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第1話 カンストは唐突に

久しぶりの投稿です。楽しんで頂けると幸いです。

’グニャり’


 奇妙な感覚だった。


 突然体が歪みまるで薄まって広がり行く様な…



 身動き一つ出来ない中で只ひたすら感覚が拡大して行くのを感じていた。


 皮膚の表面が何も無い空間に溶け込んで消えていく行くような肌寒さだった。


 少し長めの黒髪にスポーツはしていないが体力測定はいつも中の上くらいの体。ハンサムでは無いが自分では割と整っていると思う顔が空間に溶け込んで行った。


 皮膚が筋肉が、もちろんそれは骨さえも浸食していった。


 こうして俺、石野いしの まことの肉体は17年間生きたこの世界より消滅した。



◇ ◇ ◇


 意識だけの存在って言うの?


 体は溶けだしてフニャフニャのホワホワでモヤモヤだけど我が愛しい四肢とはうっすらと繋がりを感じる事ができた。そんな雲か霞の様な状態で今この虹色に輝く奇妙な空間を漂っていた所、暫くすると慣れて来たのか同じように霞状になっている人が見える様になって来た。


「おい、そこの若者!お前動けるのか?なら頼みを聞いてくれ!」


 念話の癖に威厳を感じてしまうこのオッサンは何者?


「動けると言ってもフワフワ流れる程度ですよ?」


「うむ、それでも十分羨ましい。」


モヤモヤしたおっさんは顎髭を撫でた...様な気がした。


「いいか、儂が生涯を掛けて編み出した魔法の神髄を今からお主に与える。更に莫大な魔力も譲渡する。その代わりお前は此れから言う娘を必ず探し一緒にゲート魔法で此処から出て欲しい。」


 ゲートの魔法なんて知らないと言うと魔法を受け取れば自動的に使える様になるらしい。


 どうせ目的も無く流れているだけだったから悪い提案では無かった。


 俺はその男性から魔法と魔力の全てを授かるとフワフワ流れながら男の言った白いドレスの女性を一生懸命探した。そう言えば彼の名前を聞くのを忘れた、自分も名乗らなかったのは失礼だっただろうか?せめて娘さんの名前くらい聞くべきであったとそそっかしい自分の振る舞いを反省しながら教えられた特徴の人物を探す。


 年は15~6、色白で瞳が大きく飛び切りの美少女。髪の毛はロールの掛かった腰まで届く金髪...


 そんなお姫様みたいなの今どき居るのかよと内心毒を吐きながら流れていると何と居た。


 説明しよう、虹色に輝く歪んだ空間内で霞の如く存在する者達を見るには少々コツがいる。


 靄っとした者に焦点を当ててその存在を心の中で認めてやるのだ。そうすると徐々にそれは形を帯びて見えて来る。


「あのー、40~50歳くらいの髭を生やして杖を持った感じの偉そうなオジサンに頼まれたんですけどぉ。貴方を連れて此処から脱出して欲しいって。」


「あっあなた!自由に動けるのですか?その髭の男性は私の父に違いありません。お願いです!父も一緒に。」


 そう言われても貰ったゲートという魔法は目の前に異空間と現実世界を繋なぐホールを出すだけの魔法であってしかも固定式である。


 更にゲートを潜るにも制限があり手を繋いだ二人は通れるが個別に潜ろうとすると一人目が潜った瞬間にゲートは閉じてしまうと言うのだ。だからあの父親は一人ならゲートを使って帰れるのにそれを使わずこの娘と出会える迄留まっていたのだろう。


「うーん、悪いけど君のお父さんも動けない見たいなんだ。とりあえず頼まれたから君を先に連れ出して後から俺だけ又来るって事じゃダメ?」


 この時俺はゲートは時と場所を選ばず簡単に開くものだと思い込んでいた。


「ではそれでお願いします。私の名前はエフです、宜しくお願いします。」


「あっ俺の名前はマコト。宜しくね」


 俺たちは握手する。が霧状なのでなんだか雲が重なっているだけに見えた。


「ゲート!」


 目の前にベイブレード程の輝く円盤が現れるとそれは直ぐに成長してやがてフラフープくらいの大きさまでになった。そして俺達は手をつないだままフワフワと輪の中へ流れ込んで行く。


