第18話 ギュベイの予感
ここは魔王城。
ピンクのドレスを着た女が会釈し玉座の魔王の隣にくると魔王は座ったままその腰を片手で抱いた。
「魔王様、探していた女神が魔界の中層で目撃されたそうです。ギュベイ殿は魔界に戻り、裏切り者のグランとアエレ達も付いていった模様です。」
「捨てて於けメリーナ。魔界中枢の権力争いなどこの地には無関係だ。それよりオーガウルトラは未だ戻らぬか?」
メリーナは長いピンクの睫毛を伏せて魔王ベルリルの言葉を肯定する。
「うむ、拘束魔法に時間を止められていた間ずっと勇者を近くに感じていた。俺が目覚めたと言う事はかならず奴も復活しているに違いない。戦力は半減、敵には新たな大賢者が一人...人生とは一難去って又一難。中々難しいものよなメリーナよ。」
マコトによって1万もの被害を受けた3万の軍はアエレ達の脱退もあって今や1万を切っていた。今の魔王軍はとても正面を切って王国と戦える状況では無かった。
「まてよ、そうか。もし我らが女神を拘束すればそれを交渉材料に六大魔王から幾らでも支援が引き出せるな。現状を考慮すればそっちに賭けてみるのも面白い。だが全軍で行くと協定違反の侵略行為と見なされ返り討ちにあってしまう、メリーナ。力のある精鋭を纏めろ、俺が指揮する。」
ベルリルは魔界の出身だが部下たちは全て地上生まれの魔族である。その中で精鋭という事で集められたのはやはり魔将軍達であった。
第二将軍 水龍族 ディープ・ブルー HP約10,000
第三将軍 魔道天爬族 ピクタス・グレイ HP約 4,200
第二軍 軍団長 水龍族 コーラル・ブルー HP約2,800
第三軍 軍団長 魔道族 ブラウザ・コール HP約1,200
メリーナは城に魔王城に残り防御を固める事になった。既にここ2年で勢力範囲とした人族の山野は半分以上放棄して残存勢力をここ魔王城周辺に集中させつつある。
「魔王様、裏切ったアエレの軍には間者を仕込んで有ります。その情報によりますと女神は何と魔界の中層部、魔王センター様の勢力下の様です。」
「うむ、ギュベイは地上を探していたが見当違いだったな。嫌、ギュベイの顔を立てて女神ハンテはこの地で復活した事にしておいてやろう。なあに他の六大魔王様に比べセンター殿なら話しが早い、魔王協定に乗っ取り逃亡者ハンテの捜索の為に転送門を使わせて貰う。メリーナ、俺は久しぶりに魔界へ行って来る。念の為に通信と玉座の後ろにある専用転送魔法陣は開きっぱなしにして玉座には誰も近づけない様にしろ。」
魔界のエリート、魔王ベルリルの出陣である。
魔王ベルリル
HP:32,000
MP:11,000
得意技:火・闇系統の魔導全般
必殺技:ダークファイヤ・インフェルノ(極大広範囲熱魔法、消費魔力2,000)
◇
「ヘカトン様、只今戻りました。」
魔界の最下層、ここはピラミッド状に発達した魔界において最も古く、最も面積を誇る層である。
昼なお暗く夜尚薄っすらと輝く不思議な世界。
此処には最古の魔王が二人、領土を互いに隣り合わせに城を構えていた。
「ギュベイか。それで如何であった我が甥は?人間の勇者如きに負けたと聞いて居たが全く最近の若い者は。」
「ヘカトン様、彼は私の学友でもあります。そう言う意味で忌憚なく申し上げさせて頂いても構いませんでしょうか?」
魔神の異名を持つ者の一人であるヘカトンの姿はどの様な物でも見通すギュベイの眼にすら闇に紛れてはっきりとは見えない。また彼の左右にはギュベイにも負けず劣らぬ強大な気配を持った影が立ち並んでいた。流石に最古の魔王の城である。
「構わん。ぺロスさえ手に入れば儂は3界の覇者となる。」
ギュベイは手の平をゆっくりと握った。そして自分が薄っすら汗をかいている事に気が付いていた。目の前にいる存在の恐ろしさを再認識した瞬間であった。
「ははっ!僭越ながらこの一等大使ギュベイ報告させて頂きます。魔王区第666番地、所謂地上と呼ばれる辺境はご存知の通り魔素に乏しく我等魔族にとって何一つ利益を齎さぬ不毛な世界です。しかし人界に現れると予言にある最後の魔神様の復活までは扉を死守せねばならず魔王協定に乗っ取りつつ管理していると言うのが実情です。」
「よい、その様な事説明せずとも理解しておる。」
「ベルリルは勇者とは引分けましたが優秀な男です。この度...ぺロス復活の報にて666番地に赴きましたが、赴任中にのベルリルは勇者共々復帰しました。そして...その際感じたですが。」
ギュベイは言葉を区切った。何処まで話して良い?何処から誤魔化すのが最良?これは一世一代の大勝負であった。
「...正直に申し上げます。如何やら復活したのはぺロスだけではなく予言の魔神様もでは無いかと感じました。」
「「「「ふははははは」」」
ヘカトンの左右から木霊の様に笑い声が響き渡る。それもそうで有ろう。昔からの慣習で666番地を管理しているが魔界の誰に聞いても予言の魔神などおとぎ話、魔族の子供が幼き頃に絵本で話聞かされる様な存在であったからだ。
しかしヘカトンだけは笑わなかった、だがギュベイの話を信用した風でも無かった。
「貴様の...魔力を見る目は確かだ。もしかするとその点だけに於いては魔神である儂をも凌ぐかもしれん。しかし!しかしながらだ。もし予言の魔神が復活したとすればギュベイ、其方はどうする。」
ギュベイは腰の直刀に手を掛けようとしてそれを入口で預けて来たことを思い出し苦笑する。そして魔王を真っすぐと見据えると不敵にも笑いながらこう言った。
「私は、私の全魔力をかけて予言の魔神様を倒し六大魔王の末席に付こうかと存じます。」
◇
魔界!
