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18. 思わぬ闘志を燃やされまして

約一名のノリとテンションにより無駄に騒がしかった晩餐会を終えて、私は夜風に当たりに出た。因みに女神二人も泊まるようだ。時間が時間だから仕方がないが。


弁当は美味しかったがあらゆる意味でお腹いっぱいになったので、げっそりと静かな夜空を見上げる。

星々の煌めく夜空を眺めていると、誰かが静かに近付いてくる気配を感じてそちらを見やった。


「……あら」

「…………」


そこには未だに浮上しない様子のマリエラが立っていた。

夕食を食べてファランケに散々絡まれて、顔色は大分良くなったようだが気分はそうはいかないだろう。

私は小さく微笑んで隣に来るように手を振った。

マリエラは躊躇するようにぐっと息を呑んだが、観念したように重い足取りで私の隣に並ぶ。


「騒がしい晩餐だったわね」

「……はい」

「ファランケに絡まれて面倒じゃなかった?」

「…………いいえ」


ちょっと間が長かった。

けれどちらりと横目で顔を見れば、本当に嫌そうな顔には見えなかった。

悪くはなかったようだ、と安心してまた夜空を見上げる。


「随分といい男だったわね、貴方の婚約者」

「……私には勿体ないくらいです」


思った以上に冷静な声が返ってくる。大分気持ちは落ち着いたようだ。

二人で夜空を見上げて、何とはなしに会話を続ける。


「選択に後悔はない?」


少しの沈黙の後、マリエラはゆっくりと頷いた。


「……あの人は本当に真っ直ぐで、誠実で、何よりそうあろうと努力する人でした。思うような自分になれずに苦悩して、でも決して挫けなかったこともわかっています」


バレてるぞー色男ー。

今頃騎士団の面々と夕食を囲んでいるだろう婚約者様を思い浮かべる。くしゃみでもしたらごめんなさいね。


「あの人は完璧じゃなかった。でも理想とするところまで、努力をたゆまず出来る人でした。そういうところが真っ直ぐだと思うんです」


そう言い切ってから、マリエラははーっと息を吐いた。


「私とはまるで違います」

「性根の部分が?」

「……否定はしません。でも私は、一時でもあの人の婚約者として振る舞えて誇らしかった。あの人のようになれたら、あの人の誇れる私になれたら、って……」


段々と顔を俯かせ、窓枠の石の上に乗せた綺麗な指をぎゅっと握り込む。

それから少し晴れやかな表情で、再びマリエラは星の輝く夜空を見上げた。


「私、あの人のことが好きでした。でもそれは、憧れの意味での"好き"だったんです」


誰でもない、自分に言い聞かせるようにマリエラは清々しく宣言する。

選定の儀の会場裏で、周囲を見下すように笑っていた彼女。今ここで、自分の気持ちにケリをつけて清々しく笑う彼女。どちらも両方、彼女の顔だ。

私は安心するように笑って、「そう」とだけ言い添える。


「別にそれでも良かったんです。貴族同士の婚姻は、あくまで家と家との結び付きだから。互いに納得して、落としどころをつけて、敵となる存在につけ入られる弱味さえなければそれで」

「……そうじゃなくなったから、苦しくなった?」


私の問いかけに、再びマリエラの顔に沈痛な色が混じる。それは最早、答えと同じだった。


「……欲が出たんです。もっと彼に相応しい姿になれる筈だ、もっと彼の妻として相応しくあるべきだ、誰よりも彼に見合う存在になれる筈だ、って……」


自分の愚かしさを嗤うような表情と声音に、掛けようとした言葉を取り下げた。

それはもう、"憧憬"ではなく"恋い焦がれ"ではなかったんじゃないか、なんて。

今更言っても詮無きことだ。


「私が目指すものと彼の目指すものは違う。道すら重ならない。それに気が付いた時、どうしようもなく彼と"ズレている"と直感しました。それからはもう、何をしても虚しくて。きっとこのまま婚姻すれば、何れ私が彼を、どちらの家をも不幸にするだろう、と。だから……」


