第20話 RE勇者
地上にあるベルリルの城。今そこに2年前と同じ3人の勇者達が忍び込んでいだ。
勇者:デオドア・ルーガス 30歳(肉体は28歳)
(元) 聖女:エル・ ラ・ルウス 29歳
賢者:オルセス・リチャード・ドック 35歳
(因みに賢者オルセスは現オルセス国の国王である。)
「しかし今度は勝つ自信あるんだろうな?ルーガスよ。」
オルセスがエルの尻の下から声を出す。
「静かにしてろってオルセス。俺だって時間を止められている間何もしなかった訳じゃねえ。」
勇者ルーガスの口調は粗野な冒険者の様である。
「つったって、肉体が止まってたら何も出来ねえだろう?」
自然にオルセスの口調も粗野になった。
「イメトレよ。イ・メ・ト・レ。
イメージトレーニングッてなあ...」
「ドウテイ野郎が決して来る日など無い童貞卒業の儀式を頭の中で美化・妄想した挙句スッキリした顔で便所から出てくるアレの事か?」
「違うわっ!」
「二人共そろそろ声を顰めなさい。」
シンと静まる魔王城の一室。2年前に忍び込んだ時に罠を仕掛けた部屋の一つである。
「この壁の後ろだ、あった。おっ保管状況も良好だ、此れなら作動に耐えれるだろう。」
「やっとか当たりを引いたか。先の二つは消されていた。これだけは奴らの目を免れたという事か。」
「いい?魔王の部屋に飛び込んだ後の手順をもう一度確認するわよ?魔王ベルリルは魔王の名に恥じない魔法の使い手。彼を倒すにはルーガスの聖剣による先制攻撃が最大の手段よ、私達の魔法は飽く迄補助。分かっているわね?」
オルセスは頷く。2年前に対峙した時、不覚にも魔王の魔力の凄まじさに圧倒された事を思い出しながら。
「恐らく俺の攻撃魔法の多くは奴にレジストされてしまう気がする。だから俺は最初から防御系の魔法に特化して支援する。それでいいな?」
エルがニッコリと笑った。2年前より少しだけ枯れた笑いだった。
「OK!じゃあ行くわよ!」
◇
「フハハハハハ!と魔王様が言えと仰られたので言っている。くっ!ふざけるな、お前らの相手なのどしていられるか!」
魔王が座る王座の間に侵入した3人が見た物は切れ気味に叫ぶ巨乳でピンク色の魔族であった。
「ルーガス~?貴方どこをジロジロ見ていたのかしら?そんなに魔族の女に興味が御有りなの?」
いち早く勇者の異変に気が付いたエルがルーガスの頬っぺたを抓って絞り上げる。
「いたたたた、そんな事より早く追わないと。あれ?この魔法陣未だ生きてるじゃん?馬鹿だぜこれじゃあ後を追って下さいって言っているようなもんじゃん。」
王座の裏にたどり着いたルーガスは笑いながら歩を進めた
「馬鹿はテメーだルーガス、触るんじゃねぇー!」
オルセスの放った声は一足遅かった。
「えっ?!」
ビュンっとルーガスが消える。
「仕方が無い。追うぞエル!」
オルセスとエルも後を追った。
転送先で3人が見た物は、空中に浮かぶ嘗ては人の体であった白く輝く巨大な天使像であった。
◇
「ここは?!あの大きな天使は?!」
エルの叫びには魔王が答えた。
「よく来た人間共。いいかお前ら、良く聞け。
そこの女は聖女であろう?聖魔法でアレの首を落とせば元の世界に帰してやる。言って於くが可成り魔力を込めんと切れんぞ?」
「ほざけ魔王ベルリル。2年前の決着をつけてやる!」
勇者ルーガスの攻撃はギュベイが作り出した魔法の盾によって弾かれてしまう。
「くっ聖剣が弾かれるなどと!」
「勉強不足ですよ地上の勇者君、我らに聖属性は使えぬとも無属性と言う魔法が世の中にはあるのです。」
属性が無いからある程度レジスされる?しかしその程度の事で怯む勇者では無かった。ベルリルの体を包む無属性のバリアーを滅多切りに切り崩す。
「聞き分けの無い勇者だ。」
ギュベイの盾を破壊した勇者は魔王ベルリルに肉薄する。そこから繰り出される剣が霞むほどの連撃をかつて互角であった魔王はいとも容易く跳ね返えす。なぜならは彼の全ステータスは勇者を遥か上回っているからなのだ。
◇
「はっ?何でだ。攻撃が効かない?」
焦る勇者にベルリルが飽きれた様に首を振った。
「そりゃあ、前回は聖女の加護が発動していたからだろう?」
聖女の加護!
