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第4話 夜襲

 「ご主人様、ご主人様。何か近づいて来ます。」


 夜中にデビに揺り起こされた俺は薄暗い月明かりの中で幻想的な美しさを持つデビの裸体を見上げた。


 右手にナイフは...持っていない...な、よし。


 そもそもオートサーチのアラームが鳴って居ないから敵意は無いはずだが念の為である。何せ便利で強力な魔法の数々を受け継いだとは言え、俺自身はHPが99。か弱い町娘程度の生命力しか持ち合わせていないのである。


 「気のせいじゃ無いのか?俺のサーチには何も『ピ---』!」


 これには驚いた。デビの感覚はオートサーチの範囲外の物も感知できるのか?こいつは使えるぞ。


 『オーナ君。敵の情報を頼む』


 『はい、敵は2頭。人型に近い爬虫類です。』


 「はあぁぁ、爬虫類っていうとアレの関係だなあ。」


 憂鬱でため息が止まらない。HP10万超え、怪物中の怪物、源龍王タークはいくら攻撃しても死なない面倒な奴だった。


 「ご主人様、アレって何ですか?どんな敵でもご主人様のミサイルがあれば一発ですよ。」


 「そんなにミサイルが気に入ったか?今から敵に向かって飛ばすんだが良ければお好みの色のミサイルに搭載してやろうか?」


 ご機嫌斜めな俺がブラックジョークを言うとデビは首をブルブル振って両手をわたわたと振りまわす。俺のミサイルに飛ばされ時に成層圏で宇宙が真近に見えて本当に恐ろしかったと涙ながらに語るその様子は当時の恐怖が凄かった事を物語っていた。


 しかし室内の敵にミサイルをぶっ放す訳には行かないので先ずは中庭に出て迎え撃というとドアを開けると素早い敵はもう中庭に入って来たところだった。 


 「俺の名は金龍!源龍王ターク様の右腕で「ごふっ!」」


 前回出番の無かったミニョル・ハンマー。


 威力を試すためにミサイルで吹き飛ばす前に使って見たが金龍と名乗った身の丈2mはあろうかというゴツイ竜人が肩まで地面に埋まって泡を吹いた。此れならゲートを潜って出て来た来た不要な奴らを叩き戻すのに使えそうである。


 もう一人の竜人はデビが相手をしている。と言っても勿論戦うのは女性型の方ではなく片手に乗るほど小さな蛸であった本体である。


 だがHP1万は伊達では無かった。デビの本体が魔力を開放すると疑似餌部分以外の7本の腕があっと言う間に熊ほどの太さに巨大化した。アナコンダの様に伸びた腕はアッと言う間に竜人を絡め取ると捕縛する。そして有無を言さずギリギリと締め上げている。その早業たるや舌を巻くレベルである。


 やる事が無いので泡を吹いている竜人にライフサーチするとHPが1,750と出た。ふむう、これは王国兵程度なら余裕で薙ぎ払う程の実力者だ。


 そろそろかと思い俺が手を挙げると失神寸前で戒めを解かれた竜人がデビの前に力無く倒れ込むと両手を地面についたまま動かなくなった。


 典型的なorz体勢である。どうやら力の差を良く理解した様だった。


 「あっあの私は銀龍と言いまして...そこの金龍と二人でターク様の仇打ちをなどと不遜な事を考えてしまい...どうも真に申し訳ありませんでした!」


 「タークは長い間ずーっと異空間に居た筈だから奴の眷属が残っている筈はない。お前たち若しかしてだけど最近タークから生まれたとか?」


 「はい!ターク様は母竜を産み落とされ、その母竜から既に1旅団もの軍勢をお造りになられました。現在は失われた源龍城を復元中、ゆくゆくは全土に嘗ての源龍王国を復活させると。」


 軍勢って何だ?


 ちょっと目を離した隙に増えやがって龍の癖に繁殖力はゴキブリ以上か?


