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第10話 ボーリングの球

 ギュベイが去った後、魔王城の会議室は葬式の様に静まり返っていた。


 ギュベイが提示したのは封印魔法を解除する鍵。これは聖使徒を指すが、実はこれは聖女と違い必ずしも一人と言う訳では無いらしい。


 ギュベイたちはかつて聖女候補であった聖使徒の資格を持つ人間を既に数人捕らえており、要求する者と引換に渡しても良いと言う。


 「女神ぺロス。そんな者が本当に復活したのでしょうか?」


  第五将軍であるチャンスー・リリがポツリ呟いた。


  バタン、水龍族のディープ・ブルー第二将軍が入って来た。



 「グランとアエレがギュベイに寝返った。」


 オーガウルトラはひたすら拳を握り締める。


 「敵の要求を飲みましょう。ピクタス、リリの軍と共にぺロスを探って下さい。私はエフ王女を追います。」


 ガタン!


 突然、オーガウルトラが席を立つ。彼の目には怒り、悲哀、と共に不退転の決意が渦巻いていた。


 「悪いが俺も軍を抜けさせて貰う。」



 誰も止めなかった。


 オーガウルトラの実直な性格は長年連れ添った各将軍達の知るところであり、この窮地に決して自分勝手な理由から軍を抜けるなどという男では無かった。



 「オーガ将軍まで居なくなるとわが軍の戦力が...」


 オーガが去った会議室で呆けたようにリリーが呟いた。


 それを励ましたのはメリーナ・メリーである。


 「リリー、オーガを信じなさい。彼はきっと状況を打破してくれるわ。私達は私達で出来る事をやりましょう。

 まずは軍を立て直し各地に斥候を放ちます。魔導士部隊には女神ぺロスの足取りを探知させなさい。」


 そんなメリーナの肩にディープブルーが青色の手を置いた。


 「メリーナ、今日からお前が第一将軍だ。王の目覚めまで俺たちで頑張ろう。」


 ◇


 軍を抜けたオーガウルトラが向かったのは魔界である。


 魔界と地上の門には門番が居る。


 「門番殿、俺を魔界に通して欲しい。」


 左側に立つ石造の様な巨漢の魔人は身じろぎもしなかった。


 右側の竜人は槍を構えた直立不動の体制のまま首だけオーガの方向へ向けると眉を上げた。


 「貴様は我々が何故ここに立っているか知らないのか?魔界の暴れん坊どもが出てこない様にだ。入りたければ入るが良いがお前の実力では出れなくなるぞ?」


 「望む所!俺は強く成って戻って来る!見て居ろギュベイ、貴様から力づくで聖使徒を奪ってやる。」


 ◇


 二日後、俺たちは2番目の巡礼地にやってきた。


 ここには手を翳すと病が治ると言う不思議な聖石があるという。


 若しかして巡礼の証にその欠片を持ってくのかと思って聞いて見たら思いっきり怒られた。


 なんでも木札を聖石に翳し浮かび上がった模様を持って巡礼の証とするそうである。


 因みに木札1枚が銀貨1枚だった。


 高かったがそのまま健康のお守りになると言うので銀貨6枚を払って分け隔てなく1枚づつ購入する。

 えっ?人数と合わない?

 ジュゴスは健康その者だしプリーチャーは不健康そうな外見がトレードマークだから奴らには不要だろう。

 

 聖騎士ジュゴスは自分の分を1枚購入していた。


 サクにお札を渡すと少し嬉しそうに微笑んだ。エフそっくりの笑顔が可愛い。


 宿も馬車も別な為余り話す機会は無いがサクとの関係は良好の様子である。これもプレゼントした手鏡の力であろう。


 買った木札を持って参列者に混ざるがジュゴスとサクの二人だけはVIP対応前の方に呼ばれた。VIPは並ばなくても良いみたいだ。


 聖地でも時期聖女と名高いエフ王女の人気は高く帽子を深くかぶりエフを演じるサクが現れた時、大きな歓声が上がり王女巡礼の噂を知って居る者達はエフの名を呼びながら手を振った。


「暑いのに大変そうだ。トウ、後でそこで売っていた冷やしウリを差し入れしてやってくれ。」


 そう言って俺が500カッパ硬貨を1枚渡そうとすると横からもう一つ白い手が伸びて来た。ぺロスである。


「てめー、腐っても女神だろう?飲み食いしなくても死なねえよ!あっハンテ様、その目は冷やしウリにご興味が?トウ、冷やしウリ人数分買ってこい!」


 ピンッと銀貨を弾くとハシッと空中でトウがキャッチする。


 うん、犬と遊んでいる感覚になる。


 尻尾が有ればブンブン振り回しそうな勢いでトウは露店へ駆けて行き、赤毛が人並みに消えて行った。


「ご主人様、そろそろ本物のエフ様が目的地に到着される頃では?そうなると我々は王都に戻るのでしょうか?」


 デビに説明して居なかったかな?


