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第14話 原初の村を目指して

 「マコト様、うちの倅が不義理な事で誠に申し訳ないじゃに」


 リチャードの実家に立ち寄って1泊を申しでると彼の両親は暖かい態度で迎え入れてくれた。夜飯の後息子さんの事を聞かれたので彼らとは袂を分けた事を説明した。


 「いえ、クリストファーは本物の聖者らしいのでリチャードさんも彼から得るものがあるのだと思いますよ。」


 二人の申し訳なさそうな顔を見ていると話題を変えなくてはという気がして咄嗟に言葉が口に出た。


 「所で原初の村っていう場所の事を知りませんか?」


 すると二人は益々体を小さくすると申し訳なさげに言う。


 「儂らはこの村から出たことも無い物知らずじゃに。」


 「おじいさん、そんなに恐縮しないで下さいよ。」


 「マコト様、慰めにもなりませんが儂らの村では大雨日照りが病に飢饉を持って来る、持って帰りゃんせ持って帰りゃんせという歌があるじゃに。歌の意味は辛い時は大変じゃにがいつか必ず晴れ間や秋の実りはやってくるという祈りじゃによ。」


 此れから...俺に良い事何て有るんだろうか?


 それでも絶望の中でも希望が又あると言われ闇夜の中に遠く小さな星を一つ見た様な気がした。


 ◇


 翌朝リチャードの両親に見送られ山村を後にする。


 この先は魔族が出没する地域、今見つかると非情に拙い。


 そうだ、魔力は減ってしまったが魔法が使えない訳では無い。殆ど魔力消費の無いサラウンドサーチなら使えるかも。


 「サラウンド・サーチ」


 ...何も起こらなかった。


 「くそっ!サラウンド・サーチ!何故だ、何故出来ない!」


 悔しくて涙が出て来た。やはり俺はもうダメだという気持ちに全身を苛まれる。


 『今までの無詠唱は私がサポートしていたからです。サポート無しでやるならフル詠唱しないと駄目ですね。』


 「オーナ君!悪かった、俺が悪かった。俺には君の力が必要だ。教えてくれ、フル詠唱って奴を教えてくれ。」


 必死で謝った。


 『仕方が在りませんね、何度も言わないのでよく覚えて下さいね?風の聖霊よ我が瞳となり大鷲の高さで敵を捕捉しろ、サラウンド・サーチ。』


 簡単な呪文だった。そっくり言葉を真似ると懐かしいレーダー画面が頭の中に浮かび上がる。


 「出来たっ!でもこんな簡単な呪文なら誰でも使えそうだな。」


 『使えませんよ。私が刻印されているからフル詠唱するだけで済みますけど、普通の人が使える様になるには凄まじい練習と特訓が必要でしょうね。』


 そうか...俺は助けられているのか。


 「分かった、いつも助けてくれてありがとう。感謝する、有難う。」


 『...では原初の村に行く気になりましたか?』


 「危険は無いの?」


 『有ります。でも私がサポートします。このまま老人の様に背を丸めて生きていくのか、可能性に掛けてみるのか何方を選びます?』


 後者の場合は又呼びかけに応じなくなってしまうのだろうと感じた。


 「分かった、そこに行って見る。行き方を教えてくれない?えっ?!」


 脳内のレーダーにオーナ君が指し示した方向は一番行きたくない方向、つまり魔王領を指していた。


 『馬車は何処かに預けて行きましょう。お金も沢山は持って行けません。食料に水を買い込む必要がありますね。』

 

 俺は元来た道を引き返すとリチャードの両親に大半の荷物毎馬車を預けると保存食と竹で作った水筒を買い込み山の中へ足を踏み入れた。


 『魔物が近づいて来たら短縮でエア・カッターを唱えて下さい。今のマコトさんなら1発だけ撃つことができます。なのでなるべくレーダーに注意して魔物から距離を取って下さい。』