 俺はエレメンタル・ミサイルを2発召喚すると泡を吹いたままの金龍と嫌がる銀龍を無理やり縛り付けた。


 「よし銀龍、お前の城を思い浮かべろ。そうだ、よーく思い浮かべろ。OKか?じゃあ行って来い、ファイヤー!」


 「ぎょええええー!」

 

  2発のミサイルは夜空に消えて行った。そして築城中の城壁を砕き完成したばかりの塔を1塔なぎ倒すとの多くの竜兵達を巻き込み爆発した。


 「デビ、予定表に明後日ゴキブリ退治に出かけると書いて於いてくれ。」


 「はい、ご主人様承知しました。それではごゆっくりお休み下さい。」


 ◇

 

 翌日、中庭で準備体操を終えた俺はミニョル・ハンマーを召喚後ハイゲートを唱える。


 傍らではデビがピクニックチェアーにお茶の準備をしてた。


 「強い...男性の...中年で...ちょっと髪がごわごわ...ハイゲート!」


 虹色の空間から黒い靄がでてくる。今度はガッチリした体形な気がする。


 実体化の瞬間を待つ。今度こそ王様か?と期待に胸がドキドキする。この興奮はちょっとだけ癖になりそうである。


 「しかしまあ、そんなに上手く行かないわな。」


 「貴方が私をその忌まわしい空間から召喚してくれたのか?助けてくれたお礼に一つだけ望みを聞こう。」


 立派な銀髪を後ろ髪にした男性が言った。

 紺色の衣服に身を纏い、目の下の大きな隈が印象的な青ざめた肌色の大男だった。


 「じゃあ俺が良いと言う間でずーっという事を聞く事」


 ヤケクソで子供がトンチで答える様な意地悪を言ってしまった。


 絶対怒って襲い掛かってくると思いこっそり反撃の体制で身構えていたが、意外な事に男は暫く言葉を反芻した後に笑った。


 「ふはははは、悠久の時を生きる我にはそれも一興、我が名はプリーチャー。闇宣教師である。嘗て神の眷属達をも闇に染めようとして封印された存在だ。」


 『HP 8,000か。其れだけ見ればデミより弱いんだよね。』


 『マコト様のHPは99で誰よりも強いですけどね?』


 『オーナ君、言うねえ。彼の資料ある?』


 『大昔の文献に少し。神話の時代に多くの神々を闇転させ現在の神界と魔界の対立図を作った張本人だとか。』


 『めっちゃ悪いやつじゃん。なんでそんな奴がこんなに素直なんだ?』


 『さあ?でも何を考えているか分からないですから警戒は解かない様にお願いします。』


 『分かった。有難う。』


 「デビっ予定変更だ。戦力の確認をしたいので明日の遠足を今からに変更する。」


 デビは文句一つ言わずにテキパキとピクニックテーブルを片付け始めた。


 「プリーチャー、出て来て早速だがお前の実力を見せてもらおう。今から大量のゴキブリ退治に行くからついて来てくれ。多分ゴキブリのボスはお前より遥かに強いから俺に任せて雑魚共を宜しく頼む。」


 「承知した。我が主よ。」


 こうして3人は源龍城を目指して出発した。



 「ご主人様、城の周りにはおおよそ3000もの兵達の気配があります。」


 「そーか、昨日百位は減らした筈なんだけどなあ。まあじゃあ、行こうか?」


 「なんと、我が主は3人で3000もの軍勢を打ち破ろうと言うのですか?何と豪胆な。流石である。」


 いや、沢山いる雑魚はお前に任せるんだけどね?


 「プリーチャー、軍勢相手の技は持っているか?」


 「我の本領は夜。闇に紛れれば容易い事です。」


 「なら、急ぐことは無い。ここにテーブルを据えて夜まで休憩しよう。デビ、準備を頼む。」


 ふと、甲斐甲斐しく準備をするデビのスカートが破れている事に気が付いた。森の枝で引っ掻けたのであろう。しかし主人としては破れたり継ぎ接ぎだらけの服を配下に着させるのは如何なのだろうか?シンデレラの継母でも有るまいし見っともないという事に成らないだろうか?