「エフが儀式を受けるのに巡礼を終わらせたと言う大義名分が居るから俺たちは最後まで巡礼を続ける必要が在る。

 おっさんだけでサクを守らせるのも不安だしな。」


まあ、当のオッサン騎士は自信満々なのがだ。


「あっご主人様。」 


『ピー!』

 

 おっと久しぶりにアラームだ。


 突然赤い点がトウの真横に出現。ライフサーチで5,000、またあのピンク女か?今度こそ捕まえてやる。


 「何だお前は!」


 「ジュゴスさん、この人は駄目です!」


 サクがジュゴスを止めた。彼女も無詠唱のライフサーチで敵のHPを見たのだろう。HP5,000対600ではいくら何でもそうなるよなあ。


 「何の、聖十字斬!」


 ジュゴスの剣が光り斬撃が聖属性を帯た白い十字架を空中に作り出す。


 「ぎゃっ」


 飛ばされたピンク女は技に吹き飛ばされながら体から十字の血を流した。立ち上がった所を見ると残念ながら致命傷には至らなかった様だが立派にダメージを与えている。


 「皆下がるんだ、ここは従2位聖騎士であるこのジュゴスが相手する。」


 なんだ、ジュゴス強いじゃん。


 『だからマコトさんだってHPが99でも攻撃力は凄かった知するでしょう?』


 ふむふむ。自動知識のオーナ君、捕捉してくれて有難う。


 でも俺は魔法使いだしHPは低めでも仕方がないよね。

 逆に敵の魔法がHP相応に凄かったりしたらジュゴスは大丈夫なのか?


 「火矢魔矢フレイム・アロー!」


 ジュゴスがサクから離れたからであろう、敵は至近距離からフレイム・アロー を放った。

 やはり魔族達はトウが扮するエフを生きたまま捕らえたがっている?


 隣でデビが周囲を気にし始めた。


 『ピー!ピー!ピー!』

 

 俺のレーダーにも敵影を多数確認。


 聖石の広場は火矢を見て逃げ惑う群衆達で混ぜ返されていたが、その中を聖石に近寄るローブ姿の男達が居る。


 「デビの戦う姿を群衆に曝す訳に行かないし夜でも無い。どれ俺が片付けよう。」


 そう嘯いて見るといつの間にか俺の腰にしがみ付いていたトウがビックリした様に言った。


 「ダメよ!あんたじゃ被害が大きすぎるじゃ無いの?!」


 「ふふふ、見よ我が才能の片りんを!


  シャドウバーインド!!」


 勿論これは魔法の詠唱では無い。プリーチャーと取り決めた合言葉である。


 叫びに呼応してレーダーに映る敵の姿がピタリと止まった。


 いや、よく見ると数人ゆっくりと前進している者がいる。プリーチャーは駆け足でトウに向かう者だけを捕獲したのか?いや、もしかすると数が多すぎて全部捕らえきれなかっただけかも知れない。


 群衆の壁は今や大きく後退し中央の台座に鎮座したボーリングの球程の白い聖石を中心に広場は足を固定され身動きの取れなくなったローブ男達が丸見えであった。その数はざっと10名、少なくとも7名が身動きできずにジタバタしていた。


 「くそ!お前ら何立ち止まっているんだ!」


 捕まらなかったローブ男がローブを脱ぎ捨てるとそれはやはり人型の魔族だった。


 「サクッ!じゃないエフッ!こっちに駆けて来い。お前が居ると攻撃できない。」


 サクが駆けだすとジュゴスに対するピンク女の攻撃が熾烈さを増した。やはり巻き込む事を恐れて攻撃に手心を加えていたのか。


 爆裂弾の様な魔法を食らってジュゴスが吹き飛ばされる。


 殊勝な事に剣は未だ握ったままだ。ライフサーチをするとHPのこり121。うん、まだ俺より健康だから放っておこう。聖騎士ジュゴスよ、君の活躍は忘れない。


 「オーナ君、ピンク色のをギリギリ殺さない程度の魔法って無い?」


 『有りますがマコトさんがあの聖騎士もろとも魔法を放つのであれば教えられません。』


 「わかったよ仕方ない無いなあ。プリーチャー!ジュゴスのオッサンを俺の影へ!」


 どぷん


 ジュゴスが自身の影に沈み次の瞬間には俺の影から飛び出した。

 

