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第19話 破壊

 安全な筈の村の中で、しかも俺の眼前でトウの体が寸断された。


 実際何が起こったのかよく分からなかった。


 トウを狂刀にかけた男はそのまま俺に向かって来る。


 全く知らない男だった。


 ハンテ様曰くこの村は聖石に守られ魔族や魔物が近寄らない安全地帯では無かったのか?


 もしや魔族で無ければ此奴は人間でここの村人なのか?


 何故...


 俺は魔法も何もかも忘れていた。口を付いて出て来たのはありふれた誰でも口にできるただの呪詛。


 「死ね‼」


 突如目の前で強力な魔力の発動を感じる。男が、俺の首筋に刀を刺そうとしたその体が無様に膨れ飛び散った。俺の周囲に魔素が凝縮され黒い渦を巻き起こす。


 「マコトさん、いけません!背を向けては!」


 クリストファーが叫んでいる。あいつの言う事は一々何の事か理解できない。


 「&%()#!」


 それは誰の声だっただろうか?


 うすぼんやりと思い出せそうで記憶は白い壁にぶち当たりその先にたどり着けない。


 トウ。そうだトウだ!痛かっただろうに。俺が力無いばかりに...いや...俺だけが悪いのか?


 折角毒で死にそうなトウを助け、デビ達とも合流して魔力も取り戻した。なのに何故世の中は俺に辛く当たるのだ?理解できない、したくない、こんな世界滅びてしまえば良いのに!


 「ぐおはっ!」


 そう思った瞬間、腹を見ると突然手が2本生えていた。良く分からんがロッククライムやプロレス技を掛けたい時にとても便利そうである。うひょーう!


 びゅしゅん!


 肩から目が生えた。死角が良く見える様になった。良かろう、良かろう。もう何でも許すよ。


 ぐわしゃっ!


 最早それは人の形を無さなかっただろう。手や足や目をウニの様に生やした巨大な白い肉塊、それが俺だった。


 「いけません...神と和解するのです、マコトさん。」


 力無く跪くクリストファーとリチャードを俺は遥か高みから見下ろしていた。


 悲しそうに蹲る彼らを見ても何故か感情が湧かなかった。


 口をつく言葉すら自分で喋っている感覚が無かった。


 「クリストファーお前の言う神とは何だ!苦しい時そいつは助けてくれるのか?ふはははは!そうでは無いだろう、神は何時も公正で何もしない!俺が受けた悲劇を全て運命だから受け入れろ等と言うのなら...」


 おかしい。自分の体が操られている様だ。これ以上喋っては駄目だという感覚は有った、これ以上は戻れなくなるという。しかし心ではそう感じているのに俺の口は止まらなかった。


 「...俺は神に抗おう!」


 『おめでとうございます、ぺロス様!六大魔神様が一人、人神マルトース様の依り代のご生誕に御座います!』


 何が目出度いものか。憎い、憎い、憎い、憎い‼


 そして脳の右隅には今まで見た事も無いような禁呪の数々がまるで映画のエンディングロールの様に流れていた。薄れる意識の中で機械の様に俺はそれらを読み挙げる。


 「殺戮闘技場エル・コロッセオ!」『きゃは!』


 突き出した右手の先で村の片隅が粉々になって消滅した。成程局所版範囲攻撃と言った所か。


 「次元千断ディメンション・ミルフィーユ!」

 

 『きゃはは!』


 左手の先で数キロに渡って射線上の植物型魔物達が細切れになった。


 ...おかしい。流れ込んで来る知識によるとこれら禁呪は全てMP10,000越えの筈である。最大MPが9999の俺には1発だりとも使えない筈...しかし現に詠唱は全て成功する。しかも連発でだ。


 「主殿ー!」


 遠くでプリーチャーの声がした。


 肥大した俺の体から伸びた白い大きな手が小さなベット程も有る原初の聖石を掴み体に埋め込んだ。


 「天体破壊デストロイ・ザ・アース!」


 『きゃはははっはは!』





 そこから先の事は覚えていない。


 その日、魔界中層部の爆発は可成り広範囲に渡って上下数層を巻き込みながら破壊した。


 ◇


 目覚めると白い部屋に居た。


 ははあ、さては死んだな?お疲れ様、さあこれで終わりにしてくれ。


 いつの間にか白く輝くのっぺらぼうが隣に座っていた。そいつは初対面の俺に遠慮なく話しかけて来た。


 「少し冷静になりました?まんまとぺロスの策に掛かりましたね。其れともこのまま心を無くす積りですか?」


 冗談では無い、誰が何を反省するのだ?