 しかし金がなあ、働いている訳では無いので収入はエフから貰った月例下寵金という名目の生活費だけである。


 それも宿代を払って残った大部分が高価なお茶やお菓子に様変わりして目の前に並んでしまっている。ポケットの中の小銭をかき集めれば片手一杯分くらいにはなるがこいつらの大半はチップと言う名目でトウの餌食になる運命である。


 助けたお礼に多額の報奨金をと言われた時に恰好付けて断るんじゃなかったと少し後悔しながらそれでも前向きに思考を方向転換する。


 「プリーチャー、敵の鎧を集めて売ればくず鉄として纏まった金になりそうか?」


 「さて、世事に疎くお役に立てず申し訳ない。しかし遠目にも敵は中々立派な鎧兜を揃えている様です。竜人となればサイズが少々大きめでしょうが多少作り直せば人でも使えない事は無いでしょう。それよりも剣や槍といった武器は如何でしょうか?そのまま売れる物もあるのではないでしょうか?」


 「じゃあ武器はなるべく壊さない様に頼む。」


 「はっはっはっ。承知しました。私もなるべく斬られないよう頑張って見るとしましょう。」


 「ご主人様、お茶の準備が整いました。」


 さあ、デビの入れた特上のお茶と王国自慢の美味い茶菓子を頂こう。



 「「うおおおおー」」


 竜兵達の喧騒が大地を揺るがす。


 俺は唇を噛み締めた。


 「くそう!俺の武器が!」


 時刻は日暮れ。突如として攻め込んで来た魔王軍に襲われ源龍城は蜂の巣を突いた様な騒ぎになっていた。


 仕方が無いので装備で稼ぐ事は一旦諦め、騒ぎに乗じて空から源龍城に忍び込んだ。


 「奴が部下を作り出している元凶である母竜が何処かにいる筈なんだ。増え過ぎて鬱陶しいから叩いてから帰る。」


 源龍城の中の兵は疎らで大方外へ防衛に出払っている様だった。


 通路の天井は高く、何やら鍾乳洞の様に沢山垂れ下がっていて不気味だった。幸いだったのは松明が疎らで全体的に薄暗かった事、プリーチャーが使う闇に紛れる魔法によって姿を闇と同化させた3人は人気の無い城を奥へ奥へと順調に進んだ。


 しかし思ったより城が複雑だったので、途中で竜兵を一人捕まえると其れが生まれたという場所へ案内させた。 


 ◇

 

 

「これは…」



城の地下へと降りて行くと巨大な草食恐竜が只1頭でひたすら卵を生んでいる光景に出くわした。


 うーん、生生しい。もっとグロテスクな魔道回路的な物を想像していたのが..どうにも殺りづらい。


「そう言えばプリーチャーの闇魔法って他にはどんなだ?」


俺は目の下に黒い隈を称えた配下に話を振った。


「そうですな、闇で敵を包み溶かしてしまうなどですかな?」


 げっ怖いなこいつ。敵で無くて良かった。


「じゃあ、こいつを頼むわ。俺はタークに挨拶してくる。」



 ターク相手は危ないのでデビはプリーチャーの所に置いて来た。


 道々準備を整える。


絶対防護アストロ・スーツ』 


 竜兵に案内させて王の間に行くと流石に大扉の前は屈強な竜兵達で固められている。『ライフサーチ』HPは?大体1,000平均か...金龍・銀龍がタークの右腕と称したのは強ち法螺では無かったらしい。さて、此奴らはとっとと氷弾で潰して於こう。


凍派龕来アイス・クル!」


 がんっ


 おっと、勢い余って扉迄吹き飛んだ。


 驚いて凝視するタークの顔が間抜けだった。


 「よう、ターク。お取込み中の所悪いが逃がしたお前の始末に来た。全くこんなに増やしやがって、一人で大人しくしてくれていたら態々こんなに急いで来なくて済んだのにな!守護光盾ハード・イージス至天炎塔ギガ・ファイヤポール


