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第21話 撤退

「おい、マコト!」


 オルセス王が俺に詰め寄って来た。


 「いいか、良く聞け、今の内に逃げるぞ」


 オルセス王はハイ・イージスの影に隠れる俺に近寄ると小声で言った。

 前方に居るエルさんは治療魔法で男性の腕を必死に接合中である。

 

 オルセス王は使う者が稀な重力魔法を詰まる事無くフル詠唱すると二人をハイ・イージスまで引き寄せた。そして転移魔法の準備をする。テレポートさせる人数が多いが何往復もしたくなかったのだろう、彼は頭の中で繊細な補助魔法陣を幾重にも構築する。


 「オルセス王。私は神界に戻らなくては行けないのです。」

 

 ハンテは未だ少し苦しそうなぺロスを介抱しながら自らの使命を主張する。


 「そうか、なら無理強いはしない。他に地上へ戻りたい奴は居ないか?居ないなら俺たちだけで脱出する。すまんな。」


 そう言ってエルとルーガスを伴い避難する。


 オルセスがリアル・ワールドゲートを用いて転送した先は魔界の入口、門の真正面だった。


 「なに!?神殿に戻る筈が何故こんな場所に?」


 動揺しながらも彼は門を押すと人界に出ようとしたが、人界から入って来た何者かに突き飛ばされて倒れる。


 起き上がって見るとそれは石像の様な門番であった。


 「何人たりともこの門を潜る事は許さん。通りたければ我を倒して行け!」


 (何?ライフサーチでHP35,000だと!?)


 「俺たちは3人PTだ、皆で戦っても良いのか?」


 「ダメだ、一人づつだ。但し一人でも勝てば二人従者を連れ出す事を許可する。」


 「今は戦闘の後で疲れている。疲れを取ったら此処に戻って来たいがそれでも良いか?」


 「では又内側から門を叩くが良い。」


 そう言って門番は門の外へ出て行った。


 「オルセス、俺が戦う。」


 エルに肩を貸して貰いながらルーガスが言うがオルセスは「先ずは皆で休もう、近くに食料を分けてくれる村が無いか探してくる」そう言って二人を木陰に座らせると出かけて行った。


 ◇


 「私達もいまの内に神界を目指し、大神に助けを求めましょう。」


 ハンテの言葉にプリーチャーが負傷したぺロスを背負い、デビが俺に寄り添うようにその場を避難する。ハイイージスの盾は固定式なので置いて行く。俺は自分を含め皆にアストロ・スーツを付加し不測の事態に備える。幸いな事にスーツの光が素っ裸の俺の体を覆い隠してくれた。

 既に魔族の軍とヘカトンと呼ばれる強大な気を発する魔神達は遠巻きに退避し戦う二人の魔神達の動向を固唾をのんで見守っている。

 彼らの戦いはこの世の最後を彷彿とさせる程凄まじく、かつて地上では見たことも無い大技の応酬であった。

 直ぐに戦いの余波でハイイージスが砕け散る音を耳にする。

 良かった、あのままジッとしていたら今頃違う意味で全員神界へ直行だったと胸を撫でおろした。


 おっと、よく考えたら死んでもプリーチャーやデビは元悪人だから神界には行けなさそうだ。


 俺はどうだろう?俺の魂は善か悪かと問われればどっちなのだろうか、そんな事を考えながらハンテの背中を追う。


 幸いな事に強大な魔族の軍勢は傷ついた俺たちを脅威と見なさなかった様で追って来られる事は無かった。


 其のころクリストファーとリチャードの二人は女神ハンテの作った結界の中で震えていた。感の良い魔獣が見えない筈の結界の中に餌が居ると気づいたのか引っ掻き、体当たりをしている。その様子が中からはまるでマジックミラーの様に見えてしまうので恐ろしさに声を挙げそうになる。


 突然魔獣の全身から青い血が噴き出す。其れを見た三人はとうとう我慢出来ずに叫び声を上げてしまった。

 声を聴いて集まってきた大型の魔獣達は1匹、1匹倒されていった。


 「ハンテ様!ご無事でしたか。おお、マコトさん迄。」


 結界の中でクリストファーが嬉しそうだ。  


 「クリストファーさん、我々は神界の門まで急ぎます。付いて来てください。」


 結界から出て来た3人に俺がアストロスーツを掛けてやる。


 俺はリチャードから彼の代えズボンを1枚借りて着た。これで神界とやらに行っても侮辱罪に問われる事は無いだろう。多分だが...。


 ◇


 女神ぺロスを背負ったプリーチャーが突然片膝を付いた。


 「申し訳ありません主殿。これより先は神気が強すぎて私には近寄れません。」


 振り向いて見るとどんなピンチにも平然としていたプリーチャーの顔が苦しそうに歪んでいる。必死に足を前に出そうとするが彼の体は震えて動かなかった。


 「デビ!お前は大丈夫か?」


 よく見るとデビも戦闘体形の太い7本の足が汗でびっしょりになっていた。口に出さないだけで相当厳しいのだろう。


 「ぺロスは俺の背中に。プリーチャー、デビ、済まないが体が休めれる所まで退避したら待っていてくれないか?もし1週間して戻らなかったら死んだと思って次の人生を探して欲しい。」


