第17話 村﨑の実力
「マコトさん」
目が覚めるとそこには小柄な青髪の美少女が立っていた。後光が差している様で眩しく感じる。あっこれあれだよ。服が無かったらビーナスの誕生見たいな絵にそっくりだ。もしお風呂場でバッタリ会ったらビーナス誕生!なんて言ってみたりして...等と考えた事など顔には出さない。
「回復されたハンテ様は随分神様らしくなりましたね。」
女神ハンテは微笑んだ。いかん、意識を持って行かれそうな魅惑的な微笑み。
「お陰様で。ただこの村の巨大な聖石の力も持ってしても本来私が持つ力の十分の一しか回復出来ませんでした。」
そりゃーあなたはHP30万超えですからねえ。
「それでもHP換算で3万程度には回復したって事ですよね?神界に戻るのってそんなに大変なんですか?」
よく考えたらHPが高けりゃ神界にいけるなら源竜王タークなんぞとっくに神様の仲間入りになっていそうだ。あれが神?ブルブル..地上の哺乳類全てを駆逐するとか言い出しそうで怖い。
「いえ、神界自体は聖なる属性ならば誰でも入れますが」
えっ、それはそれで敷居低くないです?
「ただ神界への門が魔界の最下層にあるんです。」
めっちゃハードル上がった。おいおい神様何でそんな所に作ったんだ、実は魔族に攻め込んで欲しかったのか?
「いえいえ、そうでは無くてですね。この魔界には6大魔王と呼ばれる魔神クラスの人物達が居まして、彼らは元々大神の子孫である由緒正しい神々だったのですが、ある時闇の宣教師に唆されて反乱を起こしその所為で神界を追放されてしまったのです。その時作られたのが追放門といって私が目指す魔界と神界を繋ぐ門なのです。」
「えっと、ここからは遠いのですか?」
「ここ原初の村は改心した魔神の一人が神に祈りを捧げた場所で魔界の中層部にあります。ちなみにその魔神は自らの命を絶ちましたがその生まれ変わりが」
よもや糞栗鼠斗毛皮ー?!
「いえ、リチャードさんです。彼は666回生まれ変わり其の度に運命に導かれて此処を訪れます。最後に訪れた時に彼の魂は許され本来の神として転身すると言われています。えっと、ここ魔界でいう所の予言の魔神伝説ですね。」
「すげーな、リチャード。後何回で神様になるんですか?」
「ちなみに今は普通の人ですよ。ですから彼が到達できるように魔界の入口近くに転送門が設置されている訳なのですが...えーーと、後276回残っていますね。彼はここに来るたびに聖石との繋がりを深くしています。恐らく最後の1回で聖石の全てを自分の力とする事でしょう。」
ふむ、そうかリチャード。俺は応援しか出来ないが後200回以上お遍路を頑張ってくれ。
「しかしそもそも闇の宣教師?悪い奴ですねそいつ。ハンテ様もそんな奴見つけたら行き成りバトルしちゃったりします?」
ていうかハンテ様、気づいてない訳ないよな?
「今ここでプリーチャーさんと争う気はありませんよ。」
ぐおっやっぱり!奴がやらかした張本人なのか。
「部下に多大なお目こぼし頂き誠にありがとうございます。」
「いえ、話を先に進めます。回復したとはいえ、今の私の力では最下層の六大魔王達相手では無力です。見つかった瞬間にぺロスを奪われてしまうと思っています。
もし彼女を奪われれば彼らはぺロスの体内にある秘宝を採りだして莫大な力を手に入れてしまうでしょう。それと同時に聖属性をも手に入れる事が出来るという事なのです。もしそうなれば追放門を潜って神界に攻め入る事が可能になります。」
「…」
「しかし、前にも言いましたが私は一族に掛けられた戒めを解くためにどうしても女神ぺロスを神界に連れて帰りたい。マコトさん、どうか力を貸して下さい。」
「・・・無理ですよハンテ様。俺今魔力が無いんです。というか元々持って居なかったのを王様から預かっていただけなので...」
それにもしフルパワーであったとしても今のハンテが敵わない敵に勝てる気はしなかった。
それでも女神ハンテは微笑みながら俺の頬を優しく撫でる。指先の一つ一つが輝いていた。柔らかそうな頬の輪部も黄金色を放っている。
「オルセス王が貴方に授けた物、それは魔導の原宝というスキルです。それは自らの魔力とここにある原初の聖石を繋ぐスキルなのです。」
女神の顔が迫って来る。
「さあ、貴方に再び魔導の原宝を授けましょう。私が直接施術すればその絆は依然と比較に成らない程強固に再構築される筈です。」
近い、近いですって!