「ぐっっトランスフォーム!」


「からの~、エレメント・ミサイル7色×3連弾!」


 21発の花火が防御体形に変形したタークに襲い掛かり爆発の衝撃でタークはたたらを踏む。


 ギガ・ファイヤポールの巨大な火柱はミサイルの衝撃で身動きを止められたままのタークをジリジリと焼き尽くして行った。


「でっけー焼きトカゲだなあ。」


ザクッ。炭の塊になったタークを脚で蹴ると靴が炭まみれになった。やばい、帰ったらトウに文句を言われそうだ。しかしその時、炭の塊りが小さく盛り上がった。


ガボッ


炭の中からは子供の竜人が這い出して来た。


「あきれた。どうやって生き残ったんだ?」


「はあ、はあ、体の一部を…時限カプセルで一時的に異次元に退避させて…それから…細胞分裂を繰り返して…何とか・・・。」


「子供の姿に手を掛ける趣味は無いなあ。配下の闇使いを連れて来るからお前もそいつに飲まれろ。」


「わっ我を倒しても我が眷属は世界を諦めんぞ。」


「悪いが諦めろ。」


「ぐっ!」


その時アストロスーツの背を何かが襲った。


ガンッ


槍だった。


 振り返った俺が無傷なのを見て魔族兵が驚いている。しかし魔族の奴ら外の竜兵をもう破ったのか?中々やる物だ。


『ピー、タークが逃亡しました。』


 と脳内でアラームが鳴った。振り返ると確かにタークの姿は無い。


「放って於け! 轟炎絨毯ファイヤー・ダンス!」


 目の前の魔族兵を焼き払うと落ちていた剣を1本だけ拾い、倒れた魔族兵の腰からは鞘をむしりとって今回の駄賃とする。


『オーナ君、今からプリーチャーを呼びに行っても間に合わないからタークはもう追跡しなくても良いよ。ぶっちゃけあの姿に直接手をかけたくないし。まあ増えすぎた竜兵を減らすっていう目的は達成できたし地下の二人と合流したら脱出だ。』



 夜更よふけに凱旋すると当然の事ながら宿の門は閉まっていた。


 デビを背負って浮遊魔法で門を飛び越え中庭に着地する。

プリーチャーにお疲れ様を言うと彼はそのまま闇に溶けて行った。


「我が主よ、必要な時は我が名を呼んでください。私は貴方の周り、闇の何処かに何時もいますので...」


 えっ俺のプライバシーは?


 俺が炭だらけの靴を魔法で洗い流し上着とスカートを脱いだデビがシーツ1枚の姿で針仕事をしていると部屋をノックする音がする。この叩き方はトウだ。何の要だろうと思ってドアを開けるてみる。


「わっ又連れ込んでる!」


「デビは住み込みだ。」


「いやらしい…」


「と言いながら手を出すんじゃない。」


 もはや挨拶代わりとなった口止め料500カッパを握らすと毎度ありと言いながらトウは硬貨を大事そうにポケットにしまった。


「所で何の用だ?こんな真夜中にチップを強請に来ただけですなんて言ったらぶっ飛ばして成層圏で反省して貰う事になるぞ?」


 それを聞いたデビが隣で「ひいいい」と頭を抱えてベットに倒れ込んでしまった。そう言えばトラウマだったな。


「アンタ、住み込みの女中さんに変な折檻してるんじゃないよ?えーとデビさんだっけ?大丈夫?」


「はっはいっ!もう悪い事はしません!!」


トウはジロリを俺を睨むとため息を付いた。


「暴力は駄目だからね?何も解決しないからね。」


 強請・脅迫ならいいのか?


 しかしそう言われて俺は気づいた。王様から貰った力を手に入れて以来圧倒的暴力でしか物事を解決してないじゃないか?!そして素直に反省し謝罪した。


「そうだな。良くなかった。..気を付けよう。」


「よし、じゃあお休みなさい!あっそうそう、明日お城に来るようにってジェイ王女様からの御伝言。監視しているのがバレちゃいましたって正直に報告したらそのまま伝令代わりに監視を続けて良いって。職を失わずに済んで良かったわ~」


「そうか、良かったな。じゃあお休み。」


ジェイからの呼出し。一体何だろう?


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