第22話 ターク再び
「追放の神門に何の要だ?」
驚いた事に門が喋った。
「神門の英霊様、ご機嫌麗しゅう。私は女神ハンテ、大神様の使命を全うして戻って来たのです。」
ハンテの緊張が伝わって来た。若しかしてこの門も危険なのか?
「良かろう。通るが良い。」
あれ?あっさり通してくれた。ハンテの表情も一気に明るくなっている。
門を潜ると白く輝く山野が眼前に開けた。
ハンテは負傷したぺロスを回復させると思いきや行き成りぺロスに封印魔法を掛けるとそれから治療魔法を掛けた。
封印魔法でぐったりしたぺロスを俺は背負い、小走りでトクトクと歩を進めるハンテの後を追う。
「なあ、あっさり通れたけど、さっきはヤバかったのか?」
ハンテは笑った。
「門に認められないと神撃砲を食らいます。今の私では蒸発しちゃったかも知れませんね。でも最初に神門の英霊様、ご機嫌麗しゅうと言えば必ず話を聞いてくれます。」
開いた口が塞がらなかった。
「そんな危険な事なら一言位教えてくれても。」
ハンテは駆け出していて俺の話など聞いていなかった。
「ペガサス!懐かしいわ。よーし、よし。さあ私を乗せて大神の元まで連れて行って。」
「ハンテ様、乗せるならぺロスも...」
「そうね、マコトは後からゆっくり来て。」
ぺロスを羽の生えた白馬の背に押し込むとハンテはウキウキしながら遠くを見る。
「ハンテ様、俺も何だかキツクなって来たから早めに此処を出ます。あのギュベイとかいう魔族の退治も一緒にお願いしてきて下さいね。」
「分かってる。ぺロスを引き渡した後は直ぐに魔界に戻ってトウさんを復活させるわ。」
「えっ?」
驚いた。トウは死んだと思っていたからだ。嫌、話を聞くと死んでいる事は間違い無いらしい。但し魔法で時間が止まっている今ならまだ蘇生が間に合うという。そしてプリーチャーが彼お得意の闇魔法でトウの遺体を保持しているらしい。
「じゃあ一足先にプリーチャーの所に戻ります。クリストファーとリチャード、ハンテ様を宜しく頼む!」
急ぎ駆け出して来た道を戻る。気が急いて足が縺れそうだ。
俺が近づくと門は勝手に開いて送り出してくれる。
ハンテと別れた今、再び潜ろうとしても潜れないであろう天界の門を少し名残惜し気に見上げあがら俺は大きく歩を踏み出した。
◇
プリーチャーとデビは門から20km後退した場所に避難していた。その距離ですら二人にとって厳しい様子でゲッソリした二人はそれでも俺の姿を視界に捉えると嬉しそうに立ち上がった。
「二人共、待たせたな。ハンテ様も直ぐ来てくれるから後10km後退しよう。」
魔界の最深部を歩きながら俺は二人の魔人達と取り留めも無い会話を続けた。トウが生き返ったら何を食べさせて遣ろうだの、地上に戻ったら又同じ宿で暮らそうかだとか。
しかし残念ながら世の中は上手く行かない。
女神ぺロスの力を奪った魔人ギュベイが俺たちの前に舞い降りて来たのだ。
「おい、依り代。女神共は何処だ?」
プリーチャーがその姿を闇に溶かし消えていく間に囁いた。
「主殿、敵は魔神クラス。努々正面衝突はなさらぬよう。」
戦闘モードに変形し逞しい7本の腕を拡げたデビが俺を守ろうとギュベイの前に立ったが腕の一振りで10m先の大木まで投げ飛ばされてしまう。魔力、いやこの場合神力の高まりはギュベイの力を極限まで高めていて今の俺たちに勝ち目は無さそうに見えた。
「まて!まってくれ。これ以上争うつもりは無い。ハンテは今神界だ。今のアンタなら行けるんだろう?俺たちを見逃してくれ。」
額を土に擦り付けて懇願した。見っともないとか、情けないとか、ハンテに対する背任だとか一切合切腹の底に飲み込んだ。今は何とかトウを助けてやりたい。トウが助かるなら泥水だって啜ってやる。
「ふんっ!興味が失せた。目の前から失せろ」
俺たちはヨタヨタとギュベイの前から去る。
引返して来たハンテがギュベイが合えば果たしてハンテは勝てるのだろうか?誰か治療に長じた魔族を探した方が早いのだろうか?
