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息子の話2

作者: A弐

「いやぁ、監督も思い切っていきましたねぇ」

「ええ。ただ、ファンもチームメイトも彼を優勝投手にしたいのだと思いますよ」

「そうですね。この声がその証拠です!」

2037年、プロ野球日本シリーズ第7戦。4対3でドラゴンズリードの9回裏。Aの名前がアナウンスされると、敵地にも関わらず球場全体が今日一番の歓声に包まれた。


高校1年から甲子園を湧かせ、10球団競合のドラフト1位投手として鳴り物入りで日本プロ野球界に登場した18歳は、高卒新人にも関わらず今シーズン18勝3敗。180回を投げて防御率は0.99。奪った三振は203。ノーヒットノーラン1回、完投4回

勝利数、勝率、奪三振、防御率の投手4冠に輝き、日本シリーズ前に発表された沢村賞も獲得。新人賞も確実とされている。

そんな選手であれば当然、チームのファンのみならず応援されてきた。日本シリーズ第1戦でも先発すると8回無失点の快投で勝利投手に。中4日で本拠地のマウンドに登れば再び7回1失点で勝利投手。4勝したチームが勝つこのシリーズで、現在3勝の内2勝をAが上げていた。

しかし対するファイターズもパ・リーグを制したチーム。圧倒的な打力に他の投手は打ちのめされる場面もあり、互いに3勝3敗の成績でファイターズの本拠地、北海道は北広島に来ていた。


試合前、朝一で誰もいない練習場で一人ストレッチをするAに監督は声をかけた。

「肩の調子はどうだ? 疲労はないか?」

「バッチリです! 何回でも出られますよ。昔から回復は早いので」

「正直、ルーキーのお前にこんなに助けられて申し訳ない。が、うちはファンも少なくなってたからな。本当に来てくれて感謝している。毎日ニュースで取り上げられて、観客動員も今年は随分増えたんだ」

「人口減少、趣味の多様化。どの球団も観客が減ってきた中で、うちは昨対プラスだって話ですね」

「みんなお前を見にきてる。試合展開にもよるが、お前を最後、胴上げ投手にしたいと思っているよ」

「ありがとうございます。そのためにここにいると言っても過言ではないですからね。そんな場面になったら、絶対抑えてみせますよ」

監督はくつくつと笑う。

「お前を見ていると、つくづく世の中不公平だなって思えてくるよ。プロにいる俺たちはみんな地元じゃ大スターだった。でも、何だってできるお前と比べてみたら、全員脇役だ」

「小さい頃から父親に言われました」

「え?」

「お前は世界の主人公になるんだって。あ、真剣に受け取らないでくださいよ。僕だって本気で思ってるわけじゃありません。ただ、世の中には主人公がいるそうです。父がよく言っていたのは、大谷さんや、羽生さん、政治家だったら小泉さんです。どんなにオリンピックで金メダル取っていても、そこまで注目されない人もいますよね。大会で優勝しても小さくしか報じられない人達。一方で、誰もがその人の行動に注目し、元気付けられ、憧れるのが、主人公なんです。主人公格を持ってる人はたくさんいて、小学校、中学校、高校、大学、社会人、色んな所で注目され、周りを巻き込んで行動するんです。でもどこかで、自分は誰かを中心とした世界の脇役だって、気付きます。そこで、最後まで誰もを巻き込み続け、他の主人公たちも自然にその人を中心にしてしまうのが、本当の主人公です。で、父もずっと自分が主人公だと思っていて、実際人からもそう言われていました。ただ、産まれた僕を見た瞬間、主人公が変わったって直感したそうです」

「お前を見てたら本当にそう思えるよ」

監督は、最終回にAをマウンドに上げ、勝つことを確信した。

実際Aはこの日、監督と同じ10回宙を舞うことになった。翌日のあらゆる新聞の一面を笑顔のAが飾った。

A、19歳。日本プロ野球のあらゆる記録を塗り替える20年間の、1年目の出来事である。

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