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第15話 アンチポイズンの効果

 ここは魔界。巨大な魔物が闊歩する危険な世界である。


 空は暗く日も星も出ない。


 荒れた地面には一面ヒカリゴケが繁殖し赤黒い色で辺りを照らしている。川や海は無く乾燥した世界だった。


 しかし一口に魔界と言って様々だ。


 魔界は階層に分かれていて下に行くほど古くからの魔王が生息すると言われている。


 「お前が最近領土を荒らしまわっている鬼族だな?私は6大魔王が一人センター様が配下のドスドスだ!」


 筋骨隆々とした赤鬼の前でドスドスと名乗る痩せた悪魔が啖呵を切った。蝙蝠の様な羽を背中から生やし、濃紺の体には骨が浮き上がっている。目の前の大きな赤鬼に殴られたら体がポキリと2つに折れてしまいそうである。


 だが赤鬼はそんなドスドスを警戒するかのように静かに呼吸を整えていた。彼の手には使い込まれた剣が、右肩には獅子を象った漆黒の肩当が有った。


 返事をしない赤鬼ドスドスは朗々と口上を続けた。


 「貴様!名乗ってやったのだから名を名乗れ!その手に持つ剣と肩当は殺された我が配下の物に間違いないな?仇を取らせて貰う。」


 話を聞くとどうやら領土を侵し暴れ回っていた赤鬼を捉えに来た様である。赤鬼の気が膨れ上がった。


 「赤神鬼オーガウルトラ。参る!」


 ガシンッ!


 オーガウルトラの剣がドスドスの細腕に当たって火花を散らした。しかし細腕は斬れていない。


 「俺の体をナマスの様に切り裂いた魔剣だったのが...」


 止められたオーガも驚きを隠せない。


 「私を舐めるな!」


 ドスドスの体から炎が吹き上げた。火を避けるためにオーガがゴロゴロと転がりながら距離を取る。


 ガッツガッツガッツ


 地面に炎弾が次々と刺さって火柱を上げた。


 突然オーガが立ち上がると肩当を前面に押し出しタックルを仕掛ける。


 正面から炎弾が襲い掛かるが肩当に届く寸前で霧散してしまう。どうやら肩当はマジックアイテムの様だ。


 「神化周到・スリータイムス!」


 コマ落としの様に加速した赤鬼のタックルがドスドスの細い体にぶち当たる。それはダンプカーの突進の如くであった。

 盛大な音を立てて吹き飛ばされたドスドスは空中で羽を開くと羽ばたき静止した。その目には余裕があり、体には未だ力が漲っていた。


 その様子を見た赤鬼は何という事かクルリと背を向けると駆け出した。


 一瞬呆気にとられたドスドスだが慌てて大きく羽ばたき上空から赤鬼を追った。


 赤鬼の逃げた先は森。


 森と言っても生えているのは植物ではなく魔物である。イソギンチャクの様な物や木そっくりな物、大きな花の様な擬態の物様々な魔物が樹立していた。


 イソギンチャクの1匹が赤鬼に襲い掛かるがあっと言う間に剣で真っ二つにされ血飛沫を上げる。


 彼の行く手に小さな竜族が居た。迷い子であろうか?


 赤鬼は猛スピードで子供の脇を走り抜ける。


 ドスドスの炎弾が赤鬼の軌跡をなぞる様に地面に突き刺さった。その内の1発が竜族の子供を直撃する。


 赤鬼は構わず逃げ続けた。しかし暫く走って敵が追いついて来ない事を不思議に思い後ろを振り返って見る。


 遠くで先ほどの子供が一人立ち尽くしていた。


 不審に思い戻って見ると子供の少し先でドスドスが腹から血を流して膝を付いていた。


 「トランスフォーム、ティラノサウルス」


 大型の肉食恐竜に変化した少年に流石のドスドスも逃げる選択をするが巨大な肉食獣は獲物を丸のみにするとするすると小さな子供に戻って行った。


 オーガは動けなかった。行く先々の魔界で喧嘩を売り力を付けて来た自分が 神化周到を使っても倒せなかったドスドスを子供の様にあしらった目の前の存在に年貢の納め時を感じた。