 「主殿、ご武運を。」「ご主人様、お気をつけて。」


 女神ハンテがプリーチャーに近づくと何やら囁いた。


 クリストファー達も二人の事を名残惜しそうに何度も振り返っていた。そして俺たちは二人を置いて先を急いだ。


 付近に魔物の影は無い。


 自生する植物も徐々に地上に近い形に変化してきている。


 そして遠くからも分かる発光体、それは美しい彫刻で飾られた門であった。


 門番は居ない。不用心では?とハンテに聞くと笑って教えてくれた。


 「アレを外側から開けるには少しコツが要るんです。」


 ◇


 その頃魔界の深層部では魔神センターは新たなる魔神の名を掛けてギュベイとの一騎打ちが続けていた。


 「ぬおおおー クロノ・ヘリカル!」


 センターの魔法が前方の時間を止めると固定された空間を水あめをねじ切る様に捻りあげる。


 「リアル・ワールドゲート,スプラッシュ・レイ!」


 空間転移で逃れたギュベイが放ったのは全方向への白いレーザー光線、流石に避けきれずにセンターは一発肩を打ち抜かれるが傷は瞬時に回復する。


 しかしギュベイの攻撃は遠巻きに静観していたセンター軍に少なからない被害を被った。だが彼ら後方からは続々と魔族軍が終結しつつ有り包囲網は密度を増すばかりであった。


 センター軍の指揮を執る副官ドロリスは妙齢の美女である。

 紫色の滑らかな肌を持つこの武官は腰にソリ曲がった刀を二つ帯刀していた。鎧は軽装でセンター軍を象徴する胸元に丸い紋章が付いた胸当てを付けている。

 顔は少し面長の美人で目鼻立ちはハッキリとしている。しかし左目に眼帯をしている為か強面な印象を受ける。

 彼女はヘカトン軍が背後を取った事に随分前から気が付いていた。この様子なら数多の魔王達の斥候も紛れ込んでいる事であろう。

 後退したい所だがその後に主達の一騎打ちへカトン軍に乱入される事だけは防止せねばならなかった。なので今は前後に防御結界を張ってジッと耐えるしか無い。


 戦局を見守る彼女の目は険しかった。


 なぜなら二人の魔神はドロリスの理解を超えた回復で幾らダメージを食らおうが復活して又攻撃を繰り返す。あの魔力が尽きる事等有るのだろうか?尽きるとすれば何方が先に?


 其処から離れた地で魔王ベルリルもセンターとギュベイの戦いを見つめていた。つい先日まで自分と拮抗していたギュベイが女神の力を奪い今や魔神と対等の戦いを演じている。


 面白く無かったが女神を罠に嵌めたのはベルリルでギュベイ多大な報酬も約束してくれた。約束が守られるかは別として負けては元も子も無いのでベルリル的にはギュベイに勝って欲しかった。ただ魔神ヘカトン老がギュベイに女神の力を要求していたのが気になる。もしかするとギュベイはこの戦いに勝ったとしても待って居るのは困難だけなのかも知れない。


 少なくともこの戦いの勝敗だけは見守って帰ろう。ベルリルは流れ弾で破損した結界を再度張り直しながらそう思うのであった。


 ◇


 魔神センターが膝を付いた。編み上げブーツにホットパンツ姿の彼女は軽装だが受けた傷を瞬時に魔力で修復する力を持っていた。そして魔神の名に相応しい膨大な魔力をその美しい魔神は持ち合わせていた。


 そんな彼女が此処まで本気でやり合ったのは嘗て神界と対立した戦争の時以来である。その時センターは幾人もの男神や女神を倒し相手から恐れられたものだ。


 「ぐっ、貴様なんぞに!」


 左目に眼帯をした美しいセンターの横顔が見上げるのは白き角を2本生やした魔神ギュベイ。女神ぺロスが持つ秘宝のエネルギーを手に入れた彼は今や六大魔神筆頭のヘカトンにすら匹敵すると対戦したセンターは感じていた。これ以上戦いを続ければ自分が不利だという事も。