 「言わして貰うが俺は怒っている。」


 何に対して?全てだ!


 世界の全てに対して怒り、そしてそれを強固に保持していた。


 「くらえ、禍浄光線オーバー・レイ!」


 ほほう、何故か分からないが此処でも魔法は発動する様だ。


 「リフレクト・イージス!」


 ちっ!しかし跳ね返しやがった。気にくわない。


 「ぺロスはハンテを使って貴方を原初に聖石と接続させました。それは聖石の力をオーバーロードし貴方の体を復活の魔神の依り代にさせる準備の一つだったのです。」


 煩せー!理解できないから子難しい英語を使うな!


 「くらえ!超重力球グラビティ・コア!」


 「ホーリー・アクセス!」


 重力魔法ですら俺の知らない魔法でレジストされる。くそっ此奴には勝てない気がして来た。


 「貴方の持つ自動知識、彼は既にぺロスによって汚染されたのですよ。だからオルセス王も知らない原初の村への道案内も出来た。」


 「煩いって、おおおー! 絶対凍土 (アイス・エイジ)!」


 「アステラス・アプレイン!」


 又しても原理不明の魔法にレジストされた。


 「はあぁ、原初の聖石と取り込んだ今の貴方は魔神並みの力を発揮します。このまま暴れ続ける積りなら私も貴方の魂を封印せざる得ませんがそれこそぺロスの思うつぼですよ?正気を取り戻してくれませんか?」



 ふっ。こいつ勘違いしてやしないか?俺は正気だ、だた十分に自暴自棄なだけだ。


 「やれよ、やってくれ!そしてこの糞みたいな世界から俺を消してくれ!」

 

  光る影は残念そうに吐息を付いた。



 ◇


 「おいおい、あれが予言の魔神だというのか?聞いて居たのとは随分様子が違うな。アレではまるで...」


 高台から巨大な破壊の跡を見下ろすギュベイが傍らの配下に文句を言った。


 「はい、アレでは只の魔獣ですね、但し厄災級のですが。既にセンター様とエンドウ様の軍が鎮圧に動き出しています。」


 ギュベイは足下で禁呪と思しき光線を吐き散らす白い巨大な芋虫をジッと見つめる。


 「今の俺ではアレを如何にかなど出来ると思えん。センター様やエンドウ様なら如何か知らんが彼らの手駒共に止めれるとも思えんな。よし、穴の奥に降りるぞついて来い。予定通り女神を探すのが先だ。」


 ◇


 女神ハンテはぺロスとクリストファー達を伴い一瞬で1段下の層へとテレポートした。


 「一体どうなっているのです?マコトさんは人間では無かったのですか?」


 ハンテに問われたクリストファー達にも見当がつかなかかった。


 只、女神ぺロスだけが状況を楽しんでいるかのようにニヤニヤと笑っている。


 轟!