「あの...マコトさん。すみませんが少しだけ目を瞑っていて頂けるとやりやすいのですが...」
目をパチクリさせ鳩の様に喉を詰まらせ小刻みな上下運動をくり返す俺。そこからほんの数ミリ先で女神が甘く囁いた。理性の限界がそこにあった。心地よい声にうっとりと聴き入りながら俺は目を瞑る。
そして女神の体を通じて俺の体に打ち込まれた魔力の楔が確かに今、聖石と繋がった事を感じた。
◇
「うおおおおー!スーパーマコちゃんふっかーーーぁつ!リアルワールド・ゲート!」
魔力が漲る。
しかし術は発動しない。
「おーい、オーナ君頼みますよ大臣閣下。ご存知の通り全部君頼みなんだから。」
『仕方が無いなあ。じゃあ此れからはため口ね?よし、じゃあもう一回唱えて。』
「うおおおおー!スーパーマコちゃんふっかーーーぁつ!」
『そこ要らないから。』
「はい...済みませんでした。リアルワールド・ゲート!」
一瞬で戒めを抜けてハンテ様の背面にテレポートした。勿論行方不明になっていた下半身もくっ付いてきた。
しかし先ほどのオーナ君との会話はハンテ様から見たら痛い独り言野郎に見えたに違いない。
「大丈夫ですよマコトさん。力さえ有れば私は心も読めますから。さっきから話していて気づきませんでした?それと貴方が倒れている間にオーナ君とも沢山お話しました。もっとも最初にオーナ君の存在に気が付いて教えてくれたのはぺロスでしたが。」
つーーー。
背中を冷たい汗が流れた。
勿論オーナ君と話をしましたのくだりに対してでは無い。
「あら、お風呂場でバッタリのくだりですか?その前に察知しちゃいますから実現は無理ですねえ。」
血の気が引くとは将にこの事。彼女は現在HP30,000相当の強者、デビが3匹若しくはプリチャー×3倍強である。冗談でも怒らせた日には...
「すっ済みませんでした!女神様に対して不埒な事を考えて本当に反省しています!どうか此処は穏便に。」
足元に体を投げ出し額を土に擦り付けて詫びた。
「ふふふ、分かりました。いいですよ今回に限り見逃してあげましょう。」
女神ハンテは左程怒った風もなく機嫌良さそうに笑いながら去って行く。
「たっ助かった~」
『ホント、マコトって馬鹿だね。少しは相手の力くらい類推すれば良いのに。借り物の力に酔って油断しすぎなんだよ。』
いやはや全く返す言葉もございません。
◇
「マコトー!女神様から聞いたけどお風呂に入りたいんだって?」
誤魔かそう...。
「...その通りだトウ。何たって俺たちはずうっと風呂に入っていないからな。」
「ん?村の裏手に温泉があるから皆入っているよ?臭いのは空中で宙吊りになっていたマコトだけだからさっさと入って来たら?ほら、これタオル。」
「そうか...しかし行ったら女神様とバッタリなんてシャレにならんぞ?」
無いとは言われたが念の為に予防線を張ってみた。
「女神様達の時はいつもデビさんが見張っているから無いなあ。逆に今はデビさんが入っている時間かもね?」
ふむ。デビなら裸を見られても良かろう。
脱衣所からローブも洗濯する積りで小脇に抱えて裸でのっしのっし温泉に向かうと確かに後ろを向いたデビが湯船の中に居た。
其れを見た瞬間に息を飲む。なぜって彼女の背中には生生しい大きな傷痕が2条も付いていた。
「デビっ、その傷は如何した!?誰にやられた!」
我が忠臣を傷つけるとは出会えー!出会えー!