 こうして俺たちは不思議な虹色の空間からの脱出に成功したのだった。


◇ ◇ ◇


「あぁ!お城が見えます。私また戻って来れました。」


 小高い丘の上でエフが感激してクルクル回りながら両手を高く上げていた。


 彼女が着ている白いドレスは金糸で美しく刺繡が施され宝石らしきキラキラ光る石もそこかしこに縫い付けてあり随分豪華な品だった。


 しかし俺にはそんなドレスに負けず劣らずエフの容姿が輝いて見えた。真っ白な肌、筋肉なんて付いていなんじゃ無いかと思えるほど細くてしなやかな腕、大きな胸開ドレスの所為で露わになった華奢な鎖骨に細い首筋。髪型はオッサンが言っていた通りの美しい金髪の縦巻き毛で、止めを指すように西洋人形の様な目鼻のパーツ。つまり映画に出てくるお姫様の様だと驚き、しばしその美しさに見入ってしまったのだった。


 一通り喜びを噛み締めたのかエフが俺の傍に戻って来た。


 実はゲートを潜る前までは、もしかして日本に戻れるかなと淡い期待をしていたのだがそっちは駄目だった。こうなったら服装がお金持ちそうなエフにお願いして暫く住むところでも紹介して貰えるか聞いて見よう。


 丁度口を開こうとした時、ガサガサと森の茂みを掻き分け槍を持った肌の色がおかしな人が出て来た。


 頭からバケツで極彩色のポスターカラーを被ってそのまま仮装パーティーにでも行く人に見える。いや、絶対そうとしか見えない。彼らはぞろぞろと違う色の姿で現れ、最終的には全部で五人も出て来た。

 

 ははぁ分かった! あれだ、戦隊物のバイトに行く途中の人達?


「王女が復活するという予言は的中したな。」


 低い声で言ったのは緑色の腕をした茶ローブの男。顔はローブに隠れて鼻から下しか見えない。


「そして我々が捕まえる。これで魔王様も復活される事でしょう。」


 ピンク色の肌をした女が言った。鼻腔の高い美女である。大きな胸が強調された腰が括れた服を着ているが服の色までピンクのドレスなので見た目全部がピンクで見ている方の目が痛い。その肌の色ならきっと白とか黄色のドレスが似合うと思うのだが。


 どうやら彼らは魔王に使える戦隊という設定のバイトさん達らしいのだが、ふとエフの方を見ると蒼白になって怯えていた。


 ヤバそうな気配?俺は現状に適した魔法を検索してみた。すると一瞬で頭の中に山度ほど候補が出てきて思わず笑ってしまった。


「おいお前! 何を笑っているんだ?王女は連れて行くがお前は今から殺されるんだぞ?」


 ゴツゴツした灰色の岩で覆われた男がデカい手で俺を指さしながら威嚇した。


「まてガンチャン、そいつ手練れかも知れんぞ。ライフサーチ」


 頭から大角2本を生やした節分の赤鬼みたいなコスプレ男がライフサーチを使った。ライフサーチって何かというと相手の生命力(HP)を調べる魔法だ。おっさんに貰った自動知識が必要な情報を全て教えてくれるので受け売りだけどね。


 魔力やレベルを調べる魔法は媒体を必要とするので戦闘時はライフサーチで相手の力量を大雑把に把握するのがセオリーらしい、ふむふむ成程ねえ。


「ふぷっっ」


 あっ赤鬼が笑いやがった。



「おいっこいつHPたったの99だぞ。

 そっちの王女が88でこいつ男のくせに99。

 村人だって子供じゃなければHPの200くらい持ってるだろうにっ!」


「「「ぎゃははは」」」


 眼前の5人は腹を抱えて笑い始めた。


 いけないと思う、自分より能力の低い人をそうやってあからさまに笑うのは...。


 くやしいので此方も無詠唱でライフサーチを掛けてみた。


『HPをサーチします。 赤鬼:13,000。岩男:10,000。ピンクのドレス:5,000。茶ローブ男:4,200。青い男:10,000』


 もちろんHPだけが強さではない。防御・耐性・攻撃力・スピードetc強さの要素は様々なのでHPはあくまでそれらの一つ、所謂目安である。

 