―――だから今回の騒動は、渡りに舟だった、と。

女神相手ともなれば、父はおろか国王でさえおいそれと楯突けない。無敵の駆け込み寺が向こうからやって来た。それに気が付いたマリエラは、随分と安堵したことだろう。

多分マリエラを拐ってきたあの日、処罰について言い渡した後だ。あの時こそマリエラは酷く驚いて動揺していたが、後になって冷静に考えれば、そう悪いことでもないと気付いたんだろう。

だから今日、いきなり婚約者(アルフォード)が現れて血の気が引いた。

マリエラの思考の推移が手に取るようだ。もしかしたら私とマリエラ、ちょっと思考回路が似ているのかも知れない。


色々と吹っ切れて箍が外れたのだろうか。私へのお堅い対応など何のその、マリエラは実にフランクに私に笑いかけてきた。


「イファリス様。私、神官になったらまだアルフォード様に近くなれるんじゃないかって思って儀式に挑んだんです」

「はぁ?そりゃまた何で」

「だって神官になって一身に祈ってお務めを果たせば、それで国が救われる。それはアルフォード様の信念にも近い。それに私が神官として務めを果たしている姿を見たら、アルフォード様も私を認めてくださるかも知れないじゃないですか」


私、自己満足の為に祈りたかったんです。

そう晴れやかな笑顔で言い切るマリエラの表情が、今まで見たどの表情よりも一番の良い笑顔で。

私はつい、勢いよく吹き出して笑ってしまった。




* * *




コイバナ(但し失恋モノ)を通して打ち解けた私たちの耳に、何やら大騒ぎの声が届いてきた。

まるでお祭り騒ぎのような大歓声に、マリエラと私は顔を見合わせて声のする方角へと駆け出す。

どうやら発生源は騎士団の夜営地、つまり神殿前の広場らしく、何事かと二人して現場に駆けつける。


「ちょっと、何の騒ぎ!?」


そう叫んで飛び出した私の目に、信じられない光景が飛び込んできた。


「さぁーて!今回の景品はユシティムで大人気のお弁当!女神イファリス、ミリアーセ、そしてあたしファランケも御墨付きのお味だよ!我こそはという強者は名乗りを上げーい!」


うおおおおおおーーーーーーーっ!!!!と野太い歓声が上がる。見るからに焚き付け役のファランケは高々とさっきまで私たちが食べていたお弁当(未開封)を掲げて集った騎士たちを煽りに煽る。

遅れて到着したマリエラが、チベットスナギツネとスペースキャットの中間のような顔をしていた。


「ちょっとファランケ、何やってるの!?」

「あーイファリン!何って余興だよ?折角こんなに騎士さんが集まってるんだからさぁ、これを利用しない手はないっしょ!」


にっこにっこと上機嫌に笑うファランケを止める者はどこにもいない。ミリアーセはとうに真っ白になって燃え尽きていた。それをメイルが必死になって介抱していた。


人が目を離した隙に一体何があったし。


「さーぁ集え勇者たちよ!そして弁当をその手に!」

「せめてもうちょっとこうさぁ!?マシな景品はなかったのかなぁ!?」


弁当て、弁当て!

そしてそれに集うな勇者ども(騎士団)!


「ルールは簡単!この戦いの女神ファランケが作り出した石像を壊せたら勝ち!投げても良し、殴ってもよし、斬ってもよし!但し剣が刃溢れしても責任は取らないよ!」

「俺やります!」

「俺も俺も!」


いい笑顔で宣言するファランケに我先にと勇者()が殺到する。余りの多さに「わーめんどくせー」と主催にあるまじき感想を洩らしたファランケは、「先着10名!」とルールを追加した。

その途端響き渡るブーイングと歓声。君たちもうちょっと理想を高く掲げて生きよう?