 やだやだ、サクとかだったら幾らでもいいけどむさ苦しいオッサンが自分の影から首を出すシーン何て見たくない。


 「デビ、影を通ったせいかジュゴスが瀕死みたいだ。回復薬を飲ませてやってくれ。」


 そう言い残すと俺は手を伸ばす。


 目標は広場中央。


 血を流したピンク女がサクを追って走るが距離はまだ離れている。これなら十分間に合うだろう。


 発射タイミングはサクが前方にいるデビの所へ逃げ込んだ瞬間。


 『それでオーナ君。メガサンダーで良いかなあ?』


 『お好きにどうぞ。』


 以前ピンク女をメガサンダーで倒し切れなかったから、ジュゴスの攻撃で少し弱ってはいるがまあ死ぬ事は無いだろう。


 「プリーチャー、退避!雷電豪樹メガ・サンダー


 眩いばかりの光球が稲妻の槍を降らせたその後に、視界の先には黒焦げになった魔族達と聖石が有った場所に真っ黒なボーリングの球が一つ出現していた。


 ◇


 「差し入れに来ました。」


 食事を持ったデビが治療師も連れて来てくれた。


 「デビ、良いところに来た。隣の女にヒールと、それから何か食料をやってくれ。」


 デビが責任が持てないと嫌がる治療師を宥めてヒールさせる。終わった途端治療師は走って逃げ帰ってしまった。


 聖石にたっぷりの焦げ目と少しの亀裂を入れた俺は集まってきた教会関係者に囲まれ問答無用でここへぶち込まれた。

 まあ暴れても仕方が無いので大人しく寝転がっている訳である。


 焦げ目と煤はトウが奇麗にしてくれたらしいので感謝している。しかし亀裂に関してはどうしようもない。


 でもね、言訳だけど金属じゃなくて石だから平気だと思ったんだよ。


 実際に雨槍の如く降り注いだ雷撃の殆どは石畳の隙間や魔族に落ちた。


 「マコト様、ではまた明日の朝参ります。」


 用を済ませたデビが帰って行った。多分長居は許されて居ないのだろう。俺の目の前には饅頭が2個残されていた。


 「ふうー、そう言えばお前、名前は何て言うんだ?」


 「…」


 「じゃあ好きに呼ぶから。えーっとピンクのグラマーだからピグマーね?」


 「新賢者め殺してやる!」


 「やっと話してくれた。俺はマコト、お前たち何でエフを狙う?」


 「はっ?敵にそんな事を話す訳が無いだろう。仲間に私を治癒させたのは間違いだったな、力が戻ればこんな牢など私に取って何の障害にもならない。」


 そういうとピンク色の女は転移魔法を起動する。


 「お前がそれの使い手だってことは知って居るよ、じゃあピグマー達者でな」


 「私にはメリーナという名前がある、二度と妙な呼び方をするな!そして我々は王女を諦めたりしないからな!」


 ブチ切れながらメリーナが消えて行った。

 

 そのまま眠に付くいて朝起きるとメリーナの脱走が発覚し大騒ぎになっていた。


 その後サク扮する王女エフと聖騎士ジュゴスの嘆願も有り俺も昼には牢屋から解放された。


 先ほどからジュゴスの態度が何だか柔らかい。助けてあげた所為か見下したような振る舞いが収まり寧ろ敬意を持ってくれている様だ。まあこちらもジュゴスの事を見直したのでお互い関係が良くなって嬉しい事である。


 「さて、目出度く2番目の巡礼地もクリアした。次の目的地に向かって出発しようか?」


 「マコトは出禁になったけどね。もう二度とここには入れないよ。」


 タイミングのよいトウの言葉に皆が笑った。


 そろそろ本物のエフも最終目的地に着いた頃だろうか。


 俺たちは少々ペースアップして巡礼する事にした。


 しかし知らなかったのだがどうやら次の目的地は少々問題があるらしい。


 昔聖者が癒しの泉を探し当てたとされる山深い村。


 到着予定は明後日、現在その一帯はとある部族に占拠されている紛争地帯なのであった。


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