 ダカラガッカリシナイデクダサイ...と自動知識さんが慰めてくれた。その心遣いに思わず涙が出そうになる。


 しかし一番HPの低い茶ローブでHP4,000越とは驚いた。高い側の二人に至ってはHP10,000越である。


 自動知識さんの話によると大体HP3,000からは色々ヤバいらしい。


 俺は王様から授かった自動知識さんと高速で念話する。


 『こいつらのHPに大ダメージを与えうる魔法を教えて。』


 『属性はどれにしますか?』


 『えっ属性?赤鬼は何となく火抵抗が高そうなの火以外で。うわっそれでもこんなに?よし、じゃあこれだ!』


 うーむ、しかし流石に短縮詠唱だと威力が3割もダウンするのか?ちょっとMPがもったいないが長ったらしいのを読んで噛んじゃっても仕方が無いので短縮詠唱を選択した。


「俺は魔術師だ。ライフだけで俺の強さを測れると思うな!


  雷電豪樹メガ・サンダー!」


 大声で叫ぶと体中からMPが抜けていく脱力感に襲われた。その代わり威力は絶大だった。


 目の前に召喚された輝く光球は瞬き一つする間に1m程の大きさに成長するとそれを起点に数十という稲光を辺り一面まき散らかしたのだ。


 雷鳴の槍雨が敵へと降り注ぐ。


 攻撃を全身に浴びて5人の敵は一瞬明るく光った。


 そして次の瞬間爆発音と共に黒煙と煤にまみれる。


 一度放たれてしまえば光速に等しいスピードで突き刺さるこの電雷を躱すのは至難の業だ。抵抗がゼロの場合の標準ダメージは10,000と脳内テロップに表示されている。うーん、こんな攻撃力反則!


 しかし黒焦げの敵がゆっくりとだが動きだしたではないか。


 なんと! 1体も倒せていない。ライフサーチで見ると結構な量がレジストされていた。


『 ピッ! 赤鬼:4,000。岩男:2,000。ピンクのドレス:2,000。茶ローブ:1,200。青い男:4,000』


 ついでに自分にもサーチをする。自分に掛けた場合はライフ以外も全て見れるのでしっかりとステータスを確認すると...


「種族:人間

 名前:マコト

 HP:99/99

 MP:9197/9999

 スキル:魔導の原宝

 

…なんだ未だ一杯撃てるんだ...。


「もう一発!」


 もう一度詠唱しようとするといち早く察知した岩男が突如巨大化を始めた。硬そうな体の癖に見る見る内に小山の様に膨れ上がる。


「逃げろっ!こいつ国王並みだ!」


 国王並みの...何だろう?


 王様と言えば耳?...は普通だ。


 もしかすると髭?...も無いな。


 そんな事を考えている内に2発目のメガ・サンダーを放ち終わってしまった。


 身を挺して仲間を庇うった岩石男は膝を追って光球を腹に抱える様にして覆い被さると続いて発生した光と破裂音の末に四つん這いの状態から燻りながら地面に崩れた。HPが尽きたのである。


 残り4人は岩石男が攻撃を防いでいる間に逃げた。気が付いて後を追ったのだが森の中で見失ってしまった。

 


 自動知識君曰く、地面に微かだが魔法陣の後が残っていたのでどうやら転移系の魔法で逃げた様だ。次にやる時は先に転移系を見定めて先に攻撃しなくては..。


「マコト、魔将軍相手にすごいわ!」


 後ろからエフが駆け寄ってくる。細い腕が俺の右腕を取らえると、くるくると振り回される。近くだと何とも良い匂いがした、頭がぼーとして眩暈がしてくる。


 しかし...本物の王女様だったのか…。


 足を止めたエフ、いやエフ王女はニコニコ微笑みながら目を回した俺の腕を引くとまるで踊りに誘うかの様に言った。

 

「父上に勝るとも劣らぬ大賢者様、まずは皆に紹介しますので城に参りましょう。」


 おっと、王女様と腕を組んで凱旋とはなかなか鼻が高いではないか。


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