「ではまず俺が!」


見るからに筋骨隆々な男が歩み出てきた。鎧を脱いで自慢するように鍛え上げた肉体を披露する男を、周囲が面白おかしく囃し立てる。うん、ごめん、行きすぎた筋肉はキモチワルイ。


「始めっ!」


ノリノリで開始の合図を出すファランケの一声とともに、筋肉男はカッ!と目を見開いてファランケお手製の石像に拳を振り上げる。


「ぬうううううううおおおおおおおおっっっ!!!!!!」


野太い雄叫びとともに振り下ろされる拳。正確に捉えられる石像の頂点。瓦何十枚ならば確実に割れるであろうその拳―――は、石像にヒビ一つ入れられなかった。石像はそのまま、無傷で地面に深くのめり込んでいたのだった。


「はい残念しっかくーーー!」

「ぬううっ無念!」


いやそんなことを無念に思わないで。もっと大事な時に筋肉使って。


「はい次ー!」

「ふっ。とうとう俺の実力を示す時が来たようだな」


はい駄目ー。出だしからして駄目なやつこれー。絶対出来ないやつだからこれ。俺の実力がーとか言ってるやつはだいたい噛ませだから。そもそも弁当を賭けて実力示さないで。純粋にカッコ悪い。


「へいよっ!」

「はぁっ!!」


待ってへいよって何。寿司でも握ったの。それ開始の合図?適当が過ぎない?何でその合図で剣振り抜いちゃったの?気が抜けるでしょ?抜けない?そっかー。


「くっ……俺はまだまだ未熟だというのかっ……!」

「はい次ー!」


で、やっぱ切れなかったよね。当然だよね。くっじゃないよね。剣可哀想だよね寧ろ。あれガチで刃溢れしてない?訳わかんない石像斬ろうとして刃溢れしましたとか恥ずかしくて言えなくない?女神の試練に挑んだ証だから恥ずかしくない?そっかー!(思考停止)

はい次!


「この俺の脚力が!」(以下略)

「この上腕二頭筋で!」(以下略)

「この!」以下略。


以下略ったら以下略。




「けーっきょく誰も割れなかったねー」


一抱えあるぬいぐるみ大の石像を持ち上げ、ファランケは残念そうでもなくあっけらかんと石像の頭を撫でて言った。

周囲には撃沈した男たちの屍が累々と散らばっている。

途中から突っ込みを放棄した私は、ずっと気になっていたことをファランケに聞いてみた。


「ねぇファランケ、その石像なんの形してるの?」

「ん?これ?ドラえm「それ以上いけない!!」」


薄々そうじゃないかと思ってたけど!!アウト!!!!




* * *




「その石像、女神イファリスならば割ることが出来ますか?」


ファランケと騎士団に撤収を促していると、不意に若い騎士にそう聞かれた。


「私?」

「あーいいねぇ!イファリンやってみてよ!」


私に背中を押されて神殿に収納されかかっていたファランケが、それに反応して私を振り返る。

えっいや、ちょっと待って。


「ちょっ、私はもうお弁当貰ったしやらないわよ?」

「別にいーじゃん試しにさっ!ほら、エキシビジョンなんとかってやつ!」

「それ試合の前にやるやつじゃなかったっけ?」


知らんけど。


段々と熱苦しい期待の視線が集まってくる。やめろ、むさ苦しい集団に期待されても私は―――!


「イファリスさま……」


野郎ばかりの視線の中、鈴を転がすような声が聞こえてはっ!と振り返る。

神殿にもたれ掛かる形でぐったりしているミリアーセを介抱していたメイルが、キラキラとした目でこちらを見ていた。

やるの?やるの?イファリスさまもやるの?