魔界の序列は数あれど、一般的な認識では次のようになる。
六大魔王(魔神の別名を持つ者達)
ヘカトン・マルトース・デカトン・ヨバン・センター・エンドウ
但しマルトースは長い月日の後に自らの過ちを悔い流浪の先で自ら命を絶った、その場所が原初の村である。
その時から予言の魔王伝説が誠しやかに広まったのだ。即ち、マルトースは転生の果てに復活する。
若しくは再誕するマルトースの体は心を持たない厄災であるが、これを打ち倒した者こそが欠席の魔神として全ての権利を所有する権利があると。それを魔神法が肯定した。
即ち転生の魔神の首を持ってきた者には現在空席となっている魔神の地位を与えると。
六大魔王の下に12侯爵が居り、その下に144の伯爵が居る。しかし列強の誰も空席の第6席を得る事はこの長い魔族の歴史の中で無かった。
さもあらん、マルトース亡きあと六大魔王が定めた法によると第6席を得る条件は次の二つ。たった二つしかないその条件はいずれも至極シンプルな物であった。
その1
6大魔王、所謂魔神のいずれかを力で凌駕し負けを認めさせること。
その2
予言の魔神の首を持って来る事
その1は甚だ不可能であった。それ程現存する魔神の力は強大。
「ふはははは、ギュベイ。向上心は大事だ。しかし本物の魔神が復活したならば貴様如き力で調伏できようか?」
ギュベイは微笑んだ。この先は言ってはいけない。言えば即殺されるからだ。
「精進致します。」
そう頭を下げると王の間を後退するギュベイ。彼は女神ぺロス拘束の任を違えようとしている。
『女神ぺロスの持つ秘宝さえ手に入れば飛躍的に強く成れる。そうすれば...』
ギュベイの端正な口元はいびつに歪んだ笑いを浮かべていた。
◇
「てれれってってーれー、異次元召喚‼」
『何その音楽?』
「マコトさん、とうとう壊れましたか?」
「ご主人様は昔からこんなです。」
「マコトー、何だかぺロス様が怒ってるよ?」
うっさい、煩い、ぐおおおおー。
「良いか君達。特にそこで旅の草鞋を編んでいるクリストファー、リチャード、プリーチャー。よく見ると君達は雰囲気がそっくりだ。次元を超えた3兄弟とかキモいからやめてくれたまえ!」
「マコトー、前に話を進めて。」
お立ち台に立った俺にトウが小石程のドングリを投げて来た。
蹴り返そうと足を出したら触れた途端に小爆発した。ドキドキ、魔界の植物って本当に油断がならないな。
俺は息を整えると、のほほーんとしたハンテとまるで仇を見るかのようなぺロスの目の前でハイゲートを披露する。
「えーっと、これから披露するのはハイゲートと言いまして、つまりここに居る大半の皆さまを召喚した術でございます。うらぁ!地上最強呼んで来いや!俺の部下(あくまで俺では無い。)がギッタギタにして巻きずしの海苔くれーにペラッペラにしてやんぞー...ハイゲーー...。」
「如何したの?マコト。大丈夫?」
言葉途中で固まった俺を心配してトウが近寄って来た。
洗濯板の様な胸に頭を引き寄せられ...はっと現実に戻る。
「済みませんでした。俺はいつもこんな感じで、考えが足らなくて...運も無くて...こんなんじゃ駄目だって分かっています。
自分の力は相変わらず借り物です。ハンテ様やオーナ君、王様がくれた物の上に胡坐を掻いて調子に乗っていちゃダメなんです。どう変われるか分からないけど、ハンテ様を無事送り届ける為に頑張りたいって気持ちは本当です。」
◇
其の頃、ここは地上。
「ちょっとリチャード、お尻を押さないでよ。」
「うるせー、俺だってお前みたいな年増の肥大した尻なんか、痛い!痛い!蹴るな、蹴るな!」
「リチャードもエルも少し静かに。魔族に気が付かれたらどうするんだ?それとリチャード、エルの尻はパーフェクトだ。異議を唱えるなら表に出ろ。」
