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10. 神と神官(仮)とお話しまして

「……なるほど、ではどちらもカランドの民という訳だね」


シュナードの一言でマリエラの婚約者爆弾がなかったことにされる。

まぁ今の議論に関係ないからね。それをどうにかするのは私の仕事だからね。


改めてシュナードが議論の方向を元に戻す。


「イファリスの領域にある国は全部で3つ。バランディム、カランド、マリスティア。それで間違いはないな?」

「ええ」


初日にミリアーセに説明して貰った時に一緒に確認したから間違いない。どれもそこそこ大きな国土を持った国だ。

ちなみに私の神殿のある森とその周辺一帯はどの国のものでもないが、森にさえ入らなければ行き来は自由となっている。筈。


「偏りをなくすなら、バランディムとマリスティアからも神官を取るべきだが……」

「まぁまぁ、決めるんは姐さんやし。あんま他所のことに首突っ込み過ぎてもええことあらへんでー?」

「そこは、弁えている」


ヤズムの言葉にシュナードがぐっと喉を詰まらせる。面倒見がいいのか世話焼きなのか、どちらにせよ性分なんだろう。押し付けがましい訳でもないので好意的に受け取れる。


「けどまぁ実際のとこ、他の二国から神官取るんは難しいやろ」

「どうしてですか?」


メイルがきょとんと首を傾げる。

マリエラは何か言いたそうにしているが、私たちが何も言わないので堪えている。


「どちらかっちゅうとな、カランドの方が特殊なんや。そもそも女神が不在の中で、神官っちゅうもんを担ぎ出して今までやってきたんは奇跡に近い。姐さんも見てきた筈やけど、あそこだけやで。神の生命力なしで一般庶民までほぼほぼ普通の生活送れとる国は」


ああ、なるほど。

ヤズムに言われて納得する。確かにカランド一帯には大地に瑞々しさこそなかったけれど、普通に生活していく分には問題ないレベルだったように思えるのだ。枯れていた訳ではなかったのだから。

あれが、神官の力なのか。


「対してバランディムとマリスティア、いやどこの国でも神官一人の存在と祈りの力だけで豊かさを保つんは不可能と言っても過言やない。今度行ってみたらええ。その目で見るんが一番や」


真剣な目で言うヤズムは、出会い頭で突進してくるやんちゃ坊主のなりを潜めて神の顔をしていた。私より長くこの世界に居る分、多くのものを見て知ってきたのだろう。

シュナードも頷いて、ヤズムの言葉に同意を示す。


「それがいいだろうな。カランドを見た後なら、尚更女神不在の影響と神官の有無の違いがよくわかるだろう」

「その、神官さまは他の国にはいないんですか?」


何度目かのメイルの質問に、マリエラの不機嫌オーラが増大する。調子に乗るな、とでも言いたげだ。

無視してメイルの質問に答える。


「いる国もあれば、いない国もある。基本私の領域にある三国にはいる筈なんだけど、多分一番力の強い神官を代々持っていたのがカランドなのね。たまたまだったけど、ちょうどよく次代の神官を見つけられて良かったわー」


「次代の神官」のところでわざとらしくマリエラを振り返る。それにぎょっとしてマリエラは、苦々しい顔で視線を逸らした。


「まーもー難しい話はこの辺でええやろ!シュナードと一緒やと堅っ苦しくてしゃーないわ!」

「悪かったな」

「ほんでな姐さん!本題や!一応今日は姐さんの降臨祝いと挨拶に来た訳やから、手土産持参してん!」

「手土産?」


どう見ても手ぶらなんだけど。と思ってじと目で見ていれば、ヤズムはさっと背中に手を回す。かと思うと、次の瞬間彼の体躯で一抱えもあるほどの大きさの小包を取り出して見せた。


「ぱぱーんっ!今の姐さんにぴったりやと思うんやけど!」

「いやその前にどっから出した!?」

「細かいことはえーねんて!それよりほら、開けたって姐さん!」


満面の笑顔で差し出してくるヤズムに押し負けて、とりあえず小包を受け取る。指先でちょいちょいっと小さく円を描けば、ヤズムの手から離れて小包が私の前に浮かぶ。

手に持った感じ結構な重さだけれど、一体何だろうか……ビックリ箱とかだったらこの神殿の天辺から逆さ吊りにしてやろう……

などと考えながら小包を開ければ、中から出て来たものに私は勿論、マリエラとメイルさえも目を奪われた。


「きれい……」


無意識の呟きがメイルの口から溢れる。

小包の中から現れたのは、大きな赤い水晶の原石のような鉱物だった。透き通るような濃い鮮やかな赤は単色ながら、神殿に灯された灯りを反射してキラキラと輝いている。


「どや、凄いやろ!」


胸を張るヤズムの頭をシュナードが小突く。

けれどまぁ、確かに純粋に凄い。前世では宝石の類いには縁遠かったし、それでなくともこんな大きさの結晶など見たことがない。


「お前これどうしたんだ」

「ああ、うちの領域の鉱山で採れたらしくてな、王様直々に献上されてん。けどワシのシンボル赤と違うし、こんだけ立派なもん持ってても宝の持ち腐れやなーって思ってたところに姐さんの降臨や!こらもう天の啓示やろってピーンと来たさかい勇んで持ってきたっちゅう訳や」