野郎共とはまた違う、純粋な期待に満ち溢れた瞳で見つめられる。


―――――ふっ。


「やってやろうじゃないの!!!!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」」」


野太い歓声と小さな期待の視線を背負ってファランケが再び設置した石像に向かって構える。

そして。


「えい。」


特に力みも溜めもなく、普通に高速回転する風の刃で石像をスパッと真っ二つにした。

因みに石像は私がアウトと言ったからか、ただのダルマ型の石に作り替えられていた。何事も平和が一番だよね。


「はい終了ー。あんたたち、とっとと寝なさい」

「ええええええーーーーーーー!?」

「ちょっとイファリンそれはないわーー!今のはないわーー!」

「うっさい!ルール通り割ったんだからもう良いでしょ!」


あの石像はファランケが大人気ない力で圧をかけて圧し固めた岩石の結晶だ。一朝一夕には割れる代物ではない。

ではどうすれば良いか。同じくらい大人気ない力で真っ二つにすればいいだけのこと。ふっ、つまらぬものを斬ってしまった……これ(石像割り)は人類にはまだ早かったな。


騎士たちは不満半分羨望半分といった様子だが、メイルは一層キラキラとした目で「イファリスさま凄い……!」と褒めてくれるんだからそれで良い。最初からぼーっと見ていたマリエラは、最早何が何だかという顔をしていて全く理解が追い付いていないようだった。


今度こそ解散、と無慈悲に割った石像を拾い上げて神殿に引き上げようとすると、再度私を呼び止める声が掛かった。


「どうかお待ちを、女神イファリス」


アルフォードと同じくらい堅物真面目系だが、彼よりは一回りくらい年配だろうかという声色の持ち主は、槍を携えた鋭い目付きの中年の男性だった。

中年と言えど騎士、鍛え上げられた体躯で軽々と長い槍を構えて私を威嚇する。


「ジ、ジファード様何を!?」

「黙っておれザナル」


昼間アルフォードに付き従って神殿まで来ていた彼の部下、若い方が槍兵を諌めにかかる。が、こともなく一蹴して槍兵―――ジファードというのか、は、私を目線で捉える。


「どうかこの若輩めと、是非とも手合わせ願いたく」

「な、何を仰いますジファード様!」

「そうです、相手は女神!例え戯れとしても、刃を向けるなどと!」


おいさっき石像割れ割れコールしてたやつがどの口でそれを言う。


しかし周囲の制止もなんのその、ジファードは聞く耳持たずにひたすら私を睨み付ける。


「俺は20年、国の為この槍を振るって鍛練を重ねて来ましたが、ついぞ実戦に出ることもなくこの年まで来てしまった。武を振るうことなく平和であればそれが一番。だがしかし、有事というのはいつ何時起こってもおかしくはないもの。故に女神よ。どうか私の槍がどこまで通ずるのか、是非とも試して頂きたく」


うーわー面倒くさいのに捕まっちゃったよ。

こういった武人さんは嫌いじゃないが、自分が絡まれるとなると話は別だ。だって今の私は女神であって武人じゃない。今でなくとも武人だった覚えなんか欠片もない。もしかしたら前々々世くらいはそうだったかも知れないけれど。

とどのつまり、土俵が違うのだ。多分彼を黙らせるのは簡単だが、それで納得して貰えるかは微妙なところ。

どうするべきか答えに迷っていると、とんでもないところからも名乗りが上がった。


「ならば、私も是非お願いしたい」

「団長!?」


アルフォードおいコラ。部下を諌めるべき団長が何言ってるんだオイ。

きりっとした顔でジファードの隣に並んで私を見つめる彼の瞳は、どうやら本気らしい。これは断った方が面倒そうだ。


物っっっ凄く気乗りはしないが受けようとため息を吐きかけたら、今度はこちらから思わぬ助け舟が渡された。


「じゃああたし相手するよ」

「ファランケ!?」


ほーい、と軽いノリで手を上げるファランケを思わず凝視する。何言い出すんだこいつ。


「だって時間も遅いし、流石に二人も相手するのメンドいっしょ。おじさんの方あたし、イファリス団長さんの方相手したげなよ」


ね?とにっこり笑うファランケの顔に、毒気が抜かれる。

アルフォードはともかくジファードは不満に思わないかと表情を伺えば、杞憂であったと思い知らされた。


「音に聞こえる戦神ファランケにお相手願えるなど、身に余る光栄。是非ともお願い致したく」


寧ろテンション上がっちゃってるよオイ。

連続投稿ラスト。燃え尽きました。

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