「あっご主人様。これは来る途中で魔物に引っかかれました。」
蛸の本体が何やら恥ずかしそうに湯船に沈んで行ったが俺はタコには興奮したりしない。
「ハンテ様は回復してくれなかったのか?」
「ヒールをかけて頂きましたが疑似餌の部分は弱くて直りが悪いように出来ている物ですから。ハンテ様は神界に行ったら奇麗に直してあげると仰っていただきましたが、私みたいな者が神界に入る訳には行きませんのにねえ。」
くすくすと笑う魔人デビ。可哀そうに、戻ったらエフにエクストラ・ヒールを掛けて貰おうな。
「魔物達は強かったか?」
「魔界に入ってすぐは全然弱かったです。転送門からこの村に来る途中が危なかったですね。普段はこの辺り一帯に魔物は居ないらしいのですが、何かに追われた魔物が3匹居まして何とか撃退出来ましたが5匹いたら危なかったです。」
デビはHPが1万もあるし以前タークの手下でHPが1700くらいある奴を一瞬でノシている。そのデビが3匹で手こずるという事はその魔獣は大雑把な計算でHP換算で3,000~4,000と言った所か?ここは地上の魔将軍に近いのが道を歩いているだけで遭遇する場所という事なのか。
そいつはキツイな。しかも未だ此処は終点では無い。
「よし!」
ざばあっと湯船から立つとデビが恥ずかしそうに自分の目を手で隠した。
「増援を呼ぶぞ!」
◇
『マコトも本当に懲りないねえ...』
「何を言っている。これのお陰で王様も戻って来れたし、ハンテ様も出て来れた。デビやプリーチャーという我が幹部達も全てこの儀式を通過している。」
『タークを逃がして屋敷を丸焦げにしたり、ぺロス様に殺されそうになったり、...』
「オーナ君、それは言わない約束でしょう?」
『そんな約束はしてません!』
右サイドに反魂鏡を覗くプリーチャー、左サイドに戦闘体形のデビ、頭上には竜撃叩。うむ、これをわが軍のトライアングルフォーメーションと名付けよう。
『早く終わらせてよ。』
はいはい、まったくせっかちな人工知能だこと。
「防御力の高い強い奴、アーンド従順な奴カモーン!からの~ハイゲート!」
うードキドキする。今度はどんなのが出て来るんだろう。
見慣れた虹色の空間が開き黒い靄が染み出してくる。
「どうだプリーチャー、凶悪そうな感じか?」
「いえ、主殿。かなり防御力が高そうです。」
俺はプリーチャーにグイグイと催促をする。
「はあ、何系?と聞かれましても...これは、何と言いますか、もしかするとペット系でしょうか?」
なんだとペット系で防御力が高いと言えば若しかして亀か?もしかして忍〇亀だったら良いな。ワクワクしてきた、うおーい。やっほう!
ゴトリ、黒い靄が実体化した。
目の前に転がっていたのは何と2mもある強大な黒い二枚貝であった。
貝の口が僅かに開き、そこから2本の管が顔を覗かせる。管の1本から声が聞こえた。
「私は村﨑と言います。助けて頂き有難うございます、どうか貴方の子分にして下さい。」
2枚貝のムラサキか...只のデッカイ紫貝じゃねえのか?まあ願った通り従順なので何よりだ。
「勿論その為に呼んだのだよムラサキ君。俺の名前はマコト、こっちの男がプリチャー、女性がデビという。ようこそ我が軍団へ!」
俺は地面にどてーんと横たわる超巨大な2枚貝にすこし近寄って小声で話しかける。
「所で君、何か特技とかあるかな?今から君は俺の配下だから俺の言うことを何でも守って俺の盾となって頑張るんだよ?」
村﨑はもう一方の管から目玉を1つぎょろんと出すとキョロキョロしながら目玉を下げてた。中々礼儀もちゃんとしているでは無いか、好感が持てる。期待の新人だな、ルーキーって奴だ。やほーい!
「えーっと、殻が堅いです。あと淡水でも海水でも生きて行けます。あの、こんな時に恐縮ですが良ければお水を一杯戴けませんか?喉がカラカラでうまく声が出ないのです。」
良かろう良かろう、コップに一杯と言わず沢山くれてよろう。
「轟海高波 (ビック・ウエーブ)!」
高波が村﨑を押し流して行った。さらば村﨑お前の事は数日は忘れないだろう。
「主殿、良かったのですか?彼HPが20,000以上ありましたが?」
「2万?それは惜しい事をした。しかしなプリーチャー、アレを如何やって戦いに組み込めば良いのだ?持つのか?投げるのか?重くて俺には扱えんぞ。」
「使い方は私にも分かりませんが。」
「明日だ、明日。出発前にもう1回だけチェレンジするぞ!」