 「わかった。」


 俺は黙々と山道を歩く。


 途中湧き水を見つければ水筒を満たす。


 『お腹を壊さない様にボイルして直ぐ冷ましましょう。補助します、ボイルと唱えて。』


 「ボイル!」


 水筒の蓋から湯気が噴き出す。


 『クールと唱えて。』


 「クール!」


 直ぐに湯気が収まった。ライフサーチしてみるとMPがのこり15しか無かった。


 『其処の木の上に登って下さい。そこで休みましょう。』


 懐から食料を取り出して齧る。干した麺の様な物と梅干の様な物だ。疲れたが眠ると木から落ちてしまう。ジッと体力の回復を待つがこんな事でやって行けるのだろうか?


 2時間ほど木の上に居ただろうか。


 『そろそろ大丈夫そうですね』


 突然オーナ君が断言した。恐る恐るライフサーチしてみると確かにMPが回復している。それに少しだが増えている?!

 

 マコト

 HP:78/99

 MP:102/102

 

 

 「増えてる!オーナ君増えてるよ!」


 嬉しくて大声を上げてしまった。慌ててサラウンドサーチをかけるが幸いな事に近くに赤い点は表示されなかった。


 『勿論この世界の人間はこの程度の事で魔力総量が増えたり何て絶対しませんし、普通なら2時間でMPが全回復したりもしません。』


 ん、これって特殊なんだ?


 『全てはマコトさんの体がこの世界においては特別な作りになっているからです。注げば注ぐほど魔力が大きくなるんです。だからこそ原初の村に行く意味があります。』

 

 そこに何があるんだろう?


 「普通の人はそこに行っても意味が無いって事?」


 『それはどうでしょう?さあ、先は長いので急ぎましょう。次に魔物に逢ったら倒して食料の自給もやりましょう。』


 ◇


 ノッシノッシと歩くアルマジロの様な魔物は背中に無数の口を持っているグロテスクな奴だった。


 『オーナ君、あんなの食べたらお腹壊すよ。それにデカすぎて手におえないよ。』


 敵は軽自動車よりデカい。


 『奴の名前はアルべロス、背中の口から毒を吐く魔物で肉も血も毒まみれ、普通なら食えた物ではありません。』


 『えぇー何それ。』


 『ですが、アンチ・ポイズンの魔法を唱える事に依って毒を持つ魔物を食べる事が出来ます。これはこれから先とても重要な事なので今の内に覚えて於きましょう。』


 『はい...』


 おかしい、以前毒を食らった時に必死に探したが解毒の魔法は見つからなかった。つまり王様やオーナ君は解毒魔法を知らない筈。


 オーナ君の指示に従いエアカッターを放つ。


 『良いですか?狙いは尾っぽの先から二つ目の関節です。撃ったらすぐに木に登って下さい。奴は鼻が良く無いのでそれで逃げ切れます。』


 「エア・カッター!」


 目に見えない空気の剣が音速で魔物の尻尾に襲い掛かる。突然尻尾を切られた魔物は大きな唸り声を上げると背中の口々から黄色い液体を周りに吐き散らかした。


 急いで木に登る。MPが枯渇寸前なのでそのまま又2時間程木の股で体を休める羽目になった。尾っぽを切られたアルべロスはというと散々暴れた挙句何処かへ走りさってしまった。


 あっ骸骨見たいな顔の鳥が落ちた尻尾に降り立った。

 羽はカラスの様に真っ黒で目が赤い不気味な鳥だった。


 『オーナ君、尻尾が食べられてしまう!』


 しかし尻尾を突いた不気味な鳥はパタリと倒れ込んでしまう。


 『ラッキーですね、獲物が勝手に増えました。』


 いや、アレを食べるの?解毒魔法って本当に大丈夫なのかとても不安に襲われる。


 嫌な予感に苛まれながら木から降りると尻尾と鳥の死体に向かって言われた通りアンチ・ポイズンの魔法を掛けたが意外な事にMPは10程しか消費しなかった。そして如何わしい獲物達を残った魔力を使ってボイルする。