そう思った矢先にギュベイの前に立ちはだかる小さな影が出没した。
「我が名はターク。源龍にして魔界の新たなる王である」
◇
「ターク、テメエまた性懲りもなく…」
思わず口についた文句を俺は最後まで続けることが出来なかった。以前のタークと違うのだ。タークから感じる気配が以前と比べ桁違いに大きかった。
「なんで...こんな短期間にそこまで...」
膝を付いた俺をあざ笑うタークの声が響く。
「フハハハハハ。この男の配下に成った振りをして手あたり次第に部下を食って吸収してやったわ。最後にこの男、魔神を名乗るだけあって強くて小賢しくて圧倒的なパワーを持っていた。今や我が力は全盛期と同じかそれ以上だ。」
タークの後ろには配下と見られる屈強な魔人達が現れた。その中に見知った赤鬼の姿を発見し驚く。なんと彼はライフサーチでHPを以前の5倍以上に成長していた。
どさりっとタークが投げ出した青い死体を見たギュベイの顔が引き攣った。
「魔神エンドウ...倒したのか?貴様が?」
「うむ、倒しただけでは無いぞ。力も奪ってやった。ほれその証拠にこんな事も出来る。」
タークは背中から触手を生やすと先端の目の様な器官からエネルギー波を発射した。
ギュベイは躱す事も出来ず太ももを打ち抜かれ大量の出血と共に膝を着いた。しかし流石に女神の力を吸収した男、傷は見る見る間に修復され再び立ち上がる。
「覚えていろ!」
立ち上がったギュベイは反撃を仕掛けるかと思いきや、捨て台詞と共に一瞬で空高く舞い上がる。
一方力を取り戻したタークと対峙する俺は再びピンチを迎えていた。此奴とは何度かやり合った仲、頭を下げて頼んだとしても見逃してくれないだろう。
俺は少しずつゆっくりと後ろに下がるとプリーチャーとデビにそっと触れる。
「リアル・ワールド・ゲート!」
一か八かで飛んだ先は魔界で最初に立ち寄った村だった。
◇
「あっ!マコト。大丈夫?!」
「エルさん。なんでここに?地上に戻ったんじゃあ」
そこにはエルだけでなく、王様も勇者も居た。
「とにかく皆怪我だらけみたいだからこっちに来て?ハイ・ヒール,ハイ・ヒール,ハイ・ヒール!はいっ終わりっと。どう?このハイヒールの連唱。腐っても元聖女様でしょう?」
別にまだ若いし腐っては居ないと思うのだが。
エルさんの自虐ギャグに俺が苦笑しているとプリーチャーがすっと立ち上がって何やらエルに耳打ちした。
「そう...貴方達の仲間が一人。その蘇生、私が手伝わせて貰うわ。」
◇
其のころ魔界の最下層では逃げるギュベイをタークとその軍勢が追っていた。ターク軍の先頭で魔界バッファーローを猛然と駆るのは魔界でパワーアップした 赤神鬼、オーガウルトラだった。
「ギュベイを逃がすな!」
オーガウルトラの号令に後を追う数万に膨れ上がったタークの分身とも言える竜兵達も一斉に呼応する。
自らも巨大な地竜に乗るタークはそれを見て上機嫌である。
「ふははは、魔界深くに産み落とした母竜達のお陰で我が竜軍も復活した。このまま奴を囲み秘宝を奪ってやる。」
しかしギュベイが逃げた先は元主であるヘカトンの城であった。
「何だギュベイ1週間後と言っていた割には早く無いか?」
「ヘカトン様、ご報告します。魔神エンドウが討たれました。そして彼の力を奪い取った不届き者が攻めて来ました。」
玉座のヘカトンは顎に手をやると考え込むように目を細める。
「では、その不届き者をお前が倒して来い。そうか今すぐ秘宝を差し出せば命だけは助けてやる。」
「「「「はっはっはっはっ」」」
玉座の闇で11人の騎士達が哄笑した。
跪いたギュベイは視線を下げたまま腹に右腕を突き刺すと女神ぺロスから奪った宝珠を高々と差し出した。
斬!