つまりいらないものを処分しに来たという風にも聞こえる。

でもまぁ確かに私のシンボルは赤い鉱石だし、これだけの大きさであればこのまま飾っても様になる。しかも王様直々に神に献上したものとくれば、偽物の可能性もないと言って良いだろう。


「意外に気の利いた贈り物ね。有り難く貰っておくわ」

「たっははー。姐さん中々に辛辣ですな!」


初対面を思い出せ。まだ30分も経ってないぞ。


ヤズムの手土産を受け取ったところで、シュナードが静かに腰を上げた。


「さて、用向きも済んだことだしこの辺りで帰るか」

「えー!まだええやん!もうちょっとゆっくりお喋りしてこうやー!」


座ったまま駄々を捏ね出すヤズムに、シュナードはため息を吐く。


「あのな。こっちは事前に連絡もなしにいきなり訪問、しかも無断で神殿に入ったんだ。いくら許しを貰ったからって、もうちょっと遠慮と礼儀ってもんを弁えろ」

「ちぇーっ」

「だいたい、彼女にはこれからやる事がある。長居したって迷惑になるだけだろ」

「…………むぅ」


むくれた顔で石の床を睨んでから、ヤズムは勢いよく立ち上がった。


「しゃーない!ほな今回は出直しますわ!姐さん、今度は何か美味いもんでも持ってきますさかい、リクエストあったら聞きますでー!」

「ゲテモノ以外」

「うーわ信用ないな……。ほんじゃ、うちの領域の名物見繕っときますんで!」

「ほら、行くぞ」


放っておけばまだまだ喋り倒しそうな気配を察知して、シュナードがヤズムの背中を押す。

二人を見送る為に私も立ち上がり、躊躇いがちにメイルとマリエラも続く。


「ほな姐さん、またー!」

「俺もまた顔を出す。何かあれば相談に乗ろう」

「ありがとう、気を付けてね」


どこまでも元気なヤズムと面倒見のいいシュナードの背中を、私は笑顔で見送る。

陽が沈み始めて少しくすんだ色の青空の向こうに、二人の背中はあっという間に消えて行った。


「…………神さまってみんな飛べるんですね」

「神様だからね」


純粋な疑問を洩らすメイルと、説明が面倒で放り投げた私のやり取りを、マリエラは後ろからじと目で見ていた。




* * *




「―――で、はい、仕切り直しね!」


場所は戻って玉座。今度はメイルとマリエラが私の前に並んで座る。心なしか距離を置いて座っているように見えるのはまぁ今は仕方ないとしよう。


まずは何もかもがいきなり過ぎたマリエラからだ。


「マリエラ・リエ・シュワグナー、だったわね。見事に神官の儀にて選ばれたこと、それは認めましょう。あの水晶に不正はなかった。それは女神である私の目から見ても明らかです」


玉座の上で肘をつき、偉ぶった態度でマリエラを見下ろす。実際この場で一番偉いしね。何より今の容姿ならば見事に様になっているだろう。

マリエラは何も言わず、けれども不満そうな顔で私を見上げている。


私はうっすらと浮かべていた笑みを消し、細めた目でマリエラを見る。


「しかしそこに至るまでの経緯には些か疑問があります。正直に答えなさい。

貴女はどこまで、父親の画策を知っていましたか?」

「…………!」


ぎくり、とした顔でマリエラから不満の色が消える。代わりにそこには、狼狽の気配が浮かび出ていた。


「貴女の父親は教会の者に金銭を握らせ、儀式より以前に選定の水晶を持ち出させた。その時確認したのでしょう?本当に貴女に神官としての素質があるかどうか」

「そ、れは……」

「でもそこまでは許容の範囲内です。選定の結果を偽証した訳でもない。貴女は正真正銘、正当な手段で選ばれた真の神官です」


私が断言すると、安堵とはいかないまでもマリエラは強張らせていた体の力を少しだけ緩める。


けれど残念、ここからが本題なんだな。


「ところで、神官に選ばれた者の家には特別な報酬が与えられるそうね」

「……!?そ、それは国から定められた正当な報酬で……!」

「ええそうね。それもきちんとした決まりに基づくものだわ。そこに至る過程がどうあれ、ね?」

「…………!」


さぞ後ろめたいと思っているのだろう。マリエラの表情には焦りが全面に出ている。駆け引きは苦手か、そこまで図太くはないのか、それとも自己弁護の塊か。

しかし重要なのはそこではない。


「支給される額までは知らないけれど、少なくはない筈よね?下手をすれば国の行く末を左右する、神官様の生家だもの。……でも貴女のお父様は、それでは満足出来なかったのかしら」

「…………え」


予想外の運びだったのか、マリエラの口から呆けた声が洩れる。この反応は、どっちだ。


「……いつまで経っても現れない女神。ならばいっそ、その代わりを立てても良いのではないか。神官でも誰でもない、他ならぬ女神の代わりを」


何を言っているのかわからない。マリエラの表情はそんな困惑をありありと語っていた。

その隣でずっと話を聞いているメイルも、何かよくないことだと察して不安そうに私を見ている。


私はなるべく感情を込めないようにして、静かにマリエラに問い掛けた。


「ねぇ貴女、知っていたの?貴女のお父様が、貴女を女神の依り代に仕立て上げようとしていたってこと」

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