 「不味いーーー!」


 齧った尻尾は匂いも味もとてもじゃ無いが食えた物じゃ無かった。


 『何も食料が無いよりはマシです。鳥は頭と内臓を捨てて、尻尾と一緒にドライ魔法で乾燥させて下さい。』


 ◇


 1週間ほど山の中をサバイバルした結果、山の上から小さな山村が見えて来た。


 「やっと着いた。米食いたい、風呂入りたい...。」


 『えっ?ここじゃ無いですよ。もっと先です。』


 ドサッ


 思わず足を滑らせて転んでしまった。


 「そうなんだ...因みにどれくらい掛かるの?」


 『さあ、普通に行けばあと半年位でしょうか?』


 「はっ半年ー!」


 俺が山すそで叫んでいる頃、神殿と王都では2つの催し事が盛大に行われていた。


 ◇


  弱体化した魔王軍のリーダーとなったメリーナは神殿で行われた新聖女のお披露目式を遥か遠くで群衆の影から絶望に満ちた瞳で見つめていた。


 自らが仕える魔王復活の儀式に必要なのは聖使徒、つまり聖女になる前の候補者であり、聖女になってしまったエフはその意味を成さない。かくなる上はエフを暗殺し次なる聖女候補を早々に立てさせるかギュベイの要求する女神を探し当てる他無かった。


 同時に王都では第二将軍水龍族のブルー将軍が国王帰還の記念パレードを苦々しい顔で伺っていた。


 「新賢者に加えて国王まで戻ってきてしまうとは暫く攻め入る事等出来ぬ。それどころか奴らが城に攻め込んできてもおかしくない。そうだ、きっとそうに違いない。王は盟友の勇者を治療し2年前の様に我らが城に攻めてくる。」


 パレードの先頭はジェイ王女の恋人、マルクス騎士団長。馬上の彼は黄金の鎧を身に纏い彼の後ろには青い三角旗を持った騎士団員が整然と行進する。


 「ライフサーチ。400,500,500...屑ばかりだ。やはり王国で気を付けるべきは国王と新賢者だけだな。」


 「確かに脆弱だがライフだけでは魔法剣士という場合に相手の力量を見誤るだろう?」


 知らぬ間に後ろを取られてブルーは全身から汗が噴き出すのが感じた。


 「ギュベイ大使、何故こんな所へ。」


 「君達がキチンと女神を探しているか監視している。」


 「その件に関してはグレイとリリーが必死の捜索をしている。それに裏切ったアエレ達の軍も女神を探しているだろう?」


 ブルーは必死になって考えていた。争いになれば1対1では絶対ギュベイに勝てない。今は事を穏便に。


 「アレが国王か?ふむ人間にしてはHPが異常に高いな。」


 「奴は常時魔法で肉体を強化する内に強靭な体を手に入れた珍しい人間だ。6色の魔法を操りその威力は城壁をも吹き飛ばす程、かつて勇者、聖女と共に我らが魔王様を封印した憎い相手。」


 「そうか、憎いのか。では少し気を晴らしてやろう。魔界好虫 イビル・ワーム!」


 「なにっ!」


 ブルーが止める間も無くギュベイは国王に向けて怖ろしい魔界の虫を召喚し、けしかけた。


 「うおおお!爆虹光閃 (セブン・レーザー)!」

 

 咄嗟に国王が放った7本の光はあっさりイビルワームを切り裂くと遥か先の城壁に当たり壁が爆発する。


 パレードの場は騒然となりギュベイとブルーは人込みに紛れて逃走した。


 「ふははは、あの人間中々やるな。女神を捕まえたら1戦交えてから帰る事にしよう。」


 ギュベイは走りながらも上機嫌であった。


 そんなギュベイを見ながらブルーは考える。


 王国の勢力が強まった今、ギュベイに協力して聖使徒を分けて貰った方が事がスムースに行くのでは無いかと。


 彼らは真が魔力を失った事など知らなかった。

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