次の瞬間ギュベイの首が後ろから打ち払われる。
その様子をにやりと笑いながら見た老ヘカトンはユックリと玉座から降りるとまだ血を噴出している首の無いギュベイから宝玉を受け取りあり得ない程大きく口を拡げると一息で飲み込んだのだった。
◇
ずうんん
ギュベイを出せと城の前で騒ぎ立てるターク軍の前にギュベイの体と首が投げ込まれた。
即座に魔神ヘカトンがギュベイから宝玉を奪った事を察したタークとオーガウルトラは速やかに全軍に撤退命令を出し走り出す。
「まったく、宝玉を奪われちまったら折角のプランAが台無しだ。」
「ターク殿、それではプランBか?」
「そうとも!センター軍を追うぞ、傷ついた奴らを食らってパワーアップしてやる。皆ついて来い!」
姿若き龍王の軍は魔界制覇に向け再始動した。
◇
「はあっはあっ成功よ、マコト君。」
「エルさん、有難うございます。良かったなトウ、お前未だ生きてるんだぞ?」
エルさんが持つ癒しの聖魔法の数々により胴体を切り裂かれた状態で時間が停止していたトウの体は接合され、頬に赤みが差すと共に魂が戻った。
「マコト君、あんまり強く抱いたら負担になるから」
エルさんにそう言われなかったらトウを窒息死させるところであった。
目を開けたトウが弱々しく手を差し伸べて来た。
「トウほら、お前の大好きな銀貨だ。帰ったら金貨もやるから元気出せ。」
そういって銀貨を一つ握らせると胸ポケットに返されてしまった。
「バカ...手をつないでって意味。」
俺はトウの手を取ると俺の鼻水が付く事等気にせずに顔にこすり付けた。
「ちょっと...汚い。でも嬉しい。」
「良かったな。だがこれから帰ろうにも門番が通してくれないという問題が...」
傍で見ていた王様が呟いた。
「ハンテ様を待ちましょう。」
勇者ルーカス以外の全員が頷いた。
「ちょっと外で剣を振って来る。」
ルーカスはそう言って外へ行った。
「あの門番達って勇者のルーカスさんより強いんですか?」
そっと王様に聞いて見た。
「強い。下手すると魔王ベルリルより強いな。一対一でなければ何とか策の立てようも有るのだが...」
「例えば?」
「搦め手で動きを封じた所に極大魔法をぶちかます...だな。全力の大魔法で倒れない様ならそもそも勝ち目など無いしな。」
「あっ。王様、俺意識を無くす前に頭の中で禁呪を見たんです。」
「そんな物俺はダウンロードしていないぞ?」
「オーナ君、あれから呼んでも出て来てくれないけど...若しかしたらぺロスの影響を受けた様な事を誰か言っていたからぺロスの知識なのかも知れないんですけど...俺今も思い出す事が出来ます。それから、俺の魔力ですけど知らない内に1万を超えてたんです。」
そう、今の俺はMPがマックスで1万と10。辛うじて禁呪を1発打てるのだ。
「なにっ?そうか、じゃあ試してみるか?奴ら門の外に何時も立っている。不意打ちで門毎吹き飛ばしてみるとか。」
「でも門番が居ないと魔界の恐ろしい魔物や魔族達が勝手に入って来ますよね?」
「そうなんだよなあ~。」
リチャード王は頭を抱えた。
「マコト...」
傍らでデビから御粥らしきスプーンを口に運んで貰っていたトウが俺を呼んだ。
「なんだ?火傷したのか?」
トウはユックリと首を振る。
「違う、傍にいて欲しいだけ。」
王様は肩を竦めるとルーカス同様外に出て行った。
俺は再びトウの手を握ると安心させる様に声を掛けた。
「ここに居るから一杯食べて早く元気になってくれ。なあに、その内ハンテ様が来て門番達を倒してくれるさ。」