魔に対する勇者の攻撃力を単純比較で倍に引き上げチート技。これが有るので勇者は聖女を仲間にする事が必須だとと言っても過言では無かった。
「元聖女では効果が発動しないという事なんだろう。本人の資質は変わって居ないにも関わらず単に称号が聖女・元聖女だけで一辺するスキルとは、一体神はお前たち人間に何を求めているのだろうか?」
「神様が定めたルールは私達には分かりません。私達は定められたルールの中で精一杯頑張るだけなのです。ホーリー・ラッシュ!」
エルの放った無数の聖なる拳がベルリルに突き刺さり確実にダメージを与える。
「ダメだエル!ルーガス、エルを連れて撤退だ!」
オルセス王は英断した。
「おっと、そうはいかん。この元聖女にはやって貰う事がある。」
「くっ、離せ!」
ルーガスが捕まり助けようと特攻したエルは魔王に殴り飛ばされる。オルセスはギュベイに牽制されて魔法を放つ事も出来ず構えたまま微動だに出来なかった。
「おい、元聖女。お前の聖魔法は中々の強さだ。この勇者を助けて欲しければその魔法であの天使を討て。おい早くしろ!そうか見せしめが足らないか?」
悪漢の顔つきでベルリルは勇者ルーガスが聖剣を握る腕を切り落とす。いつの間にかベルリルの腕には魔界の炎で出来た炎剣が宿っていた。
「キャアアア!」
堪らずエルが悲鳴を上げた。
「ほら早く天使を討て、首筋を切断するんだ。」
のろのろとエルが方向変える。
空に浮かぶ巨大な天使は磨かれた大理石の様な輝きを持ちかなりの硬度を持っていると一目で分かる。あれの首を落とせる聖魔法?そんな物一つしか無いでは無いか。
「うああああ!聖なる剣よ光の刃と化し…」
詠唱が始まると同時にギュベイがオルセスに襲い掛かった。
「・・・嗚呼大いなる力を持ってその高貴なる運命を…」
「止めろエル!」
ギュベイと戦いながらオルセスが叫ぶが詠唱は終わりに至る。
「…今叶えん。 究極魔法 ホーリー・アルテミット!」
魔法の発動と共にエルが倒れた。それほど消耗が激しかったのだろう。遥か上空には白いギロチンの刃が現れストンと天使の首元に落ちた。
空中を転がり落ちた首はモゴモゴと蠢く白い肉塊を経て人の左腕に変わった。
遅れて天使像の胴体も墜落すると大きな光る石と黒髪の少女を吐き出す。吐き出された石は瞬く間に光を失うと、隣に転がる肉塊は見る見るうちに収縮し裸の若い男が一人そこに残った。男の左腕はスッパリ切り取られて無い。
放り出された黒髪の少女はヨロヨロと立ち上がり怒りを露わに魔力の弾を投げつけてきたがギュベイとベルリルが放った拘束魔法に捕まり身を捩った。
「さあ女神ぺロス。その体に有る秘宝を貰おうか?」
ギュベイは黒髪の少女の腹に手刀をずぶりと差すと内臓を弄る。
「おいおい、独り占めは良く無いぞギュベイ。吾輩が手伝ったお陰であるのだぞ?」
「分かっているベルリル。後で十分な礼はする。あった!」
大きな声をあげて少女の腹から光る宝玉を抜き取るギュベイ。既に黒髪の少女は気を失っているのか先ほどから声一つ立てなかった。
宝玉を突き出したギュベイの右腕が光に包まれその光はあっと言う間に全身を包み込む。
そして光の中から現れたのは頭部に白く光る角を2本生やした新生ギュベイであった。
◇
「ハンテ様!あそこにぺロス様とマコト様が」
白い天使像を追っていたデビが追いついた。
「マコトの手を繋げます。マコトッ!もう一度聖石とコネクトするのよ!」
「ハンテ...私にもコネクトを...」
一瞬迷った顔をしたハンテだった。
「良いわ、今は貴方の力も必要だから...コネクト!」
女神ハンテの言葉と共に女神ぺロスの腹は瞬く間に修復され怪我など無かったかのように立ちあがる。
「おっ俺は?」
「マコト、後で説明するので今は協力してあの白い角の魔人を一緒に倒して。」
その白角の魔人は凄まじい神気を放っていた。無理だ、アレは魔王どころでは無いもっと上の存在だ。
その上俺の頭の中でスズメ蜂がハンマー持って飛び回ってかと思う程の頭痛が襲っていた。
『オーナ君、頭が痛い。和らげる方法を』
『・・・』
無言で魔法の一覧が脳内に展開された。なんだ又何かにヘソを曲げているのか?