 遥か後方で光柱が煌めき、階層の天井が轟音と共に抜け落ちて行った。


 「この状態では満足に治療も出来ません!せめてこれ以上の損傷だけは。」


 ハンテはデビとプリーチャーが抱えるトウの遺体を気づかった。彼女は肉体と同時に破壊された時を止めるガラス瓶の呪いのお陰で真っ二つの肉体のまま時が止まっている。

 ハンテに目配せされたプリーチャーがその二つの体を懐の闇に流し込むとハンテはクリストファーの方を向き直った。


 「騒ぎに乗じて追放門に接近しようと思います。申し分け在りませんが此の状態で貴方達を守る余裕は無いかも知れません、如何しますか?」


 所詮魔界のど真ん中で放り出された人間など魔物の餌でしかない。クリストファーやリチャードに付いて行かないという選択肢など無かった。


 「私は...。私はご主人様の傍に留まります。」


 デビは天井の穴からゆっくりと落下するブヨブヨした巨大な肉塊を悲しそうに見つめながら呟いた。


 プリーチャーは女神達の傍に寄り添う事で同行の意思を示した。


 「では同行する方は私の傍に寄って下さい、神力が続く限りテレポートを繰り返します。」


 ぺロスの手を掴んだハンテがテレポートしようとした瞬間、彼女達を包み込むかの様に半径が10mは有ろうかという虹色のドームが出現した。


 「やりました!ギュベイ様、捕らえました!」


 「でかした ザンギ。後は任せろ俺を中に放り込め。」


 ドーム内に飛び込んだギュベイにハンテの放った光弾が命中するが彼は顔色一つ変えずに片手で弾き飛ばす。

 

 次の瞬間、一瞬で歩を詰められたハンテがボディーブローを食らって前かがみに倒れるのとぺロスの首からチョーカーがはじけ飛ぶんだのが同時だった。


 「ぐっ!」


 首の封印から解放されたぺロスに首根っこを掴まれたギュベイが苦悶の表情を浮かべるが封印を解かれたぺロスの細腕は万力の様に彼を捉えて離さない。


 ブンっ


 ギュベイを放り投げたぺロスは彼女達を拘束する虹色のドームをも簡単に切り裂くと飛翔した。肩やつま先からキラキラと魔力の微結晶が零れ落ちるその姿はまるで夜空を舞う妖精の様であった。


 向かう先は意識を無くながらも暴れ回る白い厄災、かつてマコトの肉体であった物。


 ぺロスは哄笑しながらブヨブヨとした塊に突っ込んで行った。そしてぺロスが塊に飲まれると、直ぐにそれは巨大な人型形へと姿を変え始める。ブヨブヨした質感は鋭利な形と共に白い大理石の様な硬質な光沢へと変わって行った。


 「マコト、復活の魔神の仕組みを教えてやろう。神が定めた気の長くなる回数も転生を重ね、あの地を訪れたマルトース様の魂は原初の聖石の全て手に入れる。ならば最初から聖石と肉体を繋ぎ強制的に力を込めればどうなると思う?」


 返事は無かった。既に真の意識は無く下手をすれば魂が封印されているかと思われる。


 ぺロスはマコトの中心で金色に輝く繭の様な物に包まれ初めていた。彼女は得意そうにマコトに話しかける。


 「聖石の力を只の肉体に込めればその肉体は破裂する。だがもし破裂しない程特別な肉体が有れば?ふはははは!復活の魔王を形勢する事が出来るのだ!」


 女神の乗ったマコトの体は徐々に巨大な天使像となる。


 『ぺロス様、最早マコトの意識は感じられません。高度低下中、ご命令をお願いします。』


 繭の中にオーナ君の声が響く。


 「よし、このまま最下層迄ぶち抜け!我は追放門を通り我が故郷へ侵攻する。そしてにマルトース様に尻目を使った目障りな女神共を皆殺しにしてやるわ!ふははは!その後にあのリチャードとかいう人間に封印されたマルトース様の魂をこれに移植すれば完成だ。そうすれば約束通りお前を一人の人間として転生させてやろう。」


 「有難うございますマイロード。それでは破壊魔法を執行します。カウントダウン、スリー、ツー、ワンー、天体破壊デストロイ・ザ・アース!」

 


 その天使は両手をクロスさせると地面に向かって極大の破壊光線を放った。


 轟!