リチャードと呼ばれた大賢者である所のオルセス王は暗闇の中で壁に向かって小声で悪態を付いた。
「うるせールーガス。俺にとってのパーフェクトは死んだ嫁さんの尻だけだ!」
人それぞれ最上は違うもの。いや、そういう話をしていたのでは無かった。今彼らは3年前と同じように魔王城、つまり魔族の管理区域666番地に聳え立つ城に潜入しようとしていたのだった。
◇
ここは魔界。
俺の名前は石野真異次元に飛ばされた流浪者だ。
今俺の周りには仲間達が居る。とびきり信頼できる仲間達だ。
「じゃあマコト、結局何を呼び出すの?」
こいつは町娘のトウ。寸胴幼児体形で歳はハッキリ知らないが恐らくエフと同じ16くらいだろう。
エフはオルセス王国の第一王女で俺のスイートハニーだ。いや、冗談である。彼女は残念ながら16歳の若さで聖女と言う俗界から離れた地位に付こうとしている健気な王女様だ。
今の俺はゲートという異次元との門を開く魔法が使える。そしてハイゲートという上位版も扱える。一時期魔力を失っていたが女神ハンテ様の力に寄り取り戻したので再び使える様になった。
ゲートは異次元への扉を開き、ハイゲートは多少の条件付きで扉を開く、しかし多少でも条件付きと言うのは素晴らしい物だ。
今俺の右側に坐するは闇宣教師プリーチャー、左側に立つ悪魔蛸デビ、二人はハイゲートで召喚した。
隣に座る逃亡者、女神ぺロスとその捕獲者である女神ハンテも同じ様に俺が異空間から召喚した。
「ハイゲ--ト!」
此度もまた虹色の空間がぽっかりと口を開け、そこから黒い靄が染み出してくる。
「よーし、よしよし。よーし、よしよし。」
基本的に極大魔法はバンバン打てるが小鹿並みの体力故に実戦力に欠ける俺は何処かの動物マスターの様な掛け声と共に黒い染みを愛撫する。伝わって欲しい、俺には敵意は無いのだと。伝わって欲しい、俺の仲間になって欲しいのだ。
斬っ!
いきなり俺の右腕が切り落とされた。女神ハンテが慌てて駆け寄るってくっ付けてくれる。切れた腕をアッサリ元通りにしてくれるなんて流石は女神様である。
目線で我が忠臣であるプリーチャーに目配せすると彼は新参のわからずやを闇の波に乗せて小さな虹色の円に送り返した。プリーチャーが得意とする闇魔法は何でも闇に溶かし込んでしまうのだ。
「あーあ、失敗だったね?」
耳元でトウが囁く。
俺は慌てて退避した際に咄嗟に左手に抱いたトウの腰を抱きかかえたままだった。面倒なのでそのまま仁王立ちで宣言する。
「失敗は成功の千分の999ナリーー!」
失礼、コ〇助君の真似をしている訳では無い。
「おい、トウ。そこで黙っていないで何か反応しろ。ていうか何で無言で目を反らす?まるで俺が痛い奴みたいじゃないか?!」
「んー、マコト。痛いから降ろして?」
そんな風になよなよ言われては降ろさぬ訳には行かぬだろう。俺の手から解放されたトウはトテトテと女神達の所に行きコソコソと囁く。
「手込めにされちゃった、きゃっ!」
違うぞ。その言葉の用法はきっと間違っている。
しかしデビも交じまり女性陣がキャッキャキャッキャとご歓談中なのでそれ以上何も言うまいと思った。
はあ、俺は一体何をしているんだ?そして一体何をしたいんだろうと地べたを這う魔界虫の列を眺めながら暫し考える。
「マコトー!ごはんだってっ、おいでー!」
キュウと腹が鳴った。
仕方が無い。腹が減ったら飯を食いたいと思う。所詮俺はその程度の男なのである。張るほどの見栄も持ち合わせてはいない。
「今行くから!」
飯を食う、それが出来る事を幸いと思おう。
戦力の補強は成らなかったが魔力が戻り魔法が使えるようになった。ハンテ様も少し回復した。きっと何とかなる。
俺は手を振りながらトウに向かって走り出す。
そして...俺の目の前でトウが横殴りに体を真っ二つにされるのを何も出来ずに目の当たりにした。