ハンテが右腕に光の剣を宿して飛び掛かったのを皮切りに皆が一斉に攻撃をしかけた。プリーチャーの闇が、デビの巨大な腕がぺロスの光剣が白角の魔人に当たる寸前で跳ね返されてしまう。ならば中心温度8,000度の攻撃は如何だ?
「皆どいて!至天炎塔!」
黒角の魔人が慌てて退避する中、白角は微動だにしない。それどころか灼熱の炎柱の中で悠然と立ち尽くしていた。どういう事だ、まさか熱を遮断できるのか?
「ダブルならどうだ!至天炎塔!」
何処からともなくオルセス王が現れ必殺の呪文をぶちかました。よく見ると(元)聖女のエルさんが知らない男の腕を必死に治療しようとしているのが目に入った。
「フハハハ!素晴らしい。これが魔神達ですら恐れた神の力か?フハハハハ、女神共貴様らの使う光剣もこの通り思いのまま。そうらっ」
掌の上に10個の光剣を浮かべた白角は炎の中からそれを飛ばして来た。女神達が光剣で弾くがデビとプリーチャーが負傷する。
次の瞬間ギュベイの周りには100本もの光剣が出現した。一気に10倍である。弾ける様に飛来するそれらを前に俺の防御は間に合わない。
「ご主人さま!」「主殿!」
デビとプリーチャーが身を挺して守ってくれた、その代わり体から光剣を生やした二人が跪く。女神二人もあちらこちらに切り傷を作り満身創痍である。
「フハハハ、此れは第6魔神となる門出だ。ぐおっ!」
突如白角が吹き飛ばされた。ダブルの至天炎塔を耐えた驚異の体を拭き飛ばすとは一体何者?
「ギュベイ!裏切ったな?その力は私が持つべき物だ、こちらに寄越せ。」
白き角を生やしたギュベイは彼が仕える主であり、魔界の頂点に君臨する魔神に対して不敵に笑う。
「ヘカトン様、私は復活の魔神を倒しました。六大魔神の末席に加えて頂けませんか?」
「それは認めよう。しかしその力は渡すのだ。」
「では、私目は今の今から6大魔王神を名乗ります。」
そこに第3者が割り込んで来た。
「そんな勝手は許さんぞ!」
ヘカトンはうんざりした様に声の主を見る。
小柄な女性型をした魔神、センターが騒ぎを治める為に重い腰を上げたのだ。彼女は背中から透明な羽を何本も生やし長い紫色の髪を棚引かせながら昆虫の様に空中をホバリングしていた。
「こんな事になっているとは来てみて良かった。復活の魔神を倒したなどと適当な事を言う輩に6大魔神の空席を与えるとは貴方も貴方だヘカトン老。」
孫と祖父程も見た目の離れたセンターはヘカトンを老と呼んだ。その呼ばれ方が気に入らないのかヘカトンの顔は益々渋い物になる。
「しかし実際に大暴れしておった天使は消えたのじゃろう?センターよ。」
「暴れすぎて自滅しただけかも知れませんし他の者が倒した可能性だってあります。もしかしたら神界へテレポートしたのかも。」
「そんな方法があるならとっくの昔に我らは神界に攻め込んでいただろうに。良いか、神界へは門を通らぬ限り行けん。これは神で合っても同様だ。」
「私が言いたいのはギュベイとかいうその男が倒したという証拠など無いという事です。証拠が無ければ...」
その時センターは一瞬で身を翻すと何かを避けた。先ほど迄センターがいた空間を灼熱の光が過ぎ去ったのだ。彼女は攻撃を放った相手を睨み殺す様な目つきで見降ろしたが睨まれたギュベイはその視線を平然と受け流した。
「証拠が無いのならもう一つの方法を取るのは如何でしょうか?詰まり現役の六大魔神であるセンター様と勝負して打ち勝てば?」
「貴様、その程度の攻撃でいい気になるな!」
センターも無詠唱で魔法を発動した。