 「おい、そこの赤鬼。儂の名は偉大なる源竜王タークである。儂は魔力を回復させる為に強い餌を必要としておる。命令する、儂の為に強い餌をもっとおびき寄せてくるのじゃ。」


 ◇


 1週間ぶりの山村に真面な食料を期待した俺は考えの甘さに前頭葉を金槌で殴られた様な衝撃を受けて居た。


 「オーナ君、この村の人達って...」


 『魔族ですよ?どうしました?ここは昔からの魔族領です。さあフードを深く被って。大丈夫です、スクイード族は敵対族ではありませんし早く行かないと手遅れになります。』


 何が手遅れなのか教えて貰えなかった。村に入ると直ぐに手に槍を持った魔族の男が話しかけて来た。


 青白い顔をした屈強な男は髭の代わりに顎から触手が生えていた。帽子を取ると耳の位置が頭頂部に近くしかも大きい。


 「村じゃ見かけない顔だな?旅人か?若しかしてあの娘の仲間か?」


 『はいと答えて。』


 「えっはい。そうです。」


 「ついて来い。」


 何の事か分からなかったが男に付いて行く。魔族の娘に知り合いは居ない。いやデビか?デビなら逢いたい。まてまて、エフによく絡んできていたピンク色の女だったら不味な。知らず知らずの内に心拍数が上がって行った。


 「約束通り毒消しは飲ませたがどうなるかは分からん。」


 毒っ?!


 粗末な小屋の入口は垂れ下がった布があるだけで簡素な物だった。中にあるベットも藁を敷いただけの物。そこに横たわっていた小柄な少女は胸に小さなガラス瓶を抱えて苦しそうに横たわって居た。


 少女は焦点の定まらない目でこちらを見る。


 『早く、アンチ・ポイズンを!』


 「トウ!しっかりしろ、アンチ・ポイズン!」


 効果は十分あった。青ざめて衰弱していた頬に薄っすら赤みがさし、弱々しいながらも彼女は俺の名前を呼んだのだ。


 「マコト...逢いたかった...」


 ◇


 「驚いた、お前は治療師だったのか。ならば今村にいる病人の解毒を頼まれてくれないか?」


 様子を見に来た村の男は先ほどの男と見分けが付かなかったが服の模様が複雑な物を身に纏っていたので若しかすると村の顔役か何かだったのかも知れない。


 彼に付いて村を周り頼まれた通り病人にアンチ・ポイズンを掛ける。休んでまたアンチ・ポイズン。毒に侵されていた人は直ぐに元気に歩き出し、普通の病の人は少し楽になったとお礼を言ってくれた。

 

 翌々朝、俺は元気になったトウと二人で村人達に見送られながら村を旅立った。村の女性からお礼にと魔物が嫌がる匂いのするほし草を沢山貰った。村の人は山に入る時この草を腰にぶら下げておくそうだ。すると魔物が嫌がって向こうからは近づいて来ないらしい。毒で寝込んで居た人達は偶々魔物とバッタリ蜂合ってしまった気の毒な人たちだった。


 オーナ君と相談したが彼は頑なに原初の村に拘っていて一旦トウを王国まで送るという案には大反対された。


 「でも何であんな所に居たんだ?」


 歩きながらトウに尋ねると恥ずかしそうにごにょごにょ言うばかりで要領を得ない。しかしゆっくり話を聞いていると如何やら途中まではクリストファー達と一緒にいたらしい。


 「それでデビさんが、マコトの魔力が感じられないって言って。クリストファーさんが女神様達を原初の村に送り届ければマコトの魔力を元に戻せるって、でもとても危ないからって言ったらデビさんが一緒に行ってあげるって。」


 そうか、デビは俺を裏切った訳じゃ無かったのか。それが聞けただけでも満足だった。


 「わっ私も一緒に行きたいって言って、でも山の中で変な魔物に襲われて。ぺロスさん以外誰も解毒を持って居なかったけどハンテ様がぺロスさんの封印を解けないから、これ以上は連れて行けないから出来るだけ早く戻って来るって。