 「さあ、センター様。私はまだまだやれますよ?」


 センターは考える、ここで完全に負けてしまっては六大魔神の序列を語る上で不利になる。

 ギュベイはヘカトンの元部下でヘカトンは彼に女神の力を渡す様に迫っていた。

 NO.1であるヘカトンが更に強く成るのは癪だがこのままでは自分はギュベイより下になってしまう、それだけは絶対に嫌だった。


 「くっ勝負は終わりだ!今の貴様は六大魔神に相応しい力を持つと認めよう。ドロリス、城に帰るぞ!」


 (ヘカトンに力を渡したが最後、貴様なぞ一瞬で廃ってやる!)

 

 苦々しい顔のセンターを先頭に彼女の軍勢が引いて行く。


 それをギュベイは表情が無い能面の様な顔で見つめながら立っていた。


 「力で六大魔神の地位を手に入れるとは大したものだ。にしては浮かぬ顔だな、ギュベイよ。」


 嘗ての主である魔神ヘカトンとその配下の軍勢がギュベイの周りに集まって来た。城の王の間に居た強大な騎士達も二人を見守るかのように取り巻いている。


 今度はギュベイが考える。


 (俺は女神の力を手に入れて念願だった魔神と肩を並べる程の力を手に入れた。しかしセンターは序列4位でTOPのヘカトンとは大きく力の差があるはず。

 4位のセンターと引き分けた俺はやはりヘカトンに勝てないのか?みすみすこの力を渡す他生き残る方法は無いのか?嫌、惜しい。この力、手放すには惜しすぎる。)


 「ヘカトン様、お約束通りこの力をお渡ししますので私が魔神末席に座る後沿いをお願いいたします。」


 ギュベイは最上級の敬いを持ってお願いをした。とたんにヘカトンは上機嫌になる。


 「良いとも良いとも。女神の力を持ち帰った褒美にここ第1層に城を与えようとも、そうだな東の城が良かろう。はっはっはー。」


 「「「はっはっはー」」」


 何がおかしいのか二人を取り囲む様に幹部連中も主を真似て笑いだす。中にはギュベイを指さし笑う者までいる始末だった。


 (せめて今の内にこいつら12騎士を倒して秘宝無しでも実力でNO.2を確保...いや此奴らの筆頭は魔神に近い力を持つと噂されるエースだ。そもそもヘカトンが黙って見過ごすとは考え難い。)


 「お前たち、私は末席とは言えヘカトン様とセンター様に魔神の地位を認められた者だぞ。指を差して笑うとは無礼であろう!」


 ギュベイは嘗て自分より位の高かった12騎士を相手に堂々と啖呵を切った。そして背中に羽を畳んだひょろ長い男に対して行き成り魔法の刃を投げつけたのである。

 行き成りナイフを投げられた男は体毛が1本も生えていないツルツルした肌をしていた。


 驚いた事にその男は不意打ちだったにも拘わらず瞬時にその場から消えると一瞬でギュベイの背後に立つ。


 「12騎士一のスピードを誇る貴方の事だ、きっと私の背後を取って頂けると信じていましたよ。」


 口角を上げるギュベイ。その背後で瞬動の騎士は驚愕の表情を浮かべていた。何と彼の足や羽が無数の魔力で出来た槍に貫かれていたのだった。


 「「「ギュベイ!貴様‼」」」


 気色ばむヘカトン軍にギュベイは逃げの一手を打った。


 「ヘカトン様、1週間後に城にお出で下さい。其れまでに宝玉を取り出して於きます。」


 12騎士の彼方此方から空を舞うギュベイに攻撃の光が飛んだ。


 「おっと、今私を殺しては宝玉が割れてしまいますよ?飽く迄本人の意思による譲渡が必要だとご存知無かったのですか?」


 無論嘘である。だが攻撃はピタリと止んだ。


 ギュベイは距離を取るとこれ見よがしに空中を舞う。まるで当てれる物なら当てて見ろと言わんばかりの挑発である。


 当然その場の者は更に気色ばむがヘカトンが其れを制した。


 「良かろうギュベイ、その言葉偽りの時は1,000年の地獄を味わう事になると肝に命ぜよ。」


 (助かった。)


 ギュベイは東の城へ向かいながら後ろから攻撃を警戒しながら全速力で飛

んだ。


 (1週間、たった7日だが命が伸びた。だが秘宝をヘカトンに渡せば用無しになった俺は多分消される。消されて堪るか俺は必ず生き抜いてやる。)


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