。
え、と呆けてそちらを見上げる。
不敵な笑みを浮かべたレオナルドとユージーンが、バイクに乗って私たちを追い越して行った。
ギャン、と着地したタイヤが地面を削って駆けていく音ではっと我に返る。
「んじゃな、女神サマ方ー!」
楽しげに笑ってユージーンたちは過ぎ去って行く。
追い越された!?
『なんとーっ!レオナルド&ユージーンペア、あろうことか大岩を押し倒して踏み台にしたァーーーっ!その上男神ユージーンが後方にて巨大な火の玉を爆発させ、その爆風を利用し超加速を引き起こしたーーーっ!!』
『なんで上手くいくんだあんなの』
『解説のラディアン神も呆れております!しかし大岩の根元部分は破壊されている為、ルール上問題はありません!これはもしや、先程の女神イファリスの障害をヒントにしたかっ!?』
……やってしまった。
ラファルトの言葉に自分が余計なことをしてしまったと悟る。やり返すのなんてもっと後にすれば良かった。
「ドンマイ、イファリス!それに貴女のことがなくてもあのくらいレオナルドなら簡単に考え付いてたわ!気にしちゃダメよ!」
ミリアーセに励まされ、一先ず気持ちを切り替える。
そうだ、まだレースは中盤。それに相手にしているのはあいつらだけではない。
いつの間にか後ろにぴったりくっつくようにして追い上げて来たご近所さんを見る。
「派手に行きよるなぁー、おっさん!」
「頼むから真似しようなんて思わないでくれよ!」
「なんやさっき似たようなことしたばっかやん!」
ヤズムの反論には深く頷く。
勝算ありきの選択だったのだろうけれど、シュナードもなかなか思い切ったことをする神だと認識を改めた。ヤズムのブレーキ役かと思っていたが、これは下手をしたら寧ろアクセルになるかも知れない。
……あれ、参加者の中でまともっぽいのミリアーセだけ!?
と思ったが、そう言えばミリアーセも大陸間の海を爆速で飛び回ったり躊躇なく火ぐるみになって突っ込んで来たりする肝っ玉の持ち主だった。
うん。もう何も考えない。
私は心を無にし、とにかく目の前のレースに集中することを選んだ。
【おまけ~ひたすら割られただけの今回の被害者~】
岩「熱電導率 とは」(ゲン●ウポーズ)
岩「圧縮密度 とは」(ゲン●ウポーズ)
岩「踏み台にされた(´・ω・`)」