 あっでもハンテ様はこのガラス瓶を残して行ってくれて、もし如何しても駄目そうだったらこれを割れば周りの時間を止める呪いが発動して死だけは免れるだろうって。ただこれ使うと呪いを解くのに大変だからなるべく我慢してって言われて村に預けられて。マコト...助けてくれて有難う。」


 要領の得ない説明だったが大体理解した。こちらこそ、俺の為に何かしようとしてくれて有難うである。


 『あっこの先は右です。直ぐにごつごつした岩だらけの殺風景な場所に出る筈です。』


 しかし、オーナ君は何でこんな道を知って居るのだろうか?オーナ君は王様の魔力で俺に刻印された知識だと自分で言っていた。という事は王様の知識でもある。王様は嘗てこの道を通ってその村へ行った事があるのだろうか?


 オーナ君に言われるがまま魔族領の奥深くへと進む。


 岩だらけの殺風景な谷の奥に大きな門がポツリとあった。


 『良いからそこの石像に門を通して下さいってお願いして。』


 「石像さん、門を通して下さい。」


 「死にたいのなら通してやろう。但し戻ってくる時は儂らを倒さないと通さないがいいのか?」


 「うわっ!石が喋った!!」


 トウも驚いて俺にしがみ付いている。


 「自分から話しかけて於いて失礼な奴だな。」


 いや、だって普通ビックリするでしょう。


 「済みませんでした慣れていない物で。所で通らせて貰いても良いですか?」


 少しだけ開けて貰った隙間からそそくさと中に入った。


 そして薄暗い殺風景な世界に唖然としている内に背中で門が閉まる音を聞くと脳内にオーナ君の嬉しそうな声が響き渡る。


 『ようこそ、魔界へ!』


  何ですか、それは...


 ◇◇


 門の傍には小さな村が有った。


 『始まりの村です。人間だとバレない様にしっかりローブで顔を隠して、持っている王国金貨で魔石を買えるだけ買って下さい。』


 「魔石?それを買って如何するの?」 


 『ウオーターの魔法で水を出したり、狩りの後MPを回復させたりします。特に水は中々手に入らないからウオーターの魔法は必須なんです。』


 トウを村はずれの木の下に待たせると言われた通りローブをしっかり被り恐る恐る村に立ち入る。そこは紫色の肌をした背の高い魔族達の暮らす村だった。


 「あの、魔石を買いたいんですけど。」


 ビクビクしながら村人に話しかけると黙って1軒の家を指差された。ウエスタンスタイルの押し戸を潜るとどうやら雑貨屋の様だった。所狭しと草や骨、毛皮などが並び魔石もその中にあった。荷物の大半はリチャードの両親に預けてきたが持っている金貨全てを出して魔石を求める。金貨9枚でビー玉程の魔石が9個貰えた。ぼったくられては居ないだろうか?


 村を出ると森に入る。原初の村までは本来なら危険な長旅が必要らしいが抜け道を使うので後数日らしい。夜の森は危ないんじゃないかと聞いたらここには昼も夜も無いので一緒と言われ先を急ぐ。


 『なあ、オーナ君。こんな危なそうな所ならトウをあの村に置いて行った方が良かったんじゃ無いの?』


 『まともに行くならそうしたでしょうが、これから使う抜け道は原初の村を訪れた者しか知らない比較的安全な道です。それに帰りは回復した魔力でひとっとびです。』


 俺はトウの小さな手をキュっと握る。二人共暫く風呂に入っていないので酷く汚れているがそんな事は全く気にならなかった。サラウンド・サーチには赤い印が点々と映るが近寄ってくる様子は無い。


 『魔物避けの草は途中で採取する積りでしたが村で沢山貰えたのがラッキーでしたね。』


 俺たちは二人して腰から埃っぽい匂いのする草をぶら下げている。


 『この調子なら直ぐに抜け穴まで到達できそうです。』


 オーナ君は何だか嬉しそうだった。

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