 凄まじいエネルギーに耐えかねた地面がまた数層抜け落ちる。


 しかしその穴からは翼を持った魔族であるガーゴイル達が湧き出して来る。魔王センターの軍勢である。皆槍を持ち立派な鎧に身を包んでいた。


 「羽虫共を焼き払え。」


 『了解しましたマイロード。 禍浄光線オーバー・レイ!』


 巨大天使の口から散弾の様に無数のレーザーが飛び出しガーゴイル達を焼き尽くす。


 ギュベイはその様子をサンボと共にただ茫然と地上から見ていた。そんな彼の耳に聞きなれた声がする。


 「おいギュベイ。何だアレは?」

 

 「ベルリルか...。どうやって此処まで来た?」


 「ぺロスの足取りを追ってセンター様に通行許可を貰った。其れよりアレは何だと聞いて居る。」


 「アレは恐らく復活の魔神だ。しかし中身は十中八九女神ぺロスが操っている。」


 ギュベイは女神ぺロスに締め上げられた首筋を忌々しそうに摩りながら空に浮かぶ巨大な天使像を見上げる。


 魔王センターの軍勢は強兵であったが天使の口が火を噴くたびに次から次へと叩き落とされて行った。


 「魔王センターは参戦しないだろう。それどころか6大魔王は誰一人として自らを戦いに駆り出したりしない。あの天使が城に攻めてきたりしない限りはな。」


 「俺は部下と共にセンター様の軍に加勢する。ギュベイお前は如何する?」


 ベルリルの言葉にギュベイはハンっと鼻を鳴らした。


 「お前ら如きが加勢したところで役に等立つものか、其れより確か地上にも小さいが聖石があったよな?其れをあの天使像の中心へ打ち込めば恐らくアレは止まる。」


 ベルリルは首を捻った。


 「ギュベイ、昔からお前は俺の理解できない事をスラスラと言う。何で聖石が関係してくる?そもそも我等魔族が聖石を運ぶなど何重にも封印しなくては焼け死んでしまうぞ?」


 ギュベイはやれやれと言った仕草をする。


 「私は腕力にも自信があるが何方かと言うと魔力特化型に近いからすぐ何でも魔力の流れを見て判断してしまう。いいか?あのデカい天使を包む魔力は聖属性だ。」


 「それ位俺にだって分かるさ。」


 「聖属性の魔力もよく見ると表面に流れる物の奥に内部で流れている物が見えてくる。腰の部分に聖石が有り、其処から後頭部のつけ根に向けてまるで背骨の様に太い魔力のパイプが有り、そいつが手や口からの攻撃魔法へ魔力を送っている。また、心臓の辺りにもけた違いな高エネルギーが居る。」


 「そうなのか?むむむむー」


  ベルリルは必死に目に魔力を込めて空高くにいる巨大な天使を見つめるが、表面の魔力が強く光って中など見えはしなかった。


 「因みに、心臓の辺りに居る奴が恐らく女神ぺロスだ。」


 「何ッ!ならばアレを撃ち落とさねば...」


 「だから聖石の話をしている!

 あの背骨を流れる聖魔力を我々の魔法で引きちぎろうとすれば恐らく属性の問題で魔神クラスでないと難しいだろう。

 しかし同じ聖属性なら切れる。つまり聖石を勢いよく背骨にヒットさせればあの巨大天使像の体を崩壊させる事も理論的には可能だと言っている。」


 「おっと、ギュベイちょっとすまん。愛する部下から連絡が入った。もしもーし俺だ、そうだお前の愛する魔王様ベルリル様だ。」


 通信の相手は恋人でもあるメリーナからだった。


 「魔王様、どうやら人間のPTが城に侵入した様子です。

 目撃者の情報を総合しますと男二人に女一人、この城にそんな少人数で入ってくる者など奴ら以外に考えられません。」


 「復活した勇者に聖女と大賢者。2年前のリベンジって訳か?」


 「如何致しましょう。」


 「いや、奴らを何とかして転送門に乗せろ。後はこっちでやる。」


 「えっ?いえ、はい。分かりました。」


 通信を切るとベルリルは二カーっと笑いギュベイの肩に手を掛けた。


 「おいギュベイ。吾輩良い事を思いついてしまった。」

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